目次
- 1966年に、鉄製品を手掛ける合資会社として創業 沖縄県の本土復帰に合わせて土木、建築に事業領域を拡大
- 地域ナンバーワンの「技術力」・「顧客満足度」・「経営体質」であるために、様々な投資に積極的に取り組む
- 高い技術力を示す建築、土木分野での豊富な受賞歴
- 2016年にBIM対応型の3D-CADを地域で先駆けて導入 その機能は経営理念と合致した
- 3次元測量機やドローンを導入して測量作業時間を大幅に短縮すると同時に省力化
- 経営理念は「誠意、迅速、確実」 環境を大事にする活動にも力を入れる
- 設備とともに人材への投資も積極的に行う。20代から30代が従業員の半数近くを占めている
- 2021年、若手従業員対象に、奨学金返済額を上乗せ支給する給与支援制度を導入。ベテラン従業員の活用には資格取得を奨励
- 沖縄の自然保護への貢献策としてサンゴを再生するプロジェクトに参加
- 未来を見据えて事業に取り組む
沖縄本島中南部の沖縄市に本社を構える株式会社仲本工業は、建築、土木、鉄構造物の三本柱で事業を展開する沖縄県有数の総合建設会社だ。事業環境の変化を読み、将来を見据えて、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)をはじめとするデジタル技術や生産設備、人材に積極的に投資することで企業競争力を高めている。また、環境保護をはじめとする社会貢献活動にも力を入れている。(TOP写真:Hグレードの国土交通省認定を受けている仲本工業の工場の様子)
仲本工業の「100年企業を目指し、これからのオフィスビル建築の道標となる新社屋建設 地域企業支援のためDX、GX拠点としても活動を開始」については、仲本工業-2を参照ください。
1966年に、鉄製品を手掛ける合資会社として創業 沖縄県の本土復帰に合わせて土木、建築に事業領域を拡大
仲本工業は、沖縄県が米国統治下にあった1966年4月、鉄製品を手掛ける合資会社として創業した。当初は、米軍基地の近くに工場を構え、基地に供給するフェンスなどの製造に取り組んでいた。現在の事業体制の構築につながる大きな転機となったのが、戦後27年に及んだ米国統治が終了し、沖縄県が日本に復帰した1972年。本土と格差があった道路、港湾、学校などの公共施設の整備が急速に進む社会の動きに合わせて、事業領域を土木、建築に広げていった。
事業の三本柱となっているのが、建築、土木、鉄構。祖業から発展した鉄構部は、ビル、店舗などの建物や歩道橋の部材となる鉄骨を設計、製作した上で設置まで請け負う一気通貫型の事業を展開。建築部は、庁舎、学校、病院などの公共施設、コンビニエンスストア、ホテル、マンション、スポーツレジャー施設、工場、住宅に至るまで様々な建築物の施工管理業務を担っている。土木部は、道路、河川ダム、トンネル、下水道、橋梁など様々なインフラ整備工事を手掛ける。
地域ナンバーワンの「技術力」・「顧客満足度」・「経営体質」であるために、様々な投資に積極的に取り組む
沖縄生まれの仲本社長は早稲田大学卒業後、農林水産省での勤務を経て、2001年、38歳の時に、父親が社長を務めていた仲本工業に専務取締役として入社し、翌年、代表取締役社長に就任した。「チャレンジ精神を常に持ち続けて、地域でナンバーワンの技術力、顧客満足度、経営体質を備えた企業になることを目指して事業に取り組んできました」と仲本社長。
仲本社長は就任以降、設備投資に積極的に取り組んできた。2010年に工場で橋形クレーンを新設した後、ホイスト式天井クレーン(2014年)、塗装ヤードでの移動式クレーン(2016年)、溶接ロボット(2017年)などを相次いで導入。2018年には第5、6、7工場を移転し、新設した。
「社長に就任した当時、県外の建設会社の沖縄進出が活発化し、競争していくには生産性の向上を図る必要がありました。当然リスクはありましたが、未来を切り開くために投資は不可欠と判断し、設備の更新と充実に努めてきました。自動制御で稼働する溶接ロボットを活用することで、溶接の品質向上、従業員の負担軽減、コスト削減につなげています」と仲本社長は話した。
