会社が商品や資材を購入したときに支払う消費税は「仮払消費税」という科目で処理される。消費税には課税対象となる取引、非課税となる取引があり、納税者と負担者が異なるなどさまざまな決まりがあるため、処理が複雑だと感じている方も多いことだろう。今回は仮払消費税について詳しく解説する。

目次

  1. 仮払消費税はどのような場合に発生するのか
  2. 消費税の課税対象となる取引
    1. そもそもの消費税の仕組み
    2. 郵便切手と印紙の取引
  3. 仮払消費税の計算方法
    1. 消費税納税までの流れ
  4. 税抜経理方式と税込経理方式
    1. 税抜経理方式と税込経理方式の違い
  5. 税込経理方式のメリットとデメリット
    1. 税抜経理方式~交際費計上の際のメリット
    2. 税抜経理方式~固定資産税計上に際してのメリット
  6. 消費税が還付になる場合とは
    1. 1.大幅な赤字になった場合
    2. 2.大幅な設備投資をした場合
    3. 3.輸出を行っている場合
  7. 消費税還付の手続きについて
  8. 簡易課税制度と経理処理
    1. 簡易課税制度とは
    2. 簡易課税制度を適用するための手続き
  9. インボイス制度と消費税
    1. インボイス制度とは
  10. インボイス制度を導入するための手続き
  11. インボイス制度のメリットとデメリット
  12. インボイス制度の特例
    1. 1.経過措置
    2. 2.2割特例
  13. 仮払消費税に関するQ&A
    1. Q1. 仮払消費税はなぜ借方?
    2. Q2.消費税の申告はいつまで?
    3. Q3.消費税の支払期限はいつ?
    4. Q4.消費税は還付になる?
  14. 消費税の負担を減らすために適切な経理方式を選択しよう
仮払消費税
(画像=PIXTA)

仮払消費税はどのような場合に発生するのか

仮払消費税は、会計方針として「税抜経理方式」を採用している場合に使う勘定科目である。仕入や経費の支払いを行った際、支払額に含まれる消費税部分を仮払消費税として計上することになる。反対に、「税込経理方式」を採用している場合には、仮払消費税という科目は使用しない。また、取引のなかには、消費税が課税されない「非課税取引」や「不課税取引」が存在する。これらの取引は消費税の収支がないため、仮払消費税や仮受消費税は計上しない。

消費税の課税対象となる取引

消費税や仮払消費税を正しく判断するためには、その取引に消費税がかかるのかどうかを見極めることが必要だ。実は、すべての取引は「消費税の課税取引」「非課税取引」「不課税取引」の3つに区分される。

・課税取引
課税取引とは、消費税が課される取引である。消費税は、モノやサービスの消費に課される税金だ。そのため消費に伴って対価が発生する取引には、消費税が課される。ビジネスにおいて多くの取引は、課税取引に該当する。

・非課税取引
非課税取引とは、本来課税取引だが政策上、社会的な配慮などから消費税が非課税となっている取引のことだ。具体的に以下のようなものが非課税取引となる。

  • 土地の譲渡及び貸付
  • 有価証券等の譲渡
  • 支払手段の譲渡
  • 預貯金の利子
  • 保険料を対価とする役務の提供等
  • 日本郵便株式会社等などが行う郵便切手類の譲渡
  • 印紙の売渡し場所における印紙の譲渡
  • 地方公共団体などが行う証紙の譲渡
  • 商品券やプリペイドカードなどの物品切手等の譲渡
  • 国等が行う一定の事務にかかる役務の提供
  • 外国為替業務に係る役務の提供
  • 社会保険医療の給付等
  • 介護保険サービスの提供
  • 社会福祉事業等によるサービスの提供
  • 医師や助産師などによる助産に関するサービスの提供
  • 火葬料や埋葬料を対価とする役務の提供
  • 一定の身体障碍者用物品の譲渡や貸付
  • 一定の要件を満たす学校の授業料や入学金等
  • 教科用図書の譲渡
  • 住宅の貸付

・不課税取引
不課税取引とは、そもそも消費税の対象外となる取引。例えば借入金の返済は、借りたお金を返すだけの行為であるため、モノやサービスの消費は行われておらず、不課税取引となる。

他にも不課税取引として給与・賃金、寄付金、祝金、見舞金、補助金等、無償による試供品や見本品の提供、保険金や共済金、株式の配当金やその他の出資分配金、資産の廃棄、盗難、滅失、身体又は資産について加えられた損害の発生に伴い受ける損害賠償金などがある。

