【VCインタビュー】起業家を支える哲学とStoked Capitalの展望(後編)

起業家として複数の企業立ち上げと売却を経て、起業家支援とファンド運営に取り組むStoked Capital代表の池森裕毅さん。

第2部では、池森さんの考える成功する起業家の特徴やスタートアップ界の課題、今後のビジョンについて掘り下げていきます。
ぜひ最後までご覧ください!

前編をご覧になっていない方は是非以下のリンクからご覧ください!
前編はこちら:https://startuplog.com/n/n61e5582b58d5?sub_rt=share_pb

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目次

  1. 成功する起業家の特徴
  2. 日本のスタートアップ界の課題について
  3. Stoked Capatalの今後の展望について

成功する起業家の特徴

ー成功する起業家はどのような特徴があるとお考えですか。

【VCインタビュー】起業家を支える哲学とStoked Capitalの展望(後編)

池森氏:「良質な頑固さ」を持っていることです。私の意見に耳を傾け、柔軟に吸収しながらも、譲れない部分については自分の嗅覚を信じて守り抜く。これが非常に重要です。一方で、私の言ったことをただそのまま受け入れるだけの人や、自分の考えを持たずに軽々と他者の意見に従う人は成長しません。

また、起業家自身が、自分が起業する理由や信念をしっかりと持っていることも大切です。その信念が、自分の中で明確で揺るぎない場合、困難を乗り越えられる強さが生まれます。

ーそうした起業家をどのように見分けていますか。

池森氏:具体的な基準を挙げるのは難しいですが、共通するのは「ロジカルであること」と「尋常ではない貪欲さ」です。世の中をハックし、最先端の技術やトレンドを活用しながら、成功に向かってひたすら集中する。このような姿勢を持つ人は極めて稀ですが、必ず大きな成果を出せると感じています。

ー具体的に注目している起業家やスタートアップはありますか?

池森氏:ヘラルボニーという企業です。この企業は、知的障害者のアート作品を活用したライセンス事業を行っています。知的障害者の作品をデジタルデータ化し、それを水筒やジャケットの裏地などにデザインとして活用しています。その結果、単に社会貢献を目的とするだけでなく、圧倒的におしゃれで魅力的なプロダクトを生み出しています。

彼らは社会性と経済性を見事に両立させており、非常に優れたビジネス展開をしています。大手企業や自治体とも連携し、製品が広く利用されていますし、LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)の国際的な賞を日本企業として初めて受賞するなど、世界からも非常に高い評価を得ています。日本が10年、20年に1度生み出すようなスタートアップだと思います。社会性の中から経済価値を生み出し、それを持続可能な形で拡大している。他の企業にも大きな影響を与える存在だと感じています。

日本のスタートアップ界の課題について

ー池森さんが感じる、日本のスタートアップ界の課題について教えていただけますか?

【VCインタビュー】起業家を支える哲学とStoked Capitalの展望(後編)

池森氏:日本では過去にスタートアップエコシステムの歪みが存在しました。しかしこの10年、特にここ数年で大きく改善されてきたと感じています。スモールビジネスやデットファイナンスの良さに気づく動きが増え、以前のように一部の成功モデルだけが称賛される状況から、多様性が認められるようになっています。地方でもスタートアップの概念が徐々に浸透し、リテラシーが向上しています。これにより、スタートアップ支援がより実効性のあるものへと変化してきています。課題は残っているものの、全体的には良い方向に進んでいると感じています。

少子高齢化などの課題はネガティブな捉え方が一般的ですが、逆転の発想でスタートアップにとっては追い風であり、またとないチャンスだと思います。社会が直面している喫緊の課題に対応するソリューションを提供できるのは、起業家たちであり、今まさしく起業家の出番です。

ただし、その中でも短絡的なアプローチを取る企業が多いのが課題です。たとえば、オンライン診療サービスや冷凍宅配サービスなど、一見すると需要があり稼ぎやすい分野でも、長期的な競争優位性を確保できないケースがあります。参入障壁が低い市場では、すぐに競合が増え、最終的には大手企業に吸収されるリスクが高い。そうした市場では、スタートアップの競争優位性・先行者利益が十分に活用できないため、持続的な成長が難しいのです。

ーこうした課題に直面しているスタートアップに対して、どのようなアドバイスをされますか?

