不動産M&A
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古尾谷 裕昭
古尾谷 裕昭(ふるおや・ひろおき)
ベンチャーサポート相続税理士法人(相続サポートセンター)代表税理士。昭和50年生まれ、東京浅草出身。税理士・司法書士・弁護士・行政書士・社会保険労務士・不動産会社が在籍しているベンチャーサポートグループの中核を担う「ベンチャーサポート相続税理士法人」を率いている。相続税の申告のみならず、相続登記、相続争い、事業承継(M&A)、遺言書作成、民事信託、資料収集から不動産売却や財産コンサルティングまで様々な業務に対応している。年間の相続税申告1,000件超(令和1年度実績1,247件)であり、国内最大級の資産税チームを築き上げた。

企業が不動産を売却する際には、法人税等の負担が懸念となるが、不動産M&Aの場合は、売主側は法人税などの負担を減らすことができる。ここでは、不動産M&Aの仕組みや、売主と買主側の双方にとってメリットがある不動産M&Aを行うための方法を説明する。

目次

  1. 不動産M&Aとは何か?
    1. 中小企業が廃業する場合は?
    2. 不動産M&Aの人気の理由
  2. 不動産M&Aが注目される理由とは?
    1. 東京23区の不動産
    2. 今後の不動産開発のターゲットは?
    3. 不動産を所有する会社と相続税
  3. 不動産M&Aのメリットは?
    1. M&Aによる不動産売主のメリット
    2. M&Aによる不動産買主のメリット
  4. 不動産M&Aのデメリットは?
    1. M&Aによる不動産買主のデメリット
  5. 不動産買主のデメリットを解消しよう
    1. 弁護士を活用しよう
    2. リスクを区別しよう
  6. 不動産M&Aと会社分割
    1. 不動産M&Aで役に立つ会社分割スキームとは?
    2. 会社分割を活用した不動産M&Aの考え方
  7. 不動産M&Aに付随する簿外債務の問題
    1. 不動産M&Aは基本的に時間がかかる
    2. 不動産M&Aの仲介業者はしっかりと見極める

不動産M&Aとは何か?

不動産M&Aとは、個別資産として不動産を売買するのではなく、不動産を所有する法人の株式を売買することをいう。不動産M&Aが近年注目されている理由は、後継者難で廃業してしまう中小企業が増加していることにある。

中小企業が廃業する場合は?

中小企業が廃業する場合、事業そのものの営業活動を停止するだけでなく、事業のために使用している不動産まで処分しなければならない。個別資産としての不動産取引で売買しようとすると、約30%の法人税等に加えて、約50%の所得税等も課されるため、オーナーの手取り額は非常に小さな金額となってしまう。

これに対して、不動産M&Aの場合は法人の株式売却となるため、株式の譲渡所得に約20%の所得税等が課されるだけで済んでしまう。不動産を抱えて廃業するのであれば、不動産もまとめて法人として売却する不動産M&Aのほうが、圧倒的に有利なスキームなのである。

不動産M&Aの人気の理由

東京23区内の一等地には、歴史と伝統のある会社が数多く見られる。わが国では創業百年という歴史のある企業も珍しくなく、長く続いている企業は規模も大きな優良企業であろう。

しかし、優良企業にも悩みはある。何度か相続を重ねているため、株式が多数の株主に分散している。その結果として株主間で意見の調整が困難となり、ガバナンスが難しくなっているケースが多い。

歴史ある企業は、昭和の時代から土地を取得しているため、その含み益が大きくなっている。株式評価額が大きくなり、株主間の利害や株主と経営者との間の利害が対立することもある。

こういった背景があるため、近年、多額の含み益を持つ不動産を抱えた会社が、丸ごと売却されるケースが増えてきているようだ。これを不動産M&Aという。

不動産だけが売却されるのではなく、会社が丸ごと売却される理由は、税負担の軽減を目的としているからである。

単純に不動産だけを売却すれば法人税等が約30パーセント課され、その受け取り代金を会社の株主に分配すれば、株主に対して所得税等が約50パーセント課される。結果として、土地の譲渡代金から税金を差し引いた手取り金額は、譲渡価格の約35パーセントになってしまう。

この一方で、不動産M&Aを行った場合には、会社をオーナー個人が株式という形で売却することになる。株主に対して譲渡所得が発生し、所得税等が約20パーセント課されるだけで済む。

不動産M&Aが人気となっているのは、この税金負担面の有利さがあるからである。ただし、不動産M&Aは容易ではない。買主との交渉、高度な専門知識と実務手続きを必要とするからである。

不動産M&Aが注目される理由とは?

