目次
- グループ体制で建設・運送関連の事業を展開 土木建設部門は重機、生コンなどの建設資材や運送を自社で有し、「小さなゼネコン」ともいわれる総合力が強み
- 同業者の声を聞き、3D施工データ変換システムと自動追尾型測量システムを導入。現場の測量作業が大きくスピードアップした
- 3D設計図がタブレット画面に表示され、自分が設計図上のどこに立っているかリアルタイムでわかる。位置出し作業が何倍もスピードアップ、丁張設置がぐんと楽に
- 自動追尾型測量システムは工事期間中ずっと断続的に活用、出来形管理も楽にできた 「もう手放せない」という便利さだ
- 「近い将来、3D設計図で発注されるようになるかもしれない」 ICT化への時代の動きを実感、現場代理人全員が使えるようにしたい
- 本社玄関脇に二宮金次郎像が立つ理由。堅実さを尊ぶ「報徳仕法」の思想は会社理念・社是に通じる
香川県の小豆島は、瀬戸内海で2番目の広さを有し、醤油、そうめん、オリーブなどの地場産業を育んできた。この大いなる離島で地場産品の運送や河川・道路・ダムなどの土木建設事業を中心に展開してきた株式会社木村は、地域との結びつきを大切にしながら「身の丈に合った」経営を目指している。経営理念は「勤・倹・譲」だ。(TOP写真:中筋上川の砂防ダム建設現場。自動追尾型測量システムで出来形管理をしている)
グループ体制で建設・運送関連の事業を展開 土木建設部門は重機、生コンなどの建設資材や運送を自社で有し、「小さなゼネコン」ともいわれる総合力が強み
「我が社は牛車による運搬から始まっています」と木村一利代表取締役が話す。1937年、一利社長の祖父、金十郎さんが牛車にさまざまな小荷物を積んで小豆島の土庄(とのしょう)と内海(うちのみ)の間を1日1往復して運んだのだという。その後、1953年に会社を設立。創業以来90年近く、陸上貨物運送業を柱に事業を拡大、現在は生コンクリート製造販売事業を木村生コン株式会社、運送、土木、重機などを株式会社木村で担い、統括管理を木村運輸株式会社で行うというグループ体制となっている。
一利社長が入社したのは1973年。父、利市社長(当時)に「経営を立て直すため手伝え」と呼ばれた。運送業で土木資材を運ぶうち、重機を購入して重機工事の請負を始めたり、生コン製造販売に力を入れ出したころで、一利社長は新しい生コン部門を中心に活動した。
一利社長は2002年に社長に就任し一時体調不良で6年間休職、その間妻の兄の藪脇元嘉氏を社長に招請し、土木建設部門が運送部門と並ぶ2本柱に成長した。一利社長は、社長復帰後も業容拡大に努め、現在は木村グループとして、小豆島名産の醤油、佃煮を中心に運ぶ運送と、道路、河川、砂防ダムなどの公共事業をメインとする土木建設、生コンクリート製造販売を事業の3本柱に、産業廃棄物の運搬事業や解体工事なども行っている。
「運送、重機、生コンクリートなどの事業をやっていることで、土木建設事業では資材調達から運送まで総合的に動かすことができる。小さなゼネコンのようなもので、小回りが利いて自社で完結できるので災害にも強いといわれます」。取締役土木部長の髙橋秀明さんは、木村の強みをこう話した。
同業者の声を聞き、3D施工データ変換システムと自動追尾型測量システムを導入。現場の測量作業が大きくスピードアップした
ICTとのかかわりは、土木建設事業が中心だ。「同業者と話していたら自動追尾型測量システムのことがよく話題になるようになった。それも、『測量作業が一人で簡単にできてすごくいい』という声ばかり。補助金も出るし、導入してみようということになったのです」と髙橋土木部長。2022年秋に導入し、現在2人の技術者が中心となって使っている。
役所から提供される設計図は平面図、縦断図、横断図などの2次元のCADデータだ。それを3D施工データ変換システムに読み込み、ソフトの指示に従って構造物の中心線の主要ポイントや高さや角度などが変わる変化点などを確定していけば構造物を立体的にリアルに描いた3D設計図となる。従来のように2次元の図面を照らし合わせて測量ポイントをひとつずつ計算する必要がなくなった。
次は実際に現場の地形をその設計図に合わせてどう掘削していくか、現地の地形の上に設計図を落とし込む作業になる。その時に活躍するのが自動追尾型測量システムだ。「設計図を実際の現場に〝下書き〟する位置出し作業は従来2~3人で行っていたのですが、それが1人でできるようになりました」(高橋土木部長)
3D設計図がタブレット画面に表示され、自分が設計図上のどこに立っているかリアルタイムでわかる。位置出し作業が何倍もスピードアップ、丁張設置がぐんと楽に
木村では従来、掘削を始める位置などを決める位置出し作業は角度と距離を計測できる測量機器を使っていた。あらかじめ2次元設計図をもとに掘削を始める位置を計算しておき、現場ではこの測量機器で二つの基準点を認識させたうえ、1人が視準し、別の1人がプリズムを取り付けたピンポールを持って設計図にある構造物の1点に立つ。それによって角度何度、何メートルの位置にそのポイントがくるか測る。高さは別のレベルと呼ばれる測量機器で測っていた。
「位置を計算した技術者が角度と距離を計測できる測量機器で視準し、ピンポールを持った作業員に右に5センチ寄れ、などと指示していた。角度と距離を計測できる測量機器とレベルの2段階の測量作業が必要だった」と、髙橋土木部長が説明する。
