M&A
(画像=Thanakorn.P/Shutterstock.com)

小規模なものを含めると、M&Aは増加傾向にあります。テクノロジーの進化によるビジネスの変化やインターネットによる情報流通の高まりにより、企業同士が手を組むことのメリットが増えていることが背景にあります。しかし、必ずしもすべてのM&Aが成功しているわけではありません。逆に、失敗事例をみていくことで、上手な相手先の選び方も見えてくるものです。

目次

  1. 海外におけるM&Aの失敗事例2選
    1. 1.ダイムラー・ベンツ……「世紀の合併」は10年たたずに瓦解
    2. 2.AOLタイムワーナー……ITバブル崩壊や企業文化の違いで崩壊
  2. 日本におけるM&Aの失敗事例4選
    1. 1.東芝……「のれん代」で巨額損失、債務超過に転落
    2. 2.キリン……ブラジルの新興国市場を狙うも伸び悩み
    3. 3.LIXIL……中国子会社で不正会計発覚
    4. 4.第一三共……買収会社の生産管理体制がずさんで失敗
  3. M&Aが失敗してしまう3つの理由
    1. 1.従業員に納得のいく説明をしなかった
    2. 2.規制強化や景気の落ち込み、ビジネス環境の変化があった
    3. 3.デューデリジェンスが不十分だった
  4. 海外におけるM&Aの成功事例3選
    1. 1.ウォルト・ディズニー……興収10億ドル作品が7本
    2. 2.エクソン・モービル……石油資本大手の合併
    3. 3.アンハイザー・ブッシュ・インベブ……食品業界最大の買収劇
  5. 日本におけるM&Aの成功事例3選
    1. 1.イオン……業務提携を通じて販売網を拡充、ドラッグストアにも参入
    2. 2.JT……グローバルにたばこ企業を買収
    3. 3.日本電産……技術や販路を育てるための「時間」を買うM&A
  6. 成功への実践の道とは?
  7. 自社にとって必要なM&Aは見えてきた?

海外におけるM&Aの失敗事例2選

ここからは海外のM&Aの失敗例を順番に見ていきましょう。

1.ダイムラー・ベンツ……「世紀の合併」は10年たたずに瓦解

海外のM&Aで有名な失敗例といえば、ドイツの自動車メーカー、ダイムラー・ベンツと米国の同業クライスラーの合併でしょうか。1998年に発表されたダイムラー・ベンツと米ビッグスリーの一角であるクライスラーとの統合は「世紀の合併」とも呼ばれ注目を集め、自動車業界再編の走りともなりました。高級車市場で強いダイムラー・ベンツと大衆車ブランドのクライスラーの国境を越えたシナジー効果が期待され、車台の共通化などのコスト削減策にも目が向きました。しかし、最終的に2007年にクライスラー部門が米投資ファンドに売却されて「世紀の合併」は終わりを迎えます。うまくいかなかった理由としては、ルールを重んじるドイツ流とオープンな米国流といった企業文化の違いや、名ばかりの「対等合併」の影響で人材が流出したことなどが指摘されています。

2.AOLタイムワーナー……ITバブル崩壊や企業文化の違いで崩壊

大きな注目を集めたものの失敗に終わった海外のM&Aといえば、2000年に発表された米メディア大手タイムワーナーと米ネット大手AOLとの合併です。出版大手のタイムと映画制作のワーナー・コミュニケーションズが合併して生まれたタイムワーナーがネット企業のAOLと一緒になるという動きは、コンテンツ流通のインフラとしてインターネットの存在が当たり前となった現在からみると当然のようにも思えますが、最終的には失敗に終わります。

ケーブルテレビ網を利用したブロードバンド接続やコンテンツのネット配信といった相乗効果が期待されていましたが、新会社のAOLタイムワーナーは2002年の決算で1,000億ドル規模の巨額な赤字を計上。その後も社内の融合はうまくいかず、2009年にAOLが分離して両社の合併は終わりを告げました。失敗の原因として指摘されるのは、合併後に「IT(情報技術)バブル」がはじけたことや、長い歴史を持つタイムワーナー側と自由なインターネット文化を背景に持つネット企業のAOL側との企業文化の違いなどです。