そもそもの消費税の仕組み

上述した通り消費税は、モノやサービスの消費に課される税金で本来消費者が消費税を支払う必要がある。しかし消費者一人ひとりが消費税の申告をして納めるのは無理があるため、事業者が消費者に変わって消費税の申告や納付を行っている。

事業者は、消費者から消費税を預かり国に納付する必要がある。しかし、事業者自身も仕入や経費の支払いで消費税を他の事業者に支払っている。そこで事業者は、消費者から預かった消費税から仕入や経費の支払いで支払った消費税を差し引いた金額を国に納めることになっている。

消費者から預かった消費税、つまり売上に関する消費税は、事業者自らが預かった消費税であるため、計算間違いをする可能性は低い。問題となるのは支払った消費税である。支払いの取引には、課税取引や非課税取引、対象外取引の3つがあり、それぞれの支払いがどの取引に該当するのかを判断することが必要だ。

また次で述べる郵便切手や印紙など特別な取引もあるため、注意したい。

郵便切手と印紙の取引

消費税の扱いについて注意すべきなのは、郵便切手と印紙だ。郵便切手の場合、購入時は非課税取引で消費税が課されていない。しかし使用する際には、郵便局の役務提供に対する対価としての支払いであるため、消費税が課税される。郵便局で切手を購入した場合と、郵便を直接出した場合で、消費税の表示が異なるので気づくこともあるかもしれない。

また印紙については、購入する場所で取り扱いが異なる。郵便局や、役所、コンビニ、たばこ店などの「印紙の売渡し場所」で収入印紙を購入する場合は非課税取引であるが、チケットショップなどで、誰かが処分した印紙を購入する場合は課税取引となる。どこで購入したかによって取り扱いが異なり、業種によっては影響が大きいため経理処理の際には注意が必要だ。

仮払消費税の計算方法

以下は、税抜経理方式の採用を前提とする。まず、仕入や経費の支払いなどを行った場合を考える。消費税10%の8万円の商品を税込8万8,000円で購入し、代金は掛とした場合を考えてみよう。その場合、仕訳は下の通りとなる。

(借)仕入 80,000円 /(貸)買掛金 万8,000円
   仮払消費税 8,000円

そして、その商品を10万円(税込11万円)で掛で転売した場合を考えてみると、
 (借)売掛金 110,000円 /(貸)売上 100,000円
                     仮受消費税 10,000円

消費税納税までの流れ

事業者が消費税を納税するまでの大まかな流れは、次のようになっている。

・取引の帳簿付け
事業者は、税金の申告・計算のため、日々の取引を帳簿付けしている。消費税の課税事業者の場合は、取引金額だけでなくそのうち消費税の金額がいくらかも帳簿に記載することが必要だ。この際、売上にかかる消費税が「仮受消費税」、支払いにかかる消費税が「仮払消費税」となる。

・消費税申告
決算や確定申告の時期になったら帳簿の消費税額を集計し、消費税の申告書を作成する。

・納税
作成した消費税の申告書を提出し、消費税を国に納付する。

具体的には、以下の通りだ。

1年分の仮払消費税と仮受消費税の計上が完了したら、実際の消費税の納税額を計算していく。消費税は10%といわれているが、レシートなどをよく見ると、消費税「等」と書かれていることがある。これは、消費税等の正式名称が消費税及び地方消費税であることによる。普段、消費税といわれているのは、消費税7.8%と地方消費税2.2%の合算となっている。

仮払消費税が8,000円で仮受消費税が1万円計上されている場合、それぞれを相殺して未払消費税とすることになるが、理論的には、下記の計算プロセス(かなり簡略化してあるが)を経過することになる。

1. 課税売上に対する消費税の計算 10万円×7.8%=7,800円
2. 課税仕入れに対する消費税の計算 8万円×7.8%=6,240円
3. 消費税の納付額の計算 7,800円-6,240円=1,560円→1,500円(百円未満切り捨て)
4. 地方消費税の納付額の計算 1,500円×22÷78=423円→400円(百円未満切り捨て)
5. 消費税等の納付額合計 1,500+400=1,900円
そして、仕訳としては、下のようになる。
 (借) 仮受消費税 10,000円 /(貸)仮払消費税 8,000円
                     未払消費税 1,900円
                     雑益     100円

