矢野経済研究所
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2024年10月
生活・環境・サービス産業ユニット 上級研究員 丁田徹也

少子化の現状

1990年に合計特殊出生率が過去最低であった1.58を切り、日本国内の少子化が問題視されるようになってから30年以上が経過しているが、少子化は現在もなお進んでおり、2023年の合計特殊出生率は1.20まで低下した。
出生数は、1990年の122.2万人から2015年には100.6万人となり、25年で約22万人の減少であったが、2023年には72.7万人となり、2015年からの僅か8年で約28万人もの減少となっており、少子化が加速している。

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英語学童市場の現状

私が所属するチームの調査分野である「語学ビジネス」市場も少子化の影響を受けており、子ども向けの英会話スクール市場は縮小している。しかしながら、同じ子ども向けサービスの中でも「英語学童」市場は唯一好調に成長している。そのため、本稿では、「英語学童」市場の状況について改めて振り返ってみたい。

「英語学童」は、実施に当たっての届け出義務や運営ルールなどは特になく、業態についても明確な定義が存在しないが、当社の調査レポート「語学ビジネス市場の実態と展望」においては、「英語学童」を“英語教育を主体とし、預かり機能を有する小学生を対象とするサービス”としている。

主な英語学童サービスには、スクールIE等の教育事業で知られるやる気スイッチグループの「Kids Duo」や、テルル等の携帯販売店をはじめとした多角的な経営で安定基盤を持つP-UP Worldグループの「KidsUP」、民間学童保育に特化したウィズダムアカデミーの「ウィズダムアカデミーPRIME」などがある。

「英語学童」市場が好調に成長していることもあって、直近では、英会話スクールのNOVAを運営しているNOVAや、英会話スクールのシェーン英会話を運営しているシェーンコーポレーション、学習塾の明光義塾を運営している明光ネットワークジャパンなどの大手事業者の参入が増えている。

「英語学童」サービスは、週1回1万円以上の高単価なサービスが多いが、高所得の共働き家庭や富裕層家庭での利用を中心に盛況である。現在、提供されているサービスは、オールイングリッシュで外国人講師とのリアルなコミュニケーションを楽しみながら子どもたちの言語能力を高めるものが多く、学習塾との差別化はもちろん、サービスの高付加価値化にも成功していると言える。高付加価値化の例としては、コミュニケーション面だけではなく読み書きにも注力する英語学童サービス、英検®対策も行なう英語学童サービス、STEAM教育を取り入れたる英語学童サービス、食にこだわった英語学童サービスなど、様々なものが挙げられる。

英語学童市場が拡大している理由

少子化にも関わらず「英語学童」市場が伸びている理由には、「小1の壁」と「英語必修化」の2つが挙げられる。

  1. 小1の壁

「待機児童問題」と言えば、これまでは保育施設に入所する年齢の子どもの話だったが、政策により保育の受け皿整備が進んだことで、保育待機児童の問題は解消に向かっている。
しかしながら、保育園では子どもを預かってもらうことができた家庭が、小学校入学と同時に子どもを預ける場所がなくなってしまい仕事と家庭を両立できなくなる、という「小1の壁」が新たな社会問題となっており、小学生の預かり需要は増加している。
こども庁が発表した2024年5月1日時点での放課後児童クラブの待機児童(速報値)は1万8,462人(前年同月比2,186人増)だったことからも、問題解決には時間が掛かるとみられ、このような状況が「英語学童」サービスの利用を増やす要因になっている。

2. 英語(外国語)必修化

2020年度に、小学3年生から「外国語活動」、小学5年生から「教科」として英語(外国語)の授業が実施されることになった。新たに英語が必修となったことで、子どもの学習の進捗を心配する保護者が増えており、預かり需要の増加と合わせて、それも「英語学童」サービスの利用を増やす要因になっている。

英語学童ビジネスの可能性

前述の通り、少子化は確実に進行しているものの、「小1の壁」や「英語必修化」を背景に、当面の間は、「英語学童」サービス市場は堅調に成長していく、と当社では予測している。
このように「英語学童」市場は、今後の成長性を期待できる市場であるため、英語教育サービスのみを提供している事業者は、自社のサービスに「預かり機能」を付加することを検討してみるべき、と考えている。それは、英語教育サービスに、預かり機能を付加することで、“子どもを預けたい”というニーズを新たに拾うことができるようになり、より顧客を獲得しやすくなるためである。
特に、英会話スクール事業者は、教室という子供を預かることができる空間を保有しており、また子供を指導できる人材もいるため、このような子どもの預かりニーズを積極的に拾っていくべきではないだろうか。
例えば、空いている時間帯の教室をうまく活用して、預かりサービスを展開してはどうだろうか。もしも英語の指導をできる人材が不足しているのであれば、英語の書籍や動画などで自己学習ができたり、英語のゲームで友達と遊べたりするスペースを設置して、見守る人を配置しておくだけでも“子どもを預けたい”という顧客のニーズを満たすことは可能である。そのような気軽に且つ安価に利用できるサービスを広く普及させていくことができれば、現在の利用の中心となっている高所得の共働き家庭や富裕層家庭だけではなく、中間層以下の家庭の子供たちにも広く利用してもらえるサービスを展開していくことができる可能性もある。

また“子どもを預けたい”というニーズは、仕事以外にも、買い物、親戚行事、冠婚葬祭など多様な場面で発生するものであるため、そのような多様なニーズを拾っていくためにも、英会話スクール事業者は、自社の英語教育サービスに「預かり機能」を付加することを今一度検討してみるべきである。