合併で相乗効果=粗利倍増の自動車ディーラー、更なる事業拡大を目指す 証憑電子保存サービス導入で業務改善進む ホンダカーズ群馬西(群馬県)

目次

  1. 全国的に珍しい小規模ディーラー同士の対等合併で模範事例に 創業時は自転車販売からスタート
  2. 整備士から年間販売台数100台以上の敏腕営業マンに転身。社長就任後に事業規模拡大を目指して合併を模索
  3. 二つの会社の営業、サービスなどの方法を擦り合わせて優れている方に統一。粗利益が倍増する効果を生む
  4. 中古車販売店も新設。次は10販売拠点、年間販売台数3,000台が目標
  5. 整備士不足の慢性化を跳ね返し、サービス部門の拡充に力
  6. 同じメーカー系列のため基幹システムの統合はスムーズ。改正電帳法に対応してクラウド型証憑電子保存サービスを導入
  7. 会長の思いは「お客さまの心を豊かにするために、まず社員一人ひとりの心を豊かに」
中小企業応援サイト 編集部
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国内自動車市場の成熟化に対応して全国的に自動車ディーラーの再編・統合が進む中、メーカー系ディーラー1社1販売拠点という小規模ディーラー同士の合併により誕生した株式会社ホンダカーズ群馬西は、新店舗の開設や収益力の強化など合併による相乗効果を大いに発揮している。改正電子帳簿保存法に対応して、クラウド型の証憑電子保存サービスを導入するなど、業務プロセスの改善にも積極的。今後の生き残りをかけてさらなる合併を進めることで、10拠点、年間販売台数3,000台体制への規模拡大を目標に掲げている。(TOP写真:2024年に新設した新車販売店「安中店」)

全国的に珍しい小規模ディーラー同士の対等合併で模範事例に 創業時は自転車販売からスタート

ホンダカーズ群馬西は2021年4月、群馬県前橋市に新車販売店を構える株式会社前橋ホンダと安中市に新車販売店を置く株式会社ホンダオート安中が合併して誕生した。「小さい二つの会社同士が合併するというのは全国的にもなかなかない事例だったようで、ずいぶん珍しがられました」。ホンダカーズ群馬西の藤井和広取締役会長はこう当時を振り返る。大が小を飲む形の吸収合併や、後継者不在の会社を譲渡する形の統合が一般的な中、小規模企業同士の対等合併は今後の業界内の模範事例として注目されたようだ。

合併で相乗効果=粗利倍増の自動車ディーラー、更なる事業拡大を目指す 証憑電子保存サービス導入で業務改善進む ホンダカーズ群馬西(群馬県)
合併当時のことを振り返る藤井和広取締役会長

本田技研工業(ホンダ)系ディーラーの多くが自転車やオートバイの販売店から出発しているように、旧ホンダカーズ前橋北も、もともとは自転車販売店だった。1968年7月に「有限会社前橋ホンダ」というメーカー系列を明記した社名を登記した時点を会社設立日に設定。その後、1975年に株式会社に改組し、2006年に社名変更という変遷をたどってきている。

整備士から年間販売台数100台以上の敏腕営業マンに転身。社長就任後に事業規模拡大を目指して合併を模索

藤井会長は自動車整備専門学校を出て、安中市のホンダではないメーカー系列の自動車ディーラーで整備士として働いた後、結婚を機に旧ホンダカーズ前橋北に入社した。藤井会長夫人がたまたま同社の創業社長の長女だったからだ。当初から後継者と目されていたようで、義父に請われるまま入社したことを機に営業職に転じた。「サービス(整備)の側から見ると営業って楽そうに思えるんですけど、いざやってみると営業の大変さがわかってくるので、両方を担当するというのは貴重な経験になったと思います」(藤井会長)。2014年6月に37歳の若さで社長に就任。その前年には年間新車販売台数100台以上を達成した人が対象となるホンダの全国表彰を受けているというから、営業の腕を相当磨いたようだ。