実際には非課税取引が混入していたり、消費税率8%の軽減税率の取引があったりして、より複雑である。その後、消費税を現金にて納付した場合は、以下のような仕訳となる。

(借) 未払消費税 1,900円 /(貸)現金 1,900円

税抜経理方式と税込経理方式

消費税の経理の方法には、税抜経理方式と税込経理方式がある。

税抜経理方式と税込経理方式の違い

税抜経理方式とは、本体価格と消費税を分けて計上する方式である。仕入や経費の支払いなどで消費税を支払ったときは仮払消費税を計上し、売上などで消費税を預かったときは仮受消費税を計上する。

決算の際は、上述のように仮払消費税と仮受消費税を相殺し、納付額を未払消費税に計上(還付の場合は未収還付消費税に計上)する。仮払消費税と仮受消費税の差額と未払消費税の計上額に差額が生じた場合は、雑益、雑損、租税公課などの勘定科目にて調整を行う。

税込経理方式は、本体価格と消費税を区別せずに総額で計上する方式である。税込経理方式は、消費税を支払ったときも受け取ったときも取引金額に含めて仕訳を行い、決算時に納付額を「租税公課」などの勘定科目で計上する方式だ。

税抜経理方式では、仮受消費税や仮払消費税を使った仕訳を行う。しかし税込経理方式の仕訳は、そこまで複雑ではない。上述した例で税込経理方式の仕訳をした場合は、次のようになる。

・決算時の仕訳
(借) 租税公課 1,900円 /(貸)未払消費税 1,900円
・消費税納付時の仕訳
(借) 未払消費税 1,900円 /(貸)現金 1,900円

ここで注目したいのが、税込経理方式の場合、決算時に「租税公課」という経費の科目を使うことだ。そのため消費税の金額が大きいと期末に大きな経費を計上することになり黒字と思っていたのが赤字になるなどの事態が生じる可能性もある。

税込経理方式のメリットとデメリット

税抜経理方式と税込経理方式のどちらを採用するかは任意であるが、それぞれメリット、デメリットがある。税込経理方式のメリットは経理処理が簡単なことであり、デメリットとしては、消費税の現状の金額の把握が容易ではなく、黒字だと思っていたのにいざ決算を組んでみたら赤字であったというような事態が起こる可能性があることだ。

税抜経理方式のメリットは、試算表作成時点での消費税の納付額が容易に計算できること、消費税が損益に影響せず正しい損益状況が把握できることがあり、デメリットとしては経理処理に手間がかかることがあげられる。

正確な損益把握という意味では税抜経理方式は税込経理方式よりも優れている方法であり、特に課税事業者で正確な経理が求められる場合や、輸出取引を行っていて消費税の還付がある場合には税抜経理方式を採用するほうが無難である。

税抜経理方式~交際費計上の際のメリット

交際費の課税について、資本金1億円以下の中小企業に対しては、800万円以下の交際費を損金(経費)にできることが法律によって認められている。つまり、800万円を超える部分の交際費については、損金とできないため、法人税の課税の対象となる。そして、その判定の際に有利となるのが、税抜経理方式である。

なぜなら、税抜経理方式ならば交際費は税抜で計上されるため、実際に支払った金額より、交際費に計上される金額が低くなるからだ。税込経理方式で計上してしまうと、消費税を含めた金額で800万円のラインが判定されてしまうのである。また、交際費の多い会社においては、1人あたり5,000円以下で会議費として交際費から除外できるかどうかは思いのほか大きな影響がある。

そのような局面においても、5,000円を超えているかどうか判定をする際には、税抜経理方式の場合は税抜の金額で、税込経理方式の場合は税込で判定する。微妙な金額、例えば1人あたり税抜4,800円などの場合には、損金に計上できるか判断が分かれてしまうことになるため、注意が必要であろう。

税抜経理方式~固定資産税計上に際してのメリット

固定資産においても、税抜経理方式にメリットがある。ある資産を、一定の金額を支払って購入した際、その金額が10万円以下であれば全額を損金算入できるということはよく知られている。

例えば、税抜経理方式で9万9,000円の備品を購入した際、税抜経理方式であれば、10万円以下であるため、損金として処理が可能である。税込経理方式では計上額が10万8,900円になってしまい、10万円を超えるため固定資産に計上しなければならない。30万円以下の少額減価償却資産の判定の際にも、同じ理由で税抜経理方式のほうが有利となる。

