会計や税務に携わる経営者ならば欠損金という用語を耳にしたことがあるだろう。しかし、役立てる方法までは意外と知られていない。そこで今回は、欠損金の意味について簡単に解説する。節税対策のために欠損金に関連する繰越控除にも触れているので参考にしてほしい。
目次
欠損金を理解するための事前知識
欠損金の意味を理解するために財務会計と税務会計の違いを知る必要がある。
事前知識1.財務会計と税務会計の違い
財務会計は、自社の経営状態や財務状況を株主や債権者といった利害関係者に伝えるための会計である。財務会計では、会計基準や会社法、金融商品取引法などにもとづいて財務諸表を作成しなければならない。
具体的には、会社の資産と負債の状況を表す貸借対照表、収益と費用の発生状況を表す損益計算書、会社内外におけるお金の動きを表すキャッシュフロー計算書などだ。
一方で税務会計とは、企業に課税される税金を算出するための会計である。利害関係者に経営状況などを伝える財務会計とは異なり、税務会計は法人税などの税金を正確に納税することが目的だ。
会計分野で考えると、税務会計は財務会計の一部とされるのが一般的である。しかし、税務会計と財務会計は、収益や費用を求める方法が異なるため、実務では区別すると良いだろう。
事前知識2.税務会計における益金と損金
財務会計と税務会計には収益や費用を求める方法に大きな違いがある。
まず財務会計では、事業活動などによる売り上げを収益、事業活動で収益を得るために費やした支出を費用、収益から費用を差し引いた部分を利益と呼ぶ。つまり、財務会計においては「利益=収益-費用」という式が成り立つ。
一方税務会計では、事業活動などによる収入を益金、事業活動で収入を得るための支出を損金、益金から損金を差し引いた金額を所得と呼ぶ。つまり、税務会計においては「所得=益金-損金」という式が成り立つ。したがって、利益は所得、収益は益金、費用は損金に該当する。
しかし、ここで注意すべきなのが、収益と益金などが必ずしも同額にならない点だ。例えば配当を受け取るとき、財務会計では収益になるのに、税務会計では益金(収入)とはならない場合(益金不算入)がある。
また、企業の保有資産に評価損が生じた場合、財務会計では費用として計上できる一方で、税務会計では損金(支出)として計上できないケース(損金不算入)も少なくない。そのほか、益金不算入と損金不算入の例を以下に示すので押さえておこう。
益金不算入:税金還付
損金不算入:法人税、交際費など
上記の項目が財務諸表や帳簿に記載されている場合は、確定申告で益金や損金を算出する際に注意したい。
欠損金とは?
ここからは欠損金の意味を解説する。財務会計と税務会計の違いを理解していれば欠損金の意味を容易に理解できるだろう。
欠損金の意味
法人税法第2条19では、欠損金を「各事業年度の所得金額の計算上、当該事業年度の損金が当該事業年度の益金を超える場合における、その超える部分」であると定義されている。つまり、欠損金とは税法上の赤字であり「益金-損金」の計算結果がマイナスとなった場合の金額を意味する。
欠損金の意味をさらに理解しやすいよう簡単な例題を下記に挙げる。
例題1)
益金:3,500万円
損金:3,200万円
上記例題の場合、益金3,500万円から損金3,200万円を差し引くとプラス300万円となる。そのため、このケースでは欠損金は発生していない。
例題2)
益金:3,000万円
損金:3,200万円
このケースでは、益金(3,000万円)から損金(3,200万円)を差し引くとマイナス200万円となる。したがって、200万円の欠損金が発生したことになる。
欠損金と会計上の赤字の関係
会計上は利益や費用として計上できても、税法上は益金や損金として計上できない場合もある。そのため、欠損金と会計上の赤字金額は必ずしも一致するとは限らない。
例えば、損金不算入の項目が100万円あると、会計上の赤字金額よりも欠損金の赤字金額のほうが100万円少なくなる。
そのため、確定申告の際には、会計上の赤字をそのまま計上せずに、税法にもとづいて再度損益を計算する。
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欠損金の繰越控除(繰越欠損金)とは
税務上の赤字である欠損金をめぐっては、繰越控除という制度が設けられている。この繰越控除の仕組みを有効活用すれば節税効果が期待できるだろう。
法人の経営者であれば繰越控除(繰越欠損金)の知識は不可欠だ。早速、繰越控除や繰越欠損金について詳しく説明する。
