
目次
- 1980年に設立 平賀社長就任後に水道工事と土木工事を事業の柱に 自ら現場で仕事を覚えて国家資格も取得
- 主力事業は上下水道工事 無理な受注増は行わず自前で高品質の施工を維持 それでも慢性的な人手不足は悩みの種
- 水道管更新需要は2050年までに59兆円 管路の老朽化対策に備え、若手の育成が喫緊の経営課題に
- 社長就任後黒字経営を維持 ICT活用と事務方のサポートで現場の負担軽減 人材採用・育成にも惜しまず必要な投資を行う方針
- 2024年8月に勤怠管理システム導入、スマートフォン入力・データ保管で業務負担の偏りなど作業の進捗状況の情報共有も実現
- 自社技術と経験を大事にICT活用の可能性を探ってチャレンジ 施工管理システムの導入も検討 女性視点で働きやすい職場環境作り
- 能登半島地震で水道復旧へ2度の応急復旧隊を派遣 健康管理やワークライフバランスで横浜市から評価 事業承継も検討開始
神奈川県横浜市の上下水道工事が主力事業の株式会社栄企業は、少数精鋭ながら技術力と堅実経営で地元の信頼を得てきた。社会インフラとしての重要性が高まる水道工事の需要増に備え、ICTソリューションの積極的な活用によって作業環境改善と業務負担軽減を推進する。人材採用・育成を強化し陣容を拡充。生活に欠かせないライフラインに特化した専門家集団として一層の地域貢献を目指す。(TOP写真:技術力と堅実経営で地元の生活インフラ保全に貢献する栄企業のメンバー)
1980年に設立 平賀社長就任後に水道工事と土木工事を事業の柱に 自ら現場で仕事を覚えて国家資格も取得

栄企業は、横浜市で公共工事を請け負う建設会社、新栄重機土木株式会社のグループ会社として1980年に設立された。当初は土木建設用の運搬業務や飲食業を行っていたが、2002年に平賀優子代表取締役が就任して新たに下水道工事・土木工事を主業務とする土木建設会社としてスタートした。
平賀社長は「子育てを機に仕事を辞めていたが、新栄重機土木の社長だった父に『栄企業の社長をやってくれ』と言われて、右も左もわからないまま引き受けた」と苦笑いする。建築関連企業でインテリアコーディネーターや営業の経験があったとはいえ、いきなり会社経営を任されて戸惑うことが多かった。
「最初に手掛けたのが運搬事業を解散してダンプの運転手に辞めてもらうことだった」(平賀社長)。辛い決断を強いられる一方、現場で仕事を覚えながら国家資格取得の勉強もした。新栄重機土木から土木経験者に来てもらい、10人弱の従業員を教育しながら同社から下請けで土木工事の経験を積んだ。
主力事業は上下水道工事 無理な受注増は行わず自前で高品質の施工を維持 それでも慢性的な人手不足は悩みの種

現在、従業員は12人と小所帯ながら1級土木施工管理技士、1級管工事施工管理技士、給水装置工事主任技術者など国家資格を取得し、上下水道の配管関連工事を得意としている。事業内容は「平均すると上下水道と土木が7対3の割合だが、10対0の時もある」という。
以前は外注を使って多くの受注をこなした時期もあったが、現在は自前で行える仕事だけを請け負うようにしている。「仕事が増えて忙しくなると仕事の質が保ちにくくなるし、利益が増えない」ことから受注方針を見直した。いまは月間平均2、3ヶ所の現場を無理なくこなしているという。それでも高齢化によるベテラン技術者の退職は避けられず、慢性的な人手不足状態は平賀社長にとっても悩みの種だ。
水道管更新需要は2050年までに59兆円 管路の老朽化対策に備え、若手の育成が喫緊の経営課題に

水道業界は他の多くの業界と同様、少子高齢化により深刻な人手不足が続いている。日本政策投資銀行の調査では、水道管工事や水道設備に係る技術系職員は50歳以上が約40%を占めるのに対して20代は10%前後にとどまっており、ベテラン技術者退職後の人材をどう埋めるかは業界全体の大きな課題となっている。しかもこの調査は10年前のもので現在はさらに深刻化。専門技術の継承は経営者にとって喫緊の重要課題となってきた。
2025年1月に埼玉県八潮市で発生した下水道管の損傷による道路陥没事故で、下水道管埋設の脆弱(ぜいじゃく)な保全状態や老朽化などの問題が改めて浮上した。国土交通省によると、全国の下水道管路約49万キロメートルのうち、一般的な耐用年数とされる40~50年を超えた管路は2022年度で3万キロだったが、20年後には4割の20万キロに増えると予想。八潮市の事故を受けて国交省は5年に1回の点検に加え、都市部の管路の緊急点検を自治体に指示した。
横浜市が2025年2月に実施した点検では緊急対応を要する異常は見つからなかったものの2ヶ所で空洞を発見。緊急で埋め戻し作業を行った。厚生労働省は2050年までの水道管設備の更新額は約59兆円に上ると試算している。
社長就任後黒字経営を維持 ICT活用と事務方のサポートで現場の負担軽減 人材採用・育成にも惜しまず必要な投資を行う方針