消費税が還付になる場合とは

消費税は納付をするばかりではない。場合によっては、消費税の還付として、消費税の申告をすることによって、税金が戻ってくることがある。主には、以下のようなケースが考えられる。

1.大幅な赤字になった場合

取引先の倒産などで売上が大きく減少したり、創業当初などで売上よりも仕入などの経費が多くなったりすると、消費税額は支払った金額のほうが大きくなり、マイナスで計上されることになるので、還付金を受け取ることになる。ただし、経費がかさみ赤字になってしまったからといって必ず消費税還付を受けられるわけではない。
国外取引をはじめとする不課税取引や、給与や租税公課、保険料などの非課税取引のような消費税の課税対象とはならない取引を除いてもなお赤字の場合に、消費税の還付を受けられる。特に給与や社会保険料はどの会社においても影響が大きいので、必ず考慮に入れる必要がある。

2.大幅な設備投資をした場合

自動車や機械設備の購入、建物の建設といった高額の投資を行い、固定資産の金額が著しく増加した場合にも、支払った消費税のほうが多くなる可能性があるため、消費税の還付が受けられることがある。ただし、土地の購入に関しては、消費税の課税対象外となるので、消費税還付を受けられない。
また、不動産賃貸業を営んでいる場合の、住宅の家賃収入は非課税となり、対応する建物の建設費用・購入費用は還付の対象外となるため、消費税還付を受けられないことが多い。

3.輸出を行っている場合

消費税は、日本国内での消費に対して課せられる税金であるため、海外に輸出されるものについては、海外で消費されることから、消費税が免税となる。輸出の免税の場合は、上述の非課税の場合とは異なり、それにかかる仕入については、還付の対象となる。

消費税還付の手続きについて

消費税の還付を受ける場合については、通常の消費税の申告書(消費税および地方消費税の確定申告書)以外にも、消費税の還付申告に関する明細書を作成し、事業年度終了の翌日から2ヵ月以内に税務署に提出する必要がある。

「消費税の還付申告に関する明細書」には、消費税が還付申告となった理由や、取引先ごとの売上、仕入れなどの明細を記載していく。還付金の支払いには、数週間~2ヵ月程度かかるのが通常なので、その間の資金繰りの手当てをしておくことも重要である。

また、多額の消費税の還付の申告を行う場合、その取引の実在性を含めて税務調査で調べられる可能性がある。1億円を超える多額の不正な還付申告を行ったとして検挙された事案もあり、特に還付の消費税の申告を行うにあたっては、慎重に申告書を作成しなければならない。

簡易課税制度と経理処理

消費税の計算方法は、通常のように支払った消費税と受け取った消費税を相殺して計算する「本則課税」のほかに「簡易課税制度」がある。

簡易課税制度とは

簡易課税制度とは、その課税期間の前々事業年度(基準期間)の課税売上高が5,000万円以下で、簡易課税制度の適用を受ける旨の届出書を事前に提出している事業者が適用できる制度である。実際の課税仕入れ等の税額を計算することなく、課税売上高から仕入税額控除の計算を行うことができる。

この制度は、仕入税額控除を課税売上高に対する税額の一定割合とする(みなし仕入率)ものである。売上を卸売業、小売業、製造業等、サービス業等、不動産業、その他の事業の6つに区分し、それぞれの区分ごとにみなし仕入率を適用する。みなし仕入率は、卸売業(第一種事業)は90%、小売業(第二種事業)は80%、製造業等(第三種事業)は70%、その他の事業(第四種事業)は60%、サービス業等(第五種事業)は50%、不動産業(第六種事業)は40%となる。

実際の仕入税額控除の金額の計算は、1種類の事業だけを営む会社の場合、課税売上にかかる消費税に該当事業のみなし仕入率を掛けたものを課税売上にかかる消費税から控除することによって行う。複数の事業に渡る場合については、複数の計算方法があり、基本的には最も有利な方法で計算することになるが、非常に複雑であるため、ここでは説明を割愛する。

なお、2種類以上の事業を営んでおきながら、売上高を区分せずに記帳してしまっている場合については、一番不利なみなし仕入率が適用されることになってしまうため、注意が必要である。

簡易課税制度を適用するための手続き

簡易課税制度の適用を受けるためには、納税地を所轄する税務署長に原則として適用しようとする課税期間の開始日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出しなければならない。ただし、自ら選択して課税事業者となった場合(「消費税課税事業者選択届出書」を提出しているなど)など一定の場合では、この届出書を提出できないことがあるので、事前に確認しておく必要がある。