2019年から2020年にかけて、東京都心部・23区内を中心に不動産価格の上昇が続いている。東京オリンピックの後は地価が下がると言われているが、まだまだ高止まりが続きそうだ。個人も企業も都心回帰が進み、東京23区内の不動産の需要が高まっているからである。東京23区内に一極集中の様子が見られる。

東京23区の不動産

中でも、投資家から集めた資金を不動産に投資して利益分配する不動産投資ファンドの販売が増加してきており、東京23区内の不動産の有力な買い手となっている。

この他にも、不動産開発業者、機関投資家、富裕層の不動産オーナー、不動産投資家など、東京23区内の土地や賃貸不動産の買主の需要は大きくなる一方である。

この一方で、東京23区内の不動産の供給は増えていない。主要な地域の再開発が進んでしまい、新しい不動産開発の対象となる土地が無くなってしまったことも要因として考えられる。

今後の不動産開発のターゲットは?

東京23区内には、古くから商売を続けてきた歴史ある企業の本社ビルや店舗がたくさんある。老舗旅館、老舗料亭、人気のお菓子屋さんのような老舗店舗など、100年を超える歴史を持ち、何代にもわたって続いてきた長寿企業や老舗店舗である。

不動産M&Aは、このような長寿企業や老舗店舗が廃業した後に残された不動産を再開発する手法である。企業や店舗が廃業しても不動産という優良な経営資源が残る。不動産M&Aは、廃業する企業が持つ不動産に対して、もう一度企業経営に投じて再活性化させる手段となるのだ。

不動産M&Aには、高度なM&Aノウハウ、取引スキーム構築や条件交渉が求められる。ただ、不動産業者にとっては、東京23区内の一等地に残された貴重な不動産を取得して、再開発する絶好のチャンスが得られる。

不動産M&Aが実現すれば、廃業する売主には多額の現金が得られるメリットがある。また、不動産を探し求める買主には、貴重な開発案件を取得できるというメリットがある。日本経済にとっても、再活性化がもたらすメリットは大きい。

不動産を所有する会社と相続税

大きな不動産を所有する非上場会社は、なぜ不動産の売却を検討しなければいけないのであろうか。不動産の売却と相続税の関係から、その理由を明らかにしよう。

個人で不動産を直接所有していれば、相続が発生するたびに遺産分割と相続税の納税が繰り返され、所有する不動産は切り売りされてしまうことになろう。

それゆえ、オーナー企業は、法人化して会社で不動産を所有することで相続税評価を引き下げようとする。不動産の法人化という手法だ。

会社で不動産を所有すれば、その会社が発行する非上場株式の相続税評価は低くなるため、相続税対策の効果が大きいのだ。

しかし、株式を所有するオーナーに相続が発生すれば、株式が相続されて株主が増えていく。株主が増えるにつれ、後継者争いが起こるだろうし、不動産賃貸経営を巡る意見も分かれることになろう。相続に際して、親戚や兄弟の共同経営は、他人同士の経営とは異なる利害対立を生みやすい傾向にあるのだ。

不動産を会社所有にすることで相続税評価が下がるとは言え、東京23区内の一等地で不動産を所有していれば、その含み益が増えることによって株式の相続税評価が上昇していくことになろう。その株式の相続では、納税資金が必要となる。

しかし、非上場株式は、上場株式と異なり現金化することができない。それゆえ、大きな不動産を所有する会社のオーナーにとって、相続時の納税資金が問題となる。ここで不動産の売却という手段が必要になるのだ。

不動産M&Aのメリットは?

