「会社で持ち株会を作ろうか」と考えている経営者もいるだろう。従業員に自社株を定期購入させる持ち株会は、従業員の財産形成を支援できることから、従業員の福利厚生やモチベーションの向上が期待できる。また、オーナー会社の場合は、オーナーの相続税を減額する効果もある。この記事では、会社の持ち株会のメリット・デメリット、持ち株会に自社株を売却する際の方法、税金、具体例を詳しく解説していく。
目次
会社の持ち株会とは?
最初に、会社の「持ち株会」とはどのようなものかを確認しておこう。持ち株会は、従業員が自社の株式を取得することを容易にし、財産形成を支援するための制度である。民法にもとづく「組合」と位置づけられ、2名以上が加入することで設立できる。組合員である従業員は、自らの意志で加入することができる。
持ち株会の運営は、以下のように行われる。
1. 持ち株の購入
従業員が持ち株会に加入した場合、会社は従業員の毎月の給与から天引きして持ち株会に拠出する。一定の拠出金が集まるたびに、持ち株会は会社の株式を購入していく。
2. 奨励金
持ち株会の会員に対して、奨励金を支給する企業も多い。10%の奨励金を支給する場合は、毎月1万円の自社株を購入すると、そのたびに1,000円の奨励金が支給される。
3. 配当
持ち株会の組合員である従業員は自社の株主となるため、会社は組合員に対して持ち株数に応じた配当金を支払うことになる。
以上のように、会社の持ち株会とは、従業員が自社株を保有することに加えて、奨励金や配当を受け取ることにより、従業員の財産形成を支援する制度である。
持ち株会のメリット
会社の持ち株会のメリット・デメリットを見ていこう。
持ち株会のメリット
持ち株会のメリットは、以下のとおりだ。
- 福利厚生を充実させる
- 従業員のモチベーションを向上させる
- 安定株主を確保できる
- 自社株の購入がインサイダー取引規制の対象外となる
- オーナーにとって相続税対策になる
1. 福利厚生を充実させる
持ち株会のメリットは、第1に従業員の福利厚生を充実させられることである。配当や奨励金を支払うことにより、従業員の財産形成を支援することができるからだ。福利厚生を充実させれば、社員の採用にあたっても他社との差別化が図れる。したがって、優秀な人材を確保しやすくなるのだ。
2. 従業員のモチベーションを向上させる
持ち株会のメリットの第2は、従業員のモチベーション向上が期待できることである。自分が勤務している会社の株を保有することで、会社との一体感や経営への参画意識が育まれるからだ。それにより、会社の生産性を向上させる効果も期待できる。
3. 安定株主を確保できる
持ち株会の第3のメリットは、安定株主を確保することだ。会社にとって、経営権を守ることは重要である。特にオーナーの同族会社においては、株式が分散することが問題となることも多い。
持ち株会の組合員となる従業員は、一般的に会社に対して好意的で、会社の方針を支持していると言えるだろう。そのため、会社の安定株主となることが期待できる。
4. 自社株の購入がインサイダー取引規制の対象外となる
持ち株会のメリットとして、上場企業の場合は、持ち株会による自社株購入がインサイダー取引規制の対象外となることも挙げられる。持ち株会組合員である従業員は、会社内部の非公開情報を知っているため、通常は自社株の売買にあたってインサイダー取引規制が適用され、自社株を自由に売買することはできない。
しかし、持ち株会は毎月決まった数の株式を購入していくものであり、非公開の内部情報をもとに行われるものではないため、インサイダー取引規制は適用されない。
ただし、持ち株会にインサイダー取引規制が適用されないのは、毎月決まった数の自社株を購入する場合だけだ。非公開情報を知りながら以下の行為を行うと、インサイダー取引に該当するため注意したい。
・持ち株会への拠出額を増加する
・持ち株会へ新規加入する
・持ち株会の株式を売却する
5. オーナーにとって相続税対策になる
持ち株会のメリットとして、オーナー会社にとっては相続税対策になることも挙げられる。オーナーが保有する自社株を持ち株会へ放出することにより、オーナーの株式財産が減ることになるからだ。増資によって持ち株会へ自社株を放出する場合も、増資による株式評価額の低下により、やはりオーナーの株式財産を減少させる効果がある。
持ち株会のデメリット
持ち株会のデメリットは、以下の2点だ。
- 持ち株会が保有する株数によっては議決権の問題が生じることがある
- 配当を必ず出さなければならない
1. 持ち株会が保有する株数によっては議決権の問題が生じることがある
会社にとってのデメリットは、持ち株会が保有する株数によっては議決権の問題が生じることがあることだ。持ち株会の保有株数によっては、帳簿閲覧権や提案権、代表訴訟提起権などが発生することがある。その場合は、安定経営ができなくなるリスクもある。