日本におけるM&Aの失敗事例4選

日本においても大きく失敗してしまったM&Aの事例があります。

1.東芝……「のれん代」で巨額損失、債務超過に転落

日本企業がからんだM&Aの失敗事例といえば、巨額な損失につながった東芝による米原発ウェスチングハウスの買収を思い浮かべる人も多いでしょう。東芝は、テレビなどの家電をはじめ、携帯電話やパソコンといった消費者向けの製品のほか、電子部品や医療機器などの産業用製品、さらには鉄道車両や発電機なども手掛ける総合電機メーカーでした。

その東芝が次の主力事業として見定めたのが原子力発電で、原発の世界大手を目指し、2006年にウェスチングハウスを約54億ドルで買収します。21世紀はじめは、地球温暖化対策や安全保障の観点から原発に注目が集まり「原子力ルネサンス」ともいわれました。

しかし、2011年に東日本大震災が起こり、原発の安全性について懸念が高まるなど事業環境が悪化。建設費用の高騰や工期の遅れの影響もあり、東芝はウェスチングハウスの買収に際して「のれん代」として3,300億円を計上していましたが、2016年3月期に2,600億円の減損損失が生じました。

さらに米国での原子力事業をめぐって7,000億円を超える損失が発生し、東芝は債務超過に陥りました。自然災害の発生やその余波について予測することは容易ではありませんが、原発関連技術が他分野への応用が難しかった点や、震災後に原発に対する懸念が広がっても事業を切り離す決断が遅れたことが東芝にとって厳しい状況を招いたといえるでしょう。

2.キリン……ブラジルの新興国市場を狙うも伸び悩み

飲料メーカーのキリンも海外企業のM&Aで失敗を経験しています。キリンは2011年、ブラジルのビール・飲料大手スキンカリオールを約2,000億円で買収しました。日本国内の人口が減少し、飲食店に入って「とりあえず、ビール」という時代ではなくなりつつある中、国内ではなく海外に活路を見出すためのM&Aでした。

ブラジルは当時、「BRICs」とも呼ばれた、ロシアやインド、中国と並んで21世紀に目覚ましい経済発展を遂げると期待された4ヵ国のうちの1つで、ビールなどの市場も拡大が見込まれていました。しかし、ブラジルの景気が低迷したほかレアル安などもあり、期待したような成果が出ず、2015年には約1,100億円の減損損失が発生。ブラジル子会社は2017年にオランダのビール大手ハイネケンの子会社に売却されました。

3.LIXIL……中国子会社で不正会計発覚

住宅設備大手のLIXIL(リクシル)は2014年にドイツのグローエを買収しましたが、その中国の子会社による不正会計の影響で600億円規模の損失を計上しています。M&Aでは買収の対象となる企業の債務や財務状況などを精査するデューデリジェンス(資産査定)が重要ですが、この件ではそうした調査が不十分で、買収後に不正会計が発覚して損失につながりました。

4.第一三共……買収会社の生産管理体制がずさんで失敗

第一三共が2008年にインドの後発医薬品メーカー、ランバクシー・ラボラトリーズを買収した際には、買収後にずさんな生産管理体制が発覚。米国が禁輸措置を行ったことを受けて、2009年に約3,500億円の減損損失を計上しています。

こうした失敗に終わったM&Aに共通している点は、どんなものがあるでしょうか。

M&Aが失敗してしまう3つの理由

M&Aの目的の1つは、買収や合併を通じて企業の規模を拡大し、売り上げや利益の増大を目指すというものです。同業とのM&Aならば、製造拠点の統合や部品の共通化、販売網の拡充などを通じてスケール・メリットを得られるでしょう。

しかし、実際には、異なる背景を持った2社の統合がそう簡単に行えるわけではありません。伝統を重んじる社風なのか、自由闊達な職場なのか、あるいは、組織を重視するのか、個人プレーが奨励されるのかといった企業文化の衝突は避けては通れない道です。

