「双子の赤字」と聞いて、1980年代のアメリカをイメージする経営者は多いだろう。「自社にはあまり関係ない」と感じるかもしれないが、実は日本にとって双子の赤字は決して他人事ではない。経営リスクを抑えるためにも、世界経済の現状を理解していこう。
目次
双子の赤字とは?
双子の赤字とは、1980年代にアメリカが苦しんだ経済情勢のことだ。具体的には、「財政収支の赤字」と「経常収支の赤字」が2重で発生する状況であり、これは国内・国外の両方の収支が赤字である状態を意味する。
1980年代に発生した双子の赤字は、1990年代のクリントン政権によって一旦は解消された。しかし、実はいま「双子の赤字の再来」が危惧されており、アメリカの経済情勢は多方面から注目を浴びている。では、仮に双子の赤字が深刻化すると、アメリカや日本にはどのような変化が生じるのだろうか。
かつて双子の赤字は、米ドルの信用力の低下や急激な「ドル安・円高」を引き起こした。アメリカほどの経済大国が問題を抱えれば、その影響はアメリカ国内には留まらない。日本だけではなく、世界のさまざまな地域の経済活動に悪影響を及ぼす恐れがある。
日本の中小企業も例外ではないため、仮に深刻な状況に陥ってもスムーズに対応できるように、中小経営者は経済に関する最低限の知識を身につけておきたい。
双子の赤字はなぜ生じた?背景とメカニズムを解説
では、1980年代のアメリカにおいて、双子の赤字はどのようなきっかけから生じたのだろうか。双子の赤字が生まれた背景とメカニズムを理解すれば、今後の経済リスクの兆候に気づきやすくなるはずだ。
そのため、以下で解説する「双子の赤字の背景」についても、しっかりと理解を深めていこう。
1980年代に、レーガン大統領が「強いアメリカ」の再現を目指した
1980年代のアメリカは、景気停滞と物価上昇が同時に発生する「スタグフレーション」に悩まされていた。この問題を解決するために、「レーガノミクス」と呼ばれる施策を講じた人物が、米大統領の中でも有名なロナルド・レーガン氏だ。
同氏は強いアメリカを取り戻すために、「歳出削減・大幅減税・規制緩和・通貨供給量の抑制」の4つを柱としてレーガノミクスに取り組んだ。
スタグフレーションからは脱却したものの、「高金利」という新たな問題が
レーガノミクスに取り組んだ結果、アメリカはスタグフレーションからは脱却。しかし、その反動がさまざまなところに出始め、最終的には以下のような流れで「金利の高騰」を招いてしまった。
- ○レーガノミクスが金利高騰につながった流れ
【1】大幅減税によって歳入が減った一方で、軍事力の強化によって歳出が増加した
【2】通貨供給量の抑制によって、民間資金のひっ迫を引き起こした
【3】上記【1】や【2】による財政赤字を防ぐために、大量の国債を発行し、さらに金利も引き上げた
本来、レーガノミクスは「歳出削減」を柱としていたが、歳入見通しが楽観的であったために歳入まで減ってしまっている。その結果、短期間で財政赤字が膨らんでいき、上記【3】のような施策を取らざるを得なくなった。
外国からの資金を引き寄せて、膨大な貿易赤字が発生
大量の国債発行と高金利は、外国からの膨大な資金を引き寄せた。その結果、短期間でドル高が発生してしまい、これが「輸出の増加・輸入の減少」、つまりは貿易赤字を拡大させる事態へとつながっていく。
そして、この莫大な貿易赤字が決め手となり、最終的にレーガノミクスは双子の赤字を引き起こしたのだ。このように、何らかの問題を解決するための強引な施策や、見通しの甘い施策は、深刻な赤字につながる点を理解しておきたい。
現代でも「双子の赤字」への懸念が広がっている!世界が直面する実情
実はアメリカの双子の赤字は、1980年代だけの問題ではない。2000年のITバブルの崩壊、2001年の同時多発テロ、ブッシュ政権時のイラク戦争などをきっかけに、再びアメリカの財政赤字は増加し始めているのだ。
アメリカは赤字体質の国家であり、財政収支・経常収支ともに1980年頃から赤字の状態が続いている(※1998年~2001年に関しては、財政収支のみ黒字)。つまり、レーガノミクスから数十年経った現代でも双子の赤字は続いており、2020年現在では一向に改善する兆しを見せていない。
このまま双子の赤字が膨らみ続けると、アメリカの経済問題が世界中へと発展する恐れがある。レーガノミクスと同じく、双子の赤字が外国からの資金を大量に引き寄せるような結果になれば、世界経済が混乱に陥ってしまうかもしれない。
日本も他人事ではない!双子の赤字とともに発生するリスク
ここまで解説した双子の赤字への懸念は、決して海外に限った話ではない。アメリカで双子の赤字が深刻化すると、米ドルや米国債の状況が変わってくることから、日本の産業にも大きなダメージとなる可能性がある。
