小・中・高等学校の児童・生徒に1人1台の学習用端末(パソコン)時代が、いよいよ現実のものとなる。東京オリンピック・パラリンピック開催後の経済対策の側面ももつ学校へのパソコン導入は、教育現場のITC(情報通信技術)化を加速させるもので、その人材・インフラ投資は、企業に新たなビジネスチャンスのステージを提供している。その中核となっているのが「GIGAスクールネットワーク構想」だ。
政府主導「Society 5.0」の一環として
「GIGAスクールネットワーク構想」とは、国内の全学年の児童・生徒向けに1人1台の学習用端末(パソコン)を導入するとともに、全ての小・中・高等学校および特別支援学校等の現場を、高速かつ大容量の通信ネットワークと教育ビッグデータ環境を全国一律で整備するという構想だ。GIGAは「Global and Innovation Gateway for ALL」の頭文字からの造語となっている。
この「GIGAスクールネットワーク構想」は、政府(内閣府)が2019年12月5日に取りまとめた「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」でも登場、「Society 5.0」時代の到来に向けた環境整備の一環となっている。
「Society 5.0」は、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会を示す。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すものだ。
374億円超の新規予算
その実現に向けて、文部科学省は令和2年度の概算要求・要望額として374億7300万円を新規に予算計上している。児童・生徒向けに1人1台の学習用端末の導入が柱となっており、経済対策の側面も持ち合わせている。
企業の反応も早い。NTTコミュニケーションズは3月3日に、構想をサポートする小中学生の学習向けパソコンと、クラウド型教育プラットフォーム「まなびポケット」および端末管理ツールをパッケージ化した「GIGAスクールパック」をレノボ・ジャパンと共同開発して申し込みの受付を開始している。香港に本社を置くパソコンメーカーのレノボは、高校生以下の教育機関向けパソコンの世界シェア1位の地位を占めていることからNTTグループとの強者連合の実現とも読み取られる。
ちなみに、パソコン端末の想定販売価格は1台あたり4万4990円と設定されている。文部科学省は2月に公立学校情報機器整備費補助金として、パソコン1台あたり上限4万5000円を補助する「公立学校情報機器整備費補助金」を発表しており、この補助金額が意識されたパソコンの価格設定となっていると考えられる。
学習指導要領の改訂にともなって2020年からは小学校で「プログラミング教育」の必修化もあり、「GIGAスクールネットワーク構想」は具体的に加速し始めることになる。さらに、総務省と連携して、4月から商用化が本格化する5G(第5世代移動通信システム)とも連帯して、教育利用できるローカル5Gの活用モデルも構築される見込みだ。
メリット享受の関連企業は多彩、すでに増額企業も
一方、教育現場のネットワーク整備にあたっては、サイバーセキュリティ対策や不適切なサイトへのアクセス防止などの対応も必要になる。端末メーカーや構内通信インフラ工事業者にとどまらず、クラウド、ソフト開発など幅広い企業に商機が到来する。
注目される関連上場企業では、
・デジタルアーツ 「学校向けWEBファクタリングサービス」
・アイスタディ 「教育・研修・学習デジタルソリューションサービス」
・パシフィックネット 「ICT教育導入に最適な機器のライフサイクルマネジメント」
・ダイワボウホールディングス 「プログラミング演習の指導テキストを教員向けに企画」
・スターティア 「教育機関向け電子ブックを手掛け活用セミナーも開催」
・ODKソリューションズ 「学校法人向けの情報処理アウトソーシング」
・チエル 「学校教育向けICT化支援で実績」
・すららネット 「全国160超の中学・高校・大学にICT教材を提供」
・EduLab 「小中学生向け学習動画アプリ手掛ける、Z会の増進会大株主」
・レアジョブ 「学校法人へのオンライン英会話学習の導入で実績」
・リクルートホールディングス 「小中高校生向けのオンライン学習サービス展開」
・テクノホライゾンホールディングス 「大学の講義室で実績がある書画カメラに需要期待」
・内田洋行 「ICT環境の導入から教材教具を教育現場に提供」
・学研ホールディングス 「ソニー子会社と提携して教育サービス拡大」
・ベネッセホールディングス 「通信教育最大手として教育コンテンツに展開力」
などがメリット享受関連として注目されている。
こうしたなか、自治体、学校、福祉施設などの情報システムや学校向けタブレット販売を手掛ける内田洋行グループのウチダエスコは3月に入り、今2020年7月期業績予想を大幅に引き上げるなど、企業への収益インパクトは始まっている。
政府は、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ対応策として、春休みに入るまでの臨時休校を要請し実施に移された。これを受けて、自宅学習においてインターネット学習の重要性が見直されており、教育現場へのITC導入のビッグプロジェクトである「GIGAスクールネットワーク構想」は企業にとって魅力的なビジネスチャンスとして期待されている。
文・THE OWNER編集部