不動産M&Aにはどのようなメリットがあるのだろうか?不動産の売主と買主、それぞれのメリットについて説明する。

M&Aによる不動産売主のメリット

東京23区内の不動産を所有してきた長寿企業や老舗店舗は、一等地の所有者、優良企業オーナーであるという自負がある。業績が悪化したことや後継者がいないことによって廃業し、不動産賃貸業への転身や身売りをするなど、プライドが許さないこともある。長年経営を営んできた不動産を売却するなど、簡単に決断できるものではない。

企業や店舗のオーナーも、もともと不動産賃貸業を経営してきたわけではないことが多く、資産価値の高い本社ビルなどの不動産を所有しながらも、収益性が低くなっているケースもあるのだ。

廃業の危機に貧した事業であっても、ビル建替えや土地有効活用など、将来の事業存続について抜本的な改善策を打つことができず、価値ある不動産の収益向上を図ることができないことがあるだろう。

このような理由から、老舗企業の所有する東京23区内の不動産の多くが、価値が高い(相続税評価も高い)割に収益性が低く、企業オーナーにとって価値ある財産の有効活用が行われていない状況にあるのだ。

不動産M&Aの買主から見れば、老舗企業の不動産などは、不動産活用のやり方次第ではその価値を高める絶好のチャンスであり、安く買って資産価値を上げることができる狙い目となる。

老舗企業が廃業したときは不動産が売却対象となるが、企業オーナーはただ単に不動産を売却すれば済む話なのだろうか。会社が不動産を売却し、その売却代金を株主に分配した後に会社を解散すればいいと考えるかもしれない。しかし、このスキームでは不動産の売主の税負担が重くなるのである。

会社が不動産を売却すれば、売却益に対して法人税等が約30パーセント課される。その後、会社からオーナー個人へ剰余金の分配を行えば、オーナー個人には所得税等が累進課税で最高約50パーセント課されてしまう。

仮に不動産の売却益が30億円として計算すると、法人税等を支払った後は、21億円(=30億円×(1-30パーセント))である。そして、株主の現金手取り額は、10億円(=21億円×(1-50パーセント))となるため、譲渡価額の半値以下の現金手取り額となってしまう。

ここまで税負担が重いとすれば、一部の株主は不動産売却にも気が進まず、株主全員の合意を得ることはできなくなるだろう。

しかし、不動産M&Aならば株主の現金手取りが大きくなる。会社の株式を譲渡するならば、法人まで丸ごと売却することになるが、仮に会社の株式売却益を30億円とすると、株主は所得税等20パーセントの課税だけで済むのである。

すなわち、株主の現金手取り額は、24億円(=30億円×(1-20パーセント))となる。不動産を売ってから分配するときの現金手取り額出会った10億円の2倍以上の大きさだ。これは、法人税等の負担を回避できることや会社清算時の重い税負担を回避できることが要因である。

不動産の売主にとっては、不動産だけ個別資産として売却するよりも、不動産M&Aのほうが現金手取り額が大きくなり、税務上のメリットもある。売主は、株主として会社売却を行う不動産M&Aの意思決定を行う可能性が高くなるだろう。

M&Aによる不動産買主のメリット

不動産M&Aの買主にとってのメリットは、なかなか売却の意思決定を行わない売主オーナーの背中を押し、入手困難な東京23区内一等地の物件を取得するチャンスが生まれることだ。高額の不動産取引になるだろうが、売買仲介、賃貸管理、土地活用など、さまざまな不動産ビジネスに展開することができるのだ。

廃業しようとする歴史ある優良企業の持つ本社ビルや老舗店舗は、もともと資産価値に対して十分な利益をあげていなかった不動産である。長年の経営を経て存続していたが、経営環境が変化して、従来のビジネスモデルが通用しなくなった可能性も高い。せっかく価値ある不動産を持っていても、その価値を実現することができていない。

不動産M&Aを行うことで、新しいビジネスモデルを有する企業、不動産開発のプロの手によって資産価値を高めることができれば、利益を生まずに放置されていた不動産から、新たな利益を生むことができるだろう。

不動産M&Aのデメリットは?

不動産M&Aには買主側にデメリットがある場合もある。ここでは、不動産M&Aのデメリットと、デメリットを解消するための方法について説明する。

M&Aによる不動産買主のデメリット

不動産M&Aにおいて、不動産の売主側にはデメリットが無い。空っぽになった会社をそのまま継続所有したいというニーズはあるかもしれないが、新たに法人設立すれば済む話だろう。

不動産M&Aのデメリットは不動産の買主側にある。それは、不動産だけでなく会社を丸ごと購入するリスクがあるからだ。

不動産M&Aによって会社を買収する際には、売主と株主の関係を整理しなければならない。名義株などで所有権が見えなくなっていた株主が、不動産M&Aの後になって現れて騒ぎ出すことがあるかもしれない。

