顧客のメッセージやイメージを表現するサイン 若きリーダーの下、IoT・ICT活用によるビジネスモデル構築へ 高松ホットスタンプ(香川県)

目次

  1. 本社と工場の敷地面積は1万2千平方メートル 業界内で四国最大級 デザインから製造、施工、納品に至る全ての工程に一貫対応
  2. 設立100年に向けて新たな事業戦略を打ち出すタイミングで社長に就任
  3. デザイン力を強化して受注型から企画提案型にビジネスモデルの転換を目指す
  4. アート性の強い建築金物などの製作を目的にAIアシスト機能搭載型のファイバーレーザー加工機を導入
  5. 60年近い歴史を持つ日本サインデザイン賞で、四国地区デザイン賞を受賞
  6. 本社1階に金属アート作品を展示してデザイン力をアピール 2025年の瀬戸内国際芸術祭に合わせた物販ブースに商品の出品を検討
  7. 紙ベースの業務をデジタル化して基幹業務を効率化することで、余裕を持って品質の高い作品を作っていける体制へ
  8. 企業をターゲットにしたサイバー攻撃が増加傾向にあることを踏まえて重層的なネットワークのセキュリティ体制を構築
  9. 従業員の意見を経営に反映させるため役員とのマンツーマンの面談を年に2回実施
  10. サインの製作は技術やセンスが要求される 技術継承のため、デジタル技術の活用を検討
  11. 2035年に向けた事業戦略の策定 サインは街の景観を大きく変える力を持つ 自治体との連携を念頭に社会問題の解決にも取り組む
中小企業応援サイト 編集部
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香川県に拠点を置く株式会社高松ホットスタンプは、半世紀を超える歴史を持つ四国を代表する看板製作企業だ。箔押し(ホットスタンプ)を手掛ける特殊印刷の会社からスタートし、顧客の要望に応じて事業分野を拡大していった。表札から自立型看板、壁面看板、袖看板、LEDサイン、懸垂幕、横断幕まで大小さまざまな看板製品を取り扱っている。2024年7月には創業家出身の30代前半の新社長が就任。若きリーダーの舵取りの下、新型の工作機械やICTを活用して受注生産型から企画提案型へビジネスモデルの転換を図ろうとしている。(TOP写真:高松ホットスタンプの自社のサイン(看板)。自社商品アピールに大きな効果)

本社と工場の敷地面積は1万2千平方メートル 業界内で四国最大級 デザインから製造、施工、納品に至る全ての工程に一貫対応

顧客のメッセージやイメージを表現するサイン 若きリーダーの下、IoT・ICT活用によるビジネスモデル構築へ 高松ホットスタンプ(香川県)
高松ホットスタンプの工場棟を併設した本社の全景

高松ホットスタンプは、デザインやレイアウトをはじめ、設計・製作図の作成、製造、取付施工、納品に至る全ての工程に一貫対応している。施工事例は公共施設、オフィス、病院、福祉施設、商業施設、店舗と幅広く、地元の四国を中心に全国からの年間受注件数は600件にのぼる。2011年からは階段、手すり、柵などの建築金物も手掛けている。

看板製作に取り組む工場を併設した本社は、高松市と隣接した木田郡三木町の企業団地内に立地している。敷地面積は業界内で四国最大級の1万2000平方メートル。工場内には板金加工用の高精度のベンディングマシン、切れ込みを入れるシカール盤、板金せん断機、溶接機といった多種多様な設備がそろう。完成した大型看板をトレーラーに積み込むための天井クレーンも設置している。

「看板娘や看板商品といった言葉があるように、看板はお客様の大事な顔そのものです。看板やサインに対するお客様一人ひとりの思いをオーダーメイドで実現しています。お客様の品質への強いこだわりにしっかりと対応できるのが会社の最大の強みと思っています」。高松ホットスタンプの本社で、創業者を祖父に持つ32歳の杉山俊行代表取締役社長は温和な口調で話した。

設立100年に向けて新たな事業戦略を打ち出すタイミングで社長に就任

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高松ホットスタンプの杉山俊行代表取締役社長

杉山社長は、エネルギー商社や半導体メーカーを経て、2020年4月に高松ホットスタンプに入社し、副社長などを経て2024年7月に社長に就任した。設立から50年を超えた高松ホットスタンプは、この先の設立100年に向けて新たな事業戦略を打ち出すタイミングを迎えている。「歴代の経営陣が育ててきたビジネスモデルを大事にしながら、組織に新しい風を吹き込み、新しい取り組みに積極的にチャレンジしていきたい」と杉山社長。社長就任後、新たな経営理念として「伝えたい想いをデザインし、豊かな社会を共に創る」を打ち出した。

