小規模企業共済
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鈴木 まゆ子
鈴木 まゆ子(すずき・まゆこ)
税理士・税務ライター。税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU online」「マネーの達人」「朝日新聞『相続会議』」などWEBで税務・会計・お金に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著)」。

人生100年時代を迎え、国民が老後生活に不安を抱く状況になった。特に個人事業主や小規模企業の経営者は保障が少ないため、老後不安は誰よりも大きい。今回はその不安を軽減すべく、経営者向けの退職金制度と呼べる小規模企業共済制度についてお伝えする。

目次

  1. 経営者の老後は心もとない
  2. 小規模企業共済とは?
    1. 小規模企業共済の制度概要
    2. 小規模企業共済の加入対象者
    3. 小規模企業共済の加入方法
    4. 小規模企業共済の掛金の仕組み
    5. 小規模企業共済の解約手続き
    6. 小規模企業共済の共済金を受け取るタイミング
    7. 小規模企業共済の共済金を受け取る方法
    8. 小規模企業共済の共済金にともなう税金
  3. 小規模企業共済のメリット
    1. メリット1.掛金が所得控除の対象
    2. メリット2.共済金受取時も節税できる
    3. メリット3.貸付制度を利用可能
    4. メリット4.内縁の妻に財産を遺せる
  4. 小規模企業共済のデメリット
    1. デメリット1.経営者個人の口座から引落
    2. デメリット2.元本割れや掛け捨てのリスクがある
    3. デメリット3.事業規模が大きくなってからでは加入できない
  5. 小規模企業共済と類似制度の比較
    1. 制度1.国民年金・厚生年金
    2. 制度2.iDeCo
    3. 制度3.生命保険

経営者の老後は心もとない

昨年夏、金融庁が明らかにしたレポートから「老後資金2,000万円問題」が話題となった。年金など社会保障給付だけでは60代以降の生活費が足りず、老後30年間を過ごすために2,000万円必要だという。

自分はそこまで長生きしないと思いたいところだが、2017年時点で男女ともに平均寿命が80代となった。今後平均寿命がさらに延びるとすれば、老後問題は他人事ではない。

さらに昨年秋、「中小企業の2025年問題」も注目された。2025年になれば中小企業の経営者の約半分が70代になり、引退や廃業によって日本経済の先行きが暗くなるという内容だ。

観点を変えると、高齢の経営者が事業から退くと同時に収入が途絶えるという見方もできる。

公的年金以外に手当があれば別だが、経営者に限って老後保障は心もとない。また、退職金制度に代わる制度を準備できる小規模事業者も少ない。

つまり、老後生活の問題は、小規模事業を営む経営者に重くのしかかっている。そこで知っておきたい不安を和らげる制度が小規模企業共済だ。

小規模企業共済とは?

小規模企業共済制度は一般的に経営者に向けた退職金制度だといわれる。その理由を知るために制度全体を見ていこう。

小規模企業共済の制度概要

小規模企業共済制度は、小規模企業の経営者や個人事業主が廃業や退職に備える共済制度をさす。

あらかじめ掛金で資金を積み立て、廃業や退職などの機会に解約する。共済金を受け取ることで生活を安定させたり、事業を立て直したりできる。

小規模企業共済の加入対象者

個人あるいは中小企業の役員として営利目的事業を営む人に限られるのだが、従業員数の要件を満たさなければならない。

業種によって常時使用する従業員の人数が異なるので注意したい。なお、副業で営む事業や外国法人は対象外となる。

1.建設業、製造業、運輸業、サービス業(宿泊業・娯楽業含む)、不動産業、農業など:常時使用する従業員が20人以下
2.卸売業・小売業、サービス業(宿泊業・娯楽業以外):常時使用する従業員が5人以下
3.企業組合・協業組合:常時使用する従業員が20人以下
4.農業経営を主として行っている農事組合法人:常時使用する従業員が20人以下
5.弁護士法人などの士業法人:常時使用する従業員が5人以下