繰越控除(繰越欠損金)の意味・仕組み
欠損金の繰越控除とは、ある事業年度に発生した欠損金を一定年度にわたって繰り越して、税法上の黒字と相殺できる制度である。つまり、過去の欠損金によって当期や来期の黒字を減らしたり、ゼロにしたりできる。
ちなみに、繰越控除によって繰り越した欠損金は、文字通り繰越欠損金と呼ぶ。例えば、販売不振により当期に500万円の欠損金を出したとしよう。
繰越控除を活用すれば、500万円を翌期以降に繰り越せる。次年度に300万円の黒字が出た場合、500万円のうち300万円の繰越欠損金によって、その年度の黒字をゼロにできる。
このケースでは、200万円の繰越欠損金が残っているため、この金額も来期以降に持ち越せる。つまり、一定期間、欠損金の金額が尽きるまで税法上の黒字を相殺できる。
欠損金を繰り越すメリット
欠損金を繰り越すメリットは、法人税の負担を軽減できる点だ。法人税は、益金から損金を差し引いた課税所得に法人税率を掛けることで算出される。
当期に黒字が出たとしても前期以前の繰越欠損金を差し引けるため、課税所得とともに法人税を減らせる。
繰越欠損金の利用条件や限度額、期限
繰越欠損金には、利用条件や限度額、利用期限があるため、無制限に使えるわけではない。最低限遵守すべき利用条件や限度額、期限をご紹介しよう。
繰越欠損金の利用条件
繰越欠損金を利用するには、欠損金が生じた事業年度において青色申告の形式で確定申告を行い、その後の各事業年度も確定申告を継続しなければならない。
例えば、欠損金が生じた年度に白色申告をしていた場合、翌年以降に欠損金を繰り越せないので注意が必要だ。一方で、欠損金が生じた年度に青色申告を行っていれば、その後の年度で白色申告を行っても繰越欠損金を利用できる。
つまり、欠損金が生じた年度と次年度に確定申告をすれば基本的に問題ない。
そもそも営利法人は確定申告の必要がある。加えて、節税が期待できる青色申告をしない選択肢は考えられない。実際、ほとんどの法人で繰越欠損金の制度を問題なく利用できるだろう。
繰越欠損金の利用限度額
繰越欠損金の利用限度額は、中小法人等と非中小法人(中小法人等以外)で異なる点に注意したい。そこでまずは、中小法人等の定義について確認しておく。国税庁によると中小法人等とは下記の条件に該当する法人である。
・普通法人である(投資法人、特定目的会社および受託法人を除く)
・資本金または出資金の額が1億円以下(100%子法人等を除く)
・公益法人等、協同組合等、人格のない社団等である
上記の要件に該当する中小法人等は、課税所得の額を限度として全額繰越欠損金を利用できる。例えば、400万円の課税所得がある場合は、400万円分だけ繰越欠損金で相殺可能だ。
一方で中小法人等に該当しない場合は、繰越欠損金の利用金額に限度が設定されている。非中小法人における繰越欠損金の利用限度額は、繰越控除する事業年度について繰越控除前の所得金額にそれぞれの率を乗じた金額となる。
・2012年4月1日~2015年3月31日開始事業年度→80%
・2015年4月1日~2016年3月31日開始事業年度→65%
・2016年4月1日~2017年3月31日開始事業年度→60%
・2017年4月1日~2018年3月31日開始事業年度→55%
・2018年4月1日~開始事業年度→50%
このように利用できる繰越欠損金の限度額は事業年度によって異なる。また、年々限度額の割合は減少傾向なのが特徴だ。
今後の法改正でさらに減額される可能性もあるため、実際に繰越欠損金を利用する際には必ず国税庁のホームページを確認しておこう。
繰越欠損金の繰越期限
国税庁は欠損金に繰越期限を定めている。ただし、度重なる法改正により欠損金が発生した年度によって繰越できる年数が異なる点には注意しておこう。
まず、2018年4月1日以後に開始する各事業年度に生じた欠損金は、最大10年間繰り越せる。ただし、2008年度から2017年度に開始された事業年度に生じた欠損金は、繰越の期限が9年間だ。以上をまとめると欠損金の繰越期限は下記の通りである。
・2018年度以降→10年間
・2008~2017年度→9年間
繰越欠損金における損金算入の順序
はじめて繰越欠損金を利用する際に悩みがちなのが損金算入の順序といえよう。複数年にわたって繰越欠損金が発生している場合、当期はどの年度から損金算入すれば良いのだろうか。