下水道工事の需要増が見込まれるなか、平賀社長はICTソリューションの積極的な活用により就労環境の改善を追求する一方、これまで少数精鋭で質の高い施工をよしとしてきた経営方針を転換し、働き方改革による就労環境改善で積極的な人材採用・育成に乗り出すことにした。
栄企業の売上高は2億7000万~3億円で堅調に推移しているという。関連会社の新栄重機土木以外の仕事も積極的に請け負い、社長就任後黒字決算を続けてきた堅実経営を誇る。ICT活用と人材育成のために「利益が出ているうちに必要な投資は惜しまず行っていく」方針だ。
現在、50代のベテラン技術者が20代と30代の若手の育成係となっているが、現場の負担軽減を図れるだけ十分な採用はできていない。「それなら事務職で採用した人がサポートすることで、施工現場の負担を減らそうと考えた」(平賀社長)。技術系や施工職に比べて応募が多い事務職でパソコン操作に慣れた女性を採用。すでに導入していた土木施工管理システムを習得してもらい、事務方で現場撮影から設計図や写真の保管・再利用までの管理業務をすべて行うことにした。その結果、現場スタッフの写真撮影や帰社してのデータ保管業務は不要になり、業務負担軽減が実現した。
2024年8月に勤怠管理システム導入、スマートフォン入力・データ保管で業務負担の偏りなど作業の進捗状況の情報共有も実現

2024年8月には勤怠管理システムを導入し、自己申告だった勤務時間の記録をスマートフォンから入力しデータ保管できるようにした。
同社は2024年問題への対応の一環で時間外労働の削減を推進してきたため、残業はほとんどなくなっている。「残業が当たり前の職場では新人は入らないし、定時に帰れるように出退勤の管理を強化してきた」(平賀社長)が、勤怠管理システムを導入したことで、「細かい点に目を通して(残業などの申請者に)自分で話も聞きたいので私の仕事は減らない」と思っていたが、月次の変化や業務負担の偏りなどが一目で比較できるようになり利便性を実感している。
現場スタッフの報告書作成などの効率化と内容充実を進めるために情報共有システムのアプリケーションサービスも利用を始めた。工事の打ち合わせや段階的な工程管理のやり取りを、図面を使ってWeb上で確認し、履歴を残すことができる。「現場で作成する書類内容の質が高まってきた」(平賀社長)と話すように早くも導入効果が出ているようだ。
自社技術と経験を大事にICT活用の可能性を探ってチャレンジ 施工管理システムの導入も検討 女性視点で働きやすい職場環境作り

平賀社長は現場の意見を取り入れながらICTソリューションの導入効果も熱心に勉強。積極的な活用を目指すが、盲目的にデジタル化に突き進むつもりはない。「自社で長年培ってきた技術と経験は大事にしたい。でも世の中には今まで知らなかった優れたソフトウェアもあるので、使えるものは使って何でもチャレンジすればいいし、ダメならやめればいい」と是々非々で取り組む姿勢だ。
いま検討しているのは土木工事専用の施工管理システムの活用だ。工程の各段階で情報共有でき、業務に合わせた30種ものツールによって積算、見積、工程管理、図や写真の活用、電子納品までカバーできるシステムだ。
業務効率を追求する一方、EV導入やソーラー電源の活用、ファン付き作業着なども真っ先に導入。工事作業に欠かせないキャノピー付きミニ油圧ショベルも近く納入される。「炎天下でも気持ちよく作業してもらいたい」からだ。女性経営者の視点を生かし、働きやすさを大切に考えて労務環境改善や福利厚生、環境配慮に良かれと思うことを取り入れてきた。
能登半島地震で水道復旧へ2度の応急復旧隊を派遣 健康管理やワークライフバランスで横浜市から評価 事業承継も検討開始

2024年1月に発生した能登半島地震の際には、水道管復旧のため従業員の半数にあたる6人の応急復旧隊を編成して、1日も早い水道復旧のために2度にわたり奮闘した。
地元工業高校や専門学校などの新卒採用活動にも取り組んできたが「教師は大きな安定感のある企業を優先しがち」という悔しい気持ちが、重要な生活インフラを担う企業としての経営姿勢や就労環境の改善を積極的に進める原動力となっている。従業員のきめ細かい健康管理策が認められて横浜市の「横浜健康経営クラスAAA」認定事業所に選定された。有給休暇取得推進や残業時間削減による生活と仕事の両立と働きやすい職場環境づくりへの取り組みが評価され「よこはまグッドバランス賞」にも認定。小規模でも働きやすい会社を目指して努力を続けている。
社長就任から23年。当初は父の代からのベテラン従業員に「ゆうこちゃん」と呼ばれて創業者のお嬢さんとしか見られていなかった。今では「社長と思ってくれるようになった」と感慨深い気持ちもあるが、最近、事業承継も考え始めた。社長就任後に生まれた長男は「大学で土木専攻だったが、今はアパレルの仕事をしている」と苦笑する。経営者と母親の気持ちが交差しながらも「いつか引き継ごうという時がくるかもしれない」と期待をにじませる。
企業概要
会社名 | 株式会社栄企業 |
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住所 | 神奈川県横浜市南区永田北3-32-6 サカエビル2階 |
HP | https://www.sakae-kigyo.com/ |
電話 | 045-715-6801 |
設立 | 1980年2月 |
従業員数 | 12人 |
事業内容 | 上水道工事、下水道再整備工事、舗装工事、道路整備工事、河川・護岸整備工事ほか |