歴史あるにぎわいの町を未来へつなぐ 自治体DXで住民の利便性向上と業務のスマート化を進め次の時代へ 多度津町(香川県)

目次

  1. 「町民の幸福度向上」と「共につくり、共に進める、持続可能なまちづくり」を基本理念に掲げる
  2. 財政健全化が進み、2022年6月に機能的な新庁舎が完成 社会のデジタル化に対応できるように情報通信基盤を充実
  3. 約2万2000人の住民の生活を約200人の町職員が支える
  4. 効率的な町の運営にDXは必要不可欠 誰一人取り残さない姿勢で取り組む
  5. 業務効率化で学校事務支援システム、町民の利便性向上にがん集団検診のWeb受付システムを導入
  6. 江戸後期~昭和初期に栄えた町並みを新たな時代のシンボルにしていく
  7. にぎわいをもたらすために官民協働でタウンプロモーションを展開 魅力づくりや情報発信に取り組む「まねきねこ課」が2017年に誕生 様々な活動を行っている
  8. 多度津町の魅力づくりや情報発信を強化 コミュニティ通貨「どっつ」やデジタル観光マップ「たどつたんぼう」を運営
  9. 多度津の冬に桜を咲かせるオシャレなイベント、「たどつ桜んたんページェント」が冬の風物詩として定着 2024年は12月7日に開催
  10. DXに関する取り組みを強化するためリコージャパン香川支社と2023年7月に包括連携協定を締結
  11. 「職員のデジタル技術に対する意識が目に見えて高まった」 長期的な視点でデジタル技術の導入に取り組む
中小企業応援サイト 編集部
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江戸時代から昭和の初期にかけて金毘羅参りの玄関口として、北前船の寄港地として栄えた多度津町。人口減少が加速する中、持続可能な行政運営を実現するために先を見据えてデジタル技術の活用に目を向けている自治体がある。香川県中部の瀬戸内海に面した人口約2万2000人の町、仲多度郡多度津町だ。2023年にはデジタル機器とICTの導入アドバイスを受けることを目的に、リコージャパン香川支社と包括連携協定を締結。住民の利便性向上、業務のスマート化、地域のにぎわいづくりの視点からDXを進めている。(TOP写真:かつての商家町、本町(本通)地区。にぎわいを取り戻すための取組が進められている。)

「町民の幸福度向上」と「共につくり、共に進める、持続可能なまちづくり」を基本理念に掲げる

歴史あるにぎわいの町を未来へつなぐ 自治体DXで住民の利便性向上と業務のスマート化を進め次の時代へ 多度津町(香川県)
まちづくりへの思いを語る多度津町の丸尾幸雄町長

香川県仲多度郡多度津町は「町民の幸福度向上」と「共につくり、共に進める、持続可能なまちづくり」を基本理念とし、「主役は町民(わたし)、歴史を未来へつなぐまち たどつ」をまちの将来像として掲げる。「新しい時代の流れに柔軟に対応しながら、これまで町が蓄積してきた歴史、文化、伝統を生かしたまちづくり、人づくりに取り組んでいます。住民の皆さんにいつまでも住み続けたいと思っていただける町にすることはもちろん、魅力を高めることで交流人口や移住人口を増やしていきたいと考えています」。町役場の町長室で取材に応じた丸尾幸雄町長は、まちづくりへの思いを快活に語った。

丸尾町長は2011年に初当選し、現在4期目。財政健全化に配慮しながら、東日本大震災を教訓に防災対策に力を入れてきた。2013年に公共施設等総合管理計画を策定し、利用者のニーズの変化に対応した施設の在り方や適正配置を検討。不要資産を売却して新たな財源とする等の取組を進めた。その上で、災害に弱い老朽化した学校や消防庁舎、役場庁舎の建て替えを進め、町内住宅の耐震補強工事への補助も行ってきた。「世界的な気候変動によって風水害の激甚化が顕著になっています。南海トラフ地震の発生にも備えなければなりません。平時に対策を講じておくことが何より重要です。今後も安心、安全なまちづくりを継続していきたい」と丸尾町長は力を込めた。

