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株式会社朝日ホールディングスは、法面防災工事から河川工事、水道工事に至るまで、防災とインフラ工事に特化した事業を手がける岡山発の社会インフラ整備企業。グループ企業をホールディングス化し、デジタルによる情報共有のスピードアップで総合力を発揮するプロ集団だ。
(TOP写真:朝日ホールディングスのホームページより転載)
グループ会社は株式会社朝日(土木・水道・法面防災/岡山・東京)、株式会社ブロードライン(法面資材・土木・法面防災/岡山)、大島技術コンサルタント株式会社(建設コンサルタント/岡山)、朝日産業株式会社(落石防護柵/島根・岡山)、株式会社パクス・ジャパン(土木・とび工事/岡山)、株式会社イープロデュース(一般デザイン・Webデザイン・動画制作/岡山)
能登半島地震時の復興工事にも参画 岡山に本社を置きながら、東京や奈良にもグループ網を拡大
2024年1月に発生した能登半島地震の被災地に朝日グループの工事チームが駆けつけたのは2月。石川県の要請を受け地域の水道管復旧工事に携わったという。岡山に本社を置く株式会社朝日がホールディングス化を開始したのは2021年12月だが、それまでにも東京や奈良に支店を設け営業から工事まで請負ってきた。そこに新たなグループ企業が加わり、測量・設計から資材販売・施工に至るまでインフラ整備工事に関わる様々なニーズに対応することが可能になった。
一般的には岡山に本社を置く土木建設企業が東京に進出する場合、国や都道府県からの入札窓口として営業部隊を送り込むというのが順当と考えられがちだが、朝日グループは東京都や周辺都市圏の入札企業から仕事を受ける形で様々な工事を行っている。それは奈良の出先でも同様で、近畿府県の受注企業からインフラ整備会社として工事を請負っているのだ。
朝日ホールディングスの代表でもある大鳥真幸代表取締役社長は「元々は建築系の鉄工所が始まりですが、一般建築の世界は業種の幅が広すぎるので、いわゆるインフラに関わる土木とか水道とかの分野に特化したということです」と、経緯を話してくれた。さらに、「道路の中に埋設する水道工事はずっとやってきたけど、防災系の道路インフラを守る工事や法面工事とかは私の代になってから始めた事業で、その商圏に資材を供給し、工事もセットで受注していくという形を作ってきたんです」と、埋設工事から防災に関わる土木工事分野に業容を広げてきたいきさつも教えてくれた。
防災の世界へのニーズが今後ますます高まってくることが予想される昨今の環境変化を見て、事業分野を土木インフラに特化することで商圏を広げてきた。
グループ会社をホールディングス化し連携することで、資材供給から設計、施工に至る一気通貫型の受注体制を強化
「やっぱり岡山という地方で一つの会社を大きくするのは時間がかかるんです。分野を特化して専門性を高めることで、広い商圏からのニーズに対応できる企業にしようとしたというわけです」。岡山を中心とする中国エリアだけでなく、奈良を拠点として近畿エリアにも大鳥社長自ら出向き、このエリアで多い法面工事や落石対策工事へのニーズに対応していったというが、商圏を広げる形で拠点展開していったのには明確な狙いがあったのだ。
そしてこの分野での競争力をより高め、あらゆるニーズに一気通貫型の対応を可能にするため、設計コンサルティング企業とデザインやIT事業を担う企業を加えたグループ会社のホールディングス化を実施した。
ここで特筆したいのは、ホールディングス化することで大企業への道を模索するのではなく、防災・土木・水道に関わる施工技術や資材・特殊車両・建設機械などの提供も伴う限られた分野での総合力を特徴にしているところだ。
全国に土木工事会社や防災工事会社はごまんとあるだろうが、ここまで専門性と総合力を持ちながら下請けに徹し、拠点展開している企業はほとんどないのではないか。大鳥社長も「この分野で使う資材のほとんどをカバーしながら、設計から施工まで一気通貫でできる会社は恐らくあまりないと思う」と話す。
情報共有のADサーバーなど、社内のICTインフラを整えたことで、どこの地域でも同じ情報で作業ができるところまでたどり着いた
グループ企業をホールディングス化するにあたって重要なポイントとなったのは、やはり情報の共有と意思疎通の円滑化だ。それぞれ異なるシステムで運営してきた企業にはそれぞれ異なるコンプライアンスがあり、使ってきたCADシステムやサーバーも異なるものだったはずだ。また、営業部門と工事部門でも関わるメンバーは異なっていたという。
