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三和運榮有限会社は浄化槽清掃業からスタートし、地方のライフラインを守る使命感を抱いて事業を拡大させてきた。鏑木敏男代表取締役は、浄化槽の清掃業務を基盤にしつつ、地域のニーズに応える形で水道工事へと事業を広げた。さらにICT化を推進し、チラシ配布というアナログ手法も取り入れるなど、デジタルとアナログを巧みに融合させた経営戦略が注目を集めている。(TOP写真:ノートパソコンに工事記録を入力する社員)
浄化槽管理から水道工事へ トイレットペーパーも配達 細やかな対応で高い評価を得る
1985年、群馬県大間々町(現みどり市)で創業された三和運榮。事業拡大の背景には、日本の社会インフラの変化がある。調剤薬局の総務部門などで働いていた鏑木社長は2004年、32歳の時に将来の後継者となるべく三和運榮で働き始めた。「まったくの畑違いの仕事で最初は戸惑った」(鏑木社長)。当時、全国的に下水道の普及が進み、浄化槽需要が減少することが予想されていた。しかし、地方では行政対応の遅れから浄化槽の需要が一定程度残る状況にあった。
こうした変化の中で三和運榮は、浄化槽清掃・管理に加え、水道工事の分野に乗り出した。「水道工事に進出する際、私は水道事業の会社に出向し、水道工事の現場などで約3年間の修業を積みました」と鏑木社長は語る。建設、不動産業界でネットワークが広がるにつれて、新築の戸建て・アパートの給排水設備工事や水回りリフォームといった仕事が増えていった。
リフォーム事業での価格競争は激しかったが、ユニットバスや洗面所の改修などの住宅リフォーム工事における地域住民の信頼を得ることに成功。顧客から「細やかな対応で安心感がある」と高い評価を得ていった。顧客の注文に応じて、トイレットペーパーの配達も行っている。「一つのロールの長さが市販製品と比べて3割ほど長いのが特長」(鏑木社長)。利益につながる事業ではないが、顧客とのつながりを持つ一手段としてのメリットは大きいといえる。
社長就任後に顧客情報のデジタル管理に着手、小型プリンターでプリントしてその場で手渡し
三和運榮の経営を支えるのが、デジタルとアナログの効率的な活用だ。2021年9月に社長に就任した鏑木社長が最初に着手したのが、顧客情報のデジタル管理だ。顧客に関する点検記録や修理履歴などの情報はこれまでA5判のカードに記載して管理していたが、鏑木社長は「お客さまの細かい情報が整理されておらず、その都度、担当者に直接話を聞いていた」と、使い勝手の悪さを感じていた。
そこで、2022年3月に浄化槽管理システムを導入し、顧客情報や作業履歴を一元管理することにした。このシステムでは、登録した顧客の浄化槽の情報から、定期点検や清掃が必要な訪問先を自動的に抽出し、作業内容ごとに一覧表を作成できる。社員は、現場で車の助手席に備え付けたノートパソコンに作業記録を入力し、小型プリンターで出力して顧客に手渡ししている。
また、保守点検、清掃の作業の際の注意事項もチェックできる。例えば「駐車場の下に浄化槽があるので、車の移動を管理者にお願いする」といった、現場で必要な情報も共有可能だ。これにより、社員が情報を瞬時に共有でき、担当者が変わってもスムーズな引き継ぎが可能になった。
アナログのチラシを自ら制作 水廻りのお困りごとの迅速な解決をアピール
もう一つは、チラシの作成・配布による営業活動の強化だ。鏑木社長はメインの浄化槽清掃・管理だけでなく、知名度が低かった水道工事についても知ってもらおうと考えた。「なるべく広告宣伝費はかけたくない」(鏑木社長)ため、自ら制作したチラシを浄化槽関係の顧客を中心に配布したのだ。チラシには、浄化槽設置工事、清掃・管理から、水漏れ修理からトイレ、キッチンの交換、ユニットバスの設置などの業務の紹介とともに、「水廻りのお困りごとなら 弊社まで」とアピールした。こうしたシンプルだが効果的な手法が、地域住民に「三和運榮なら安心」と感じさせる重要な要素となっている。
ハラスメントのない職場づくり 30代社員をリーダー役に何でも言える環境づくり
鏑木社長が就任以来、特に心掛けているのが、社員が働きやすい環境の整備だ。水道工事の現場では安全面の配慮から声を荒らげて注意する場面もあり、ハラスメントとられかねないこともある。鏑木社長は「社員に優しく接するだけでは企業の売上は上がらない。だからこそ、職場でのハラスメントをなくし、社員同士が自然にコミュニケーションを取れる環境を作ることが最も重要です」と語る。そこで意見を出しやすいよう、30代の社員をリーダー役として任命し、この社員に意見を集約させた。
鏑木社長は「この社員なら、話しづらいことも話してくれる。何かあれば、私がすぐに対応します」と話す。何でも言える環境づくりを進めた成果として、社内でのトラブルが減少し、65歳の定年後も働き続けたいという声が上がる職場環境が整った。
地域と共に歩む未来 自社ホームページで「水廻り」を通じて社会への貢献を誓う
三和運榮は、地域社会への貢献を重要視している。単にインフラを支えるだけでなく、地域住民との信頼関係を築くことを何よりも大切にしてきた。「水廻りの仕事を通じて、地域の暮らしを支える存在であり続けたい」と鏑木社長は語る。2023年8月には、自社のホームページを開設。この中で、鏑木社長は「ライフラインで最も大切な一つ…水。生活に不可欠な水の供給、排水による衛生面・環境面でのサポート、何より当社の仕事での、地域の皆様の満足度、地域社会の貢献度を念頭に置いて丁寧な作業と説明、迅速な対応を心掛け、一つ一つの積み重ねにより、信頼をされる企業であり続けたいと考えております。」と思いを語っている。
その象徴的なエピソードとして、ある顧客からの相談がある。水漏れ修理のため、社員が迅速に対応したところ、顧客から「こんなに早く来てくれるとは思わなかった」と感謝された。このようなきめ細かい対応が、長年地域に愛される企業としての地位を築いてきた。
三和運榮のICTとアナログ手法を組み合わせた経営戦略、そして顧客と社員を大切にする姿勢は、他の企業にとっても学ぶべきポイントが多い。これからも三和運榮が地域に根差した挑戦を続けていく。
企業概要
会社名 | 三和運榮有限会社 |
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本社 | 群馬県みどり市大間々町大間々35-7 |
HP | https://sanwaunei.jp/ |
電話 | 0277-73-6060 |
設立 | 1985年9月13日 |
従業員数 | 9人 |
事業内容 | 浄化槽維持管理・浄化槽清掃、パイプクリーニング・トイレットペーパー販売・配達、給排水配管工事・衛生設備工事・合併浄化槽設置工事、各種リフォーム工事 |