高い技術力を示す建築、土木分野での豊富な受賞歴
仲本工業の技術力を物語る上で欠かせないのが豊富な受賞歴だ。沖縄県土木建築部や県内の自治体が、優良業者を対象に毎年実施する表彰の常連企業として知られている。2023年には県営南風原団地の建て替え工事で県知事表彰、幸地インター線橋梁整備工事で県部長表彰を受賞した。一般社団法人日本建設業協会が、国内の優秀な建築作品を表彰するBCS賞でも実績を持つ。1982年、沖縄市民会館が県内初の受賞に輝いたのをはじめ、2006年に国立劇場おきなわ、2019年に沖縄科学技術大学院大学がそれぞれ受賞対象になった。
2016年にBIM対応型の3D-CADを地域で先駆けて導入 その機能は経営理念と合致した
建築、土木、鉄構の各部門では、コンピューター上で、構造物の情報をデータ化して3Dモデルとして再現するBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の活用を進めている。2016年には県内の業界で先駆けて、BIM対応型の3D-CADシステムを導入した。
「BIMは、仲本工業にとって『誠意、迅速、確実』の経営理念と合致する技術と思っています。導入コスト以上のメリットを実感しています」と仲本社長。BIM技術を活用することによって、設計段階から完成後の構造物の状況を想定し、部材同士の干渉チェックなどを容易にできるので、工事に着手してから発生する「手戻り」問題の回避が可能になった。また「設計や工程についての情報を共有化しやすくなったので施工業務をより正確で迅速にできるようになりました。設計情報を3Dデータとして出力して可視化できる機能は、お客様にプレゼンテーションを行い、いただいた要望を正確に反映する上で非常に役立っています」と仲本社長。
3次元測量機やドローンを導入して測量作業時間を大幅に短縮すると同時に省力化
BIM対応型の3D-CAD以外にも、仲本工業は平成26年からドローンを導入し、令和3年から測量現場で3次元測量機を活用している。以前であれば数人が数日かけて行っていた測量作業が1人で対応できるようになり、作業時間も数時間に短縮されたという。「作業の効率化につながるICT、デジタル機器があれば積極的に導入するようにしています。常に新しい情報を収集して、先頭を走り続ける姿勢を大事にしていきたい」と仲本社長は話す。鉄構部の取り組みとして、鉄骨専用CAD:Real4を活用しています。
経営理念は「誠意、迅速、確実」 環境を大事にする活動にも力を入れる
仲本工業は「誠意、迅速、確実」を経営理念としている。「明日の沖縄のためにできることを考え、お客様と地域社会の皆様から安心して仕事を任せていただけるように常に技術の研鑽(けんさん)に励み、誠意と迅速をもって確実な製品を提供することを心がけています。沖縄県を拠点とする企業にとって自然環境との共生は何より重要なテーマです。環境保護、省エネ、廃棄物の削減といった環境を大事にする活動にも力を注いでいます」と仲本社長は、穏やかな表情で経営姿勢について話した。
設備とともに人材への投資も積極的に行う。20代から30代が従業員の半数近くを占めている
仲本工業は設備とともに人材への投資も積極的に行い、業界全体が不況で採用を絞っている時期も定期的な人材採用を続けてきた。235人の従業員のうち、20代から30代が半数近くを占めている。「企業の成長は人材あってこそ。若い人材の育成を通じて地元の経済活性化にも貢献していきたい」と仲本社長は話す。地域の小中学生の体験学習への協力や、県内の高校、専門学校、大学などからのインターンシップの受け入れにも力を入れている。
健康経営優良法人、沖縄県の人材育成企業、所得向上応援企業などの認証を受けているほか、うちなー健康経営宣言にも登録。女性活躍を推進している企業であることを示す、えるぼし認定も受けている。経済産業省の地域未来牽引企業にも認定されている。