財政健全化が進み、2022年6月に機能的な新庁舎が完成 社会のデジタル化に対応できるように情報通信基盤を充実

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JR多度津駅東側に立地する2022年に完成した多度津町の新庁舎

二つの路線が乗り入れるJR四国の要衝、多度津駅の東側で2022年6月に完成した多度津町役場の新庁舎(鉄骨造3階建)は、デジタル化が加速する新しい時代に対応できるように、通信ネットワークや無線LANといった情報通信基盤を充実させている。庁舎のエントランスホールは吹き抜けで、県産の木材を豊富に使った開放感のあるシンプルなデザイン。地元芸術家の作品も展示している。新庁舎は会議室などを備えた地域交流センターを併設し、町民の憩いと交流の場としても機能している。

約2万2000人の住民の生活を約200人の町職員が支える

多度津町の人口は約2万2000人。その生活を約200人の町職員が支えている。多度津町は定員管理計画に基づいて長期にわたって計画的に職員採用を進めてきた。地元の高校や大学に対する積極的なアプローチやインターンシップの募集を通じて若い人材の獲得に力を入れてきたこともあって、20代と30代が職員全体の半数を占める。「デジタル化をはじめとする社会の新しい動きに迅速に対応していく上で、若い人材には大いに期待しています」と丸尾町長は微笑んだ。

だが、少子化に伴う人口減少が進行する中、人材獲得の先行きは楽観視できない。限られた人員と予算で医療、介護、教育、子育てといった住民の暮らしを支えるサービスを維持していく必要がある。「どのようなことがあっても、住民サービスを低下させるわけにはいきません。厳しい財政状況に対応しながら、多様で複雑化した地域課題に適切に対処できる持続可能な自治体にするために、職員一同知恵を絞って全力で取り組んでいます」と丸尾町長は表情を引き締めた。

効率的な町の運営にDXは必要不可欠 誰一人取り残さない姿勢で取り組む

地方自治体が直面する人口減や限られた予算等多様な課題を打開する策の一つとして、多度津町が目を向けているのが、デジタル機器やICTの活用だ。

「これから先、効率的に町行政を運営していく上でDXは必要不可欠と考えています。デジタル機器やICTを活用することで削減できる業務は削減して職員の負担を軽減し、住民の皆さんとのコミュニケーションや新しい取り組みに時間を使えるようにしていきたい。しかしながら、行政だけが突っ走ってもDXは地域に根付きません。誰一人取り残さない姿勢で取り組まなければならないと肝に銘じています。私自身、急速なデジタル化に不安を感じる人の気持ちはよくわかるので、バランスを考えながらDXを進めていきたいと考えています」と丸尾町長は自らの思いを話した。

業務効率化で学校事務支援システム、町民の利便性向上にがん集団検診のWeb受付システムを導入

業務効率化では、国のデジタル田園都市国家構想交付金を活用して小学校、中学校の学校事務支援システムの導入を進めている。教育現場で扱う様々なデータをデジタル化して煩雑な校務を効率化することで、教職員が児童、生徒と向き合う時間をより多く作り出していきたいという。また、同交付金を活用して、がん集団検診のWeb受付システムの導入も進めている。予約しやすい環境を整えることで、住民のがん検診の受診率向上につなげていく。

江戸後期~昭和初期に栄えた町並みを新たな時代のシンボルにしていく

歴史あるにぎわいの町を未来へつなぐ 自治体DXで住民の利便性向上と業務のスマート化を進め次の時代へ 多度津町(香川県)
多度津町のにぎわい復活に様々な人が取り組む。この大正時代の元銭湯もアートカフェとして復活【写真提供:藝術喫茶清水温泉】

