高度な塗装技術とお客様第一主義で成長中 競争に負けないためにICT化を推進 山元塗装工業(京都府)

目次

  1. 創業者は突出した塗装技術の持ち主 その職人魂を今に受け継ぐ
  2. 顧客第一主義の積み重ねで幅広い業種に取引を拡大 短期間でリーマン・ショックの苦境脱する
  3. 他社が嫌がる難しい塗装と、最短1日の短納期実現する柔軟な受注対応力が強み
  4. 前社長の病回復も2023年12月に新経営体制がスタート、1年後新本社に移転
  5. ホームページ作成ソフト導入しホームページを一新 仕事の引き合いが大幅に増え、新規採用も決まる
  6. 自前の受発注、進捗管理システム運用も、今後はICT化を加速する
  7. 膨大な手間と時間かかる図面管理のシステム導入へ 塗料残量を自動管理するシステムも
  8. 少子高齢化時代に向けて、女性が活躍し輝ける職場への転換目指す
中小企業応援サイト 編集部
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京都市南区に本社を置く金属製品塗装の株式会社山元塗装工業は、高度な塗装技術と短納期を可能にする柔軟な受注対応力を武器に事業を拡大してきた。「顧客ファースト」の経営を徹底し、幅広い顧客の信頼を高めてきた。ICTの活用にも積極的で、中小企業では珍しく受発注業務や作業進捗管理のシステムを自社開発。最近は「ICT化を加速させないと競争に置いていかれる」(山元慎太郎専務取締役)として、ホームページ作成ソフトでホームページを一新し、図面管理や在庫管理のシステム化も計画している。(TOP写真:2024年11月に移転した本社・工場)

創業者は突出した塗装技術の持ち主 その職人魂を今に受け継ぐ

高度な塗装技術とお客様第一主義で成長中 競争に負けないためにICT化を推進 山元塗装工業(京都府)
創業者から受け継がれた高度な塗装技術を発揮する塗装現場

山元塗装工業は、1967年の創業から60年近い歴史を刻んできた老舗金属塗装会社だ。2代目社長だった山元信和取締役会長の父・成和氏が個人事業で創業し、4年後の1971年に株式会社として法人化した。

創業者の成和氏は、趣味で自転車やバイクの塗装を行っていたが、「好きな塗装を仕事にしたい」と考え、2社の塗装会社での約5年間の修業を経て独立した。職人時代に通常の3倍の給料をもらっていたという成和氏の塗装職人としての技能は抜きん出ており、事業を順調に大きくした。今も定評のある山元塗装工業の高い技術力は、創業者の職人魂を受け継いできたものだ。

顧客第一主義の積み重ねで幅広い業種に取引を拡大 短期間でリーマン・ショックの苦境脱する

高度な塗装技術とお客様第一主義で成長中 競争に負けないためにICT化を推進 山元塗装工業(京都府)
「あいさつは相手に敬意を示すシンプルな方法」と語る山元信和会長

成和氏が死去した後、社長を引き継いだのは三男の山元信和会長で、バブルもはじけて景気が低迷していた2006年のことだ。「事業環境は厳しかったが、現場で培ってきた塗装の知識と技術は誰にも負けない自信はありましたし、お客様への提案力もありました。後はガッツとファイトですよ」。信和会長は現場作業の傍ら自らが営業の第一戦に立ち、顧客の信頼獲得にまい進し、事業を立て直した当時を振り返る。

「顧客ファーストのフットワーク」をモットーに迅速な対応と高品質な塗装サービスを提供する――。この顧客第一主義が同社の行動指針の柱で、信和会長が社長就任時から掲げ、実践してきた。同社を訪れると、すれ違う社員から「おはようございます」と明るい笑顔での気持ち良いあいさつを受ける。これも行動指針に示されており、全社員が実践している。

「顧客第一主義を積み重ねていくことで取引先を増やし、今では幅広い業種の約300社のお客様から支援をいただいております。あいさつは相手に敬意を示すシンプルな方法です。皆がきちんとあいさつできることが営業にもつながります」と、信和会長は顧客ファーストの重要性を説く。信和会長が社長を引き継いで約3年後に起きたリーマン・ショックでは、売上7割ダウンが3ヶ月続くという苦境を味わったが、比較的短期間で苦境から脱することができたのは、幅広い業種にまたがる顧客構成を築いていたおかげだ。