1.従業員に納得のいく説明をしなかった

経営陣同士が納得していても従業員が不安や不信を覚えることもあるはずです。従業員だって人間ですので買収相手に対する単純な反発や今いる会社に対する愛社精神といった感情面もあるでしょう。あるいは、給与が下がったり勤務地が変わったりするといった実際的な雇用条件からM&Aを受け入れられないこともあるかもしれません。

こうした不平不満が重なれば、組織の中であつれきが強まったり、優秀な人材が流出したりといった事態につながりかねません。M&Aを実施しただけでシナジー効果が得られるわけではなく、M&Aの実施後も業務や組織、人材に対する目配りは欠かせません。

2.規制強化や景気の落ち込み、ビジネス環境の変化があった

東芝やキリンのケースを持ち出すまでもなく、ビジネス環境の変化はM&Aの成否に大きくかかわる部分といえるでしょう。M&Aを検討していた当時と、M&Aを実施した後とのビジネス環境に大きな変化があれば、当然のことながら、M&Aで想定していた結果にも影響が出てきます。自然災害の発生とそれに伴う建設費用の高騰といった影響は事前の予測が容易ではありませんが、ビジネス環境に変化が訪れた場合、M&Aの目標について再検討する必要もあるかもしれません。また、M&Aを通じて新たに参入した市場の動向が想定通りだったのかといった部分についても点検が必要でしょう。

3.デューデリジェンスが不十分だった

M&Aをした相手が実は不正会計をしていた――。こんなことがM&A後に発覚しては目も当てられません。M&Aの前には当然、デューデリジェンスを行うのですが、どうしても手に入れたい企業だったり、買収の競合相手がいたりした場合でも、査定を拙速に行わないことを肝に銘じておくべきでしょう。

財務上の不正以外にもコンプライアンス(法令順守)違反があれば訴訟や行政処分に発展する可能性があるので、M&A先の業務について事前にきちんとした知見を得ていることも必要です。

ここで、これまで見てきた成功例、失敗例を通じてM&Aを成功させるための道のりを考えてみましょう。

海外におけるM&Aの成功事例3選

それではまずM&Aのなかで海外の成功した事例を見ていきましょう。

1.ウォルト・ディズニー……興収10億ドル作品が7本

海外の企業でM&Aを通じて成功を収めている企業といえば、米娯楽・メディア大手のウォルト・ディズニーでしょうか。「ミッキーマウス」など米国を代表するキャラクターを擁し、映画制作やテレビ放映、テーマパークの運営などを手掛けています。このディズニーが2006年に買収したのがピクサー・アニメーション・スタジオでした。1986年創業のピクサーは、「トイ・ストーリー」(1995年)や「ファインディング・ニモ」(2003年)といったヒット作を制作しており、これらの作品はディズニーが配給していました。そのピクサーをディズニーが買収したのです。ディズニーは2009年にはマーベル・エンターテインメントを買収。

さらに2012年には人気SFシリーズ「スター・ウォーズ」を手掛けるルーカス・フィルムを獲得しました。いずれのM&Aも娯楽企業としての強みとなる人気キャラクターの拡充を目指したものです。こうした戦略をもとにディズニーはヒット作を連発。ディズニーは2019年に「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」や「アベンジャーズ/エンドゲーム」「トイ・ストーリー4」など興行成績10億ドルを突破した作品を7本も公開しています。

2.エクソン・モービル……石油資本大手の合併

1999年に行われた石油メジャー、エクソンとモービルの合併も成功事例といえるでしょう。第2次世界大戦から1960年代にかけて石油市場で主導権を握っていた国際石油資本7社を「セブン・シスターズ」と呼ぶこともありますが、そのうちの2社が合併した誕生したエクソンモービルは今も石油ガス生産の世界大手として存在感を放っています。

3.アンハイザー・ブッシュ・インベブ……食品業界最大の買収劇

2015年にはビール世界最大手の アンハイザー・ブッシュ・インベブ(ベルギー)が同業2位の英SABミラーを買収しました。食品業界で最大級となった買収では、本部拠点の統合や、生産や物流網の集約によって経費削減を進めたほか、「バドワイザー」や「バドライト」「キャッスルラガー」といったブランド力のある商品を軸に世界各地の市場で高いシェアを誇ります。

