見積から原価管理・請求書発行までを一気通貫にデジタル化 情報の見える化で「早くて丁寧な施工」の強みに磨きをかける 高栄電業(群馬県)

目次

  1. 石油危機直前に会社組織に 父の背中を見ながら跡を継ぐ決意 40歳で経営を引き継ぐ
  2. 群馬県で一番の会社目指し、下請けから直取引への転換 連れてきた仲間が次第に戦力となり、直取引第1号は大型ショッピングモール
  3. 業績は新型コロナ感染前の最高売上を上回り成長 電気に関わる仕事は何でも引き受ける姿勢で要望があれば北海道へも行く
  4. ISO9001認証取得したが、2024年7月に返上し負担軽減 品質マネジメントの維持には自信
  5. 公共工事の積算見積ができるソフトを探していた 結果、原価管理システムと連携できる積算見積システム導入
  6. 丁寧な工事や工期の早さで信頼を重ねた結果成約率70%に 業務の“見える化”やスマートフォンの勤怠管理導入で更に磨きをかける
  7. 事業承継見据え経営体質強化 地域に根差して電気工事一筋に「早く」て「丁寧」で「安心できる」仕事を追求 デジタル化で経営にスピード感
中小企業応援サイト 編集部
全国の経営者の方々に向けて、経営のお役立ち情報を発信するメディアサイト。ICT導入事例やコラム、お役立ち資料など「明日から実践できる経営に役立つヒント」をお届けします。新着情報は中小企業応援サイトてお知らせいたします。

地域に根差した電気関連工事に35年携わり、地元の経済産業の発展を支えてきた高栄電業株式会社は今、経営改革に取り組んでいる。見積書作成から原価管理、請求書発行までの業務全体を完全デジタル化に移行して大幅な業務効率向上を目指すほか、労務管理システムを導入し就労環境も改善。事業承継にめどをつけたことで、競争力を強化し次代を見据えた企業体質の転換を目指す。(TOP写真:工場の電気設備工事や公共事業を中心に、地元はもちろん県外にも足を運ぶ)

石油危機直前に会社組織に 父の背中を見ながら跡を継ぐ決意 40歳で経営を引き継ぐ

見積から原価管理・請求書発行までを一気通貫にデジタル化 情報の見える化で「早くて丁寧な施工」の強みに磨きをかける 高栄電業(群馬県)
2012年、40歳で経営を引き継いだ高橋徹社長

高橋徹代表取締役の父、文雄氏が個人商店「高橋電設工業」を創業したのは1973年4月。同年10月には第1次石油危機が起きて激しいインフレと景気後退に見舞われたが、1980年代に入ると景気は上向き、企業の活発な設備投資を追い風に電気設備工事の需要も急増。バブル経済ピークの1989年に「高栄電業株式会社」を設立した。

小学2年の時から家業を手伝ってきた高橋社長は「父親の背中を見ながら、いつしか長男は親の後を継がなければという気持ち」になり、高校卒業後の1991年に高栄電業に入社。現場で先輩たちの技術を見ながら仕事を覚えて、2012年に40歳で経営を引き継いだ。

しかし高橋社長はもっと早く社長になりたかったという。「30代で専務として経営全体を見ていて、早くバトンタッチしてほしかったが、なかなか代表権をもらえなかった。タバコを3ヶ月やめてやる気をみせたのがよかったのか、父親が『そろそろいいか』と言ってようやく代表取締役にしてもらえた」と笑う。

群馬県で一番の会社目指し、下請けから直取引への転換 連れてきた仲間が次第に戦力となり、直取引第1号は大型ショッピングモール

見積から原価管理・請求書発行までを一気通貫にデジタル化 情報の見える化で「早くて丁寧な施工」の強みに磨きをかける 高栄電業(群馬県)
「会社をたたもうか」と考えるほどの苦境も従業員の頑張りで乗り越え、次第に信頼を積み上げてきた