これに対し、新たに導入した自動追尾型測量システムは測量機器とICT施工現場端末アプリが無線通信で連動していて、測量機器がアプリを読み込んだタブレットを自動追尾する。タブレットには3D設計図が映し出されていて、ピンポールを持って立つとその場所が設計図の上に赤いポイントで示され、立っている場所がリアルタイムで正確にわかる。
自動追尾型測量システムは工事期間中ずっと断続的に活用、出来形管理も楽にできた 「もう手放せない」という便利さだ
「現場作業が終わったあとに事務所で次の測量のための計算をする必要もなくなったし、現場監督の負担がかなり減りました。使い出したらもう手放せない感じですね」と髙橋土木部長は話す。
木村は現在、中筋上川の砂防ダム(小豆島町)を建設中で、その現場代理人を務める平林克隆さんがこのシステムを活用している。「ダムの正確な位置や高さを示すため丁張(ちょうはり)をかける作業や、構造物の基礎をつくるための床掘(とこぼり)作業が大幅に楽になりました」と話す。測量にかかる時間は、従来は構造物をつくる基準となるポイント1ヶ所を測量するのに3~4分かかっていたのが20~30秒でできてしまうという。そんな測量ポイントがちょっとした工事でも数百にものぼる。
測量は工事区画ごとに行うため、自動追尾型測量システムの出番は断続的に工事の期間中ずっと必要となる。従来2人必要だった測量が1人でできるため1人は別の作業に回れ、工事全体の作業のスピードアップにも貢献しているという。工事を進める中では変化点以外で「ここの位置を出してくれ」と作業員に求められることもあり、従来は改めて計算して測るため30分程度作業を中断して待ってもらうこともあったが、今は簡単に位置出しが出来るようになった。
「勾配についてもリアルタイムで測量でき、正確で迅速に作業を進めることができる。測量は工事全体からみれば作業時間は多くないが、工事の基礎といえ、ここが狂ったらすべてがアウト。その意味で正確かつスピーディーにできる自動追尾型測量システムはありがたい」(髙橋土木部長)
工事完成後の発注元による検査では、出来上がった構造物に測点をマーキングしておかなければならないが、これも新システムを使えば簡単で、平林さんは「出来形管理もしやすくなりました」という。
「近い将来、3D設計図で発注されるようになるかもしれない」 ICT化への時代の動きを実感、現場代理人全員が使えるようにしたい
「こんな文書がネットで見つかりました」と、髙橋土木部長が見せてくれたのは香川県の建設業務委託の入札書類。それによると設計図を3D形式で提出することになっている。「書類ではモデル事業となっているが、この5年ほどで急速に3D設計図のことが取りざたされるようになってきていて、近い将来、県の提供する設計図も3Dになりそうです」と髙橋土木部長は話し、こうした新しい時代の足音に「会社の体制として変化に備えていく必要がある」との思いを強くしている。
木村には、CADを使える技術者は4人いるが、新システムを使えるのは2人で、他の2人は「今使っている測量機が使いやすい」と、やや敬遠気味とか。「残りの2人もこの新システムを使えるようにするのが当面の課題ですね」と髙橋土木部長が話した。
本社玄関脇に二宮金次郎像が立つ理由。堅実さを尊ぶ「報徳仕法」の思想は会社理念・社是に通じる
木村の本社を訪れると、玄関脇にある二宮金次郎(尊徳)の銅像が目につく。この像は藪脇さんが設置したという。「勤・倹・譲」という経営理念と「地域・信用・勤勉」という社是を定めたのも藪脇さんだ。
二宮金次郎は江戸時代後期に現在の小田原市で百姓の長男として生まれた。5歳の時、川の氾濫(はんらん)で自作していた田畑や家が流失。金次郎は12歳ごろから工事の夫役や田畑の耕作、わらじ作りなどで一家を支え、夜は自らアブラナを育てて得た菜種油を燈油として学問に励んだ。成人後は農業経営や財政運営に才を発揮し、飢饉で荒廃した農村の再興、小田原藩の財政改革など多くの事業を成し遂げた。金次郎の基本となる思想は「分に応じた生活を守り(分度)、余剰分を拡大再生産にあてる(推譲)」という「報徳仕法」だった。
「二宮金次郎という人物は知るほどに魅力を感じます。会社理念・社是は小豆島という一地域で事業を行っている我が社のあるべき姿です」。一利社長は二宮金次郎の像を見ながらこう話した。
高齢化、人口減少という時代の流れの中で、事業環境は必ずしも明るいわけではないが、「地域」とのかかわり方を変えるつもりはない、と一利社長は話す。「『分』を守りながら身の丈に合った持続的経営ができる道を探っていく」という。省力化、スピードアップを得意とするICT技術もその道筋への貢献が期待されている。
企業概要
会社名 | 株式会社木村 |
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住所 | 香川県小豆郡小豆島町安田甲226-2 |
HP | http://www.k-kimura.jp |
電話 | 0879-82-0596 |
設立 | 1953年(創業1937年) |
従業員数 | 28人 |
事業内容 | 陸上貨物運送、土木建設、産業廃棄物収集運搬、生コンクリート製造販売(関連会社) |