矢野経済研究所
(画像=Fabio/stock.adobe.com)

2025年2月
コンシューマー・マーケティングユニット
主任研究員 榎本 啓吾

2024年12月末に「2025年版 スポーツアパレル市場動向調査」というレポートを発刊した。まだ参入各社の2024年度決算が締まっていないため見込値となるが、2024年の国内向けメーカー出荷規模を対前年比102.7%の6,255億9,000万円と推計した。
このスポーツアパレル市場においては、これまでスポーツアパレルメーカーおよび素材メーカー各社がいくつもの画期的な機能を開発してきた。代表的なものとして、スポーツのあらゆるシーンで必須となっている「吸汗速乾」、特に登山において欠かせない「防水透湿」、真冬のゴルフシーンなどで重宝される「吸湿発熱」機能などが挙げられる。スポーツシーンでは、日常とは異なる環境下で、また日常よりも激しい動きをすることが多いため、そこでの使用に耐えうる高度な機能を開発することができれば、その程度を調節することにより日常生活での快適性を高めるための機能として転用できることも多い。上述の機能はいずれも、最初にスポーツウエアに搭載された後、日常ウエアへの採用が広がり、今では一般消費者にもおなじみの機能となっている。スポーツシーンでのパフォーマンス向上だけでなく、日常生活の快適性向上にまでつながってきたという意味でもスポーツウエア進化の意義は大きいと言えるだろう。ただ、ここで挙げた機能はいずれも10年以上前に開発されたもので、近年、スポーツウエア関連メーカー各社は目新しい機能の開発に苦慮しているようだ。デザインやシルエットなど目先の変化を施すことで新商品として投入するなどしているが、行き詰まっている感は否めない。

この状況を打開する機能として、「持続性冷感機能」に大きな可能性があると考えている。近年は夏の暑さが長引く傾向にあるだけでなく、最も暑い時期には屋外で運動することが危険なほどに気温が高くなることも珍しくない。そのなかで現在、少しでも涼しさを感じることができる機能としては「接触冷感」機能が一般的だ。文字通り、肌に触れた際にひんやりとした冷たさを感じることができるもので、スポーツウエアをはじめとしてインナーウエアなどに搭載されることが多い。ただ、こうした商品を扱う小売店へのヒアリングでは、着用直後は冷たさを感じることができるが運動時にまでその効果は持続しないため、プレーシーンでの暑さ軽減に資する機能を望むユーザーは多いという。

暑さ対策機能の向上はスポーツアパレル市場の今後を踏まえても必須と言える。当然のことながら、スポーツウエアの需要はスポーツシーン用が中心で、その参加人数に大きく影響されるため、すでに人口減少と少子化の影響を受けている。また、スポーツウエアは消耗品が多く、スポーツへの参加頻度や参加時間に需要が左右される面も大きい。熱中症など暑さに起因する病気や事故などのケースが増えると、夏場におけるスポーツの参加頻度や参加時間への影響が高まり、ひいてはスポーツ用品の需要低減につながる可能性を否めない。実際、近年では一定以上の気温に達した場合、危険性を考慮して学校部活動が中止となるケースもある。そうした学校の近隣に位置する小売店からは、活動中止の日が多かったために夏場の売上が冴えなかったという声も聞かれた。人口減少のさらなる進行が確実で参加人数に関する懸念が増す中、スポーツ用品業界としては参加頻度や参加時間の低減を防ぐことが必要になる。そのため、夏場における暑さ対策のアイテムを強化していく重要性は大きく、プレー中の暑さを和らげる「持続性冷感機能」の必要性も高まっていると考えられる。

メーカーへのヒアリングによると、持続性冷感機能の開発に向けた課題は少なくないようだ。ただ、課題が解消されてスポーツシーンでも十分な効果を感じることのできる機能が登場した場合には、これまでのスポーツアパレルで見られてきた「一般生活向けアイテムへの転用」も見込まれる。近年は外に出るだけでも危険な暑さの日も増えているが、それでも自宅から出なければいけない人や、炎天下で作業をしなければいけない労働者などにおける潜在需要は小さくないはずだ。このように幅広い層からの需要を期待できるため、持続性冷感機能搭載アイテムがスポーツアパレル市場を底上げする可能性は大きいと考えられる。夏場のスポーツシーンおよび日々の生活における快適性を大幅に向上させる商品の登場と、それによるマーケットの活性化を期待したい。