他社が嫌がる難しい塗装と、最短1日の短納期実現する柔軟な受注対応力が強み

山元塗装工業の強みは、幅広い顧客からの信頼を得ている高度な塗装技術と、短納期を実現する柔軟な受注対応力だ。「他社が嫌がる難しい塗装仕様などにも対応しておりますし、塗装業界で多い短納期を求められるケースに対応できる体制を整えています」(信和会長)という。

高度な塗装技術とお客様第一主義で成長中 競争に負けないためにICT化を推進 山元塗装工業(京都府)
脱脂と化成処理をする設備
高度な塗装技術とお客様第一主義で成長中 競争に負けないためにICT化を推進 山元塗装工業(京都府)
塗料メーカーに依存しない調色技術

同社は金属焼付塗装を中心に公共交通関係、アミューズメント施設の設備などの大型設備から電子機器、工作機械まで幅広い商品に対応できる塗装設備を持ち、資格を持つ経験豊富な熟練工がロボットや自動化では対応できない難しい塗装もこなす。多様な塗装法に対応し、塗装品質を高める脱脂と化成処理の前処理もきちんと施す。短納期は最短で受け入れ当日の納品が可能だ。独自の管理手法と塗装指示書を活用し、品物の受け入れ後すぐに作業ができる体制を整備しているほか、自社で調色できる技術も持っているからだ。信和会長が考案した計算式を使った見積のスピードと正確性、納期の厳守も、顧客からの信頼を支える。「当社は真面目にやっているだけです」(信和会長)というが、他社が嫌がる仕事を高い技術でこなし、約束を守るところに、付加価値と顧客の信頼が生まれるというわけだ。

前社長の病回復も2023年12月に新経営体制がスタート、1年後新本社に移転

高度な塗装技術とお客様第一主義で成長中 競争に負けないためにICT化を推進 山元塗装工業(京都府)
新しい本社・工場
高度な塗装技術とお客様第一主義で成長中 競争に負けないためにICT化を推進 山元塗装工業(京都府)
第二工場

山元塗装工業は2024年11月、本社・工場を第2工場近くに移転した。前本社・工場が京都市の道路区画整理の対象となったためだが、市との移転交渉の最中の2021年に信和会長にがん(ステージⅢ)が見つかり、医者から余命宣告を受けた。同年、大手分析・計測機器メーカーに勤めていた長男・慎太郎専務が一社員として入社し、塗装職人修業に入った。

信和会長のがんは「幸い転移していなかった」ため手術を受けて完治したが、2023年12月に信和氏は社長を退任し会長に就くことを決断。社長には信和会長の妻・純子氏、専務に慎太郎氏が就任する人事を決めた。

「会長は私の入社に反対していましたが、私は『家業を継ぐことが自身にとって最もチャレンジングでやりがいのある人生』との思いから入社を決断しました」と慎太郎専務は話す。家業を継ぐことを決め、職人修業を積み、同社は次の慎太郎体制に向けた第一歩を踏み出したことになる。

ホームページ作成ソフト導入しホームページを一新 仕事の引き合いが大幅に増え、新規採用も決まる

高度な塗装技術とお客様第一主義で成長中 競争に負けないためにICT化を推進 山元塗装工業(京都府)
新しいホームページのTOPページ
高度な塗装技術とお客様第一主義で成長中 競争に負けないためにICT化を推進 山元塗装工業(京都府)
人材採用のためのTOPページ

「ホームページに力を入れない企業は衰退していくと思います」(信和会長)。「ホームページは営業面でも、人材採用でも大事なツールです。従来の会社案内的なホームページは古いと感じていました」(慎太郎専務)。信和会長、慎太郎専務の考えが一致し、新本社・工場への移転を機にホームページを一新した。従来の完全外部委託を改め、2024年夏にホームページ作成ソフトを導入し、同年11月にメーカーと共同制作した。新ホームページは、顧客に対しては、顧客ファーストの姿勢と高度な技術に裏打ちされた自社の強みを顧客の関心事に応える形で簡潔に掲載した。

採用ページでは、「成長し続ける。挑戦し続ける。」というTOPメッセージに続いて「山元塗装工業の取り組み」(人事評価制度、人材育成制度、コンプライアンス、環境保護等)を具体的に掲載。全ては山元塗装工業が日ごろから実践していることであり、非常に説得性のあるホームページとなった。