多度津は、室町時代、香川氏の拠点港として栄え、更に江戸時代、金毘羅参りの玄関口や北前船の寄港地として大いに栄えた。明治時代に入ると、金毘羅参詣客向けに、多度津を起点とする琴平~丸亀間の鉄道を開始(多度津は、四国鉄道発祥の地)。多度津港の改修も行われ、陸海の交通の要衝として発展。「多度津七福神」と呼ばれる大商人が権勢を誇った。町内には当時の面影を残す伝統的な町並みが広がる。2019年度には文化庁の日本遺産「北前船寄港地・船主集落」に多度津町が追加認定されるという新しい動きも生まれている。

商家町だった本町(本通)地区には、「多度津七福神」の一つである合田家の邸宅をはじめとする重厚な本瓦ぶきの建造物が数多く残る。古民家をリノベーションして飲食や物販の店舗として活用する動きも進んでいる。多度津町は本町(本通)地区の町並みを守るため、文化庁の重要伝統的建造物群保存地区の選定を目指して現在、活動を続けている。

その他にも、桜の名所・県立桃陵公園や、その近くには、多度津町で創始された少林寺拳法の「金剛禅総本山少林寺」がある。また商家町の近くには武家屋敷だった地域もあり、直角に折れ曲がった通りは、武家の用心深さと武家屋敷の風情を感じさせる。

これらすべてが2km圏内に集中しており、これから整備が進み、人が集まり、店ができれば、加速度的にかつてのにぎわいを取り戻すことが予測される。

にぎわいをもたらすために官民協働でタウンプロモーションを展開 魅力づくりや情報発信に取り組む「まねきねこ課」が2017年に誕生 様々な活動を行っている

歴史あるにぎわいの町を未来へつなぐ 自治体DXで住民の利便性向上と業務のスマート化を進め次の時代へ 多度津町(香川県)

多度津町は大きなポテンシャルを持ったレトロな町並み、歴史、伝統文化、自然といった町の資産の積極的な発信や新しい魅力の創造に力を入れている。その取り組みを加速するために2016年から始めたのが、地域のにぎわいを生むタウンプロモーション事業だ。そこでもデジタル技術は大きな役割を果たしている。

2017年には町役場の職員やまちづくり団体のメンバー、企業関係者で構成する官民協働のプロモーションチーム「まねきねこ課」が誕生。80人以上が所属し、魅力づくりや情報発信に取り組んでいる。「多度津町を訪れる人や住みたいと思ってもらえる人を増やせるように、様々なプロジェクトを進めています」と政策観光課の合田顕宏政策企画係長は話す。町とまねきねこ課はタウンプロモーションに特化したホームページを運営。YouTubeやSNSを活用した情報発信も積極的に行っている。

2022年には、「目指せ未来のタドチューバー!『多度津リカレントスクール』」と題してユーチューバーの瀬戸内サニー氏によるYou Tubeの講義を行った。その後Instagram編、TikTok編を開催し発信力を強化している。

多度津町の魅力づくりや情報発信を強化 コミュニティ通貨「どっつ」やデジタル観光マップ「たどつたんぼう」を運営

2022年に導入したコミュニティ通貨「どっつ」もにぎわいづくりに貢献。デジタルが町内外の人々のつながりを生んでいる。2023年からは、どっつの利用回数に応じて上位の人を表彰する「どっつグランプリ」を毎年11月に開催。導入2年目以降、町外から多度津町を訪れてどっつを利用する人が増えるなど、観光面でも徐々にプラス効果が生まれている。「どっつを通じて町内の事業者、団体と町内外に住む人々との繋つながりが生まれたことで、多度津町のファンが増え、地域経済や地域コミュニティの活性化につながっています。デジタル技術が人と人をつないで新しい可能性を生み出していることを実感しています。」と合田係長は話した。

多度津町はスマートフォンなどの端末からアクセスできる多言語対応型のデジタル観光マップ「たどつたんぼう」を運営している。観光客の玄関口となるJR多度津駅にデジタルサイネージに「たどつたんぼう」を組み込んだ観光ナビを設置して、誰もが利用できるようにしている。

多度津の冬に桜を咲かせるオシャレなイベント、「たどつ桜んたんページェント」が冬の風物詩として定着 2024年は12月7日に開催

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たどつ桜んたんページェントの様子(多度津町のホームページより)

