高齢化が進む日本の中で、企業における後継ぎ社長の役割が重要視されている。本企画では、これからの日本経済を支えていく後継社長に、どのように変革を起こし、成長を遂げていくのかを伺い、未来の経済発展へのヒントを探っていく。
創業からこれまでの事業変遷
—— 創業からこれまでの事業変遷についてお聞かせ願いますでしょうか?
株式会社鳥善 代表取締役・伊達 善隆 氏(以下、社名・氏名略) 鳥善は1868年、明治元年に静岡県浜松市で鶏料理屋として創業し、当時から非常に多角的な事業を展開していました。明治18年には現在の主力事業にもなっている西洋料理店を始めたり、塾などの事業をやったりと、多様な活動を経て現在に至っています。私は六代目で、2019年11月に事業承継を行いました。
—— 現在の事業内容について詳しく教えてください。
伊達 飲食事業、弁当製造販売事業、地方創生事業を行っています。2000坪の広大な敷地を持つフレンチレストラン・バンケットが本丸で、結婚式場も手掛けています。2024年1月には、西洋菓子店パティスリーもオープンしました。また、駅弁や百貨店への卸し、会議用のお弁当を製造販売する事業もあります。こちらは年間40万箱ほどのお弁当を作っています。
また、地方創生事業としては、鉄道の高架下の空間を利用した「新川モール」という公園の運営をしたり、昨年5月からは週替わりで飲食店が出店する企業シェア型の「街食堂」という、人・企業を繋ぐことを目的とし、40社程度の会員企業が集まる場を作りました。街食堂では、毎週水曜日に「水曜日のヨル喫茶」と称したカジュアルなイベントを開催し、平均30〜40人を集め、地域の企業が交流し、新たなビジネスの可能性を探る場を提供しています。
—— 地域と企業のつながりを大切にされているのですね。事業承継後の新規事業に関して、始めたきっかけや背景などを教えてください。
伊達 事業承継前はレストランと結婚式場、弁当事業のみの展開でした。しかし、事業承継直後の2020年にコロナ禍が訪れ、全ての仕事が縮小しました。今になって思えば、この状況は私にとって幸運であったとも思います。サービス産業の持続可能性を再考し、事業のあり方を見直す機会となったのです。ちなみに、父親は事業承継後、一切口出しせずに私に任せてくれたので、大変ありがたかったですね。
代替わりの経緯・背景
—— 承継のタイミングについてお伺いします。コロナの時期だったこともあるかと思いますが、それ以外でご苦労された点はありましたか?
伊達 実は、当社では非常にスムーズに事業承継が進み、特に大きな問題はありませんでした。もちろん、株式の移転にあたっては多少の工夫が必要でしたが、五代目が四代目との間での事業承継でかなり苦労していましたので、六代目である私に引き継ぐにあたっては、綺麗に引き継ぎたいと考えてくれたおかげです。
—— 株式はどうされたんですか。
伊達 株式の97%は私が所有し、残りの3%は他の方に持ってもらっています。また、父は会長職にもつかず、経営に関しては私に一任してくれています。
—— 経営面で見直されたことはありますか。
伊達 はい、融資や担保、連帯保証人といった部分もすべて見直しました。これは先代と共に実施しましたが、結果として、非常に良い形で事業承継になったと思います。
—— 組織内での反発や摩擦はありませんでしたか。
伊達 私が入社してからは、もともと働いていた人たちが反発することもありました。結局、当時働いていた人で今も残っているのは一人だけです。私は温和に皆と一緒に頑張ろうという姿勢でマネジメントのつもりだったんですが、スピード感やビジョンになかなかフィットできない人も多かったのが現状です。結果的に、組織はほぼ入れ替わりました。
ぶつかった壁と乗り越え方
—— 経営にあたって一番困難だったことや壁について教えていただけますか。
伊達 まずは人材の問題でした。入社後に多くの社員が辞めてしまった時期がありましたが、自分自身も含め猛烈に仕事をし、パワープレイで乗り切りました。リファラルで10人ほどの中途採用を行いました。
また、コロナの影響として、特に飲食店や結婚式のように人が集まるイベントが大きな影響を受け、1ヶ月に3000万円の赤字を出すレベルの急激な落ち込みがありました。そんな時は先人に倣えというスタンスで、ジョン・コッターの変革プロセスを参考にしながら、戦略を立てて行動することにしました。
また同時に、新しいチャレンジも必要だと考えました。デジタル化やコスト構造の見直し、新たな収益源の確保など、長期的な視点での取り組みも行いました。
—— 新しい取り組みというのは具体的にどのようなものでしょうか。
伊達 例えば、新しい結婚式の形として、1回の予算で結婚式を2回行うようなプランを提案しました。最初は少人数での結婚式を行い、1年後に再度大きな式を行うという形です。これを5月にリリースし、多数のメディアでも取り上げられました。
もちろん、綺麗な話ばかりではなく、たくさんの失敗もありました。多くの挑戦のすべてがうまくいくわけではありません。しかし、それがチャレンジ慣れにつながり、結果的に成功につながることもありました。
—— 新規事業も新しい取り組みの一環だと思いますが、どういった戦略があったのでしょうか?