この「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出した事業者は、原則として2年間は実額計算による仕入税額の控除に変更することができない。また、簡易課税制度の適用をとりやめて実額による仕入税額の控除を行う場合は、原則としてやめようとする課税期間の開始日の前日までに「消費税課税制度選択不適用届出書」を提出する必要がある。しかも、とりやめる課税期間の初日から課税仕入れ関係の帳簿および請求書を保存しなければならない。

なお、簡易課税制度選択届出書を提出していても、基準期間の課税売上高が5,000万円を超えるときには、その課税期間については簡易課税制度を適用できない。

そして、簡易課税制度を適用している事業者が税抜経理方式を採用していると、仕入や経費に関係なく未払消費税が計算されるため、通常仮払消費税と仮受消費税の差額から大きく差異が出る。この一致しない差額については、通常の消費税計算で生じた差額と同じく、雑益、雑損、租税公課で処理することになるが、金額に重要性がある場合は、独立した科目名で表示することも考えるべきだろう。なお、税込経理方式の場合は、通常の未払消費税計上の場合と同じである。

インボイス制度と消費税

2023年10月1日からインボイス制度が導入された。仮払消費税について考える際には、インボイス制度のことも知っておくことが必要だ。ここでは、インボイス制度と消費税について見ていこう。

インボイス制度とは

インボイス制度とは、買い手が消費税の仕入税額控除を受けるために売り手からインボイス(適格請求書)の発行が必要となるという制度だ。消費税の納税額の計算は、原則「売上にかかる消費税-仕入にかかる消費税(仕入税額控除)」で行う。

例えば税込金額で売上高220万円、仕入高110万円の場合(消費税率10%)の消費税納付額は「売上にかかる消費税20万円-仕入にかかる消費税(仕入税額控除)10万円=10万円」となる。

インボイス制度導入前では、国内誰からの仕入や経費であっても、領収書などの証拠書類があれば、仕入にかかる消費税(仕入税額控除)を使うことができた。しかしインボイス制度の導入後では、インボイス(適格請求書)の発行がある仕入や経費のみしか、仕入にかかる消費税(仕入税額控除)を使うことができない。

例えば上記の仕入高110万円がすべてインボイス(適格請求書)の発行がない場合、仕入税額控除は0円となり、売上にかかる消費税20万円をそのまま納付しないといけなくなる。
消費税の処理をする場合は「インボイスの発行がある仕入や経費なのか」「インボイスがないものなのか」を把握し、会計処理することが必要だ。インボイスの発行がある仕入や経費の場合、仮払消費税は発生するが、インボイスの発行がない仕入や経費の場合、仮払消費税は発生しない。

インボイス発行事業者になると、消費税の課税事業者になる。そのため自社が免税事業者の場合は、以下のどちらかを選択することが必要だ。

  • インボイス発行事業者になって消費税を納めるか
  • インボイス発行事業者にならずに免税事業者のままでいくのか

インボイス制度を導入するための手続き

自社がインボイス制度を導入するには、適格請求書発行事業者の登録が必要だ。また適格請求書発行事業者の登録をする際は、税務署へ申請が求められる。税務署への申請は、適格請求書発行事業者の登録申請書を作成し、税務署の窓口に提出するほか、納税地を管轄する「インボイス登録センター」への送付や、e-Taxでも可能となっている。

この申請による登録の効力は、税務署長が登録をした日から生じる。登録がされると登録番号などの通知がされるとともに、国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトに公表がされる。

インボイス制度のメリットとデメリット

インボイス制度の導入には、メリットとデメリットがある。インボイス制度を導入するかどうか迷っている場合は、メリットとデメリットを総合的に考えて判断しよう。インボイス制度のメリットとデメリットは、次のものがある。

・インボイス制度のメリット
インボイス制度のメリットは、何といってもインボイスの発行ができることだ。インボイスの発行ができることで、得意先への売上(取引先から見ると仕入)が仕入税額控除の対象となる。得意先からするとインボイスの発行がない仕入や経費は、消費税の納付額が高くなるため、インボイス制度を導入していない取引先とは取引がしにくくなる。