社長就任時には「群馬県で一番の会社になりたい」と目標を掲げ、それまでの下請け中心から直取引への転換を進めた。だが、「数年でつぶれそうになった」。これまでの取引関係を反故(ほご)にして直取引の営業をかけても簡単に受注を獲得できるわけはなく、下請けの取引も切られて売上は減少する一方だった。

「一度は会社をたたもうかと真剣に考えた」が、高橋社長が入社する時に誘った友人や後輩が次第に経験を積んで、大手化粧品工場の仕事を手始めに、新規契約を少しずつ獲得するようになり、かろうじて事業を継続できることになった。

業績は新型コロナ感染前の最高売上を上回り成長 電気に関わる仕事は何でも引き受ける姿勢で要望があれば北海道へも行く

見積から原価管理・請求書発行までを一気通貫にデジタル化 情報の見える化で「早くて丁寧な施工」の強みに磨きをかける 高栄電業(群馬県)
工場内の複雑な配線設計も熟練の技術とデジタル化の合わせ技で迅速にこなす

事業の中心は法人・自治体向けの受変電設備工事や電気設備の基幹となる幹線設備工事、Wi-FiやLAN、電話などの構内通信設備工事、生産設備の動力系や制御装置など動力・計装設備工事、照明設備・空調工事など「電気に関わる仕事は何でも引き受ける」(高橋社長)姿勢で、県内はもちろん要望があれば遠くは北海道まで出向く。

電気工事の専門家集団として長年培った技術力と、顧客サイドに立った提案力で信頼関係を醸成してきた。2021年からの新型コロナ感染拡大の影響は大きく、6億円近くまで伸ばしてきた売上高は半分以下に急落したが、経費削減や営業努力もあって新型コロナ終息とともに回復。2024年6月期は5億円強、2025年6月期は公共事業の受注増が追い風となり7億円を超える見通しだ。

現在は下請けにならざるを得ない建築関係の電気工事を避けて、工場の電気設備工事や公共事業など直取引主体に転換。従業員は協力会社の管理業務が中心となっている。

ISO9001認証取得したが、2024年7月に返上し負担軽減 品質マネジメントの維持には自信

見積から原価管理・請求書発行までを一気通貫にデジタル化 情報の見える化で「早くて丁寧な施工」の強みに磨きをかける 高栄電業(群馬県)
オフィス品質方針 ISO9001を返上しても品質マネジメントの維持には自信を持っている(本社事務所に掲げる経営理念と品質方針)

顧客満足度の向上や品質の継続的改善を目的に2018年に「ISO9001」の認証を取得し、同規格に準拠した品質マネジメントシステムを運用してきた。管理体制の強化や事業活動などISO規格に沿った事業運営を継続してきた。しかし、2024年7月にはISO認証を返上した。

ISO9001認証は取引の条件とされたり、工事の入札に必要な経営審査で点数加算されるなどのメリットがあり、認証企業はピークの2007年には4万3000社に上った。しかし、規格変更のたびに社内運用態勢の見直しや必要書類の整備の負担が大きく、維持費用もかかることから2023年の認証企業は2万3000社程度まで減少しているという。

高橋社長が返上を決断したのは、規格準拠のための負担軽減に加え、「ISOの考え方は継承し、十分な品質マネジメントを維持することで顧客の期待に応えていける」という自信に裏付けられているからだ。

公共工事の積算見積ができるソフトを探していた 結果、原価管理システムと連携できる積算見積システム導入

見積から原価管理・請求書発行までを一気通貫にデジタル化 情報の見える化で「早くて丁寧な施工」の強みに磨きをかける 高栄電業(群馬県)
「年内には担当者の講習を終えて積算は完全移行したい」と話す工事管理部の小林亮部長(左)と高橋徹社長