池森氏:短期的な利益だけでなく、長期的な視点を持つことが重要だと伝えています。市場に新しいソリューションを提供する際には、「数年後に競合が増えた時に勝ち残れるか」「競争優位性を構築できるか」「ネットワーク効果やスイッチングコストを活用できるか」をしっかりと考えなければなりません。特にシリーズA以降の投資家は、スタートアップが持続的に成長し、最終的にはIPOや大規模なM&Aを目指せるかどうかを厳しく見ています。そのため、短期的な利益を追求するだけでは次のステージに進めないのです。先を見据えたビジネス設計ができていないと、最終的には市場から淘汰されてしまいます。

ー今後の日本のスタートアップに必要なものは何でしょうか?

池森氏:スタートアップは社会課題の解決に取り組むことで、経済性と社会性を両立させる新しいモデルを築いていくべきです。日本のスタートアップがこのような戦略的な視点を持つことで、国内だけでなく、国際市場でも通用するビジネスを展開できるようになると信じています。

ー池森さんが新たに取り組むとしたら、どのような領域に挑戦したいとお考えですか?

池森氏:生成AI(Generative AI)の領域です。この技術は、今まさに注目されている分野で、多くの可能性を秘めています。ただし、AIの領域で競争優位性を築くのは非常に難しいのも事実で、ラッピングビジネス(既存技術を活用するモデル)にとどまるケースが多いです。現時点ではAIの領域にまだ未開拓の「空席」が多く残っています。この状況が続くのはあと2〜3年程度だと見ています。市場が成熟すると、後発組の参入が難しくなり、競争が激化すると考えています。だからこそ、今がこの領域に挑戦する最大のチャンスです。

現在存在しないユニークなサービスやソリューションを迅速に開発し、市場に投入する。これを繰り返し行い、成果を次の取り組みに活かす。このアプローチで、限られた時間の中で最大限の成果を目指すのが最適だと思っています。

Stoked Capatalの今後の展望について

ーStocked Capitalとしての今後の展望やビジョンについてお聞かせいただけますか?

【VCインタビュー】起業家を支える哲学とStoked Capitalの展望(後編)

池森氏:Stocked Capitalには特定の期限や厳しい制約がないので、無理のない範囲で慎重に出資を進めていきたいと思っています。基本的には、スタートアップにとって本当に価値があり、力になれるもの、そしてLP(出資者)のシナジーが発揮されるものを優先して支援していきます。

また、N-1やN-2のようなレイターステージへの出資も進めつつ、有望なプレシリーズやシリーズAのスタートアップにも引き続き注力していきます。審査員として参加する中で有望な起業家を見つけ、その流れで支援に繋げていくというスタンスを大切にしています。
この姿勢を貫きつつ、スタートアップの可能性を最大限に引き出し、長期的な価値を生み出すサポートを続けていきたいと考えています。

ー最後になりますが、起業家や起業を志している方々に向けて、メッセージをいただけますか?

池森氏:「スタートアップがキラキラしているから起業しよう」ではなく、本当にやりたいことをやっていただきたいです。周りの声に惑わされ過ぎないことが大切です。これからの時代、AIが多くの職業を駆逐していくことは避けられません。AIが多くの分野で進化していく中で、最も重要なのは「人生を楽しむ力」です。AIがほとんどの業務を代替する時代、人間が競争で勝つのではなく、いかに自分の人生を楽しめるかが大事になると思います。

楽しむ力というのは、どんな環境に置かれても自分なりの価値を見出し、それを楽しめるスキルです。これからは、人間らしさや創造性、そしてコミュニティを楽しむ力が求められます。AIが代替できない部分で勝負するしかありません。そして、それを前提に、やりたいことを自由に選び、人生を楽しんで欲しいです。

ー池森さん、今回は非常に貴重なお話をありがとうございました!スタートアップの本質、さらには起業家以前に人として「楽しむスキル」の重要性など大変勉強になりました。池森さんのようなビジョナリーなお考えが、これからの時代を切り開く大きなヒントになると確信しています。

池森さんとお話をしてみたい!と思われた起業家の方や投資家の方は、以下のメールアドレス宛てにご連絡をお願いします!

ikemori@stoked.jp