帝国ホテルと言えば日本屈指の高級ホテルとして世界的に知られ、日本における「ホテル御三家」の一つにも数えられている。そんな帝国ホテルも新型コロナウイルスの感染拡大によるダメージから免れられているわけではない。今期決算の通期の最終損益は厳しい状況になると予想される。
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帝国ホテルは通期で純利益が13.9億円減の見通しに
帝国ホテルは、1890年に迎賓館として開業した。その帝国ホテルの運営会社は「株式会社帝国ホテル」で、帝国ホテル東京、帝国ホテル大阪、上高地帝国ホテルなどを運営しているほか、提携ホテルとしてはハワイの「ハレクラニ」や「ハレプナ・ワイキキ・バイ・ハレクラニ」がある。
帝国ホテルが3月19日、業績予想の修正に関するお知らせを発表した。昨年5月10日に公表した予想を下方修正する内容となっている。
売上高は590億円から45億1,000万円減の544億9,000万円に、営業利益は51億円から20億3,000万円減の30億7,000万円に、経常利益は54億円から20億5,000万円減の33億5,000万円とした。最も注目したい純利益に関しては、37億円から13億9,000万円減の23億1,000万円と修正している。
この下方修正された数字を前期実績と比較すると、売上高・営業利益・経常利益・純利益の全てが前期実績を下回る形となり、今期は業績が悪化する結果となる。これは、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化する中では仕方がない。宿泊客の急激な減少や宴会のキャンセルが相次いでいるからだ。
2月の訪日外国人旅行者数は58.3%減
観光庁の発表によると、今年2月の訪日外国人旅行者数は推計値で前年同月比58.3%減の108万5,000人に留まった。1月時点では1.1%減に留まっていたが、2月から渡航自粛や入国拒否などによる影響が深刻化し始めた格好だ。3月以降はこの数字がさらに厳しいものになっていくだろう。
国別でみると、初期のころは中国、そしてその後は香港や台湾、韓国という形で、インバウンド消費を下支えしてきてくれた近隣国からの旅行者がどんどん減っていった。最近では欧米での感染拡大も深刻となり、2月は10~20%減に留まっていたアメリカやヨーロッパ諸国からの訪日客が3月以降は急減している。
こうした影響を帝国ホテルももろに受けている。業績予想の下方修正に関する発表の中で、帝国ホテル側は新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、訪日外国人客と国内宿泊客の両方が減少し、客室稼働率が急速に低下していく事態となったことを挙げている。
また、国や自治体がイベントなどの自粛要請をする中で宴会などもキャンセルや延期が相次いだ。帝国ホテルが公表しているデータによれば、宴会部門は同社の売上の35%を占め、宿泊部門(25%)よりも構成比では上だ。この宴会部門と宿泊部門、さらにはレストランでの売上も下落し、今回の業績修正に至った。
コストの削減や感染拡大防止の取り組み
ただ、こうした状況に帝国ホテルも手をこまねくだけではない。コストの削減に取り組み、何とか売上減によるダメージを小さくしようと努めている。
感染症拡大の防止に向けた取り組みも行い、宿泊客が感じる懸念を最小限に抑えようと努力もしている。アルコール消毒液の設置を増やしたり、定期消毒を強化したり、接客時にマスク着用を義務付けたりしている。ブフェスタイルのレストランでは、スタッフの取り分けによる食事形態に変更した。
宿泊客やホテルスタッフの健康状態の確認や体調チェックなどにも徹底して取り組んでいる。発熱している人や体調が良くない人には来館を遠慮してもらうよう呼び掛けてもいる。
しかしこうした取り組みは、売上の減少スピードを抑えることはできても、売上を伸ばすことは当然できない。ほかのホテルも同様だが、いまは帝国ホテルにとっても試練のときだ。今後も厳しい状況が続くだろう。
ハワイでは一時的な閉館、日本でもあり得るのか?
帝国ホテルは3月25日、ハワイにおける提携ホテルである「ハレクラニ」や「ハレプナ・ワイキキ・バイ・ハレクラニ」を4月30日まで一時的に閉館すると発表した。これはハワイ州政府が3月23日に発令した新コロナウイルスの拡散防⽌措置に準拠して決定したものだ。
ハワイ州に協力する形で一時的な閉館を決めたが、このように一時的な閉館をする宿泊施設が日本国内でも出てきている。帝国ホテル東京や帝国ホテル大阪についてはいまのところは一時的な閉館に関する発表はないが、いずれにしても感染防止と経営的な観点の両面から考えると、判断は難しいものとなる。
帝国ホテルでもコロナウイルスの影響は日々拡大
新型コロナウイルスの終息はまだまだ見通しがつかない状況だ。特にダメージが大きい旅行業界・ホテル業界の企業は、時間が経てば経つほどキャッシュフローがどんどん厳しくなっていくが、日本を代表するホテルの一つである帝国ホテルにも何とか踏ん張ってもらいたい。
文・岡本一道(経済・金融ジャーナリスト)