見積書作成は受注獲得のために欠かせないが、受注競争に負けた場合は無駄になる。それでも迅速で正確かつ顧客のニーズに沿った見積書の提出が受注獲得には必須であり、高栄電業も効率的で高機能な見積書作成システムの導入を検討してきた。CADシステムの導入で設計時間の短縮を実現したが、見積書作成システムの本格活用による競争力向上が急務だった。

工事管理部の小林亮部長は「以前に導入した見積書作成システムは不具合もあり、公共事業の積算対応など必要な機能が備わっていなかったので、1年かけてさまざまなソフトを比較してきた」。検討を重ねた結果、原価管理システムと容易に連携できる積算見積システムを8月に導入した。

「従来のシステムと操作性は似ていて使いやすく、公共事業の積算見積に必要十分な機能がある。まだ練習段階だが、やりたいと思っていたことはすべてできている」(小林部長)と使い勝手も機能も申し分ないようだ。

現在、従業員の講習を続けていて「年内には積算システムは完全移行し、来春までには本格運用したい」(同)と考えている。

丁寧な工事や工期の早さで信頼を重ねた結果成約率70%に 業務の“見える化”やスマートフォンの勤怠管理導入で更に磨きをかける

見積から原価管理・請求書発行までを一気通貫にデジタル化 情報の見える化で「早くて丁寧な施工」の強みに磨きをかける 高栄電業(群馬県)
積算見積から請求書発行まで一気通貫で行い、大幅な効率化と見える化による品質向上で更なる信頼向上。

高橋社長は「これまではそれぞれ単体で動かしていた。積算見積から原価計算を自動化するだけでなく、請求書発行まで一気通貫でできるようになれば業務効率は格段に向上するし、業務の流れを“見える化”でき、誰でも同じ見積書を作成できるようになる」と本稼働を心待ちにしている。

以前は見積書を提案しても勝率は2割程度だったが、次第に丁寧な工事や工期の速さで信頼を積み重ねてきた成果で「今は70%が成約できている」(高橋社長)という。積算見積システムと原価計算システムが本格的に活用できるようになれば、さらに勝率を高められると期待している。

労務管理のデジタル化も着々と進めており、年内にもスマートフォン入力による勤怠管理システムに移行する予定。土日の出勤が避けられない業務だが、完全週休2日制へ向けて代休取得や有休を徹底し、就労環境の改善も急ぐ。

事業承継見据え経営体質強化 地域に根差して電気工事一筋に「早く」て「丁寧」で「安心できる」仕事を追求 デジタル化で経営にスピード感

見積から原価管理・請求書発行までを一気通貫にデジタル化 情報の見える化で「早くて丁寧な施工」の強みに磨きをかける 高栄電業(群馬県)
本社は2015年に新設後、隣接地に増設してゆとりのあるスペースを確保した

同社が業務全体のデジタル化に取り組む目的の一つは、高橋社長の頭の中に次の世代への引き継ぎのために経営体質の強化を急ぎたい気持ちがあるからだ。「会社を継ぎたい」と話していた子息が24歳で高栄電業に入社し、現場で汗を流している。

高橋社長は本人には「継がなくてもいいんだぞ」と言いながらも安堵(あんど)しているようで、「継ぐなら(自分が社長になった年齢より)早いうちに経営を任せたい」と、早くも事業承継を見据えている。

地域に根差して35年、電気工事一筋で事業を継続してきた高栄電業の経営テーマは「電気と共生」であり、事業の品質方針として「早く」て「ていねい」で「安心できる」仕事を追求してきた。経営のスピード感と品質に磨きをかけるためにデジタル化による業務改革は不可欠な要素となっている。

企業概要

会社名高栄電業株式会社
住所群馬県伊勢崎氏市場町1丁目263番地2
HPhttps://koueidengyou.jp/
電話0270-63-1267
設立1989年7月
従業員数17人
事業内容  受変電設備工事、幹線設備工事、弱電設備工事、動力・計装工事、照明設備工事、住宅用電気関連工事等