また、会社には不動産だけでなく従業員という経営資源がある。従業員との関係など、複雑な利害関係を解きほぐしていかなければならない。

未払い残業代がある場合は買主が負担しなければならず、簿外債務もあれば、債務として現れていない潜在的債務(偶発債務など)もあるだろう。それら債務が顕在化すれば、処理するには大変な手間と支出が発生する。

さらに、製品保証や製造物責任、土壌汚染、過去の税務申告に係る租税債務など、様々なリスク要因が存在する。

会社を取得するということは、会社が所有する不動産だけでなく、会社が負担する見えない債務まで丸ごと取得するということなのだ。

不動産買主のデメリットを解消しよう

不動産M&Aは、買主にとってのデメリットが問題となる。売買の対象が不動産そのものではなく、不動産を所有する会社であるため、会社が負担する債務が丸ごと承継されてしまう。顕在化している債務だけであればまだしも、潜在的な債務や偶発的な債務など目に見えないリスクが隠されていることがある。

弁護士を活用しよう

これらの見えないリスクから買主の利益を守るため、不動産M&Aにおける株式譲渡契約書の内容は、リスク回避の条件を盛り込んだものとしなければならない。宅地建物取引士の能力だけではカバーできないため、企業法務に詳しい弁護士を活用し、株式譲渡契約書の十分なチェックが必要である。

会社が負担する要因をカバーするように、表明保証や誓約事項(コベナンツ)などを可能な限り数多く記載し、売主との条件交渉を進めなければならない。不動産売買契約書と株式譲渡契約書は、まったく次元が異なるものだと理解してほしい。

リスクを区別しよう

しかし、買主がリスク要因の回避ばかり気にしているようでは、売主の気分を害することになろう。不動産M&Aによる税負担の軽減によって、売主を「売ろう」という気にさせているわけなので、契約段階で「売るのを止めよう」とさせてしまうと本末転倒である。

この点、事前のM&A先の調査によって、買主にとって負担できるリスクと負担できないリスクを明確に区別しておく必要がある。

不動産M&Aの法務デューデリジェンスや財務デューデリジェンスで、リスク要因をすべて明らかにすることが必要である。潜在的な債務や偶発的な債務を事前に洗い出すことができれば、株式譲渡契約書における表明保証を最小限の記載に抑えることができる。

買主はある程度のリスクを引受けなければ、不動産経営のリターンを最大限に享受することはできない。買主は、リスクとリターンの両面から検討して、不動産M&Aを進めていく必要がある。

不動産M&Aと会社分割

続いて、不動産M&Aと会社分割について解説しよう。

不動産M&Aで役に立つ会社分割スキームとは?

不動産M&Aは、不動産を所有する法人の株式を譲渡するスキームであるが、法人が不動産だけではなく事業用の資産を所有しているケースがある。この場合、事業用資産は不動産M&Aにおける譲渡の対象から除外することを買主から要求されることがある。

また、複数の不動産を所有している場合、買主から一部の不動産だけを譲渡対象とすることを求められることもある。

そのような場合、不動産M&Aが実行される前に行われる組織再編が、会社分割である。

会社分割とは、会社の事業の全部又は一部を他社に承継させる組織再編スキームである。ここでいう事業とは、不動産賃貸事業と考えてもらえればよいだろう。

会社分割では、債権者保護手続きが必要となるが、個別資産の譲渡ではないため、不動産賃貸事業に係る資産・負債を包括的に新会社、または他社へ承継することが可能となる。そして、税務上の適格組織再編の要件を満たす場合には、不動産の譲渡損益は実現せず、その繰延べを行う。

不動産M&Aにおける会社分割の種類は、分割した不動産賃貸事業の承継先が他社である場合は「吸収分割」、新会社である場合は「新設分割」となる。また、承継する他社または新会社が発行する株式(株式対価)、または現金(金銭交付)が交付される相手が、自社である場合を「分社型分割」、株主である場合を「分割型分割」という。

不動産M&Aの場合、オーナー(株主)を起点として、不動産と事業、または不動産と不動産を切り分けるために、「分割型分割」が採用されることが多い。

会社分割を活用した不動産M&Aの考え方

不動産M&Aではなく通常の事業のM&Aであれば、不動産が事業に必要であるかどうかを判断することになる。

事業上必要な不動産であれば、買主が取得する必要性が生じるが、必要でない不動産であれば買主は切り離すことを要求するだろう。すなわち、事業譲渡することで事業と不動産を切り離すのだ。