自動車業界はメーカー直営と地域資本の違いにかかわらず、車種別販売系列の解消に伴う再編・統合が進んでおり、藤井会長にとっても合併による事業拡張が長年の懸案だった。群馬県内の複数の同業者と接触した中で、旧ホンダオート安中の社長だった中嶋泰臣氏(現ホンダカーズ群馬西代表取締役社長)と最も意気投合したことから合併に踏み切ったそうだ。藤井会長が毎週末に安中市にいる実母のもとへ通う機会を使って交渉したので、合併話を第三者に疑われにくく守秘義務を果たしやすかったことも一因という。

二つの会社の営業、サービスなどの方法を擦り合わせて優れている方に統一。粗利益が倍増する効果を生む

合併で相乗効果=粗利倍増の自動車ディーラー、更なる事業拡大を目指す 証憑電子保存サービス導入で業務改善進む ホンダカーズ群馬西(群馬県)
安中店の広いショールーム

合併は大成功だった。「相乗効果がものすごく出ています。同じホンダの販売店同士なんですが、いざ合併してみると中身は全然違いました。例えばこの新車をいくらで売るとか、下取り車をいくらで引き取るとか、サービスのこの作業の工賃はいくらとか、経営体質も含めてすべて異なるのです。それを一つひとつ擦り合わせて、良いほうに統一していきました。その結果、粗利が2倍くらいになっていると思います」(藤井会長)

2024年6月には新車販売店「安中店」を広い駐車場とサービス工場を備える新築の店舗に移転し、オープンした。ショールーム出入口には段差がなく、室内には車いすで入れるトイレやキッズコーナーもある来店客のためのおもてなしの店舗だ。これを機に、合併以来社長を務めていた藤井氏が会長に就き、中嶋氏が専務取締役から社長に昇格した。地元の人たちに良く知られている中嶋氏を新店舗の顔として前面に打ち出すことで、より存在感を高められると考えたためだ。

合併で相乗効果=粗利倍増の自動車ディーラー、更なる事業拡大を目指す 証憑電子保存サービス導入で業務改善進む ホンダカーズ群馬西(群馬県)
安中店の車いすで入れるバリアフリートイレ

中古車販売店も新設。次は10販売拠点、年間販売台数3,000台が目標

続いて同年8月には中古車販売店「U-Select安中」を安中市に新設した。それまでオークションや業者間取引に出していた下取り車を自社で直接エンドユーザーに販売できるようにするためだ。「下取り車を直接、お客様に売れると粗利が全然違います。それにずっと当社でメンテナンスしていた車なので、整備状態を熟知しており、安心してお客様に納車できます」(藤井会長)

ホンダカーズ群馬西は現在、「残価型商品」と呼ばれる販売方法に力を入れている。新車販売時に本体価格から3年後や5年後の予想下取り価格を差し引いて、残りの金額を分割で支払ってもらう方法で、カーリースとクレジット、それに購入時と契約満了時の2回に分けて支払うプランの3種類がある。買い取り保証をして販売する方法なので、新車を販売してから3年後や5年後には確実に下取りすることになる。その下取り車を自社の店舗で販売することで、収益力を一段と高められるわけだ。

当面は、新車販売店2店舗のうち、「前橋上小出店」(前橋市)を「安中店」と同等の敷地面積1,000坪程度の土地に移転し、新装オープンするのが課題だ。そして、さらにその先は10店舗体制への規模拡大を目標に据えている。それにより、現在の年間新車販売台数約500台から中古車も含めて年間販売台数3,000台体制へと事業規模を拡大するのが目標だ。そのためには新たな合併・統合戦略が不可欠になる。藤井会長は「2、3年後には目標を達成したい」と考えている。

合併で相乗効果=粗利倍増の自動車ディーラー、更なる事業拡大を目指す 証憑電子保存サービス導入で業務改善進む ホンダカーズ群馬西(群馬県)
前橋上小出店の外観。今後、広い土地へ移転し大きな店舗にする計画だ

整備士不足の慢性化を跳ね返し、サービス部門の拡充に力

同時に経営基盤強化の一環としてサービス部門の拡充も進める。若者たちが自動車に興味を示さない〝クルマ離れ〟が指摘されるようになってから久しいが、整備士を志す若者となると藤井会長が卒業した専門学校すら廃校になってしまったほどに減少ぶりが深刻だ。一方で、自動車の電子化に伴い、車両整備技術も著しい変化を遂げており、整備士の役割が一段と重要性を増している。

