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株式会社オズ プリンティングは、山梨県甲府市に拠点を置く地域密着の印刷会社であり、長い歴史を持つ一方で、最新のデジタル技術にも果敢に挑戦している。その姿勢は、一見すると相反するように見える「古き良き活版印刷」と「最先端のデジタル化」を同時に追求することにある。その革新性と地域貢献の精神は、印刷業界でもいま最も求められていることだ。(TOP写真:オリジナルかるた オンデマンド印刷機で小ロットでの印刷ができるようになり受注が増えたオリジナルかるた)
自ら〝山梨デジタル化計画〟を推進。特にデジタルサイネージに着目 他社が提供していない様々な工夫
オズ プリンティングは1953年4月に創業。2016年に3代目社長に就任した小澤孝一郎代表取締役社長は「私の祖父がたった一人で、〝ガリ版印刷〟を商売にしたのが始まりです」と話す。その後も地元に密着した会社として市民に親しまれてきた。
2016年の社長就任当初から、「伝統的な印刷技術を守りつつ、地域社会のデジタル化を推進する」という使命を掲げる小澤社長。2019年3月には、社内にWEBデジタル事業部を新設し、デジタルコンテンツの提供を本格的に始めた。その中でも、特に力を入れているのがデジタルサイネージ事業である。小澤社長は「AIとデジタルサイネージ、デザインを組み合わせたサービスがこれからの時代をリードするだろう」という見解を早くから持っていた。そのため、この分野に先行して注目し、積極的に取り組んできたのである。
デジタルサイネージは、1980年代に国内で導入されたものの、その普及には時間がかかった。特に、専用サーバーの設置にかかる高コストが普及を阻む大きな障壁となっていた。しかし、その後の技術進歩により、インターネットを通じてコンテンツを受信し、ディスプレイに表示することが可能となり、導入コストが大幅に削減された。
この結果、デジタルサイネージの需要は急速に高まっている。山梨で生まれ、山梨で育った小澤社長。山梨県は全国的に見てもデジタル化の進展が遅れていると感じ、地域のデジタル化を進めるために〝山梨デジタル化計画〟と称して積極的に動いている。小澤社長は「デジタルサイネージを扱う業者のほとんどが大手。そこで、小規模なデジタルサイネージの設置ニーズに対し、オールインワンで応えられる仕事がしたかった」と語る。ディスプレイのデザインにもこだわり、全国のメーカーを探しておしゃれな木枠のディスプレイを見つけ、本社事務所の壁に設置。地元におけるデジタルサイネージの〝広告塔〟としての役割も果たしている。
ただ、地元では、「理解してくれる人が少なく、現実は簡単ではなかった」(小澤社長)。ちょうどその頃、デジタルサイネージの製品販売を強化したい大手複合機メーカーとのコラボレーションが始まった。2020年の初めに甲府市で開催された、印刷会社が顧客企業向けコンテンツを提案するイベントに出展。新たな商談が舞い込むなど、デジタルサイネージへの認知度が高まっている。たとえば、家族の連絡事項や子どもの書いた絵などを掲示するディスプレイをハウスメーカーがモデルルームに採用するなど、様々な用途に広がっている。
360度撮影とARサービスへの挑戦 地域社会の活動支援のためにデジタル技術を浸透
オズ プリンティングは、地域社会にデジタル技術を浸透させる取り組みを次々と実施しており、その中核となるプロジェクトの一つがデジタルサイネージ事業だ。しかし、デジタル化事業はこれだけではない。
2022年4月になって、オズ プリンティングは新たな挑戦として、360度撮影カメラを活用したサービスを開始した。これは、新型コロナウイルス感染症の影響で来客数が激減した地元商店街を支援するための取り組みである。オズ プリンティングは、甲府市の中心に位置するオリオン・スクエア商店街をバーチャル体験できるサイトを立ち上げた。これにより、実際にその場に行かなくても、パソコンやスマートフォンを通じて商店街を散策する感覚を味わうことができる。このプロジェクトは、地元商店街の活性化に貢献し、商店街の魅力を広く発信することに成功している。
さらに、オズ プリンティングはAR(拡張現実)技術を活用した新しいサービスも準備中だ。このサービスでは、紙の観光案内パンフレットにスマートフォンをかざすことで、関連する動画や情報が表示されるという、紙とデジタルを融合させたクロスメディアサービスを展開する予定だ。AR技術を使ったこのサービスは、観光業界や広告業界において新たな価値を創出し、地域社会における情報発信のあり方を大きく変える可能性を秘めている。
オンデマンド印刷機でオリジナルかるたや周年記念の少部数印刷が可能になった
オズ プリンティングは、伝統的な印刷技術を活用した新しいサービスの展開にも力を入れている。特に注目すべきは「オリジナルかるた」の製作。かるたは日本の伝統的な遊びであり、教育や文化の一環として広く親しまれている。しかし、従来はコストの問題から大量生産が主流であり、小ロットの注文には対応しづらかった。
オズ プリンティングは2024年2月、オンデマンド印刷の新機種の導入により、この課題を克服した。卒業・周年記念やサークル活動など、個別のニーズに応じた少部数でのオリジナルかるたの製作が可能となり、柔軟な対応ができるようになった。また、オンデマンド印刷技術の進化に伴い、特殊な色やデザインを取り入れたかるたの製作も可能となり、これまでにない独自性を持つ商品が生み出されている。
活版印刷体験のため「オリオン活版印刷室」を開設 印刷の文化、価値を伝え、街の文化的価値の向上にも貢献
2022年1月には、甲府市の中心商店街の一角に、アンティークな活版印刷機や活字、かるたなどが展示された「オリオン活版印刷室」を開設。名刺などを作る活版印刷体験ができるスポットとして知られている。小澤社長は「一般の方との印刷との距離感を縮めたいという思いがある。印刷の文化や価値を伝え、それを街づくりに生かすことができれば」と、約5年間の構想を経て開設した理由について語る。
印刷会社のイメージを刷新、地域社会のデジタル化の使命を果たす
オズ プリンティングは、古き良き伝統を守りつつ、デジタル技術を取り入れることで、地域社会で存在感を得たいと考えている。しかし、小澤社長は「『デジタル化をしたい』というお客様に、印刷会社である当社をすぐに思い浮かべてもらえない」と課題を指摘する。かつての印刷会社の印象が新規顧客を取り逃がす要因となっている。そこで、2024年6月には、デジタルサイネージ、ECサイトのデザイン、動画制作、AIの活用に特化した子会社「D-ing」を設立した。印刷会社の屋号ではできないような事業を積極的に展開する構えだ。
小澤社長は、求職者向けの会社説明会で社風について次のように話している。「働く側として成長してもらい、会社も成長することが大切。やったことのないことに挑戦し、何とかできるように考えてもらいたい」。オズ プリンティングが掲げる「地域社会のデジタル化」という使命は、単なる企業の利益追求にとどまらず、社員の成長と地域全体の発展を視野に入れたものである。会社が一丸となって挑戦しようとする姿勢が、地元企業や団体からの信頼を得ており、地域社会の一員としての役割を果たしているのだ。
企業概要
会社名 | 株式会社オズ プリンティング |
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本社 | 山梨県甲府市中央3丁目8-10 |
HP | https://ozp.jp |
電話 | 055-235-6010 |
創業 | 1953年4月1日 |
従業員数 | 20人 |
事業内容 | 名刺・チラシ・パンフレット・会社案内などのデザイン、WEB制作、動画撮影・動画制作、デジタルサイネージ販売・コンテンツ作成 |