「オークション」という語を目にした時、何をイメージするだろうか。日本では「ヤフオク!」などのネットオークションが頭に浮かべる人が多いだろう。一方、欧米では美術品や骨董品などが高値で売買されるオークションやアートビジネスに対する認知度が高い。そのため、欧米で同じ質問をすれば高額オークションを答えに挙げる人が日本よりもずっと多いはずだ。日本では富裕層限定のものと思われがちな高額オークション。ところが、我々が想像するよりもずっと身近なもののようである。
世界的なオークションでは取扱高が“一晩”で数百億円にのぼることも
世界の金融の中心地であるニューヨークには、1700年代に創業したサザビーズやクリスティーズをはじめ、世界に名だたるオークションハウス(競売会社)の本社が集結する。サザビーズは1744年にロンドンで創業して以降、世界中でオークションを開催し、歴史的なアーティストの作品や宝飾品などを手掛けてきた。
一方のクリスティーズは1766年に同じくロンドンで創業。ほかにも、現代アートに特化しているフィリップス、アンティーク貨幣に強みを持つヘリテージ・オークションズ、クラシックカーで知られるボナムスなど、数多くの著名オークションハウスが欧米に居を構えている。
実は、日本にも東証ジャスダック上場のShinwa Wise Holdingsをはじめ、いくつかのオークションハウスが存在する。もっとも、前述のサザビーズやクリスティーズの“一晩”の取扱高が数百億円にのぼるのに対し、Shinwa Wise Holdingsのオークション関連事業の取扱高は“年間”で46億円程度(2019年5月期決算を参照)。比べようもないほど規模に差が生じている。
日本でも、美術品などのオークションが話題を集めることはある。しかし、それは「著名アーティストの作品が○○億円で落札された」など、人々の口端にのぼるのは落札金額ばかりだ。あるいは落札した人物が著名人である場合、その著名人にもスポットが当てられる。
たとえば、「衣料ネット通販のZOZOTOWNの前澤友作社長(当時)が、現代アートの巨匠ジャン・ミシェル・バスキアの作品を123億円で落札」といった具合だ。ちなみに、このバスキアの作品のオークションを開催したのも前述のサザビーズである。
報道の姿勢が人々をアートから遠ざける一因に
日本で高額オークションやアートビジネスの一般的な認知度、関心が低いことについて、「メディアにも原因の一端がある」と指摘するのは、サザビーズジャパンの石坂泰章代表だ。
「日本のメディアではオークションやアートビジネスについて報道する機会が少ないうえ、アートビジネスそのものについて語られることがありません。アートを身近に感じさせるのではなく、アートを“雲の上の世界”として遠く感じさせる報道が多くなっているんです」(石坂氏)
日本の新聞の世界では文化のことは文化部、ビジネスや経済のことは経済部と敷居が分かれていて、その垣根をまたいだ記事はほとんど書かれない。一方、欧米では美術品の収集だったり、ギャラリーの情報だったりが日常的に報じられているため、オークションやアートに対する人々の関心が自然と高くなるという。これが、欧米と日本の間に大きな差を生みだしている大きな原因になっているのである。
5000ドルから数万ドル程度の出品が多数!
そんな“雲の上の存在”と見られがちの高額オークションだが、フタを開けてみれば意外と身近でもあるようだ。前述の石坂代表は、「世界的なオークションハウスのオークションでも、そこまで高額なものばかりではない」と話す。
「日本のメディアで報じられるのが何億円、何十億円という落札価格の作品だけなので、オークションではそのような高額なものばかりが出品、落札されている印象を持たれていると思いますが、実際には5000ドルから数万ドル程度の出品物が半数を占めているんです」(石坂氏)
サザビーズなどの世界的なオークションハウスでも、登録をしさえすれば誰でもオークションに参加することが可能だ。5000ドルというと、現在の為替レートで54万円程度。“誰でも手が出せる”ものではないかもしれないが、全く手が届かない“はるか雲の上の存在”でもないだろう。
もちろん、コンプライアンス全盛の時代。資産内容や人物についてはきちんと調査が行われる。過去に犯罪歴があったり、保有する資産が不正や犯罪等で築かれたものである場合は参加不可だ。逆にいうと、労働やまっとうな投資によって築かれた資産であれば問題はないということである。また、100万円程度までならクレジットカードを利用することもできるようだ。
また現在、前述した世界的なオークションハウスでもインターネットを活用したオークションの参加が可能になっている。まだその規模は小さいが、サザビーズ副会長のオーガスト・ウリベ氏は「これから確実にネットを活用したオークションの市場は拡大するだろう」と話す。ネットオークションが普及すれば、世界的なオークションはさらに身近なものになるだろう。
ちなみに、何億円、何十億円という取引に参加するためには、プライベートバンクなどへのリファレンス(照会)が行われるという。日本の金融機関はそうしたリファレンスには応じない可能性が高いため、海外のプライベートバンクに口座を持っていないと億単位のオークションに参加することは難しそうだ。