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事業領域を広げず鉄骨工事専業を貫いてきた株式会社鐵建(てっけん)は2024年に創業70周年を迎えた。日本経済発展の象徴である大規模建造物の、文字通り屋台骨となる鉄骨組み立て一筋で成長を遂げてきたが、特筆すべきはゴミ一つ落ちていない工場と良好な作業環境だ。小山慎一代表取締役が安全と整理整頓を徹底してきた成果であり、かつて3K職場の代表でもあった業界の近未来の姿を垣間見る思いである。同社は2024年春竣工した第3工場の稼働を機に、ICTソリューション活用による本格的な事業構造改革を始動させた。(TOP写真:鉄骨組み立て現場 Hグレード認定の鉄骨専業ファブリケーターとして大規模工事で高い実績を誇る)
鐵建の前身、小山機械製作所は小山社長の父、英雄氏が1954年に高崎市で創業した。戦前から鉄工所で働いていた経験を生かして30歳を機に起業。当初は機械加工や製缶が主業務だったが、神武景気の好況を追い風に仕事は増えて業績も右肩上がり。1965年には法人化した。鉄骨加工を中心に業容も拡大して1974年には社名を「鐵建」に変更した。「鉄骨を使って建物を作る」(小山社長)という事業を2文字に表したが、“金を失う”「鉄」ではなく「鐵」にこだわったという。
同社の事業は鉄骨の柱や梁(はり)で建造物の骨組みを組み立てる作業が主体で、工場で必要な鉄骨加工や溶接、さび止め塗装などを行う。工場のことが誰よりもわかり現場に必要な設備投資も決断できる“工場上がりの社長”であることを強みに、小山社長は現場改革を断行した。当時の作業現場は整理整頓とは程遠く、狭いスペースにH形鋼などの材料が山積みされることも多々あり、まさに3K職場の典型だった。現場の安全確保が最重要課題と考えた。
5Sパトロール隊が年2回問題点をチェック 2010年にHグレードに昇格
小山社長は同業他社の工場を視察。新潟県のある工場で、作業の安全が徹底されていて整理整頓が行き届き、ゴミ一つないきれいな現場を見て衝撃を受けたという。2005年には現在の藤岡市に移転するとともに、工場を拡張し現場の作業環境の改善に取り組んだ。工場内は全面バリアフリー化し空気清浄も強化。1人当たりの作業スペースも広く確保して安全第一を徹底している。第3工場横のヤード(製品置き場)に屋根を設置したのも作業環境改善の一環だ。
根幹に据えたのが「5S活動」。整理、整頓、清掃、清潔、しつけの五つの業務改善指標だ。「きれいな工場、きれいな鉄骨をつくる基盤は5Sから」をモットーに、あいさつときれいな工場を目指した。小山社長は現場にも頻繁に顔を出して社員とのコミュニケーションを図っている。現在も5Sパトロール隊が工場や事務所、敷地を隅々まで見回り指摘事項を報告し、日々改善を続けている。
一方、生産効率を高めるため各種クレーンや切削機、溶接ロボット、表面処理装置などの設備投資も、時には銀行融資も受けて積極的に進めてきた。クレーンは3工場で63台設置。第2工場の1次加工機を刷新したほか、第1工場では溶接ロボットが9台稼働しているが、さらに増設する計画だ。
2024年に第3工場を建設しVPNを構築 勤怠管理もソフト導入で事務処理大幅効率化
5Sによる生産性向上も寄与して、県内の公共施設など大型受注も次第に増加。2010年には鉄骨製作工場の性能評価基準がこれまでのMグレードから、業界で10%しか認定されていないHグレードに昇格。県内有数の鉄骨専業ファブリケーターとしての評価を確立し、大型鉄骨の取り扱いや高度な加工が可能になった。近年は物流倉庫など大型物件の需要が大きく、5,000トン規模の大規模工事も手掛けている。
生産性向上と安全確保の追求も継続し、2010年6月には第2工場が竣工した。県の「ものづくり部門」優秀賞や「環境GS事業者」認定、「多文化共創カンパニー認証制度」認証、経済産業省の「地域未来牽引(けんいん)企業」や「はばたく中小企業300社2018」(中小企業庁)など優良企業として評価されている。
信頼性の高い仕事を支える従業員の健康にも気を遣っており、安全衛生管理委員会を中心に5S励行とも連動。事業部ごとに健康づくり担当者を置いて保健指導実施など全社的な健康管理体制を整備し、2017年以来「健康経営優良法人」に4回認定されている。
