バイアウトファンドとは、主に成熟期の会社に投資を行い、経営に関与して企業価値を高めた上で、株式を売却して利益を得るファンドである。バイアウトファンドを活用することで、親族内に後継者が見当たらない場合でも、事業承継を進めていくことができる。この記事では、バイアウトファンドの概要やベンチャーキャピタルとの違い、メリット・デメリット、事業承継への活用法について詳しく解説していく。
目次
バイアウトファンドとは?
バイアウトファンドとは、投資家から集めた資金で、主に成熟期以降の会社に投資し、経営に関与して企業価値を高めた上で、株式を売却することで利益を得るファンドである。株式を売却する方法には、転売や上場、再上場などがある。経営危機あるいは経営破綻した会社を安値で買い叩くファンドもあることから、「ハゲタカファンド」と呼ばれることもある。
ベンチャーキャピタルとの違いは、ベンチャーキャピタルは主に創業期の未公開企業を対象として投資を行うのに対し、バイアウトファンドは主に成熟期以降の企業を対象とすることだ。
バイアウトファンドを利用するメリットは、豊富な資金提供を受け、経営面でも支援を受けることにより、企業価値を向上させられることである。デメリットは、経営の自由度が低くなって経営権を失う可能性もあること、またいずれ転売あるいは上場によって資金の回収が行われることだ。
バイアウトファンドは、事業承継にも活用することができる。バイアウトファンドを活用して事業承継を行っている企業に、ベビースターラーメンを販売する「おやつカンパニー」がある。
ベンチャーキャピタルとはどう違う?
会社に投資を行い、企業価値を高めた上で株式を売却するファンドには、バイアウトファンドのほかにベンチャーキャピタルがある。バイアウトファンドとベンチャーキャピタルの違いは、主に以下の3点だ。
- 投資する企業の成熟度の違い
- 出資比率の違い
- 出口戦略の違い
1. 投資する企業の成熟度の違い
バイアウトファンドとベンチャーキャピタルの違いの1つ目は、投資対象企業の成熟度の違いである。ベンチャーキャピタルは創業間もない、その後の急成長が見込まれるスタートアップ企業に投資する。それに対してバイアウトファンドは、すでに事業基盤が確立している成熟企業に投資する。
ベンチャーキャピタルの場合は、投資した企業が事業に失敗して倒産するケースも少なくない。その点、バイアウトファンドは事業基盤が確立している企業に対して投資を行うため、倒産リスクは非常に低い。そのため、最終的に得られる利益はバイアウトファンドのほうが大きい。
2. 出資比率の違い
バイアウトファンドとベンチャーキャピタルの違いとして、出資比率の違いも挙げられる。ベンチャーキャピタルの場合は、出資比率は低いレベルに抑えられる。経営権を取得することはなく、現経営陣に引き続き経営を任せるのが基本だ。
それに対してバイアウトファンドでは、過半数の株式を取得し、出資というより買収を行うこととなる。経営に深く関与することにより、出資先企業の企業価値を積極的に向上させる。
バイアウトファンドが成熟企業の過半数の株式を取得するためには、巨額の資金が必要になる。そのため、「レバレッジドバイアウト」と呼ばれる手法を用いて、銀行から資金を調達するケースが多い。レバレッジドバイアウトとは、将来の収益性を担保として資金を調達するもので、買収後に買収された会社が返済を行っていくことになる。
3. 出口戦略の違い
出口戦略も、バイアウトファンドとベンチャーキャピタルでは異なる。ベンチャーキャピタルは、投資先企業が上場することを出口戦略とするのが基本だ。
それに対してバイアウトファンドは、必ずしも上場を目指さない。上場以外に、他のファンドへの転売や、事業会社によるM&Aなど、多様な選択肢の中から最適な出口戦略を選択する。
バイアウトファンドを利用するメリット・デメリット
バイアウトファンドを利用するメリット・デメリットを見てみよう。
バイアウトファンドを利用するメリット
バイアウトファンドを利用するメリットは、以下のとおりだ。
- 豊富な資金提供を受けられる
- 経営のサポートを受け企業価値を向上させられる
1. 豊富な資金提供を受けられる
バイアウトファンドを利用するメリットの1つ目は、豊富な資金提供を受けられることだ。バイアウトファンドは、多額の資金が必要となる場合には、前述のレバレッジドバイアウトを利用する。そのため、規模が大きな成熟企業に投資する場合でも、十分な資金提供を受けることができる。
2. 経営のサポートを受け企業価値を向上させられる
バイアウトファンドを利用するメリットの2つ目は、経営のサポートを受けて企業価値を向上させられることだ。バイアウトファンドでは、企業価値を向上させるために専門家を派遣したり、経営戦略を策定したりして経営支援を行う。ファンドに蓄積された経験に基づいた質の高いサポートであるため、企業価値が大きく向上することが期待できる。
バイアウトファンドを利用するデメリット
バイアウトファンドを利用するデメリットは、以下の2点だ。
- 経営の自由度が低くなる
- 出口戦略によりいずれ資金回収が行われる
1. 経営の自由度が低くなる
バイアウトファンドを利用することのデメリットの1つ目は、経営の自由度が低くなることだ。バイアウトファンドは、過半数の株式を取得することにより、投資先企業を買収する。したがって、現経営陣が続投する場合でも、ファンドの意思決定には従わなければならない。
2. 出口戦略によりいずれ資金回収が行われる
バイアウトファンドを利用するデメリットの2つ目は、出口戦略によりいずれ資金回収が行われることだ。出口戦略が他の事業会社へのM&Aになる場合は、現経営陣は経営権を失ってしまうことになる。したがって、バイアウトファンドは長期にわたって活用する方法としては適していない。
バイアウトファンドを活用した事業承継とは?