1と2の場合、個人事業主1人につき共同経営者2人までが小規模企業共済に加入できる。また、常時使用する従業員には経営者の家族と共同経営者は含まない。

小規模企業共済の加入方法

小規模企業共済に加入するためには、以下の順に加入手続きを行わなくてはならない。

ステップ1.証明書類の準備

加入者が経営者であることを証する書類を用意しなくてはならない。必要な書類は立場に応じて異なる。

【法人の役員】

法人の履歴事項全部証明書(商業・法人登記簿謄本)が必要だ。ただし、交付後3か月以内の原本に限る。

【個人事業主】

最新の確定申告書の控えが必要だ。ただし、開業したばかりで確定申告書がない場合は開業届を用意する。

なお、いずれの書類についても税務署の収受印が押されたものに限る。e-taxで提出した場合は、収受印の代わりに「メール詳細」の添付が必要だ。

【共同経営者】

経営の主体である個人事業主の確定申告書の控え、個人事業主と共同経営者の間で締結した共同経営契約書の写しが必要だ。事業に出資・融資している場合はその契約書を代用できる。

そのほか、報酬の支払事実が確認できる書類も準備しなければならない。具体的には、青色申告決算書や白色決算書、賃金台帳、社会保険の標準報酬月額通知書などだ。

ステップ2.中小機構の加入に必要な書類の準備

小規模企業共済の申し込みと掛金引落に必要な書類も用意しなければならない。具体的な書類は下記の2つである。

・契約申込書
・預金口座振替申出書

共同経営者については、個人事業主が既に加入している場合、契約者番号を契約申込書に記載しなくてはならない。

なお、各書類は中小機構で様式が決められている。郵送あるいはオンラインで取得可能だ。

中小機構の資料請求サイト

小規模企業共済の掛金の仕組み

小規模企業共済の掛金の仕組みは下記のとおりだ。

仕組み1.掛金の払込

掛金の月額は1,000円から7万円までの範囲内で500円ごとに設定できる。つまり、ひと月あたりの掛金を2,000円や2,500円、6万500円にすることも可能だ。

なお、掛金は、個人預金口座から振替の払込みに対応している。振替日は毎月18日で、18日が休日・祝日の場合は翌営業日になる。

なお納付は月払いだけでなく、年払い・半年払いも選択可能だ。ただし、月払いを選択しても、初回の振替では2~3か月まとめて振替される。

仕組み2.掛金の変更

掛金は500円単位で変更できる。ただし、掛金の範囲は変わらず1,000円から7万円だ。つまり、6万9,500円に500円足して7万円にできるが、1,000円足して7万500円にすることはできない。

なお、増額の場合、掛金は基本的に申し込みをした月の翌々月から支払う。減額の場合も請求月に変更が生じるので注意しておきたい。

仕組み3.前納も可能

掛金の払込は前納にも対応している。具体的には、月払いの人が1年分を、半年払いや年払いの人が余計に半年分や1年分を払える。

前納するとごく僅かだが、掛金額が0.09%割引される。

小規模企業共済の解約手続き

事情によっては途中で解約する契約者もいる。任意解約の場合、それまで支払った掛金に応じて解約手当金を受け取れる。通常、受取額は掛金の80%から120%だ。

ただ、掛金の納付月数が240ヶ月(20年)未満だと、掛金総額よりも解約手当金の金額が低くなる。さらに、1年未満で解約した場合には解約手当金は全く受け取れないので注意したい。

なお、解約手当金を受け取ると所得税がかかるが、解約時に契約者が65歳以上だと退職所得、65歳未満だと一時所得としての扱いになる。

小規模企業共済の共済金を受け取るタイミング

契約者が65歳以上になったり、自身の事業を廃業したりした場合に共済金を受け取る。おおよそのタイミングは下記のとおりだ。

【個人事業主】

・個人事業の廃業
・契約者本人の死亡
・65歳以上で180ヶ月以上掛金を払い込んだとき

【法人の役員】

・法人の解散
・病気や怪我で退任
・65歳以上で退任
・契約者本人の死亡
・65歳以上で180ヶ月以上掛金を払い込んだとき

【共同経営者】

・個人事業主の廃業にともなう共同経営者からの退任
・病気や怪我による共同経営者からの退任
・契約者本人の死亡
・65歳以上になり、かつ180月以上掛金を払い込んだとき

