主義
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中村 太郎
中村 太郎(なかむら・たろう)
税理士・税理士事務所所長。中村太郎税理士事務所所長・税理士。1974年生まれ。和歌山大学経済学部卒業。税理士、行政書士、経営支援アドバイザー、経営革新等支援機関。税理士として300社を超える企業の経営支援に携わった経験を持つ。税務のみならず、節税コンサルティングや融資・補助金などの資金調達も得意としている。中小企業の独立・起業相談や、税務・財務・経理・融資・補助金等についての堅実・迅速なサポートに定評がある。

新しい販売形態を取り入れたとき、「何日付けで売上高を計上するの?」と疑問を感じたことはないだろうか。今回は、中小企業の経営者であれば知っておきたい、商品やサービスの売上計上基準について解説する。

売上計上基準とは?

新しい商品やサービスを開発するときは、売上計上基準に注意が必要だ。売上計上基準とは、売上高をいつ計上するか、そのタイミングを決める基準のことである。売上高を計上するとき、日付はお客さんと契約をした日なのか、商品やサービスをお客さんに提供した日なのか、お客さんから入金された日なのか、迷ったことはないだろうか。

もし、売上をいつも異なるタイミングで計上している場合は会計期間中の正しい損益が計算されず、誤った内容の決算書になってしまう。その場合、決算書をベースに作成される税務申告書も、やはり間違ってしまうことになるのだ。当期に計上すべき売上高が計上されていなければ、延滞税や過少申告加算税が課されてしまう場合もある。

こうしたミスにつながらないよう、どの会社でも売上計上基準は必ず把握しておかなければならない。特に、新しい商品やサービスを開発したり、新しい販売方法を開始したりしたときは、「どの時点で売上高を計上するか」を最初に正しく判定する必要がある。売上高を計上する日付を決めたら、その後は売上計上基準を継続して適用することが大切だ。

会計上の売上計上基準は「実現主義」

売上計上基準は、会計上と税務上でそれぞれに規定があるが、基本的には会計上のものに従えばよい。会計上の売上計上基準は「実現主義」に基づいている。

企業会計原則では「収益や費用はともに発生した期間に計上すること」とされているが、そのうち収益については原則として「実現していないもの(=未実現収益)は計上しないこと」とされている。

また、会社の売上高はこの実現主義の原則に従って

・商品や製品などの販売
・役務の給付

によって実現したものに限るとされている。
(損益計算書原則より)

売上計上基準の3つの種類 発送基準・引渡基準・検収基準とは?

会計上、売上高を計上するタイミングは、お客さんに販売した日になる。では、「販売した日」とはいつのことを指すのだろうか。商店のように店舗内の商品をお客さんに販売する場合であれば、レジで代金を受け取って商品を渡した日になるためわかりやすい。

しかし、それらが別々の日になる販売形態は意外と多い。その場合、売上計上基準では主に「発送基準」「引渡基準」「検収基準」の3つを用いて販売した日を判定する。

売上計上の流れ

それでは、発送基準、引渡基準、検収基準によって、お客さんに販売した日がいつになるのか具体例で見ていこう。

例えば、お客さんから注文を受けて商品を発送するような販売形態では、一般的に次のような流れで販売が行われる。

・お客さんから注文を受ける

・お客さんに商品を発送する

・お客さんに商品が届く

・お客さんが商品の中身を確認する

・お客さんから代金が振り込まれる

代金が支払われるタイミングは販売形態によって異なるが、他は大体この流れになるだろう。

売上計上基準の決め方

先ほど、売上計上基準では売上高を計上するタイミング(=販売した日)は、発送基準、引渡基準、検収基準の3つで考えるとお伝えした。

それぞれの考え方は以下のようになる。

・発送基準……商品を発送した日をもって売上高を計上する
・引渡基準……商品が相手に届いた日をもって売上高を計上する
・検収基準……相手が商品を検収した日をもって売上高を計上する

つまり、次のいずれかの日で売上高を計上すれば、実現主義の考え方に適っていると考えられる。

・お客さんに商品を発送する(発送基準)
・お客さんに商品が届く(引渡基準)
・お客さんが商品の中身を確認する(検収基準)

実現主義による売上計上基準といっても、正解は1つではないということだ。どれを基準とするかは、その企業に委ねられる。

「どれを選んでもいいなんて、意外といい加減だな」と思われるかもしれない。しかし、仮に会社の売上が例年ほぼ同じように生じているとした場合、会社が売上高を計上するタイミングをいずれかの日に決めて、それを継続適用すれば、結局は会計期間で区切ったときに計上される売上高もほぼ同じになる。どの基準を選んでも、継続して適用することによって適正な期間損益が計算できるというわけだ。

販売形態別で見る売上計上基準の決め方

売上高を計上する日はお客さんに商品を販売した日となるが、それには複数の基準があることがわかった。しかし、商品やサービスの販売形態には、それだけでは判断に迷うような特殊なものもある。