新ホームページの効果はてきめんで、立ち上げてから約2ヶ月で約15件の引き合いが寄せられた。従来は「引き合いがあったりなかったり」というから、大幅に増えたのは間違いなく、中には芸術家から作品への塗装依頼が寄せられるなど新たな取引の可能性も広がっている。「就職イベントに参加した際、『ホームページを見て良いなと思った』という人が当社のブースに来てくれたり、中途採用者のイベントでもホームページを見て来てくれた人の採用が決まりました」と、慎太郎専務は人材採用面での効果にも満足気だ。

高度な塗装技術とお客様第一主義で成長中 競争に負けないためにICT化を推進 山元塗装工業(京都府)
ホームページ作成ソフトの編集機能で作成した会社案内

このホームページ作成ソフトの編集機能を生かして、会社案内も作成した。今後は同ソフトを活用しながら、他の機能を付加していくことも検討する考えだ。

自前の受発注、進捗管理システム運用も、今後はICT化を加速する

高度な塗装技術とお客様第一主義で成長中 競争に負けないためにICT化を推進 山元塗装工業(京都府)
「ICTを加速させないと競争に置いていかれる」と語る山元慎太郎専務

同社は中小企業には珍しく、ICTに詳しいデジタル活用に長けた社員がいる。その社員が受発注システムや作業の進捗管理システムを独自に開発し、運用している。紙を使ってアナログでやっていた業務をデジタル化したもので、「現状はデジタル化で同業他社に遅れていない自負があります」(慎太郎専務)という。しかし、今後は「ICT化を加速させないと競争に置いていかれる」(慎太郎専務)と見ている。当面の課題は、図面管理と材料管理だ。

膨大な手間と時間かかる図面管理のシステム導入へ 塗料残量を自動管理するシステムも

高度な塗装技術とお客様第一主義で成長中 競争に負けないためにICT化を推進 山元塗装工業(京都府)
自前のシステムを運用する社員

現在、図面管理はパソコンへの手入力だが、図面番号や品名が長く、部品点数も多いため、膨大な手間と時間がかかっている。簡単に図面登録できるシステムがあれば業務を大幅に効率化できるし、クラウド管理したデータを、取引先を訪問した際など外出先でも取り出せると見て、近く図面管理システムを導入する考えだ。

在庫管理でも塗料は1,000種類以上と膨大な数に上る。受注時に塗料残量を判断する必要があるが、現在の入荷日からの日数による判断では正確性が低いため、在庫している塗料の残量を自動管理するシステムの導入を検討している。

少子高齢化時代に向けて、女性が活躍し輝ける職場への転換目指す

高度な塗装技術とお客様第一主義で成長中 競争に負けないためにICT化を推進 山元塗装工業(京都府)
塗装作業を行う女性スタッフ。環境にやさしい粉体塗装も導入。女性も働きやすい職場環境への改善を目指す

塗装業界のみならず、中小企業にとって人手不足対策は深刻な問題だ。幸い山元塗装工業は今のところ離職率が低く、外国人に頼らなくても職人を確保できている。給与水準もさることながら福利厚生の充実にも力を入れており、奨学金の返済を抱える新卒者には、国の制度を活用して国と会社合わせて毎月2万円の奨学金返済を6年間支援する制度を設けている。さらに、週休2日で残業のほとんどない勤務体系を採っており、働きやすい職場づくりに磨きをかけている。

だが、少子高齢化が進む中で、将来の人材確保は重要な課題だ。ホームページの刷新も人材採用への貢献を期待してのものだが、中期的には「女性の力を借りるために、女性が活躍できる、女性が輝ける職場にしていかなくてはいけないと考えています」と慎太郎専務は話す。塗装会社といえば、男の職場のイメージが強い。積極的なICT化を進めるとともに、「小さい子どもを持つお母さんでも働けるように出社時間をフレキシブルにするとか、働きやすく清潔な職場環境に改めていくことが必要です」(慎太郎専務)として、男の職場からの脱却を目指す考えだ。次期社長として、塗装業と山元塗装工業の未来に目を向けている。

企業概要

会社名株式会社山元塗装工業
本社京都府京都市南区久世中久世町4丁目18番1
HPhttp://www.yamamoto-toso.com
電話075-934-5551
設立1971年2月
従業員数40人
事業内容  金属焼付塗装、ハンマートン塗装、レザートン塗装、メタリック塗装、粉体塗装、サテン塗装、溶剤常乾塗装など