目次
- 「みんなの印刷会社」として発足してから50年
- 印刷の技術革新、電子化で先駆けてきた先進性
- 印刷需要減少下でも情報処理技術者を温存し、電子化技術の強化とデジタル戦略を加速
- コロナ禍を経て営業力強化への意識変革を打ち出し、従業員エンゲージメント事業の全国展開へ
- アンケートは、現場の人が多く、用紙記入の要望が強い オンデマンド機導入でアンケート制作の生産性は2倍に、ミスがなくなり人手やエネルギーコストの削減も
- 従業員エンゲージメント調査は「健康経営」に欠かせない調査
- 「健康経営」は、全ての企業に必要なこととして認識され始めている 5年後に従業員エンゲージメントを5倍に伸ばし、売上比率1割に
- 「より良い社会づくりにも貢献」し、収益と理念具現化の両立目指す
愛知県名古屋市に本社を置く中堅総合印刷会社の株式会社東海共同印刷は、1980年代からいち早く印刷の電子化をリードし事業規模を拡大してきた。しかし、印刷需要の落ち込みが続く中で新型コロナの影響を受けて業績が低迷。印刷の電子化で培った技術をベースに、新たに導入したオンデマンド印刷機などのICT機器を活用して、企業の「健康経営」を支援する新事業の全国展開への挑戦を始めた。(TOP写真:新規導入したオンデマンド機と筒井斗志男代表取締役社長)
「みんなの印刷会社」として発足してから50年
東海共同印刷は1953年に創業した星光印刷株式会社が前身で、1974年に星光印刷の事業を引き継ぐ形で設立された。創業71年、設立50年の歴史を積み重ねてきた印刷会社だ。労働組合機関紙などの新聞媒体を自由に発行したいとの強い思いが創業の原点だ。同じ志の人が事業を引き継ぎ、民主的な経営基盤の確立を目指し、「みんなの印刷会社」として東海共同印刷は発足した。
「当社は戦争で自由に印刷物を印刷・発行できない時代を経てスタートした印刷会社であり、東海共同印刷発足時から経営者も従業員も先進的な考えを持っていたと思います」。筒井斗志男代表取締役社長は、東海共同印刷が印刷技術で一歩先を歩んできたルーツを先人たちの先進性に重ねる。
印刷の技術革新、電子化で先駆けてきた先進性
印刷技術が鉛活字の組版から取った紙型に溶かした鉛を流し込んで印刷版を作るホットタイプから、電算写真システムやコンピューターを用いた製版方式であるコールドタイプへの転換が進む中で、同社は1983年にいち早くコールドタイプに切り替え、鉛活字を全廃した。ブランケット版(日本の通常の新聞サイズ)の新聞印刷工程の全てをコンピューター上で行うDTP(デスクトップパブリッシング)も1990年に導入した。日本語専用の新聞制作システムでは難しいと言われた当時のDTP導入は先進的で、地方新聞社が見学に来たほどだったという。印刷製版工程で組版用コンピューターのデータから直接印刷版を出力し、フィルム出力・焼き付けを不要にしたCTP(コンピューター・トゥ・プレート)の採用も、名古屋の印刷会社では初めてだった。
「デジタルに明るい役員が、情報処理技術者を何人か集めてプログラム開発をしていたといいます。その頃にそんな印刷会社はなく、情報処理や電子化対応では先駆けていました。長い歴史の中でそうした先進性が生きて、今日にもつながっていると思います」と、筒井社長は話す。
印刷需要減少下でも情報処理技術者を温存し、電子化技術の強化とデジタル戦略を加速
印刷需要が2000年をピークに減少する中で、編集、レイアウト、製版などの印刷前工程の電子化を中心に技術力の強化を進めた。都築晋一郎取締役営業本部長は、「社内では開発部門は儲かっていないから止めろとの声も強かったが、当時の社長の決断で残した。これがなかったら印刷事業だけの付加価値を取れない会社になっていた」と振り返る。
2001年には、名刺やラベルをオンライン上で組版して注文できるシステムを独自開発。パソコンで注文、校正、降版が完了するのは今では当たり前だが、当時は画期的だった。2010年以降にスマートフォンが普及し、社会のデジタル化が進み始めると、「技術+営業力」でマーケティングの強化を目指した同社のデジタル戦略も加速した。
2011年に事業の柱である新聞印刷で培った技術を生かすタブロイド版(ブランケット版の半分の新聞サイズ)印刷専用サイトと、企業が従業員満足度や市場調査などで実施する各種アンケート調査をサポートするアンケート支援サービス専用サイトを開設。2014年にはBtoB向けWeb印刷発注システムも導入した。
コロナ禍を経て営業力強化への意識変革を打ち出し、従業員エンゲージメント事業の全国展開へ
筒井社長が就任した2021年8月は、コロナ禍真っ只中で業績は2期連続赤字だった。就任後は財政健全化や固定費削減に大ナタを振るい、初年度の2022年5月期決算で収支トントン、翌2023年5月期に黒字転換を果たした中で営業力強化の重要性を痛感。筒井社長は「営業部門より制作部門優位という、仕事があって当たり前の時代からの社内意識の変革による営業力強化が必要」と判断、研修など人材投資に注力した。