企業会計原則では、その注解において

・委託販売
・試用販売
・予約販売
・割賦販売

といった特殊な商品販売形態について、売上高が計上されるタイミングを次のように示している。

1.委託販売

委託販売とは、販売の代理を他社に依頼する形態の販売方法である。例えば、メーカーが小売業者に自社製品の販売を委託するケースなどだ。委託販売によってお客さんに商品を販売した場合、その売上高は販売を委託された小売店などが販売した日をもって計上することとされている。

<具体例>
甲社(3月決算法人)は、乙社に甲社の商品Aの販売を委託している。
3月20日 乙社が商品Aをお客さんに販売した。
4月5日  乙社から甲社に精算書が送付された。
4月10日 乙社から甲社に販売代金が振り込まれた。

この場合、売上高を計上する日は3月20日が原則的な扱いとなる。決算日をすぎてから精算書が送られているが、決算手続き中に書類が到達することによって販売された事実が明らかになったものは、当期の売上高に計上しなければならない。ただし、販売のたびに仕切精算書(売上計算書)が乙社から甲社に送付されている場合は、その到達した日に売上高を計上することも認められる。

2.試用販売

試用販売とは、お客さんにお試しとして商品を送る販売形態だ。気に入れば買ってくれる得意先をターゲットとして販売を促進する方法である。試用販売では先に商品が引き渡されるが、気に入らなければ買ってもらえないため、商品を引き渡した日に売上高を計上するわけにはいかない。試用販売において売上高が計上されるのは、お客さんが買い取りの意思表示をしたときだ。

<具体例>
3月20日 甲社(3月決算法人)が得意先の乙さんに試用品を送付した。
4月5日  乙さんから買い取りの申し込みが行われた。
4月10日 乙さんから代金が振り込まれた。

この場合、商品が乙さんに引き渡されているのは3月20日であるが、買い取りの意思表示が行われたのは4月5日であるため、売上高は翌期の4月5日に計上しなければならない。

3.予約販売

予約販売とは、お客さんから先に代金を受け取って、後日商品を引き渡す販売形態のことだ。販売数が限られるものを販売するときなどに、用いられる手段となる。予約販売では、商品を引き渡した日やサービスの提供を行った日に売上高を計上する。

この点は普通だが、予約販売における注意点は、決算日までに商品の引き渡しやサービスの提供が完了した分のみが、当期の売上高に計上される点だ。引き渡しが終わっていない、あるいはサービスが提供されていないものは、前受金などの勘定科目で負債として翌期に持ち越す。先に代金をもらっているからといって、お客さんの申し込みがあった日や代金を受け取った日で売上高を計上してしまわないよう注意が必要だ。

<具体例>
甲社(3月決算法人)は、商品Aの予約販売を行っている。
3月10日 甲社が乙さんと丙さんから商品Aの予約販売の申し込みを受け、代金を受け取った。
3月20日 甲社から乙さんに商品を引き渡した。
4月10日 甲社から丙さんに商品を引き渡した。

この場合、当期の売上高に計上するのは乙さんから受け取った代金のみになる。

4.割賦販売

割賦販売とは、先に商品を引き渡し、代金を分割払いで受け取る販売形態のことだ。

<具体例>
3月20日 甲社(3月決算法人)が乙社に商品Aを割賦販売した(毎月20日、3回払い)。
4月20日 乙社から甲社に1回目の支払いが行われた。
5月20日 乙社から甲社に2回目の支払いが行われた。
6月20日 乙社から甲社に最後の支払いが行われた。

割賦販売において売上高を計上するタイミングは、原則的には商品を引き渡した日になる。
上記の例でいうと、3月20日に未収の代金(割賦売掛金)をすべて当期の売上高として計上する。

しかし、売上計上基準には、未実現の利益を計上してはいけないという考えが根底にあったはずだ。割賦販売は料金回収のスパンが長く、他の販売形態よりも料金を回収できなくなるリスクが高い。そのため割賦販売には、商品を引き渡した日の代わりに、入金された日や代金の支払期限が到来した日を「売上高が実現した日」と考える会計処理も認められている。ただし、この場合は会計処理がやや複雑になるため、注意が必要だ。

「発生主義」「現金主義」による売上計上基準

ここまでは、実現主義の売上計上基準について、さまざまな基準があることや特殊な販売形態における考え方についてお伝えした。この他に、実現主義以外で売上高の計上が認められるという、さらに特殊な例もある。関係する業種は限られるので、ここからは参考までに見ていただきたい。

発生主義・現金主義とは?