結論として、最も古い繰越欠損金から順番に損金に算入する決まりだ。例えば、2年前に300万円、1年前に200万円の繰越欠損金が生じている場合、まずは2年前の300万円の繰越欠損金から損金に算入する。
2年前の繰越欠損金がなくなってから1年前の繰越欠損金を損金算入できる。一見すると悩む部分ではあるが、一度慣れてしまえば簡単なのでぜひ覚えておきたい。
参考:青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除 国税庁
確定申告における欠損金の税務手続き(必要書類)
欠損金を活用するには、確定申告で所定の税務手続きを行わなくてはならない。ここでは、確定申告で必要となる欠損金に関する書類と具体的な記載方法を紹介する。
欠損金に関する計上や必要書類は、当期に欠損金が発生した場合と前期以前の繰越欠損金を利用する場合でそれぞれに異なる。各ケースで必要となる書類と記載内容を説明する。
ケース1.当期に欠損金が発生した場合
当期に発生した欠損金を計上するには、「別表7(1)」と「別表1」が必要だ。
「別表7(1)」とは、欠損金または災害損失金の損金算入に関する明細書である。この書類は、欠損金や災害損失金が発生した場合に、対象金額を適切に計上する目的で作成する。当期に欠損金が発生したら、「別表7(1)」に繰り越す欠損金の金額を適切に記載しなくてはならない。
「別表1」とは、各事業年度の所得にかかる申告書である。この書類は、法人税の納税額を算出するために必要だ。当期に欠損金が発生した場合は、「別表7(1)」を参考にして欠損金の繰越金額を記載する。
ケース2.前期以前の繰越欠損金を利用する場合
前期以前に発生した繰越欠損金を利用する場合は、「別表7(1)」と「別表1」、「別表4」が必要だ。まず、「別表7(1)」には当期の所得から控除する繰越欠損金の金額を記載する。次に「別表1」にも当期所得から控除する繰越欠損金について記載する。
当期に欠損金が生じた場合と異なるのが、「別表4」の提出も必要となる点だ。
別表4とは、益金と損金をもとに所得金額を計算するための書類である。繰越欠損金を利用する場合は、繰越欠損金を控除することを明示しなくてはならない。
参考:平成31年4月から令和2年3月の間に提供した法人税等各種別表関係(令和元年10月1日前に開始した事業年度等又は連結事業年度等分) 国税庁
欠損金は会計上の赤字と異なる
税法上の赤字である欠損金は、会計上の赤字とは一見似ているが違う。会計と税務では収益(益金)と費用(損金)の計上に関するルールが若干異なるため、欠損金と会計上の赤字が一致しないケースは多々あるので注意してほしい。
そもそも法人税は、税法上の所得が黒字である場合に課税される。そのため、赤字により欠損金が発生している企業には、原則法人税は課税されない。
法人税を算定する際には、会計上の利益ではなく税法上の所得を基準にする点は、最低限知っておくべきだろう。また、法人税の負担を軽減する欠損金の繰越控除という制度も見落とせない。
この制度により、前年度以前の繰越欠損金を利用することで、当期の課税所得を減らせる。節税対策を重視するならば繰越欠損金は最大限活用すべきだろう。
ただし、繰越欠損金の利用に際しては、利用限度額や繰越の期限などに注意したい。そのほか、確定申告の書類に記載すべき事項が増えるため、あらかじめ確認しておくことが望ましい。
欠損金に関するQ&A
Q1.そもそも欠損金とはどういう意味?
A.欠損金とは、簡単にいうと赤字のことである。ただしひとことで赤字といっても個人事業主と法人では、意味合いが異なる。個人事業主の場合は、収入から必要経費を差し引いたものが赤字、つまり欠損金だ。例えば売上高300万円、必要経費500万円の場合は、赤字額の200万円が欠損金となる。しかし法人の場合は、会計上の収入や経費と税務の益金や損金には違いがある。
法人税法第2条19では、欠損金を以下のように定義している。
各事業年度の所得金額の計算上、当該事業年度の損金が当該事業年度の益金を超える場合における、その超える部分
出典:e-Gov
つまり欠損金とは、税法上の赤字のことであり「益金-損金」の計算結果がマイナスとなった場合の金額を意味するのだ。法人の場合、例えば売上高300万円、必要経費500万円でも税務調整後、益金が350万円、損金が400万円となるケースでは、欠損金の金額は次のようになる。
・益金350万円-損金400万円=△50万円
このように法人では、欠損金の金額を計算する際に注意が必要だ。
Q2.欠損金の読み方は?
