海外事例,ビジネスアイデア
(写真=Michal Chmurski/Shutterstock.com)

新規事業を考えるのに、もしかすると、まったく新しいアイデアは必要ないかもしれない。なぜならば、海外のトレンドが、遅れて日本に入ってくることも多いからだ。海外のトレンドを知ることで、つぎに日本で当たるサービスがどのようなものかを予測することが可能だろう。いま海外のトレンドはどのようになっているのか。具体的事例を交えながら解説する。

目次

  1. 日本はスタートアップ後進国!?ユニコーン企業に見るスタートアップが生まれる国とは
  2. 海外でヒットしたサービスは、遅れて日本でもやってくる?
    1. 本国を買収したセブインイレブン
    2. 日本版Facebookのミクシィ
    3. 靴のECロコンド
  3. 海外スタートアップの最新トレンドとは?アメリカの事例に学ぶ
    1. 人工肉市場が拡大する?
    2. 女性やマイノリティのためのサービス
    3. パーソナル化が進むヘルスケア
    4. 企業向けのサービスのデジタル化
  4. 日本での新規事業の成功は、海外事例に学べ

日本はスタートアップ後進国!?ユニコーン企業に見るスタートアップが生まれる国とは

まずは、世界中でどこの国がスタートアップ先進国で、新しいサービスを生み出しているのかを見てみよう。注目したいのは、ユニコーン企業と呼ばれる企業群だ。

ユニコーン企業とは、もともとはアメリカのベンチャーキャピタリストによって作られた言葉。企業価値が10億ドル以上の、未上場のスタートアップ(多くは創業から10年以内)の企業のことを指す。多くの投資家から注目されている企業であり、ほとんどがテクノロジー系のビジネスを行っている。

調査会社CBインサイツのデータによると、2019年1月23日時点でのユニコーン企業は310社。このうちアメリカの企業が151社と、約半分近くがアメリカの企業になる。2位は中国で86社あり、アメリカと中国でユニコーン企業の75%を占めている。ついでイギリス、インド、ドイツの順番だ。残念ながら日本のユニコーン企業は、トヨタ自動車などから出資を受けている、人工知能を手掛けるプリファード・ネットワークス、ニュース集約アプリのSmartNews、ブロックチェーン技術のliquidの計3社のみだ。

資本主義の覇権を握っているアメリカが1位なのはともかく、注目したいのは、2位に中国、4位にインドと、新興国が上位にランクインしていることだ。特に、ユニコーン企業の中でも最も時価総額が大きいとされているのは、TikTokを手掛ける中国のバイトダンス社であり、企業価値は750億ドルともいわれている。また、最近日本に入ってきた新興ホテルチェーンのOYOはインド出身のスタートアップである。

新興国ではインフラが発展していない中で、ITが発達したことにより、テクノロジーを使った新しいサービスや課題解決の手法が生まれることがある。そして、新興国発のサービスが先進国でも普及するようになる、リバースイノベーションと呼ばれる従来と逆の新しい切り口が生まれやすい環境になっているのだ。いまやアメリカだけでなく、インドや中国などの巨大新興国のサービスも、もはや無視できない存在になりつつあると言えるだろう。

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海外でヒットしたサービスは、遅れて日本でもやってくる?

このように、いまや海外には日本でも新しいビジネスのヒントになりそうなサービスの事例がたくさんあるのだ。そのため、これらの事例を学び、日本仕様にローカライズすることは、1から新規事業を立ち上げるよりも、成功のハードルは低いかもしれない。実際にアメリカやヨーロッパからのビジネスモデルを持ち帰って、日本仕様にすることで収益を上げることができたという例は、過去にも多くあるのだ。

本国を買収したセブインイレブン

歴史を見てみると、セブンイレブンが代表的な事例になるかもしれない。もともとセブンイレブンは、当時イトーヨーカドーの社員だった鈴木氏が、アメリカでそのビジネスを見たところ「日本でも収益化できる」と持ち帰ってきたのが始まりだ。その後セブンイレブンは、日本で独自の成長を遂げ、日本一のコンビニエンスストアチェーンといわれるようになった。一方、アメリカ本国では、競争環境の激化等により事業は低迷していた。1991年、最終的にはセブンイレブン・ジャパンが本国のセブンイレブンを買収する形になったのだが、これはアメリカで生まれたビジネスモデルを日本でうまく展開させた事例と言えるだろう。

日本版Facebookのミクシィ

インターネットでいうと、Facebookとミクシィの事例も、日本でのビジネスローカライズのヒントになるだろう。ミクシィのサービスは、もともとアメリカでFacebookが流行っていたのを知って、日本版のFacebookとして生まれたサービスになる。ミクシィは一時期、日本でのユーザー数を大きく伸ばし、Facebookに大きく水をあけていた。現在ミクシィは別の成長を遂げ、Facebookが日本でも浸透するようになったが、このミクシィの初期のビジネスモデルも海外からの成功例を持ち込んだ事例と言えるだろう。