実現主義以外にも、会計には発生主義と現金主義という基準がある。先ほどの取引を、もう一度見てみよう。

・お客さんから注文を受ける

・お客さんに商品を発送する(実現主義)

・お客さんに商品が届く(実現主義)

・お客さんが商品の中身を確認する(実現主義)

・お客さんから代金が振り込まれる

発生主義とは「お客さんから注文を受ける」タイミングで、現金主義とは「お客さんから代金が振り込まれる」タイミングで、売上高を計上する考え方になる。もちろん、売上計上基準は原則として実現主義でなければならないので、通常は使えない。これが認められるのは、次のようなケースだ。

工事進行基準

「工事進行基準」とは、長期にわたる請負工事契約で使われる売上計上基準のことだ。長期にわたる工事契約では、まず請負契約を交わして工事に着手し、工事が完成してから依頼主に引き渡す。代金は、契約書の代金のうち一部を着工時に前受金として受け取り、完成時に残りの代金を受け取る。

実現主義で考えれば、売上高を計上するのは工事が完成し、依頼主に引き渡したときだ。
しかし、工事契約は個別の注文によって請け負うものであるため、「契約したのに依頼主が買ってくれなかった」ということに通常はならない。

また、完成時に支払われる代金についても、当初の契約できちんと決められている。つまり、契約の時点で、契約した金額分の売上高が将来実現する確実性がある取引といえる。このことから、長期にわたる請負工事では、発生主義のような考え方に基づいて、工事契約の代金の一部を工事の進捗度合いに応じて売上高に計上することが認められる。これを、工事進行基準という。

<具体例>
・4月1日  甲社(3月決算法人)は、乙社と1億円の請負工事契約を締結した。
・3月31日 工事の進捗度は40%である。

工事進行基準を適用していれば、甲社は4,000万円の売上高を当期に計上することになる。ただし、完成した時点で売上高を計上する、実現主義による経理も認められている。この実現主義による売上計上基準のことを「工事完成基準」という。

農作物の収穫基準等

農業においては、一定の農作物の売上計上基準に「収穫基準」という考え方が用いられる。収穫基準とは、収穫時にその農作物の価格を売上高として計上するもので、発生主義の考え方による基準といえる。

割賦販売の回収基準

実現主義の特殊な販売形態で触れた割賦販売では、商品を引き渡した日(実現主義)の他、代金回収日(現金主義)も認められる。

税務上の売上計上基準はどうなる?基本的には「実現主義」

税法上の売上計上基準は、会計とほぼ同じだ。法人税法でも、販売などによる収益の額は、目的物の引き渡しや役務の提供を行った日の属する事業年度の益金に算入するとしている(法人税法第22条の2第1項)。つまり、税法上の売上計上基準も「実現主義」だ。

それでは、発送基準、引渡基準、検収基準といった違いはどのようになるだろうか。法人税法ではさらに、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って、その販売契約の効力が生じる日や引き渡しの日に近接する日として経理した場合は、その収益の額は事業年度の益金の額に算入するとも定めている(同条第2項)。

「引き渡しの日」については「出荷した日、船積みをした日、相手方に着荷した日、相手方が検収した日、相手方において使用収益ができることとなった日等当該棚卸資産の種類及び性質、その販売に係る契約の内容等に応じその引き渡しの日として合理的であると認められる日のうち法人が継続してその収益計上を行うこととしている日による」としている(法人税法基本通達2-1-2「棚卸資産の引き渡しの判定」)。

つまり、税法上も基本的には実現主義となり、会社が選んだ売上計上基準で経理したもののとおりに税務申告をすればよいことになる。

会計と税務で基準が異なる場合も!長期大規模工事の扱いに注意

ただし、規模の大きい長期の請負工事については、税務上の扱いが会計と一致しないケースが出てくる可能性がある。税法上、工期が1年以上でその請負対価が10億円以上、工事の請負対価の2分の1以上がその引き渡し期日から1年を経過する日の後に支払われるという定めがないといった要件に該当する大規模工事(長期大規模工事)については、「工事進行基準」を適用するとしている。

会計上は、工事進行基準・工事完成基準のどちらでもよい。工事の規模で分けるルールにはなっていないため、工事完成基準で経理をしている場合は、税務との違いに注意が必要だ。

新しい売上計上基準とは?

平成30年に、新しい会計基準として「収益認識に関する会計基準」が公表されている。今回解説した売上計上基準は、実現主義をとる考えは示されているものの、企業の判断に委ねられている部分も多い。新しい収益認識基準は、会計のグローバル化に伴って、日本の会計基準を国際的に整合性のあるものにするため取り入れられている。

具体的には、収益を認識する手順を5つのステップに分けて、その金額を認識する。個々の契約ごとに履行義務を識別し、履行義務を基準に取引価格を配分して収益を計上することが特徴だ。

例えば、1つの契約であっても内容が商品の販売と保守サービスといった2つの履行義務が盛り込まれたものであれば、それを商品の販売と保守サービスの提供に分けて取引価格を配分し、それぞれの実現とともに売上高を計上する。

ただし、中小企業(監査対象法人以外)については、引き続き現行の企業会計原則による処理も可能だ。それ以外の法人については、現在は任意で適用が認められ、令和3年4月1日からは強制適用となる。

売上計上基準を判断するのに迷ったら専門家に相談を

先述したとおり、売上計上基準は実現主義をとるが正解は1つではない。大切なのは同じ基準を継続して適用することであり、新しい商品やサービスの販売を開始する際は最初にしっかり判定することが重要だ。売上高を計上する際の判定に迷ったときは、会計士や税理士に相談していただきたい。

文・中村太郎(税理士・税理士事務所所長)