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小林建築登記測量株式会社は群馬県太田市で、社名が示すように住宅の取得、建築に係わる行政面での諸手続を行い、グループ会社で不動産取得、建築設計に至るまでの様々な過程をトータルにサポートするコンサルティング事業を営む。それぞれの分野には土地家屋調査士をはじめ行政書士、一級・二級建築士など資格を備えた専門家をそろえ、住まいづくりに向けて、いわゆる「士業」のプロ集団によるワンストップ・サービスを提供する異色のビジネスモデルで事業を展開している。業務遂行に当たってはNASのクラウドサービスを活用し、事業の性格上、図面の取り扱いと共有が欠かせないことから、デジタル化する事でデータ保管やグループ間の共有作業などを進め顧客対応の迅速化と正確さを高めている。(TOP写真:それぞれ専門性に特化したグループ5社のホームページ)
大手住宅メーカーでの営業経験から、住まいづくりの過程で、様々な専門知識と専門家との連携する大変さを感じていた
小林建築登記測量は小林聡一代表取締役社長が大学を卒業して入社した大手住宅メーカーで営業職を長く務めた後、2004年に起業し、個人事業として「小林聡一建築設計測量事務所」を立ち上げた。その後、2007年に法人化に踏み切り、現社名で株式会社を設立した。
起業したきっかけは住宅メーカーの営業職として培った経験と教訓にあった。小林社長は「住宅の取得・建築には様々な法律や規則があり、営業職としてはいろいろな知識が必要だった。具体的には税金や法律、相続、さらには金融の知識などで、その都度、それぞれその道の専門家に尋ねてきた。しかし、その対応には良し悪しもあり、ここは広く浅くであっても自分で知識を身につけた方が重宝がられると判断し、自ら勉強し、住宅関係の資格を取得した」と当時を振り返る。その上で独立を決断する。
ただ、会社を退職したことで収入はなくなり、起業に至るまでは紆余曲折があった。1年間公務員を務め、アルバイトも経験し、家も車も手放し、起業は裸一貫からのスタートとなった。起業の地に群馬県太田市を選んだのは在籍していた大手住宅メーカーで群馬県と埼玉県熊谷市で営業を担当してきたためだ。
中堅住宅メーカーをサポートする専門家集団として重宝され、口コミで仕事量が右肩上がり 家を建てる人の「揺りかごから墓場まで」をサポート
取引先は中堅クラスの住宅メーカーやハウスビルダーで、大手住宅メーカーに在籍していた当時の小林社長が登記や行政手続の申請などでかつて頼りにしていた各分野の専門家の役割を、今や小林建築登記測量が担っている。
小林社長によれば「大手住宅メーカーでの営業スタッフは、設計担当や行政手続に対応する人材などをそろえたチーム制でお客様をサポートする体制を整えている。これに対して、低価格を売りにする中堅住宅メーカーやハウスビルダーの場合は、営業拠点に設計担当もいないといったケースが多く、営業担当者は社内に相談できる人がいない。それで当社を頼るようになった」と言う。
その結果、「営業担当者が他の営業担当者を連れてきたり、同業他社に転職しても当社に業務を委託するなど、倍々ゲームのように取引先が増え、ここ数年は取引先が取引先を呼んできて特別な営業をしなくても済む、ありがたい状態が続いている」(小林社長)という好循環を生んでいる。こうした背景もあって、小林建築登記測量の事業は現在、群馬、栃木、埼玉の3県全域と東京都、茨城県の西側エリアという広範囲に広がっている。
この異色のビジネスモデルを小林社長は「家を建てるお客様の『揺りかごから墓場まで』の面倒をすべてお手伝いする会社」と表現する。取引先企業とは、購入契約する客との付随する行政手続など住宅建築にまつわるすべての業務手続について小林建築登記測量に委託する形で関係が成り立っている。
五つの事業分野を分社化し、「小林KTSグループ」の協力体制で質の高いサービスを提供 新たに土木事業も手掛ける
現在の事業体制は2014年頃からそれぞれの分野を順次分社化し、小林建築登記測量を中核に五つの企業で構成する「小林KTSグループ」として相互の協力体制を強化し、「プロ集団」として質の高いサービスの提供に取り組んでいる。5社の役割としては、小林建築登記測量土地が活用の提案や営業支援、グループ企業の管理支援を担い、残る4社は不動産業、測量業務、土地家屋調査士・行政書士業務、建築設計の事業分野をカバーする。