近年は中小企業経営者の高齢化が進み、事業承継が火急の課題となっている。子どもや孫などの親族に後継者がいる場合は、事業承継がスムーズに進みやすい。しかし、親族内に適切な後継者が見つからない場合は、事業承継を行うことができず、好業績でありながら廃業するケースもある。
しかしバイアウトファンドを活用すれば、親族内に適切な後継者がいなくても事業を承継し、雇用や技術・ノウハウなどを維持していくことができる。
バイアウトファンドを活用すれば候補者がいなくても事業承継ができる
従業員に後継者として相応しい人材がいる場合に大きな課題となるのは、現経営者が保有する株式などの財産を従業員が買い取ることが困難であることだ。
バイアウトファンドを活用すれば、バイアウトファンドが現経営者の株式を購入し、経営は従業員だった後継者が行うということができる。後継者がまったく見当たらない場合でも、バイアウトファンドが経営者を探して派遣することもできる。
後継者がいる場合もいない場合も、バイアウトファンドは経営に関与し、企業価値を高める努力をすることになる。したがって、雇用や長年にわたって培ってきた技術・ノウハウなどを維持していくことができる。
現経営者は、株式の売却益を現金で得ることができ、余裕をもって以後の生活を送ることができる。また、金融機関に対する債務の個人保証からも解放される。
ただし、バイアウトファンドは3~5年を目途に株式を売却し、出口戦略を行うことになる。したがって、出口戦略後の経営体制が、現経営者の意向に沿ったものになるとは限らない。
バイアウトファンドを事業承継に活用した事例
バイアウトファンドを事業承継に活用した事例に、ベビースターラーメンを販売する「おやつカンパニー」がある。おやつカンパニーの2代目社長には息子が2人いたが、「経営者には向いていない」と判断。バイアウトファンドである米カーライル・グループの資本を受け入れることにした。
資本参加した後、カーライル・グループはそれまで100%創業家によって行われてきた経営を、徐々に組織化していった。会議資料を改善することからスタートし、「勘」から「データ重視」の経営に移行。海外事業を強化するために新工場も建設した。創業家社長から、外部から招聘した新社長の経営体制への移行も果たしている。
バイアウトファンドの一覧
事業承継に活用できるバイアウトファンドを紹介する。
いわかぜキャピタル株式会社
LP投資家との緊密な関係を基本に、粘り強いチャレンジ精神、相手目線に立った思考、スピード感ある投資を指針とする。
公式サイト:http://www.iwakaze.com/
ニューホライズンキャピタル株式会社
事業承継、事業再編、事業再生、カーブアウト、成長支援など多様なニーズに的確に応えられる知見と豊富な実績。
公式サイト:https://newhorizon.jp/
ポラリス・キャピタル・グループ株式会社
日本企業には、多くの「もったいない」が秘められている。ポラリスは経営陣と二人三脚でその顕在化に取り組む。
公式サイト:http://www.polaris-cg.com/
株式会社日本産業推進機構
日本の無限の可能性を追求する一員として、日本のさらなる発展にむけて邁進していく。
公式サイト:https://www.nsskjapan.com/
後継者問題に悩んでいる場合はバイアウトファンドを活用しよう
成熟期の会社に投資を行い、企業価値を向上させるバイアウトファンドを活用することで、後継者が親族内に見当たらない場合でも、事業承継を進めることができる。廃業すれば、従業員の雇用や培ってきた技術・ノウハウは永遠に失われることになる。後継者の問題に悩んでいる場合は、バイアウトファンドの活用を検討してみてはいかがだろうか。
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文・THE ONWNER 編集部