靴のECロコンド

靴のECであるロコンドも、同じくアメリカの靴通販のザッポスをモチーフとして作られた企業になる。ザッポスは、「24時間365日の顧客対応」「送料・返品無料」「何度でも返品OK」「翌日配送化」など、それまでの靴のECの常識を覆すサービスを提供した。特に、サービスレベルの高さには定評があり、ザッポスで感動するサービスを受けたという逸話は多く残っている。ロコンドは、ザッポスと同じく靴のECから生まれ、ザッポスの理念をそのまま日本で展開しようとしていたことで知られている。過去には経営の危機にも瀕していたが、現在は靴を中心としたファッションECの1つとして、業績も上昇基調にある。

このように日本では全く新しいサービスを展開していたとしても、実はその理念や、ビジネスモデルのルーツが海外であるというサービスが多く存在するのだ。そのため、いま海外でどのようなサービスが注目されているのか、どのようなサービスがユーザーを集めているのかは、日本で新規事業を考える上で非常に有効と言えるだろう。

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海外スタートアップの最新トレンドとは?アメリカの事例に学ぶ

実際にいま海外スタートアップでは、どのようなモノ、コト、サービスが人気なのだろうか。アメリカを中心に具体的な事例を挙げながら紹介しよう。

人工肉市場が拡大する?

現在、アメリカの上場企業の中で最も注目度が高い企業の1つが、ビヨンドミート社だろう。ビヨンドミート社は、植物性タンパク質で人工肉を作るベンチャー企業で、2019年の5月にナスダックに上場した。IPO価格は25ドルだったものの、一時期250ドルに迫る勢いで株価を上昇させており、市場の関心が高いことが窺える。また、同じくアメリカのベンチャー企業であるインポッシブル・フーズは、植物性タンパク質を使ったひき肉を使用した「インポッシブル・バーガー」を2019年のCES(毎年ラスベガスで開催される、家電や自動運転などの技術の見本市)で発表し、「最も想定外の製品賞」「最もインパクトのある製品賞」、さらには「ベストオブベスト(最優秀賞)」を獲得するなど、いま人工肉産業は、成長産業として注目されている。

人工肉が注目されている理由が、人口増加、生活水準の向上による食糧危機の懸念だ。世界人口は増加の一途をたどっており、また貧困層が減ることにより、一人当たりが摂取する肉や魚の量は増加しつつある。肉や魚というのは一朝一夕に生産量を増やせるわけではないため、将来的に人口が増えるにつれ、タンパク質が足りなくなる可能性があるのだ。また、畜産のために森林が開拓され、牛や羊などがメタンガスや二酸化炭素を放出することによる温暖化の影響も懸念されている。人工肉は今後、こういった課題を解決することができる可能性があるため、期待が高まっていた。しかし、これまでは製造にコストがかかりすぎるという難点があったのだが、ビヨンドミートやインポッシブル・フーズは、独自の工夫をこらすことで製造コストを引き下げてきた。これからさらに需要が拡大すれば、人工肉は1つの大きなマーケットになり得るかもしれない。

人工肉をけん引するのは、上記2社だけではない。たとえば、同じくアメリカのベンチャー企業であるFinless Foodsは、クロマグロの細胞を培養することで、人工的に魚肉を製造しようとしている。さらに、アメリカの食肉最大手であるタイソン・フーズも人工肉市場に参入しようとしている。日本ではまだ目立った動きはないものの、インテグリカルチャーという会社が人工肉の開発を進めている。いずれにせよ世界的な人口増加やタンパク質不足は、いずれ人類が直面する課題であり、日本にとっても例外ではない。将来的には日本でも人工肉が一般化するかもしれないのだ。

女性やマイノリティのためのサービス

これまで、アメリカで生まれるスタートアップの多くは、男性向けかオールジェンダー向けのサービスが一般的だった。もちろん女性向けのサービスやプロダクトもあったが、シリコンバレーにおいてはスタートアップやベンチャーキャピタリストの多くが白人男性ということもあり、マイノリティ向けのビジネスというのは少なかった、というのが正直なところだろう。しかし、この動向もいま変わりつつある。

一つ象徴的なのが、Backstage Capitalという、マイノリティが立ち上げたスタートアップを支援するベンチャーキャピタルが生まれたことだろう。2015年に生まれた同社のCEOは、黒人女性でかつ同性愛者と、世間的には「マイノリティ」と呼ばれる存在であろう。投資先の多くも有色人種であり、かつ、女性のスタートアップを積極的に支援している。

さらに、2017年に起こった「me too運動」も、女性の地位の引き上げに一役買ったと言えるだろう。これまでは、男性のカラーが強かったアメリカのスタートアップだが、今後は女性やマイノリティの投資家、起業家が増え、それにともない女性やマイノリティのためのサービス、プロダクトが開発されることが多いに期待されている。