ただし、加入月数が半年未満だと、上記のタイミングでも共済金を受け取れないので注意したい。

小規模企業共済の共済金を受け取る方法

共済金の受け取り方には「一括受取り」、「分割受取り」、「一括受取りと分割受取りの併用」の3種類がある。ただし、共済金のすべてまたは一部を分割受取りにする場合は、以下の条件を満たさなければならない。

・共済金Aと共済金Bのいずれかであること
・共済金の受取事由が死亡でないこと
・請求する事由が発生した時点で60歳以上であること
・共済金の額が300万円以上であること

小規模企業共済の共済金にともなう税金

共済金には税金がかかる。税金の種類は、その受取方法や受取事由によって異なる。

ケース1.契約者本人が共済金を一括で受け取る場合

一括で受け取る共済金は所得税の課税対象となり、退職所得に区分される。

ケース2.契約者本人が共済金を分割で受け取る場合

分割で受け取る共済金は所得税の課税対象となり、公的年金等の雑所得に区分される。

ケース3.契約者本人が共済金を一括と分割の併用で受け取る場合

所得税の課税対象となり、一括で受け取る共済金は退職所得に、分割で受け取る共済金は公的年金等の雑所得に区分される。

ケース4.契約者の死亡により契約者の家族が共済金を受け取る場合

共済金は相続税の課税対象となるが、亡くなった契約者の固有財産ではないため、相続税法上はみなし相続財産として扱われる。

小規模企業共済のメリット

個人事業主や会社経営者になったら小規模企業共済に加入すべきとの意見が多い。その理由として4つのメリットが挙げられる

メリット1.掛金が所得控除の対象

最大のメリットは掛金による節税効果だろう。年間に支払った掛金は全額「小規模企業共済等掛金控除」として所得税法上の所得控除の対象となる。

控除額に上限がある生命保険料控除や地震保険料控除よりも節税効果が高い。

ただ、適用所得税率によって節税効果は異なる。年間に最大掛金額84万円を支払ったとしても、適用される所得税率が10%ならば8万4,000円が節税額となるが、所得税率が30%だと節税額が25万2,000円になる。

起業当初は資金繰りや赤字を考慮して掛金額を控えめにし、事業の成長や報酬額の増加に合わせて掛金額を増やせば無理なく節税できる。

メリット2.共済金受取時も節税できる

小規模企業共済は受取時も節税できる。老齢や廃業、怪我や病気による役員退任といった事由によって共済金を受け取る場合、退職所得または公的年金等の雑所得に該当する。

課税のベースとなる所得額の計算は下記のとおりだ。

退職所得

退職所得の金額 = (源泉徴収される前の収入金額-退職所得控除額)×1/2

退職所得控除額は勤続年数によって計算式が変わる。

・勤続年数が20年以下の場合

退職所得控除額 = 40万円×勤続年数
※計算結果が80万円未満の場合は80万円

・勤続年数が20年超の場合

退職所得控除額 = 800万円+70万円×(勤続年数-20年)

公的年金等の雑所得

65歳未満の人が受け取る年金が70万円以下の場合と、65歳以上の人が受け取る年金が120万円以下の場合は、課税対象となる雑所得の金額が0円となる。

この金額を超えたとしても、公的年金などの所得額はかなり低い。気になる人は国税庁のウェブサイトで確認するとよいだろう。

「高齢者と税(年金と税)」(国税庁ウェブサイト)

