目次
- 2022年、様々なサンプルを見て触れて確認できるショールームを社屋の1階に開設 顧客の声をベースに業態転換も視野に
- オフセット、オンデマンド、大判といった印刷機から後工程の設備まで多彩にそろえる メンテナンスを重視し、新機能を積極的に導入する
- 2015年、社内スローガン「Make Next Wonders!」を策定 顧客が求める水準以上のものを提供して驚きを与える
- 十数年にわたって取り組んだクリエイティブ部門がクロスメディア事業推進の原動力に
- 360度カメラ、ドローンといった新しい設備を積極的に導入 デジタルコンテンツに力を入れる
- クラウド型のデジタルサイネージ事業では、コンテンツの作成から機種の選定、設置、運営までを一貫して担う
- 取引先の商品や備品などを保管した上で、印刷物とともに発送する物流事業も手掛ける
- 発送業務の効率化に電子黒板を導入 現場が大画面で各取引先の発送状況をリアルタイムで把握できるようになった
- 環境負荷が低い「水なし印刷」を導入 カーボンオフセット印刷にも取り組む
- デジタル技術を活用した新たなサービスで印刷事業の可能性を広げる
岡山県岡山市南区に本社・工場を構える印刷会社、株式会社ファビオは1965年、印刷用の版を製造する池上写真製版所として創業した。1988年に株式会社化し、2000年ごろに製版業からデジタルをベースにした印刷業に転換。その後、顧客の要望に従って、印刷物の保管および全国への小口配送、デジタルサイネージや360度カメラやドローンによるデジタルコンテンツの提供等、印刷以外の事業の強化に取り組む。2022年には、「販売促進活動や広告宣伝活動におけるアイデアづくりのプラットフォームをコンセプト」にショールームをオープンした。(TOP写真:ファビオのショールームに展示している印刷物のサンプルの一部)
2022年、様々なサンプルを見て触れて確認できるショールームを社屋の1階に開設 顧客の声をベースに業態転換も視野に
「現在は印刷業が主軸ですが、事業構造は時代の変化やお客様のニーズに対応しているうちに少しずつ変化しつつあります。生き残っていくために、どのような業態への転換もいとわない覚悟で事業に取り組んでいます」。岡山市南区に立地するファビオの本社・工場で取材に応じた池上鎌三郎代表取締役社長は、変化が激しい時代の中で企業の舵取りを担う心構えをこのように話した。
ファビオは、2022年、社屋の1階をリノベーションし、顧客と強力なパートナーシップを築くためのショールームを開設した。印刷用紙や和紙などのサンプルを多数取りそろえる一方、これまで制作したパンフレット、フライヤー、メーラーDM、圧着はがき、環境対応印刷、ガーメントプリント(布用印刷)、大判印刷、デジタルサイネージ(広告媒体としても使用する映像表示システム)などを展示。訪れた人が、多様な事例の実物を見るだけでなく、手で触れて質感を確かめることができるようにしている。
「ショールームは、販売促進活動や広告宣伝活動におけるアイデアづくりのプラットフォームをコンセプトに設計しました。販売促進、デザイン、売上向上、集客、費用対効果、認知度向上、新市場開拓、休眠顧客開拓といった相談に幅広く対応しています。印刷物について困りごとがあった時は、いつでも気軽に足を運んでいただけたら」と池上社長は笑顔で話した。ショールームは企業同士の交流の場としても活用していきたいという。
オフセット、オンデマンド、大判といった印刷機から後工程の設備まで多彩にそろえる メンテナンスを重視し、新機能を積極的に導入する
印刷部門では、数千枚から数十万枚単位の印刷に対応するオフセット印刷機のほか、柔軟な印刷に対応できるオンデマンド印刷機、大判印刷機、ガーメント印刷機、中綴じ製本や折り加工といった後工程の設備を幅広く導入している。機械のメンテナンスを重視し、常に品質の高い印刷物を提供することを心がけている。新しい印刷機能が加わった機種の導入に努めることで営業活動の間口を広げているという。
2015年、社内スローガン「Make Next Wonders!」を策定 顧客が求める水準以上のものを提供して驚きを与える
ファビオは創業50年を迎えた2015年、デジタル化をはじめとする時代の変化に対応した新しい企業へと進化することを目指して、社内スローガン「Make Next Wonders!」を策定した。「スローガンには品質、技術、サービスについて、お客様が求める水準以上のものを提供して驚きを与えたいとの思いを込めています。事業の成長には、お客様の成長が必要不可欠です。そして、我々の成長を通じて、お客様に更に成長していただく。そのような好循環を生み出し、お客様にとってなくてはならない企業になることを常に目指しています」と池上社長。
十数年にわたって取り組んだクリエイティブ部門がクロスメディア事業推進の原動力に
池上社長が十数年にわたって重視してきたのが、グラフィックデザインやパソコン上で印刷物のデータを作成するDTPといったクリエイティブ部門の充実だ。「価格競争に走るのではなく、お客様に提供するサービスの付加価値を高めることを大事にしてきました」と池上社長。クリエイティブ部門で蓄積した実績とノウハウは、印刷物のデータを活用してデジタルコンテンツを作成するクロスメディア事業を推進する原動力になっている。
「ファビオでは、紙とデジタルの組み合わせによって新しい可能性を切り開くことをクロスメディアと定義しています。手をこまねいているだけでは、印刷の仕事は減少する一方です。付帯業務と組み合わせることで印刷の仕事を確保していかなければなりません。お客様のニーズに合わせて柔軟に対応できる体制を整えています」(池上社長)
360度カメラ、ドローンといった新しい設備を積極的に導入 デジタルコンテンツに力を入れる