では、双子の赤字によって日本にどのような影響が出るのか、具体的なリスクを以下で解説していこう。
双子の赤字は負のスパイラルを引き起こす
アメリカの双子の赤字が深刻化した場合、米ドルの価値は暴落する恐れがある。仮に円高・ドル安の状態になると、輸出産業が大きなダメージを受けることになるため、日本の貿易赤字はどんどん膨らんでいくだろう。
また、貿易赤字の増加にともなって、日本国内の景気が衰退する点も意識しなければならない。その余波は大企業だけではなく、次第に中小企業にも広がっていくため、極端な円高・ドル安は全国的な混乱を招く可能性がある。
以下は双子の赤字によって日本が抱え得る、主なリスクをまとめたものだ。
- ○双子の赤字によって発生する、日本国内の主なリスク
・米ドルの暴落による、貿易赤字の増加
・全国的な景気の衰退
・輸出産業の株式が大量に売られる
・輸出関連の企業が倒産する
・円高によって外国人観光客が減り、観光業が衰退する など
上記を見てわかる通り、アメリカの双子の赤字がこのまま増大すると、特に輸出産業や観光業は大きなダメージを被る。もちろん、これらの産業を取引先に抱える中小企業も、極端に売上が下がってしまうだろう。
つまり、双子の赤字は負のスパイラルを引き起こす恐れがあるため、あらゆる企業にとって他人事ではない。一見するとアメリカとの関係性が薄そうな中小企業も、いつ急な対応に迫られるのかわからないので、アメリカの経済状況はこまめにチェックしておきたいものだ。
日本が双子の赤字に直面する可能性も
一般的に「双子の赤字」といえば、1980年代のアメリカの経済事情を指す言葉。しかし、実は日本も双子の赤字に直面しつつあり、将来的には2つの赤字に悩まされる可能性がある。
たとえば、日本の財政収支は1983年~2019年にかけて赤字が続いている状態だ。経常収支は黒字を保っているが、2010年代前半には危うく赤字に転落しかけた時期がある。また、2010年代に入ってから貿易収支が伸び悩んでいる点も、世の中の経営者が意識しておきたいポイントだろう。
では、仮に日本で双子の赤字が発生すると、国内にはどのような変化が生じるのだろうか。状況次第でさまざまな事態が起こり得るが、現時点で予測できる変化としては以下が挙げられる。
- ○日本が双子の赤字となった場合に、発生する主な状況
・円安が徐々に進行する
・株価が上がらない可能性が高まる
・景気が徐々に低迷し、国内の豊かさが徐々に失われる など
円安はときに経済に恩恵をもたらすが、双子の赤字による円安は良い状況とはいえない。輸出産業の利益は増えるものの、輸入コストの増加分がその利益を相殺してしまうためだ。
また、円安が一気に進むと、外国人投資家にとっては国内株の魅力が薄まる。つまり、円安が進んでいるにも関わらず、株価が上がらないような状況に陥ってしまうだろう。
双子の赤字に備えて、経営者が意識しておきたいポイント
では、ここまで解説した「双子の赤字」に対して、世の中の経営者はどのように備えれば良いのだろうか。最後に、経営者が特に意識しておきたいポイントを以下で2つまとめた。
1.資産の管理方法を見直しておく
双子の赤字はインフレなど、経済の大混乱を招く恐れがあるため、資産を多く保有している経営者はその管理方法を見直しておくことが重要だ。たとえば、インフレによって円が弱くなる状況になった場合は、外国通貨や外国株に資産をかえるなどの手段がある。
ほかにも、外国株式に投資をした投資信託、金などの貴金属など、円のリスクを抑えた形で資産を保有する方法は数多く存在する。特にこれまで「資産を円でしか保有していなかった…」という経営者は、これを機に資産の管理方法を見直してみてはいかがだろうか。
2.今以上に国内外の経済状況をチェックしておく
双子の赤字の状態は、この先ずっと続けていける保証はない。2つの赤字に経済が耐えられなくなると、世界的な金融危機が到来する可能性がある。
そのような状況になったときに、企業の明暗をわけるのは対策の内容と、それにとりかかるスピードになるだろう。したがって、中小経営者は引き続き国内外の経済状況をチェックしておき、変化を敏感に感じ取ることが重要だ。
中小企業の命綱である「資金調達」にも影響が出てくるので、特に輸出入との関連性が強い企業は、すぐに対応できるように準備を進めておきたい。
経済状況を敏感に察知し、すぐに対応できる準備を
本記事で解説してきたように、国内の中小企業にとって双子の赤字は他人事ではない。アメリカは基軸通貨を有する国であるため、アメリカの経済が混乱するとその影響は日本にも及んでくる。
また、日本に双子の赤字が迫っている点も、経営者としては見落とせないポイントだ。普段から国内外の経済状況を敏感に察知し、いざという場面が到来したらいち早く対応できるように準備しておこう。
文・THE OWNER編集部