2020年のCNF世界生産量は57t程度、出荷金額は68億4千万円の見込
~CNFは実用化と需要拡大を探る時期へとステージを変え、期待以上の価値を生むマッチングポイントの創出が求められる~
株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越孝)では、2020年のセルロースナノファイバー(CNF)世界市場を調査し、市場動向、参入企業動向、将来展望を明らかにした。ここでは、2025年、2030年の世界におけるCNF生産量、CNF出荷金額予測を公表する。
CNF世界市場規模予測
1.市場概況
セルロースナノファイバー(Cellulose Nano Fiber、以下CNF)は、植物細胞の根幹を構成するセルロース繊維をナノレベルに解繊(かいせん)したもので、「鉄の1/5の軽さ、鉄の5倍の強度」、「比表面積が大きい」、「熱変形が少なく寸法安定性に優れる」、「植物由来」、「ガスバリア性」といった優れた特性を有する材料である。
CNF市場は、商業化が始まった2015年~2016年当初はラボベースでの試作・サンプル供給での展開が中心であり、生産量も数字になるほどの規模ではなかったが、2017年以降は日本製紙や中越パルプ工業、星光PMCなどの各社が量産ラインを稼働させたほか、王子HD、大王製紙などのセミコマーシャルプラントが稼働を始めている。その後スポーツシューズや化粧品、食品などの市販品でのCNF採用が始まったことなどから、2020年のCNF世界生産量は57t程度、出荷金額は68億4千万円の見込みである。
但し、現在採用されているCNFの多くが、重量比(wt%)でCNF添加量が1%前後の機能性添加剤としての採用である。CNFが大量に消費されるためには、重量比(wt%)で10~30%程度が添加される樹脂複合化用途での採用の拡大や、CNFを100%使用した成形品の製品開発が不可欠であり、現在、それらのサンプルワークが進められている。CNF複合樹脂については、市場規模が大きくCNF採用の軽量化効果をメリットとしてアピールしやすい自動車部材での採用拡大が期待されている。
2.注目トピック
CNF市場は用途開発期から需要拡大を探る時期へと移行
CNFの活用が期待される用途としては、①樹脂複合化、②機能性添加剤、③その他用途がある。
CNFの製法は化学的解繊法と機械的解繊法に大別されるが、これまでは製法によって特性に差が見られたため、同一用途で製法の違うCNF同士が競合するという例はあまり見られなかった。しかし、最近になって、これまで機能性添加剤での採用が中心であった化学的解繊でも、比較的繊維径が大きく樹脂複合化に適したグレードが開発される例や、透明性が高く機能性添加剤として使用しやすい機械的解繊によるCNFが開発されるなど、解繊方法による棲み分けが崩れつつある。今後は、用途開発と市場開拓の両面で、製法の違うCNF同士の競合が出て来るものと予測され、CNFメーカーはユーザー企業(需要家)に対し、自社が提供するCNFの採用メリットをいかにアピールするかが課題となる。
3.将来展望
CNFの開発とサンプルワークが進む中で、複合樹脂の軽量化や環境対応など競合素材との価格差を超えるメリットが洗い出され、性質に起因する課題も解決の兆しが見えてきた。CNFは「お試し」の時期を終え、実用化と需要拡大を探る時期へとステージを変えている。現時点では、市販品へのCNFの採用例は限られておりボリュームも小さいが、点と点とが線となりやがて面になるように、一つの用途が突破口となり芋づる式に採用が拡大する可能性もある。
機能や軽量化、環境対応などユーザー企業(需要家)の課題とニーズを探り、それに対して自社のCNFで何を提案できるかを探索し、CNFの採用でユーザー自身がどのようなメリットを得られるか。素材事業にとって用途開発は非常に困難を極めるが、これまでの切り口をベースに新たな価値観や見方を加え、常に変化させながらユーザーの期待以上の価値を生むマッチングポイントの創出が求められ、それらを実現していくことにより、2030年のCNF世界生産量は3,500t、出荷金額は205億円まで拡大を予測する。