したがって、持ち株会の持ち株比率には注意を払わなければならない。オーナー会社の場合は、株主総会の特別決議が行える、持ち株数の3分の2(66.67%)以上をオーナー一族で保有することが、安定経営のためには望ましい。
持ち株会に議決権のある普通株を保有させるケースでは、持ち株会の持ち株比率を20%以下にしておくことが望ましい。その場合、オーナー社長が60%、妻が10%、計70%をオーナー一族で保有すれば、安定経営ができる。持ち株会に保有させる株式を、配当決議に限定して参加できる議決権制限株式にする場合は、オーナーの放出割合は30%程度までが適当だ。
2. 配当を必ず出さなければならない
会社にとってのデメリットとして、配当を必ず出さなければならないことも挙げられる。持ち株会は、従業員の財産形成支援やモチベーションアップを主な目的としている。したがって、財産形成支援やモチベーションアップのために必要な配当を出さなければ、持ち株会の目的は果たされないことになる。従業員が自社の経営に対して不安に思い、モチベーションを低下させることにもなりかねないので注意しよう。
オーナーの自社株を持ち株会へ売却する方法
オーナーが保有する自社株を持ち株会へ売却する方法を見てみよう。
売却の手順
自社株を持ち株会へ売却するための手順は、以下のとおりだ。
- 従業員持ち株会を設立する
- オーナーが保有する自社株を、「配当優先株式」かつ「議決権制限株式」に転換する
- 従業員持ち株会の会員へ売却する
オーナーが保有する自社株を持ち株会へ売却することにより、相続税額が減ることがある。ただし売却の際は、オーナー一族の議決権割合に細心の注意を払わなければならない。
売却価額と税金
従業員持ち株会へ自社株を売却する際は、
- 「配当還元価額」が1株あたり500円以上
- 配当還元価額が500円以下であっても、従業員1人あたりの贈与額が非課税範囲である110万円以内
の場合は、贈与税はかからない。
「配当還元価額」とは、非上場企業の株式を同族株主以外の株主が取得する際の特例的な評価方法である。過去2年間で受け取った1株あたりの配当金額を「10%」の利率であるとして割り戻し、元本である株式の価額を決めるものだ。
持ち株会へのオーナー保有株の売却例
持ち株会へオーナーの保有株を売却する具体例を見てみよう。条件は以下のとおりとする。
資本金 | 3,000万円 |
---|---|
1株あたりの資本の額 | 500円 |
1株あたりの相続税評価額 | 2万円 |
オーナー社長の保有割合 | 80% |
オーナーの妻の保有割合 | 10% |
上の表から、全株式数は
3,000万円(資本金)/ 500円(1株あたりの資本の額)
で計算され、「6万株」となる。このうち、オーナー社長が保有する株式数は、
6万株(全株式数)× 80%(オーナー社長保有割合)
で「4万8,000株」となり、オーナーの妻が保有する株式数は、
6万株(全株式数)× 10%(オーナー妻保有割合)
で「6,000株」となる。
・持ち株会への売却例
オーナー社長が保有する株式のうち、「2万株」を配当優先株式かつ議決権制限株式に転換した上で、持ち株会へ売却するとする。すると、売却価額は
500円(1株あたりの資本額)× 2万株
で計算され、「1,000万円」となる。
この場合、オーナー社長が保有する株式の相続税評価額は、
売却前後 | 計算方法 | 相続税評価額 |
---|---|---|
売却前 | 2万円(1株あたりの相続税評価額)× 4万8,000株 | 9億6,000万円 |
売却後 | 2万円(1株あたりの相続税評価額)× 2万8,000株 | 5億6,000万円 |
相続税評価額減額分 | 4億円 |
で、相続税が「4億円」減額したことになる。
また、オーナーと妻の合計の議決権割合は、売却後、
2万8,000株(オーナー社長の議決権数)+6,000株(オーナー妻の議決権数)
/ 6万株(発行済株式数)- 2万株(議決権制限株式数) × 100
で計算され、「85%」になる。
会社の持ち株会は慎重に検討しよう
持ち株会を設立することには、従業員の財産形成を支援することにより、福利厚生や従業員のモチベーションの向上が期待できる。また、相続税減額の効果もある。
ただし持ち株会に自社株を売却する際は、持ち株割合をどの程度にするかが大きな問題になる。安定経営を目指すなら、オーナー一族が保有する株式数が全株式数の3分の2を超えることが望ましい。また、配当を出すことが前提となるため、将来的に配当が出せなくなった場合は、問題が生じる可能性もある。
会社の持ち株会は、メリット・デメリットを比較しながら慎重に検討したい。
文・THE OWNER 編集部