2021年、若手従業員対象に、奨学金返済額を上乗せ支給する給与支援制度を導入。ベテラン従業員の活用には資格取得を奨励
2021年には学生時代に奨学金を借りた若手の従業員を対象に、毎月の奨学金返済額を給料に上乗せして支給する支援制度を県内で他の企業に先駆けて導入した。返済の負担を減らして生活設計を立てやすくすることで、若い人材が安心して仕事に集中できる環境を作る狙いがある。
「子育て世代を対象にした産休・育休、子どもの体調がすぐれない時の休暇、出産祝い、子どもの合格祝い、育児手当、学費援助といった様々な制度も導入しています。従業員一人ひとりが、技能や知識を蓄積して、家族との時間も大事にしながら将来を見据えて仕事に取り組める環境を大事にしています」と仲本工業の吉野咲枝人事係長は説明した。
技術職、事務職を問わずすべての部署の従業員に資格の取得を奨励し、資格手当の支給だけでなく、資格の受験費や専門予備校の授業料を会社が負担する制度を設けている。充実した制度を反映して延べ約228人が一級建築士、一級建築施工管理技士、一級土木施工管理技士、一級鉄骨製作管理技術者、溶接技能工など30を超える資格を所有している。60歳以上でも継続雇用する制度を整えるなど高齢者の活用にも力を入れている。40年以上勤めている従業員も多く、最高齢は72歳。ベテランには長年にわたって積み重ねた経験、技術、技能を若手に伝承することを意識してもらっているという。
沖縄の自然保護への貢献策としてサンゴを再生するプロジェクトに参加
沖縄を含む琉球列島には、日本に生息するサンゴ礁の約80%が広がっているが、海水温上昇による白化現象などが原因で、沖縄と周辺海域のサンゴは減少の一途をたどっている。仲本工業は、自然保護への貢献策としてサンゴを再生するプロジェクトに携わっている。2020年、一般社団法人水産土木建設技術センターと日本トランスオーシャン航空株式会社などが設立した「有性生殖・サンゴ再生支援協議会」に協賛企業として参加し、現在も活動を支援している。
有性生殖法は、多様性に富んだサンゴの増殖方法で、自然に近い形で効率よく受精させた上で大量の種苗を生産できる。協議会では有性生殖によるサンゴ増殖に取り組んでいる八重山地区の八重山漁業組合を支援し、2022年からは久米島地区での支援も開始している。成果は着実に生まれている。2024年6月には、八重山地区の海域で、これからの種苗生産の鍵となる有性生殖で繁殖した株によるサンゴの産卵が確認された。「地域環境の持続可能性確保に貢献することを通じて、沖縄本島に拠点を置く企業としての社会的責任を果たしていきたいと考えています。サンゴの森を取り戻すためにできる限りのことをしたい」と仲本社長は話した。
未来を見据えて事業に取り組む
ロボット、ICT、デジタル機器などの新しい技術の導入に積極的に取り組む一方で、自然環境保護、スポーツ振興など様々な取り組みを進めている仲本工業。末永く沖縄県を支える企業として成長を続けていきたいという。企業が新たな成長軌道を描くには、未来を見据えて事業に取り組む姿勢が大事であることを仲本工業の取り組みを通じて改めて実感した。
企業概要
会社名 | 株式会社仲本工業 |
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本社 | 沖縄県沖縄市美里6丁目5番1号 |
HP | https://www.nakamoto-k.co.jp |
電話 | 098-938-8086 |
創業 | 1966年4月 |
従業員数 | 235人 |
事業内容 | 建設工事業、土木工事業、鋼構造物工事業、大工工事業、とび・土工工事業、石工事業、屋根工事業、ほ装工事業、しゅんせつ工事業、塗装工事業、防水工事業、内装仕上工事業、水道施設工事業、管工事業、造園工事業、解体工事業 |