日本におけるM&Aの成功事例3選

日本のM&Aでも成功した事例はいくつもあります。

1.イオン……業務提携を通じて販売網を拡充、ドラッグストアにも参入

日本企業が絡むM&Aの事例といえば、イオンによるダイエーの買収が注目を集めました。イオンは業績の低迷するダイエーを2015年に完全子会社化しました。イオングループは1758年に初代の岡田惣左衛門が太物・小間物商を四日市で始めたことにルーツを持つ歴史の長い企業ですが、各地のホームセンターやディスカウントショップなどとの業務提携を通じて事業を拡大しました。中小のスーパーを買収することで販売網を拡大したほか、ドラッグストアの買収によってスーパー以外の新しい分野への進出も果たしています。

2.JT……グローバルにたばこ企業を買収

日本企業によるM&Aの成功事例としてはJTによる米英企業からのたばこ事業の買収も有名でしょう。JTは1999年に米RJRナビスコから米国外のたばこ事業を獲得したほか、2007年には英ギャラハーを買収しました。JTによれば、RJRナビスコからたばこ事業を買い取ったことで世界3位の地位に躍進し、売り上げは約10倍に増大したそうです。

「CAMEL」などの世界的なブランドを獲得したほか、世界規模の流通網や販売網、生産拠点も手に入れました。ギャラハーの買収はたばこ事業の強化につながり、シェアで2位以上の市場が10ヵ所に拡大したそうです。JTはこうした買収を通じて海外の市場への足掛かりを確保したほか、ブランドの強化や販売・流通網の拡充、ノウハウの獲得を実現させました。

3.日本電産……技術や販路を育てるための「時間」を買うM&A

日本電産が2016年に実施した、米電機エマソン・エレクトリックのモーターやドライブ、発電事業の買収も成功事例の1つといえるでしょう。産業用のモーターや電子部品の製造、販売を手掛ける日本電産は、エマソンからモーターとドライブ、発電機の3事業を買収することで北米と欧州の市場での競争力が高まりました。

1973年創業の日本電産は1980年代からM&Aを通じた事業の拡大を戦略的に進めています。同社のサイトによれば、「回るもの、動くもの」に特化し、技術や販路を育てるために必要となる「時間を買う」という考え方に基づいてM&Aを進めているそうです。

成功への実践の道とは?

そもそも論として、そのM&Aが本当に必要なのかどうかという点については十分に精査すべきです。

そして、市場シェアを獲得するのか、売り上げを伸ばすのか、ノウハウを獲得するのか、新規事業参入への足掛かりにするのか――M&Aと言っても目指す先はさまざまなはずで、こうした具体的な目標がなくM&Aをすること自体が目的となってしまうと失敗のもととなってしまいます。

自社のコア・コンピタンス(中核的な能力)を見極め、M&Aを通じた短期的・長期的な目標を定める。そうした議論の土台を固めてから自社のより一層の成長や強化に資するM&Aとはどんなものなのか検討するのはいかがでしょうか。その際にはM&A仲介会社のような専門家の活用も頭の片隅に置いておきましょう。

M&A成功のカギはやはり情報収集のフェーズが重要です。M&A先の業務内容や財務状況、組織や人材、取引先など、わかる限りの情報について収集し、十分に分析することが大切です。

場合によってはM&Aの仲介会社の知見を借りることも検討すべきでしょう。社内からの見方だけでは気づかなかったM&Aのリスクや欠点なども教えてもらえるかもしれません。

デューデリジェンスについても一企業だけで行うには限界があり、法務や財務、会計、定款などの精査については専門家を活用することが、リスクの回避や、最終的な時間やコストの削減にもつながることでしょう。

自社にとって必要なM&Aは見えてきた?

成功事例も大事ですが、失敗事例を参考にすれば、「その道をたどってはいけない」ということがわかるはずです。失敗につながる可能性のある選択肢をせばめていけば、おのずと成功への道が開けるはずです。これまでの失敗事例を反面教師にM&Aについて考えてみるのはいかがでしょうか。

まずは無料でご相談ください。
無料会員登録はこちら