ファビオは、印刷データを活用したデジタルコンテンツの作成をはじめ、全方向を撮影できる360度カメラ、カメラの向きを一定に保つジンバル機能付きの撮影機材、空撮用ドローンを活用した映像の撮影・編集、ホームページやECサイトの作成など幅広いサービスを提供している。WebサイトやSNSなどに動画広告を配信するWeb広告、サイトの訪問者の行動や特性を分析して販売促進に結びつけるWeb解析、印刷データを使った電子ブックの制作といった事業にも取り組んでいる。本社内には商品撮影などを行う簡易スタジオも設けている。
「データがあれば様々なメディア展開が可能です。例えば、QRコードを活用して印刷物とデジタル端末を結びつけることによって、印刷物から更に情報を盛り込んだWeb広告に円滑な誘導を図れます。紙メディアができないことをデジタルメディアで補っていきたい。紙メディアとデジタルメディアのどちらにも対応できるように核となるコンテンツをしっかりと制作することで、ワンソースマルチユースを実現していきたいと考えています」と池上社長は話した。
クラウド型のデジタルサイネージ事業では、コンテンツの作成から機種の選定、設置、運営までを一貫して担う
今後、力を入れていきたいと考えているのが、クラウド型のデジタルサイネージ事業だ。コンテンツの作成からデジタルサイネージの機種の選定、設置、運営までを一貫して担うビジネスモデルを組み立てている。クラウド型のデジタルサイネージは、インターネットを介してパソコンなどの端末からコンテンツをいつでも自由に更新することができる。サーバーやシステムなどの大規模な投資を必要としないので、導入コストも少額に抑えられるという。飲食店、商業施設での販売促進や公共施設、観光施設、駅構内、空港での情報発信など様々な場面での活用を見込んでいる。
取引先の商品や備品などを保管した上で、印刷物とともに発送する物流事業も手掛ける
ファビオは、取引先の商品や備品などを保管した上で、必要に応じて印刷物とともに全国に発送する物流事業も手掛けている。取引先の中には全国で1,000店舗を構える企業もある。地域や店舗の規模によってそれぞれ発送する印刷物、商品、備品が異なるため、きめ細かな対応が求められるという。「発送業務は手作業が多く手間がかかるので、デジタル技術を活用して省力化できる作業をできる限り増やしていきたい」と池上社長は話す。
発送業務の効率化に電子黒板を導入 現場が大画面で各取引先の発送状況をリアルタイムで把握できるようになった
発送業務を効率化するために2024年8月に導入したのが電子黒板だ。ファビオが発送の担当部署に設置している電子黒板は、クラウド上に保存している情報のほか、パソコンやタブレット端末の画面を取り込むことができる。
電子黒板のディスプレイ上では、生産管理部が作成する発送先、受注先、品名、発送日、到着予定日、送り状ナンバー、個数などの情報を記入した一覧表を常時表示している。生産管理部が更新した情報はそのままディスプレイに反映されるので、梱包と発送を担当する従業員は、各取引先の発送状況をリアルタイムで把握して、効率的に業務を行うことができる。
電子黒板はタッチパネル式で、ディスプレイを通じて様々な情報を入力できる。今後、業務の自動化ツールを活用して、発送が完了した時点で電子黒板に情報を入力すれば、自動的に取引先にメール通知が送られる仕組みも構築していきたいという。デジタル技術を活用した業務効率化で、軌道に乗っている物流事業の更なる強化を目指していく。業務の自動化ツールは会社独自の勤怠管理アプリや行動予定表アプリの作成にも活用している。
環境負荷が低い「水なし印刷」を導入 カーボンオフセット印刷にも取り組む
ファビオは、国連の持続可能な開発目標、SDGsを重視し、環境負荷が低い印刷にも強い関心を寄せている。現像廃液を大幅に削減し、印刷時に湿し水を使用しない高精細の「水なし印刷」を導入する一方、実質的な二酸化炭素排出量ゼロを目指すカーボンオフセット印刷にも取り組んでいる。池上社長は、役員を務める一般社団法人日本WPA(日本水なし印刷協会)の職務などを通じて、今後も「水なし印刷」をはじめとする環境に優しい印刷の普及に力を入れていきたいという。
デジタル技術を活用した新たなサービスで印刷事業の可能性を広げる
デジタル技術を活用した新たなサービスや物流事業といった様々な付帯事業と組み合わせることで、従来の印刷事業の可能性を広げているファビオ。「厳しい業界の中で積み重ねてきた私たちの経験や知識を、お客様の成長戦略に活用していただきたいと考えています。クロスメディア事業の市場を作っていくために、外部の企業との連携も考えていきたい。将来、何屋さんになっていくのか現状ではなかなか見通すことはできませんが、情報をしっかりと収集して柔軟に対応していきます」と池上社長は力強く話した。その表情に柔軟で創造的な変革をこれからも続けていく覚悟が見えた。
どの業種にも共通しているが、顧客のちょっとした声の中に新たな事業のヒントが隠されていることが多い。ハイブリッドな情報伝達手段をこれだけ持っている会社は少ない。変化が激しい今は、常に顧客の声を聞き変化を感じ取ることが重要。その意味でファビオは、顧客接点のプラットフォーム(ショールーム)の活用によって、新たな展開を迎えそうだ。
企業概要
会社名 | 株式会社ファビオ |
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本社 | 岡山県岡山市南区新保685番地の3 |
HP | https://www.fabio.co.jp |
電話 | 086-243-6606 |
設立 | 1988年6月(創業1965年) |
従業員数 | 40人 |
事業内容 | 販売促進全般の企画・制作、及び印刷・製作、広告・出版事業の企画・制作、及び印刷・製作、プロダクト関連の企画・制作、及び印刷・製作 |