そこでまず実施したのが新規のADサーバー(ネットワーク上のコンピューターやプリンターなどの情報を一元管理するためのシステム)を2台設置し、クラウド版のウイルス対策ソフトを装備。一時的な障害やサーバーの故障などの不測の事態でも、システムの稼働を継続できるようにした。また、各法人ごとの契約になっていたICT機器を朝日ホールディングス名義に統一し、会計システムや使い慣れてきたCADシステム以外は同じシステムで動かせるようにしてきたという。
ホールディングス化してまだ数年しか経過していないため、全ての情報共有がなされているわけではないが、東京から送られてきた工事中の2D図面や測量図を本社で3D図面に起こして返信したり、各地で実施中の工事現場の進捗やスケジュールを一括で管理したりという情報の共有化は急速に進められている。
大鳥社長は「サーバー上でのインフラを整えたことで、どこの地域であっても一緒の情報で作業ができるところにたどり着いたという実感はあります。いちいちメールを送ったよとか、届いた届かないといったことはなくなりました。一方では各社ごとのコンプライアンスもあるので、社長以下兼務している役員以外はアクセスできないような制限もかけています」と、グループ体制特有の情報管理を行っている。
デザイン会社をグループに入れることで思わぬ効果も出てきている
今回の取材の中で、朝日ホールディングスの魅力を発信しているグループ企業を発見した。2020年からグループに参加した、グラフィックデザインとIT事業を主な業務とする株式会社イープロデュースだ。一見すると土木や防災工事を主とするグループ内において異質な存在にしか見えない。
ところが、イープロデュースの社員が工事関係者や設計スタッフが集まる会議に参加することで、施工現場に立てられる工事看板のデザインと役割が大きく変わり、効果的な役目を果たしているのだ。例えば工事看板に担当者の名前とイラストを載せることで、現場を通りがかった近隣住民が、イラストと同じ顔の担当者が実際に仕事をしていると安心してくれる。また、看板に掲載したQRコードを読み取ると、その現場の工期や進捗具合が確認できると同時に、今どこの部分の工事をやっているか等も確認できる。これにより近隣住民からの信頼が上がっているのだ。
そしていつしかこの現場看板デザインの評判が同業の土木工事会社の耳にも入り、今ではイープロデュースに同業他社からも制作の依頼が入ってきているらしい。思わぬ評判に大鳥社長も苦笑いしていたが、同社の業務はそれだけに留まらず、ホームページなどを含むWebデザインから映像制作、プログラミングに至るまでと幅広い。新しい時代のインフラ整備事業を展開する朝日グループにとって今や欠かせない存在となっている。
「インフラ整備工事は目立たないが、一般の方々の生活の安心・安定には欠かせない重要な仕事。それを担ってくれる若者に来てもらいたい」
朝日ホールディングスでは既に岡山のテレビ局3社で地域への認知度向上とリクルーティングを主目的としたCMを放映しているが、これもイープロデュースが制作している。
大鳥社長に、これからどんな企業グループにしていきたいかと問いかけたところ、「SDGsへの取り組みやネットワーク網の拡大も大きな目標の一つだけど、あまり目立たないインフラの仕事に魅力を感じ、人々の生活に安心と安全を提供することに誇りを持って挑んでくれる若者へバトンタッチしていけることが一番の望みです」という答えが返ってきた。また、今はほとんど岡山発で各地に赴任する人材を採用しているが、これからは各グループ企業の地元で採用できるようにしていきたいとも話した。
上場をせずにホールディング化を実行し、専門性を生かした戦略でネットワークを広げるこの企業グループの、独特なICTの進め方と人材育成への興味は尽きない。
企業概要
会社名 | 株式会社朝日ホールディングス |
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所在地 | 岡山県岡山市北区建部町福渡486-2 |
電話 | 086-722-0707(代表) |
HP | https://www.asahi-holdings.jp |
設立 | 2021年12月1日 |
従業員数 | 55人 |
事業内容 | 防災・土木・水道工事、資材販売、設計コンサルタント、IT事業 |