まねきねこ課が2017年に、「多度津の冬に桜を咲かせるオシャレなイベント」をコンセプトに企画した香川県立桃陵公園、金剛禅総本山少林寺を会場にした冬のイベント、「たどつ桜んたんページェント」は順調に回数を重ね、町の冬の風物詩として定着した。2024年は12月7日に開催。約2000個のランタンと約1万5000個のLEDライトで会場を飾り、イベントのクライマックスではランタンを夜空にリリースする。キッチンカーが多数出店するマルシェ会場を設け、ジャズコンサートも開催する。また、2024年には、夏のイベントとして多度津駅の駅前広場を会場に飲食や買い物を楽しむことができる「たどつ駅前夜市」も実施された。

DXに関する取り組みを強化するためリコージャパン香川支社と2023年7月に包括連携協定を締結

歴史あるにぎわいの町を未来へつなぐ 自治体DXで住民の利便性向上と業務のスマート化を進め次の時代へ 多度津町(香川県)
2023年7月にDXに関する取り組み強化のため多度津町はリコージャパン香川支社と包括連携協定を締結(左が丸尾幸雄町長、右がリコージャパン藤原晋治 香川支社長)

2023年7月にはDXに関する取り組みを強化するためリコージャパン香川支社(藤原晋治支社長)と包括連携協定を結んだ。全国各地に支社を設置し、地域密着で事業を展開することでDXの具体的なノウハウを蓄積しているリコージャパン株式会社の支援を受けることで、多度津町に適したICTやデジタル機器の導入を加速する狙いがある。

歴史あるにぎわいの町を未来へつなぐ 自治体DXで住民の利便性向上と業務のスマート化を進め次の時代へ 多度津町(香川県)
町職員を対象に住民の利便性向上、職員の業務効率化、地域のにぎわいづくりに役立つデジタルソリューションの説明会の様子

協定締結後、リコージャパンは、町職員を対象に住民の利便性向上、職員の業務効率化、地域のにぎわいづくりに役立つデジタルソリューションの説明会を2回にわたって開催。総務課、政策観光課、健康福祉課、建設課など13課と消防本部の職員延べ80人が参加した。

「職員のデジタル技術に対する意識が目に見えて高まった」 長期的な視点でデジタル技術の導入に取り組む

説明会ではAIを活用したクラウドサービス、OCR(光学文字認識)、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)といった事務作業の効率化につながるシステムのほか、住民向けのオンライン申請システム、にぎわいづくりに活用できるVR(バーチャルリアリティ)やデジタルスタンプラリーのシステムなどを紹介。参加した職員は説明を受けながらパソコンやタブレット端末を使って操作を実体験した。

「様々なデジタル機器やICTの活用を実体験することで、どのように住民の皆さんの利便性につなげていけばいいのか具体的なイメージをつかむことができました。デジタルに関する知識とノウハウを蓄積して地域にしっかりと還元していきたい」と合田係長。「リコージャパン香川支社との協定締結後、職員のデジタル技術に対する意識が目に見えて高まりました。職員一人ひとりがデジタル技術の活用に自信を持ち始めている手応えを感じています。デジタル技術の導入は今後も長期的な視点で取り組んでいきます」と丸尾町長は力強く話した。

課題解決や地域創生に積極的にデジタル技術を活用しようとしている多度津町。社会のデジタル化が加速することを見据えて、地域全体のDXを先導していく役割にも期待がかかる。デジタル技術を活用した多度津町のまちづくりがどのように進んでいくのか注目したい。

企業概要

自治体名香川県仲多度郡多度津町
町役場所在地香川県仲多度郡多度津町栄町三丁目3番95号
HPhttps://www.town.tadotsu.kagawa.jp
電話0877-33-1110(代表)
設立1890年2月(町村制の施行により成立)
職員数197人
町役場組織    町長公室、総務課、政策観光課、税務課、住民環境課、高齢者保険課、健康福祉課、建設課、産業課、出納室、消防本部、議会事務局、教育委員会教育総務課、教育委員会生涯学習課