メリット3.貸付制度を利用可能

小規模企業共済は経営者に役立つ貸付制度を4種類設けている。

制度1.一般貸付制度

いざというときに事業資金を借入れできる制度だ。掛金の範囲内で掛金納付月数に応じて借入れできる。借入れの最高限度額は2,000万円だ。

制度2.緊急経営安定貸付け

景気や経済環境の急激な変化によって売上が一時的に減少し、資金繰りが苦しくなったときに活用できる借入れ制度だ。

掛金の範囲内で掛金納付月数に応じて借入れできる。借入れの最高限度額は1,000万円だ。

制度3.傷病災害時貸付け

経営安定化を目的に資金を借入れできる制度だ。病気や怪我により一定期間入院した場合や、台風・落雷などの災害により被害を受けた場合に役立つ。

掛金の範囲内で掛金納付月数に応じて借入れできる。借入れの最高限度額は1,000万円だが、場合によってはそれ以上の金額を借りられる。

制度4.福祉対応貸付け

契約者や同居家族の福祉向上のために資金を借りられる制度だ。住宅のリフォームや車いすなどの福祉機器購入の際に役立つ。

掛金の範囲内で掛金納付月数に応じて借入れできる。借入れの最高限度額は1,000万円だ。

メリット4.内縁の妻に財産を遺せる

未入籍だが事実上の配偶者にあたる内縁の妻や夫に財産を遺せるのが小規模企業共済の強みだ。

契約者が死亡した場合、小規模企業共済法に従って契約者の親族がその掛金を受け取ることになる。その親族には内縁の妻が含まれ、法律婚の配偶者と同じく、受給権順位は第一順位者にあたる。

相続は民法に則って行われるため、遺言を活用しないと内縁の妻や夫には財産を遺せないのが原則だが、小規模企業共済を活用すれば自動的に財産を遺せる。

小規模企業共済のデメリット

節税効果を筆頭にさまざまなメリットを有する小規模企業共済だが、デメリットにも注意したい。

デメリット1.経営者個人の口座から引落

小規模企業共済はあくまでも個人として掛けるため、掛金は個人の財産で負わなくてはならない。

生命保険と混同して会社経費になると誤解されがちだが、小規模企業共済にはそのような性質はない。どちらかというと、iDeCo(個人型確定拠出年金)と似ている。

デメリット2.元本割れや掛け捨てのリスクがある

小規模企業共済には元本保証がない。したがって、途中解約しても掛けた月数によっては満額返金されなかったり、掛け捨てになったりする。

デメリット3.事業規模が大きくなってからでは加入できない

小規模企業共済は小規模事業者を対象としている。従業員数が一定数を超えると加入要件を満たさなくなってしまうので、事業規模が成長した後に加入できない恐れがある。

一度加入すればその後従業員が増加しても加入状態を維持できる。可能であれば起業直後に加入したい。

小規模企業共済と類似制度の比較

ここまで小規模企業共済の概要をお伝えしたが、老後生活を後押しする制度はほかにもある。

制度1.国民年金・厚生年金

国民年金や厚生年金は代表的な老後の年金制度だ。支払った年間保険料は全額所得控除の対象になる点や老後保障という点は小規模企業共済と似ている。

しかし、国民年金・厚生年金は全国民に加入義務があるのに対し、小規模企業共済は小規模事業を営む事業者のみを対象とした任意制度だ。

制度2.iDeCo

iDeCoと小規模企業共済は、ともに任意の老後保障である点や、掛金全額を小規模企業共済等掛金控除として所得控除できる点が同じだ。

iDeCoは加入月数とは関係なく元本割れリスクが生じる一方、小規模企業共済は掛金月数に応じて元本割れリスクが生じる。

また、iDeCoがほぼすべての国民を対象としているのに対し、小規模企業共済は小規模事業を営む事業主のみを対象としているのが特徴的だ。

制度3.生命保険

生命保険と小規模企業共済は老後保障である点が似ている。しかし、生命保険は健康上のリスクが加入要件となるのに対し、小規模企業共済は小規模事業の事業主であることが加入要件となる。

また、生命保険の保険料は生命保険料控除として所得控除できるが、所得税法では控除額の上限が12万円に設定されている。一方、小規模企業共済は年間に支払った掛金全額を控除できる。

文・鈴木まゆ子(税理士・税務ライター)