2016年には本社事務所を新設、2024年3月に第3工場が竣工した。いずれも鉄骨製造業とは思えないスマートな建物だ。技術職を含め2割近い女性従業員にとっても明るく働きやすい職場環境となっている。
本社と場所が離れた第3工場との間はVPN(仮想企業内ネットワーク)で高速通信網を構築した。光回線利用のインターネット環境の中に安全で高速データ伝送が可能なVPNを設定し、鉄骨構造図面など画像伝送にも活用している。インターネットの入口にはUTM(統合脅威管理)システムを設置してセキュリティー対策も万全だ。
職場が点在することになったため、従業員の勤怠管理システムも従来のタイムカードからICカードその後システムに段階を踏んで移行した。ICT対策委員会を経て現在はソリューション推進室でICT導入を担ってきた西山裕美室長は「手作業での就労データ収集を廃止できたため、事務所の作業効率が格段に上がった」と効果を説明する。
本社と工場とのスムーズな情報共有も課題だった。従来は電話をしたり工場や現場に出向いていた図面や連絡事項などのやりとりをグループウェア活用によって格段に効率化し、写真やデータの共有もリアルタイムで行えるようになった。
地域貢献を重視 システム開発や採用活動にも生かす グループウェア活用で業務連絡を効率化 資産管理・生産管理システムの実用化検討
当初はICT導入に慎重だった小山社長もコロナ禍を経てその活用効果に徐々に、理解を示している。最近では、特にSDGs推進の一環として、地域貢献や人材育成も重視している。
地元の工業高校に溶接技術を指導するなど若者の技術育成にも協力。中央情報大学校(高崎市)とはシステム開発で連携しており、学生が開発した弁当注文システムを導入。2025年2月には日報システムも実用化する。地元学生の開発技術向上を支援しながら社内システム改善を推進。地元学生の継続的な採用にも効果は大きく、新卒採用を毎年継続している。
西山室長は今後、グループウェアによる社内ポータルを業務連絡用に本格活用するほか、膨大な設備機器の点検管理などを効率化する資産管理システムや生産管理システムの導入も視野に、全社的な業務効率化に取り組んでいく計画だ。
現在、鐵建の工場見学者は年間200人前後に上る。「工場の従業員も“見られている”という意識が浸透して、積極的にきれいにするようになりました」と西山室長は“見られる効果”を説明する。
5Sの一層の深耕と生産効率追求のため、同社では2018年から半期に1回の業務改善報告を実施して優れた事例を表彰している。電動台車の鋼材転倒防止策や大型扇風機の設置改善策など、現場目線で安全と作業効率の向上に知恵を絞っている。
従業員の能力向上と還元で目標達成手当支給! 10年後の経営ビジョン売上高100億円、Sグレード視野に
企業理念は法令遵守を基に、未来を見つめ、鉄骨専業ファブリケーターとして、自らの能力を開花させ、崇高な汗を流して、社会に貢献し、永続的な成長を目指すこととしており、従業員の能力向上と還元にも力を入れている。
鉄骨の月間加工量は約1,000トンで、目標は1,250トンに設定している。「目標を超えたら、手当が出ます」と西山室長。生産効率、付加価値の2項目で算出し、社内外注も含めた全員に支給されるという。さらに11年連続で賞与が出ており、実質年3回のボーナスで従業員の頑張りに応えている。
70周年を機に、小山社長は10年後を見据えた経営ビジョンをまとめた。その骨子は①Hグレード上位に位置して知名度を向上②5Sで全国1位の工場と事務所③1万トンの大型物件を内製化する関東有数の生産力、などで、売上高は現在の2倍の100億円規模を目指す。さらに、建築分野の鉄骨加工業では現在8社しかないSグレードの認定も視野に入れている。顧客の信頼と従業員の満足度という揺るぎない2本柱で社会に貢献する鉄骨専業ファブリケーターとして存在感はさらに高まりそうだ。
企業概要
会社名 | 株式会社鐵建 |
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住所 | 群馬県藤岡市東平井1410-4 |
HP | https://www.tekken-k.com/ |
電話 | 0274-40-8040 |
設立 | 1954年2月 |
従業員数 | 95人 |
事業内容 | 鉄骨製造業 |