そのサービスの1つとして、女性のためのコワーキングスペース、The Wingがある。The Wingは、女性解放運動に影響を受けた2人の女性起業家によって作られたサービスであり、従来のコワーキングスペースにあるミーティングルーム、カフェやキッチンに加え、メイクルームやシャワールーム、さらに託児所までを完備しているのだ。内装もピンクを基調とした女性らしいデザインになっている。

さらに、The Wingは、入会する際に質問に答える必要があるのだが、その質問が女性の地位向上や女性が直面する課題などに関する質問だ。このように、外装や設備だけではなく、マインドの面でも、女性起業家を支援しているといえるだろう。実際、多くの女性が入会を希望しており、独自のコミュニティを形成している。これはいままでのコワーキングスペースとは、一線を画したものといえるだろう。

また、女性という観点で注目されているのが、水に流せる妊娠検査薬であるLiaだ。これまでの妊娠検査薬はプラスチック製であり、環境への負荷がかかる。加えて、女性が妊娠検査薬を捨てるのに困っているという課題があったがそれらを解決したものだ。オーガニックでありながら、従来の妊娠検査薬と性能は変わらないということで、2018年にはCompany’s 2018 World Changing Ideas Awardのヘルス部門を受賞するなど、今後の注目が高まっている。

パーソナル化が進むヘルスケア

テクノロジーの進化により、ヘルスケア分野でも様々なサービスが立ち上がっている。2019年も引き続き、ヘルスケアは注目分野となるだろう。

ヘルスケアのトレンドの1つとして注目されているのは、パーソナル化だろう。特にアメリカでは、ビタミンやサプリメントでのパーソナル化が進んでおり、注目を集めている。

たとえば、サプリメントのサブスクリプションサービスであるCARE/OFがある。通常サプリメントは薬局やコンビニで購入されることが多いが、CARE/OFではオンライン上で質問に答えることにより、カスタマイズされたサプリメントを毎月購入することが可能だ。CARE/OFは他にも、サプリメントの使用を記録化することができるなど、サプリメントの購買体験を「カスタマイズされた楽しいもの」に変えているのだ。女性の場合は、妊娠の有無を選べるなど、ユーザーに対しての配慮も十分になされている。

もう1つ注目すべき点としては、メンタルヘルス市場の増加だ。メンタルヘルスのスタートアップの資金調達額は2017年には合わせて5億ドルにまで達しており、これからも市場が成長することが期待されている。イスラエルのスタートアップであるWISDOは2018年にインテルから約12億円を調達するなど、アメリカ以外の国でも注目度が高い産業となっている。その他、瞑想のための音楽アプリSimple Habitも約12億円の資金調達をしている。メンタルヘルスは、現代社会特有の病気でもあり、社会問題にもなっている。こういったサービスは、将来の社会問題を解決する糸口になるかもしれない。

企業向けのサービスのデジタル化

最後に注目したいのは、企業向けサービスのデジタル化だ。多くのスタートアップが生まれるなかで、彼らのバックオフィスをサービスするスタートアップも多く生まれている。今後、こういったバックオフィス部門は、クラウド化やシェアードサービス化が進むと考えられており、この分野のスタートアップも注目されている。

たとえば、いまアメリカで注目されている企業の1つが、スモールオフィス向けに確定拠出年金を提供するGuidelineというサービスだ。アメリカの中小企業が低いコストで確定拠出年金を利用することができるサービスである。従業員は手数料をガイドラインに支払う必要はなく、雇用主が手数料を負担する形になる。手間がかかる確定拠出年金に関わるコストを委託できるため、雇用主にも従業員にもメリットがあるのだ。

また、スタートアップが成長するにつれて、スタートアップにおけるストックオプション等の管理が煩雑になるケースも増えてきつつある。それを解決したのがCartaというサービスだ。Cartaはオンライン上で従業員のストックオプションやエクイティプランを管理することができるサービスで、SlackやCoinbaseなどを顧客に持つ。これから日本でもスタートアップが増えてくれば、このようなバックオフィス系の管理サービスも増えてくるだろう。ゴールドラッシュの時に一番稼いだのがツルハシを売る店だと言われるように、こういったスタートアップを支援する会社に注目してもいいかもしれない。

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日本での新規事業の成功は、海外事例に学べ

セブンイレブンをはじめ、いま日本で主流となっているサービスの多くは、海外の事例を日本向けにアレンジしたものだ。逆に言えば、新規事業を成功させるために、まったく新しいアイデアを考える必要はなく、海外事例をきちんと知り日本でも通用するかどうかを考えればよい。

現在海外では、人工肉やヘルスケアなどの最先端のテクノロジーから、女性・マイノリティのためのサービスなど、これまでのスタートアップとは少し異なるカラーのスタートアップが注目されている。また、多くのスタートアップが成長しているため、そのスタートアップのバックオフィスを支援するサービスも注目度が高い。この中には、日本で展開しても成功しそうなサービスもありそうだ。もし、新規事業を考える場合は、まず海外のトレンドと事例を学んでみてはどうだろうか。