そこで、ホンダカーズ群馬西では整備士の育成に力を入れている。OJT(オンザジョブトレーニング)はもちろん、整備士資格取得のための講習に通えるように就業時間に配慮する等優遇している。整備士資格取得後の手当については合併前よりも増額した。藤井会長は「整備士が弱体化している販売店をみると車検整備の受注が落ちている」と指摘。車検整備はユーザーに対して新車販売につなげるための大事な節目となるだけに「これからの経営は、サービスが肝となります」と力を込める。

同じメーカー系列のため基幹システムの統合はスムーズ。改正電帳法に対応してクラウド型証憑電子保存サービスを導入

合併で相乗効果=粗利倍増の自動車ディーラー、更なる事業拡大を目指す 証憑電子保存サービス導入で業務改善進む ホンダカーズ群馬西(群馬県)
合併による多店舗展開に対応してクラウド型の証憑電子保存サービスを導入=前橋上小出店

ホンダ系のディーラーはメーカーが推奨する基幹システムを導入している。顧客・販売管理から経理・会計までを一括して処理できるシステムで、メーカーの関連部門のシステムとも連携している。このため、合併に際して、システム関係ではトラブルもなく、スムーズに統合できたという。

一方で、合併後の2022年1月に施行された改正電帳法に対応するため、クラウド型の証憑電子保存サービスを導入した。取引先から送られてくる請求書や納品書、それに新車登録時の車検証の写しなどの書類を保存している。インターネットで送信されてきたPDFデータの書類はそのまま、紙で送られてきた書類は複合機でスキャンしてPDFファイルに変換してから保存する。クラウド型にしたのは、合併に伴い複数の店舗で必要に応じて書類の入力、保存、検索、閲覧といった作業を行えるようにするためだ。

当初は請求書と納品書を中心に処理していたが、すぐに、従来はSDカードに保存していた車検証も同サービスのクラウドに保存するようにした。藤井会長夫人で、バックオフィス業務を担当している藤井陽子取締役は「必要に応じて閲覧するのが楽にできるのではと思って(クラウドに)移行したのですが、登録年月を入力するだけですぐに呼び出せるなど、実際に検索が早くできるようになりました」と話す。

同社では現在、月平均500枚以上の書類を同サービスで処理しており、そのうち25%がPDFファイル、75%が紙で送られてきたものという。このため、同サービスを導入したことにより、かなりのペーパーレス化が図られていることになる。請求書や納品書の取引日、取引先名、取引金額などの検索項目の入力を代行するサービスもあるが、同社では社内で入力しているという。

それだけではなく、納品書については、当該部品の販売先(ユーザー)と金額、取引日なども入力している。藤井取締役は「タイヤやホンダ純正ではない部品などの納品書は従来、エクセルを使って仕入先と販売先を入力していました。それを今は証憑電子保存サービスに移行しています。仕入時にサービス部門で入力し、ユーザーに渡した後、事務部門で入力して納品書を完成させるという形です。完成するまで一時保存にしておくと、何の伝票が未処理で残っているかをだいたい把握できます」と、同サービスが単に書類の保存だけでなく業務プロセスの改善に役立っていることを強調する。

会長の思いは「お客さまの心を豊かにするために、まず社員一人ひとりの心を豊かに」

ホンダカーズ群馬西の社是は「安心・安全・快適なカーライフを提供して、お客さまの心をより豊かにする」というもの。藤井会長は最後に、「お客さまの心を豊かにするという目標を実現するためには、まず社員の心が豊かでないといけません。そのため、社員一人ひとりの心を豊かにしたいというのが私の思いです」と結んだ。

企業概要

会社名株式会社ホンダカーズ群馬西
住所群馬県前橋市上小出町1-30-6
HPhttps://www.hondacars-gunmanishi.co.jp
電話027-233-6840
設立1968年7月
従業員数35人(パート含む)
事業内容 新車販売、中古車販売、車検・点検・整備・修理、自動車損害保険代理業、生命保険代理業、リース、レンタカー、部品用品