事業と不動産を切り離す方法として、会社売却を行う前に、不動産を分社化しておくという方法が考えられる。

不動産を事業から外して事業譲渡するならば、オーナー個人は残された不動産所有会社からの収入を継続的に得ることができるだろう。

売主が事業と不動産の両方をM&Aによって現金化したいと考えたとしよう。事業のM&Aを優先するのであれば、対象会社から不動産を切り離した後、対象会社の株式譲渡を行う取引スキームのほうが税務上有利である。

しかし、不動産を切り離す方法が問題となるため、会社分割を行って、事業会社と不動産所有会社の2つに分ける方法が考えられる。

一般的に、売却することを前提として会社分割を行うときは、その会社分割は非適格組織再編となり、会社から切り出される資産の含み損益が実現する。したがって、事業と不動産のどちらの含み損益を実現させるか、切り出す資産の選択を行う必要がある。

例えば、売却の対象となる「事業」からは「譲渡損」が出るにもかかわらず、残そうとする不動産に「含み益」があるようなケースを考えよう。

会社分割で事業と不動産を切り離す際、不動産を分割法人に残すことによって「含み益」の実現を温存するほうが、不動産取得税と登録免許税の負担も回避できる。結果として、「含み損」のある事業を承継法人に移転し、分割法人において「譲渡損」を実現させることが効果的である。

不動産M&Aに付随する簿外債務の問題

不動産M&Aでは、会社法上の組織再編スキームを多様することに加え、所得税や法人税など税務上の取り扱いが重要となるため、非常に難解で、不動産M&Aの仲介には高度な知識と経験が必要とされる。

不動産M&Aは基本的に時間がかかる

不動産M&Aは、個別資産としての不動産の譲渡よりも時間を要するのが一般的である。当事者にとっては、不動産だけでなく、法人に係る資産及び負債の調査や譲渡手続きが必要となることから、6ヵ月から1年くらいを要することが多い。

また、買主も限定されることが、不動産M&Aを難解なものとしている。つまり、個別資産としての不動産を取得したいと考える買主は多いが、法人を丸ごとM&Aで譲り受けようとする買主はそれほど多くない。それゆえ、不動産M&Aの相手を探すことは、個別資産としての不動産の買主を探すよりも難易度が高くなる。

譲渡対象が法人である場合、個別資産としての不動産を取得する際には生じ得ないリスクを買主が負うことになる。つまり、法人の簿外債務や偶発債務の存在である。

従業員への未払い残業代、過去の租税債務、入居者との訴訟リスクなど、顕在化していない債務まで引き受けることになる。こういったリスク要因は、通常のM&Aで行われる財務デューデリジェンスや法務デューディリジェンスを行って、事前に検出しておかなければいけない。

不動産M&Aの仲介業者はしっかりと見極める

不動産M&Aでは、譲渡対象の価値のほとんどが不動産であるため、仲介業者には宅地建物取引業の知識と経験が必要であることは言うまでもないだろう。それに加えて、法人の株式の譲渡のために、M&Aの知識と経験が求められる。

宅地建物取引業者の中には、事業会社のM&Aの知識や経験が不足しているケースが多く、不動産の現地調査や役所(法令上の制限)調査は行うものの、法人に係る簿外債務や偶発債務などの調査ができないため、買主が負担するリスクが大きくなってしまう。

それでは逆に、一般的なM&A仲介業者が不動産M&Aを取り扱えばよいのかというと、そうとは限らない。宅地建物取引士の資格を持たず、不動産に関する知識と経験が少なければ、譲渡対象となる不動産賃貸業の価値を適正に評価することができない。

M&A仲介業者では、個別資産としての不動産の実態を分析し、その価値やリスクを適正に評価することができないのである。

不動産M&Aを成功させるには、宅地建物取引業する知識と経験、事業会社のM&Aに関する知識と経験の両方を備えた専門家が、「REINS(不動産流通標準情報システム)」を使わずに、売主と買主をマッチングできる情報力と営業力を発揮する必要がある。

文・古尾谷 裕昭(税理士)

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