デザイン力を強化して受注型から企画提案型にビジネスモデルの転換を目指す

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ゆすはら 雲の上の図書館はゼネコンより設計・製作・施工を受注。採用されたサイン

サイン(看板)は近年、図面段階で建物と一体で設計されるケースが増え、高いデザイン性が求められるようになっている。高松ホットスタンプではグラフィックデザインソフトを使ってサインのデザインを作成。杉山社長は、これから必要性が高まるデザインのプロフェッショナルを育成するため、設計室、企画デザイン室の体制強化に取り組んでいる。「デザイン力と共に営業力も強化して、受注型から企画提案型のビジネスモデルに転換していきたい」と杉山社長は話す。

アート性の強い建築金物などの製作を目的にAIアシスト機能搭載型のファイバーレーザー加工機を導入

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高松ホットスタンプが導入したAIアシスト機能搭載型のファイバーレーザー加工機
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AIアシスト機能搭載型のファイバーレーザー加工機を使って精密加工した製作物

高松ホットスタンプは、長期的視野でビジネスモデルの転換に向けて、新しい工作機械やICTを導入している。2022年には、AIアシスト機能搭載型のファイバーレーザー加工機を導入した。規格品と一線を画すアート性の強い建築金物などの製作を目的に導入したという。

ファイバーレーザー加工機は、従来よりも集光性が高いレーザー光を作り、高速カットで熱による変形を最小限に抑えるので、歪みのない均一な精密加工を実現できる。導入した加工機は、AIが加工中の音と光を分析してレーザー出力などの加工条件を自動調整する機能やAR(拡張現実)で加工機内の俯瞰画像を表示する機能を備えている。付属の装置で製品に印字することもできる。これまで難しかった銅や真鍮(しんちゅう)などの高反射材や厚みのある鉄やステンレスの精密加工が可能になり、製作物のバリエーションが広がったという。

60年近い歴史を持つ日本サインデザイン賞で、四国地区デザイン賞を受賞

顧客のメッセージやイメージを表現するサイン 若きリーダーの下、IoT・ICT活用によるビジネスモデル構築へ 高松ホットスタンプ(香川県)
顧客のメッセージやイメージを表現するサイン 若きリーダーの下、IoT・ICT活用によるビジネスモデル構築へ 高松ホットスタンプ(香川県)
日本サインデザイン賞で、四国地区デザイン賞を受賞した装飾板金

ファイバーレーザー加工機の導入によって、アート性が高い製作物を手掛けやすくなった効果は既に現れている。2024年には、高松ホットスタンプがファイバーレーザー加工機で製作した装飾板金が、60年近い歴史を持つ日本サインデザイン賞(SDA賞)で、四国地区デザイン賞を受賞した。

依頼主の新社屋の内部を彩る装飾板金は、四国三大祭りの一つ、新居浜太鼓祭に登場する太鼓台と呼ばれる金糸刺繍(ししゅう)で彩られた山車をモチーフにしている。担当者は、現地の太鼓祭りを実際に見て依頼主と何度も打ち合わせを重ね、太鼓台を飾る龍の迫力が増すようにデザインを工夫したという。

本社1階に金属アート作品を展示してデザイン力をアピール 2025年の瀬戸内国際芸術祭に合わせた物販ブースに商品の出品を検討

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本社1階に展示している香川県の名所をモチーフにした金属アート作品

2023年にリノベーションした本社1階にも、東京都と香川県の名所をモチーフにファイバーレーザー加工機で製作した金属アート作品を展示して、デザイン力をアピールしている。瀬戸内海の島々を会場に3年に一度開催される「瀬戸内国際芸術祭2025」に、CRASSOという東かがわ発信のオープンファクトリーが瀬戸内国際芸術祭とタイアップして物販の構想があるとのことなので、ファイバーレーザー加工機を活用した商品の出品を検討している。サインプレートなどを販売している自社運営のオンラインショップと連携するなど情報発信を強化することで、金属アート作品を新たな事業として育てていきたいという。