A.欠損金の読み方は「けっそんきん」である。欠損(欠損)とは、物が欠けて損害が出ることをいうが、会計上や税務上では損失や赤字のことをいう。つまり欠損金とは、損失や赤字の金額のことだ。厳密にいうと欠損金とは、所得金額がマイナスということである。欠損金は、個人事業主と法人で性格が異なる。
なぜなら個人事業主と法人では、所得金額の考え方が異なるからだ。個人事業主では、売上高などの収入から必要経費を差し引いた金額がそのまま所得金額となる。一方、法人の場合は、税金の計算時に売上高などの収入や経費に調整が入る。会計上の収入金額に税務上、収入になるものを加算し収入にならないものを減算したものが「益金」だ。
経費についても税務上、経費になるものを加算し経費にならないものを減算したものが「損金」となる。この益金から損金を差し引いた金額が所得金額だ。欠損金は、所得金額が赤字であることを指すが個人事業主と法人では、所得金額の求め方が異なるため、注意したい。
Q3.欠損金はなぜ発生する?
A.欠損金とは、所得金額がマイナスであることを意味する。簡単にいうと収入よりも経費のほうが多ければ所得金額はマイナスだ。欠損金の発生には、その年のキャッシュのマイナスを伴うケースとその年のキャッシュのマイナスを伴わないケースがある。
・その年のキャッシュのマイナスを伴うケース
簡単にいうと経営不振だ。開業初年度などでまだ売上が伸びていない場合や単純に売上よりも出費が多くなり経営不振になっている場合に欠損金が生じる。この場合は、開業前から用意していたキャッシュや前年までに蓄えていたキャッシュ、金融機関の借り入れなどでキャッシュのマイナスを補充することが必要だ。
・その年のキャッシュのマイナスを伴わないケース
減価償却費のようにキャッシュの支出を伴わない経費が多い場合だ。このケースでは、欠損金が発生してもキャッシュは手もとに残っているため、経営に問題はないといえる。
Q4.欠損金と繰越欠損金の違いは?
A.欠損金と繰越欠損金の違いは、翌年(翌期)以降に繰り越す欠損金かどうかという点にある。欠損金は、個人事業主なら「収入-必要経費」、法人なら「益金-損金」で求めた所得金額がマイナスの状況であることを表す。実は、欠損金はすべてを翌年以降に繰り越すことができるわけではない。例えば白色申告の欠損金は、特別なものを除き繰り越せないなど繰り越しできない欠損金もある。
また制度上、翌年以降に繰り越すことができる欠損金を繰り越さないこともできる。つまり欠損金のうち翌年(翌期)以降に繰り越す欠損金のことを繰越欠損金と呼ぶ。翌年以降の所得金額が黒字の場合、繰越欠損金があればその黒字と繰越欠損金を相殺できるため、翌年以降に支払う税金を圧縮できる効果がある。ただし繰り越しできる年数は、個人・法人で異なるため注意が必要だ。
Q5.欠損金の繰り越しはいつまでできる?
A.欠損金の繰り越しがいつまでできるのかは、個人事業主と法人で異なる。個人事業主の場合は、原則翌年以降3年間に欠損金を繰り越すことが可能だ。一方、法人の場合は、たび重なる法改正により欠損金が発生した年度によって繰り越しできる年数が異なる。2018年4月1日以後に開始する各事業年度に生じた欠損金は、最大10年間繰り越せる。
ただし2008~2017年度に開始された事業年度に生じた欠損金は、繰越期限が9年間だ。以上をまとめると欠損金の繰越期限は下記の通りである。
・2018年度以降→10年間
・2008~2017年度→9年間
また法人の場合には、繰越欠損金の利用限度額に制限がつく場合もあるため、注意が必要だ。
Q6.繰越欠損金は翌年以降どうなる?
A.繰越欠損金は、翌年以降の所得金額が黒字の場合に相殺できる。例えば今年の欠損金が300万円だった場合で見てみよう。
・翌年の所得金額が400万円の場合
翌年の所得金額が400万円の場合、税金の対象となる所得金額は、次のようになる。
→所得金額400万円-繰越欠損金300万円=所得金額100万円
繰越欠損金がなければ所得400万円に対して税金が課されていたため、大幅に税金が圧縮できる。
・翌年の所得金額が100万円の場合
翌年の所得金額が100万円の場合は、次のようになる。
→所得金額100万円-繰越欠損金300万円=所得金額△200万円
この場合では、翌年の所得金額の黒字と相殺してもまだ繰越欠損金が200万円残るため、残額の200万円は、さらに翌年に繰り越されることになる。
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