この意識変革を牽引(けんいん)する新事業が、従来のアンケート支援サービスに付加価値を加える形で事業化していた「従業員エンゲージメント調査サービス」だ。「コロナ禍でも売上が落ち切らなかったのはエンゲージメントがあったから」(筒井社長)といえ、2013年に開設した東京営業所が蓄積してきたアンケート支援や従業員エンゲージメントサービスのノウハウをベースに、全国展開を決めた。
アンケートは、現場の人が多く、用紙記入の要望が強い オンデマンド機導入でアンケート制作の生産性は2倍に、ミスがなくなり人手やエネルギーコストの削減も
2023年9月には、経済産業省の事業再構築補助金を活用して、高機能で小回りの利くフルカラーオンデマンド印刷機やリモート商談用の75インチディスプレイとWeb会議システム、カッティングプロッターなどの機器を導入。従業員6人を選抜したプロジェクトチームも組織した。
アンケート調査は、何百、何千という部数にのぼる。従来はオフセット印刷で対応していたが、部署ごとの番号などを印字する後追い印刷の必要があった。しかし、新たなオンデマンド印刷機は印刷と印字を同時にこなせるため1回の工程で済む。エンゲージメントプロデューサーを務める都築取締役は、「アンケートはWeb対応も可能だが、工場や医療・介護現場などではアナログの紙のアンケートが多くなる。中には個人別アンケートのニーズもあり、1工程で済むコスト削減効果は大きく、この部分の生産性は2倍に高まった」と、オンデマンド印刷機導入の利点を上げる。
オフセット印刷では数人必要だった従業員も、オンデマンド印刷の場合は1人で対応できる。オフセットの後追い印刷は順調に行かないケースもあり、その都度検品作業を行っていたが、オンデマンドではその必要はない。都築取締役は「ミスが発生しなくなったのが最大のメリットで、人手やエネルギーの削減効果も見込める」と見ている。
従業員エンゲージメント調査は「健康経営」に欠かせない調査
従業員エンゲージメントとは、従業員が所属する組織にどれくらい愛着を抱いているか、会社の未来に希望を抱くかを表す指標。従業員エンゲージメントが高まると、会社を良くするために従業員が自発的に動き、企業の事業スピードを最大限に引き出すことにつながるという。
「会社が健康であるだけでなく、従業員も健康でなければいけない。働く人が安心して働ける会社というのは、当社の企業理念に通じるものです」。筒井社長は従業員エンゲージメントに着目し、事業強化を進める理由をこう説明する。
「健康経営」は、全ての企業に必要なこととして認識され始めている 5年後に従業員エンゲージメントを5倍に伸ばし、売上比率1割に
働き方改革の一環で、働く人々が心身ともに健康であることは必須であり、健康経営には欠かせないテーマとして大企業にも中小企業にも認識されている。そのためエンゲージメント調査に基づく様々な施策が行われている。従業員エンゲージメントサービスの流れは、①企業の悩み、課題のヒアリング②全従業員対象のアンケート調査③調査レポート提出・共有と改善点提案④改善実施・効果測定。
遠方の顧客企業との打ち合わせなど事業の全国展開には不可欠な大画面ディスプレイを使ったWeb会議システム。もちろん社内会議での活用も可能だ。アンケート後の改善実施では、掲示物、ステッカーやノベルティー的な施策を実施するケースも多く、カッティングプロッターが活躍している。
「5年後には売上高比率で10%超を目標にしています」(都築取締役)。東海共同印刷の2024年5月期の売上構成は、タブロイドをメインに新聞、カタログなどの印刷部門が80%強を占め、アンケート支援事業は10%強、従業員エンゲージメントは1%程度にとどまっている。これを5年間でエンゲージメントを10%に増やし、アンケート支援事業全体では20%への拡大を目指している。
「より良い社会づくりにも貢献」し、収益と理念具現化の両立目指す
「エンゲージメントの向上は、従業員の満足度だけでなく、社会の満足度にもつながります。従業員の健康、会社の健康、そして社会の健康という創業の精神を引き継ぎ、全国の企業の『健康経営』をお手伝いすることでより良い社会づくりにも貢献していきたい」
筒井社長は、東海共同印刷の創業の精神や企業理念にも通じるエンゲージメント事業への強い思いを吐露する。2024年4月に現社名での設立50周年を迎え、創業の精神への思いを改めて強くした。
とはいえ、同社の将来を左右する新事業だけに収益性が問われる。このため、「従来は提携するコンサルティング会社の下請け的事業だったものを、コンサルティング会社監修という形で自社主導の事業に改めた」(都築取締役)。新しい事業体制を整えたエンゲージメント事業の全国展開は、収益と理念の具現化の両立を目指すことになる。
企業概要
会社名 | 株式会社東海共同印刷 |
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本社 | 愛知県名古屋市瑞穂区塩入町17-6 |
HP | https://www.tkp.co.jp/ |
電話 | 052-822-7281 |
設立 | 1953年5月創業、1974年4月現社名で設立 |
従業員数 | 65人 |
事業内容 | 新聞、自費出版書籍など印刷物全般の企画・制作・印刷、販売促進・デジタルプロモーション、Webサイトの制作・運営、アンケート支援サービス、従業員エンゲージメント調査サービスなど |