逆にいうと、インボイス制度を導入している会社は売上を伸ばせる機会が増える可能性が出てくるメリットもある。

・インボイス制度のデメリット
インボイス制度導入のデメリットは、インボイス発行の手間や費用がかかることだ。発行が求められるインボイスには、以下の事項を記載する必要がある(適格請求書の場合)。

  • 適格請求書発行事業者の氏名または名称および登録番号
  • 取引年月日
  • 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
  • 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜き又は税込み)および適用税率
  • 税率ごとに区分した消費税額等
  • 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称

インボイスの発行に対応したシステムの導入も必要となるため、コストも増加する。

インボイス制度の特例

インボイス制度には、次の2つの特例がある。

1.経過措置

インボイス制度を導入すると、インボイスの発行がない仕入や経費では、仕入税額控除を受けることができない。ただしインボイス制度開始後6年間は、インボイスの発行がない仕入や経費でも一定割合の仕入税額控除が受けられる経過措置がある。経過措置で受けることができる仕入れ税額控除は、次のようになっている。

  • 2023年10月~2026年9月 仕入税額控除の80%
  • 2026年10月~2029年9月 仕入税額控除の50%

経過措置がある間は、一定割合の仕入税額控除が受けられるため、インボイス制度を導入していない会社が取引先から適格請求書発行事業者の登録を求められる可能性は低い。

2.2割特例

2割特例は、免税事業者がインボイス導入により消費税の課税事業者になった場合に適用できる特例だ。特例の内容は「仕入税額控除を売上にかかる消費税額の80%とみなす」というものである。つまり売上にかかる消費税の2割だけを納付すればよいため、2割特例といわれる。

例えば税込金額で売上高220万円、仕入高110万円の場合(消費税率10%)の消費税納付額は、売上にかかる消費税額20万円-仕入税額控除16万円(20万円×80%)=4万円となる。仕入高110万円については、消費税納付額の計算に影響しない。

2割特例を使うと、事業内容によっては消費税の納付額が少なくできたり、仮払消費税の把握など作業の手間が少なくなったりする。

仮払消費税に関するQ&A

Q1. 仮払消費税はなぜ借方?

A. 仮払消費税とは、費用などの支出の際に本体代金と一緒に支払った消費税を表す勘定科目である。費用の科目は、支払時に借方勘定科目として仕訳を行う。仮払消費税も経費の本体代金と一緒に支払ったものであるため、同じように借方勘定科目として仕訳をする必要がある。
例えば1,100円(本体1,000円、消費税100円)の商品を購入した場合の仕訳は、次のようになる。

(借) 〇〇費  1,000円  /(貸)現金預金 1,100円
    仮払消費税 100円

Q2.消費税の申告はいつまで?

A. 消費税の申告期限は、法人と個人事業主で異なる。法人の消費税の申告期限は、決算日の翌日から2ヵ月以内だ。これは、法人税の申告期限と同じになっている。個人の消費税の申告期限は、原則翌年の3月31日だ。確定申告の期限が原則翌3月15日までとなっているため、確定申告よりも少し期限が長くなっている。

Q3.消費税の支払期限はいつ?

A. 消費税の支払期限は、原則申告期限と同じである。法人の場合は、決算日の翌日から2ヵ月以内に消費税の支払いが必要だ。個人の場合は、原則翌年の3月31日までの支払いとなるが振替納税を行っている場合は支払期限が異なる。

振替納税とは、事前に税務署に届け出をして税金を口座から自動引き落としで支払う制度。振替納税の日はその年によって異なるが、おおむね4月下旬となっている。ちなみに2021年分の消費税の振替納税日は、2022年4月26日になっている。

Q4.消費税は還付になる?

A. 売上などで消費者から預かった消費税の金額よりも費用などに支払った消費税の金額が大きい場合は、払い過ぎの消費税は還付される。例えば「大きな赤字が出ている」「固定資産への投資を多くした」「輸出業を営んでいる」といった場合などは、消費税が還付される可能性があるだろう。ただし簡易課税制度を選択している場合は、通常消費税の還付はない。

消費税の負担を減らすために適切な経理方式を選択しよう

税込経理方式を採用していると、消費税は仮払消費税として処理する。しかし、採用している経理方式や課税制度、取引の内容や種類によって消費税の扱いは異なる。消費税は日ごろの取引や経費計上に影響を与え、事業者にとっては負担も大きいため、自社の事業内容や売上金額など総合的に見て、どの経理を採用するのが一番有利なのかを総合的に見て選択するのが良いだろう。

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