伊達 新たな取り組みとして、採用人材の寄与するBtoB向けのベジタリアンミールキット事業を始めています。海外人材の採用・定着に力を入れたい会社に、特に食のギャップが大きい、インド中心したベジ嗜好の人たちに焦点を当て、彼彼女らの故郷の味を再現したベジタリアンフードを、温めるだけでどこでも提供可能な状態に仕上げて、冷凍にて全国に届けるサービスです。既に多くの企業への導入が始まっています。 サービス業は平和産業であり、コロナや戦争が起きると影響を受けやすいですし、冬・夏・平日が弱いなど、需要の波が激しいです。そこで、製造業的なアプローチを取り入れ、安定性を求めました。仕事が比較的空いている時期に、製造を行いストックし、常時提供できるように準備するという形を取りました。
今後の経営・事業の展望
—— 今後の経営事業の展望について、どのように会社を大きくしていこうとお考えですか?
伊達 私たちのパーパスは「人・街の幸せと可能性に向き合う」というものです。まだ世の中にないけれど、本来必要とされているものを私たちが作っていくことを目指しています。特に食に関しては、日本料理や西洋料理、最近ではインド料理など、さまざまな分野で展開しています。これからも新しい分野に挑戦していこうと思っています。
また、地域プレイヤーとのネットワークも重要です。特に浜松においては、強いつながりがあり、新しい事業を作る際には、これが大きな力になります。例えば、新規事業を一緒に立ち上げたスズキ株式会社さんとは、もともとのつながりから一緒に事業を展開しています。開発段階から協力し、セールスも一緒に行っています。
街への投資や地域創生は、ビジネス的にはすぐに利益を生むわけではありませんが、企業としてのブランド価値を高めることにつながります。また、優秀な人材の採用にも寄与すると思っています。
—— 今後の事業戦略について、具体的にはどのような展開をお考えですか?
伊達 ホスピタリティ領域は好きな仕事ですが、これだけでは今後厳しいと考えています。そのため、直近では製造や食生活の領域に力を入れていく予定です。具体的には、高齢者向けの健康弁当や外国人向けの食キットを強化していきます。外国人向けの食事サービスは、採用の課題解決にもつながるので、これを機に人材全般に取り組んでいけないかと思っています。
—— 上場についてはどうお考えですか?
伊達 現在の会社での上場は考えていませんが、別の会社で挑戦してみたいですね。鳥善は150年の歴史を持つ企業で、先代の想いやこれまでの信用を大切にしながら事業を続け、それとは別に全く新しいことをやりたくなると思うので、そちらでも挑戦できたらいいなと思います。
全国の経営者へ
—— 最後に、本記事の読者に向けて、メッセージをお願いできますか?
伊達 私は、地方には大きな可能性があると感じています。地方の価値を高め、そこで働く人々の可能性を引き上げることが未来につながると信じています。当社は協業も得意なので、一緒に何かできる方がいれば、ぜひご一緒したいですね。
—— 本日は貴重なお話をありがとうございました。
- 氏名
- 伊達 善隆(だて よしたか)
- 社名
- 株式会社鳥善
- 役職
- 代表取締役