紙ベースの業務をデジタル化して基幹業務を効率化することで、余裕を持って品質の高い作品を作っていける体制へ

高松ホットスタンプは、クラウド型の営業支援・顧客管理システムをはじめ、看板業界向けの業務支援、会計管理といった各システムを活用することで業務の効率化、ペーパーレス化、支社との情報共有を進めている。

「紙ベースで行うことが慣例になっていた業務を見直して、最新の機能を持ったICTやデジタル機器を積極的に使うことで、基幹業務を効率化していきたいと考えています。仕事の属人化を解消して、従業員が疲弊することなく、余裕を持って品質の高い製品を作っていける体制を構築していきたい」と杉山社長は話す。

企業をターゲットにしたサイバー攻撃が増加傾向にあることを踏まえて重層的なネットワークのセキュリティ体制を構築

高松ホットスタンプは、様々な基幹業務へのシステム活用と併せて、重層的なネットワークのセキュリティ体制を構築している。複数のセキュリティ機能を備えたUTM(統合脅威管理)機器で会社全体のネットワークを守るだけでなく、2024年10月、外部に持ち出すことが多い営業担当者用の10台のノートパソコンにも個別のセキュリティシステムを導入した。

企業をターゲットにしたサイバー攻撃が増加傾向にあることを受けて、対策を強化することにしたという。「情報が漏洩(ろうえい)すると取り返しがつかないことになってしまうので、念には念を入れてセキュリティを強化しています」と杉山社長は表情を引き締めた。

従業員の意見を経営に反映させるため役員とのマンツーマンの面談を年に2回実施

顧客のメッセージやイメージを表現するサイン 若きリーダーの下、IoT・ICT活用によるビジネスモデル構築へ 高松ホットスタンプ(香川県)
高松ホットスタンプのオフィスの様子

高松ホットスタンプは、人材の確保と育成にも力を入れている。一人ひとりの従業員の意見を経営に反映させるための取り組みとして、役員と従業員のマンツーマンの面談を年に2回行っている。「相互コミュニケーションを重視して、より働きやすい環境を作っていきたい」と杉山社長は話す。

サインの製作は技術やセンスが要求される 技術継承のため、デジタル技術の活用を検討

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サイン製作に取り組む高松ホットスタンプの工場の様子

工場でのサイン製作は、きめ細かな溶接や仕上げを中心に手作業でなければ対応できない工程が多く、技術やセンスが要求される。習得しなければならないノウハウが多く、人材の育成には時間がかかるという。複数のベテラン従業員の定年退職に備えて、新しい人材の効率的な育成のためにデジタル技術の活用を検討している。「従業員が自ら学んで短期間で仕事を覚えることができる仕組みを作っていきたい。情報を収集して分析した上で、必要なICTやデジタル機器を見極めていきます」と杉山社長。

2035年に向けた事業戦略の策定 サインは街の景観を大きく変える力を持つ 自治体との連携を念頭に社会問題の解決にも取り組む

顧客のメッセージやイメージを表現するサイン 若きリーダーの下、IoT・ICT活用によるビジネスモデル構築へ 高松ホットスタンプ(香川県)
高松ホットスタンプの本社の外観

高松ホットスタンプは、現在、2035年に向けた事業戦略の策定に取り組んでいる。サインは街の景観を変える力を持っている。それぞれの企業や団体の個性の発信、居心地の良い空間づくりへの貢献、安全な動線づくりを支援する。そのため機能性や美観性の高い金属製品や安全を担うマーキングなど手掛けていく。更にこれらの技術を使って自治体との連携を念頭に置きながら、社会課題の解決につなげることも考えていきたいという。常にレベルアップを目指す高松ホットスタンプ。工作機械やICTといった技術と人の熟練技の組み合わせが、発信効果の高いサインを世に送り出す原動力になっている。

企業概要

会社名株式会社高松ホットスタンプ
本社香川県木田郡三木町井上3098-55(高松東ファクトリーパーク)
HPhttps://thsnet.co.jp
電話087-891-1010
設立1972年2月
従業員数53人
事業内容   デザイン、レイアウト提案、企画、設計、金属加工(ステンレス・スチール・アルミ)、樹脂加工(アクリル・塩ビなど)、大型インクジェット出力、スクリーン印刷、点字加工(樹脂)、チャンネル文字(箱文字)、銘板、木製サイン、カッティングシート加工、LEDサイン、箔押し(ホットスタンプ)、建築金物、塗装、施工、運送