分社化した5社にはそれぞれの専門分野に応じた資格を持った社員をそろえる。この点、小林社長は「小林KTSグループはプロの集団で、社員には有資格者が多い。しかし、経営方針としては何でもできる『多能工』的な人間の方が重宝されるということを、私自身が身をもって経験している。そのため、各分野のプロであってもグループ社員には自分の専門以外の仕事にも精通し、一通り対応できるように取り組んでもらっている」と話す。
事業での新たな取り組みとしては2023年から土木事業を始めた。「土木事業と言っても公共工事ではなくあくまで民間向け。グループで手掛けている分譲地の土木工事や、お客様から依頼を受けた住宅を建てる前の土木工事や造成工事を請け負っている。自社で設計するため自前で工事に当たれば間違いはないし、よりスムーズに物事が流れる」と小林社長は土木事業を始めた経緯を語る。
テレワーク、グループ内・支店との情報共有、海外での業務遂行を狙いにデータ管理システムを導入
一方、業務面においては住宅建築に関わる事業なだけに、小林社長は「図面を描くのがいかなる場合でもメインの仕事になる」としており、設計図関係のデータ保管などの業務効率化が課題となっていた。特に「プロ集団」としての質の高いサービスが求められるため、グループ内での情報、データの共有が重要だった。
そのためプライベートクラウドを構築してデータ管理できるNASを2022年3月に導入し、デジタル化に取り組んできた。導入に踏み切った背景の一つは2020年に全国で急速に感染が拡大した新型コロナウイルスで、小林社長は「コロナ禍のさなかは自宅で仕事をこなさなければ業務が進まなかった。そこで、どこでも仕事ができる状況を作れないかと考えた」と当時を振り返る。
また、ちょうど群馬県前橋市に支店を設けた時期とも重なり、本社と情報やデータを共有しなければならないという事情もあった。そこでシステム支援会社からの提案もあり、NASによるデータ管理システムの導入に踏み切った。
導入して小林社長が実感しているのは「自宅で仕事ができるなど、どこでもリアルタイムでデータがパソコンで確認でき、業務を進められることだ」と高く評価している。
マレーシア滞在時も専用アプリをインストールし、業務を遂行
小林社長は海外でも活用できる点を挙げる。小林社長は定期的にマレーシアに出向き、滞在している。その間も業務は手掛けており「マレーシアにいる時でも仕事ができるので、データ管理システムの導入はすごく助かっている。一昔前までは考えられなかったことで、ネットワークがつながっていればどこからでも仕事ができる。飛行機で移動中にも利用している」と語る。
仕事柄、設計CADや測量CADといった専用ソフトがなければ業務は遂行できない。このため小林社長は「同じ専用ソフトをパソコンにインストールし持ち歩いていれば、後はメールで送れば業務は終える。その点で仕事中に日本とマレーシアの距離感は感じない」と語る。
一方で、デバイスとしてはパソコンにこだわる。業務上、CADの活用が必須であることから小さな画面のタブレット端末は不向きで、「使えないことはないが、パソコンでないと画面が小さく、タブレット端末では図面が描けない」と小林社長は言い切る。
NASを活用したデータ管理システムの導入は、コロナ禍で感じたテレワークの必要性と、前橋支店開設に伴う事業所間での情報共有化の重要性という二つの要素がきっかけだった。導入後は新たに渡航先のマレーシアでの業務遂行という三つ目の要素が加わり、確かな導入効果につなげている。
ペーパーレス化が一段と加速し、データ管理にNASを増設
小林KTSグループは2024年5月、NASを1基増設した。これは保管するデータが増え、容量が不足してきたことに対応した増設であり、それだけグループ全体としてのペーパーレス化が進んでいることを意味する。
住宅の取得・建築に関係する業界は、行政手続などの申請書類は紙である上、いまだに捺印が必要など、ペーパーレス化への対応は遅れているとされる。この点、小林KTSグループは図面の多い業務について、デジタル化によって前向きに課題解決に取り組んでいる。デジタル化が「プロ集団」による異色のビジネスモデルの質向上に、さらに磨きをかけている好事例とも言える。
企業概要
会社名 | 小林建築登記測量株式会社 |
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住所 | 群馬県太田市新井町514-2 |
HP | http://kobayashi-kts.jp/ |
電話 | 0276-56-4533 |
設立 | 2007年5月 |
従業員数 | 28人 |
事業内容 | 不動産、建築設計、測量、登記、セミナー事業 |