購買行動が多様化する現代では、ユーザー一人ひとりに合わせたマーケティング施策を打ちだすことが重要です。製品やサービスによっては、大量のマス広告を出しても期待通りの成果が出るとは限りません。
マーケティング施策を分析する手法に、「カスタマージャーニーマップ」の作成があります。カスタマージャーニーマップは、ユーザーの購買行動を複数のフェーズに分けて、一人ひとりの思考や行動を分析するためのフレームワークです。
本記事では、カスタマージャーニーマップの基本的な作成手順や効果について分かりやすく解説します。
カスタマージャーニーマップはマーケティングの最適化に有効
カスタマージャーニーマップは、設定したペルソナの思考や行動を分析し、一人ひとりの顧客に合ったマーケティング施策を考えるフレームワークです。購買行動のフェーズごとに分析を行うことで、たとえば「製品・サービスを知らない」「来店には至っていない」などの段階に分けて、効率的なアプローチを検討できます。
カスタマージャーニーマップには決まった形式がないため、工夫次第でさまざまなシーンに活用できます。実店舗型のビジネスはもちろん、記載項目を変えればSNSでのブランディングや新規事業の立ち上げにも活用できるでしょう。
フェーズごとのマーケティングを最適化できるため、認知や商談数、売上の向上に加えてコストや労力の削減につなげることもできます。
カスタマージャーニーマップとは
カスタマージャーニーマップとは、ユーザー(顧客)が製品・サービスを購入するまでの流れをまとめたものです。特に決まった形式はありませんが、横軸にはターゲットの行動フェーズ(認知・情報収集・比較検討など)、縦軸には企業が整理したいポイント(接点・顧客の思考・課題など)を置き、時間軸に分けてユーザーの思考や行動を言語化していきます。
行動フェーズを細分化すると、顧客が「どの段階で何を考えているか」を分析できるため、場面に応じて最適なマーケティング施策を選べるようになります。
カスタマージャーニーマップの例
実際に、20代の女性ユーザーが服を購入するケースを想定して、カスタマージャーニーマップを作成してみました。
上記のように、横軸(1行目)にはユーザーの行動フェーズ、縦軸(1列目)には整理したいポイントを記載します。横軸と縦軸を決めたら、あとは空欄の部分を分析しながら記入していきます。
カスタマージャーニーマップを作ることによる5つの効果
カスタマージャーニーマップを作成する目的は、ターゲット層に対するマーケティングを最適化することです。具体的にどのような場面で役立つのか、ここからはカスタマージャーニーマップを作ることによる5つの効果を解説します。
タッチポイントを可視化できる
タッチポイントとは、顧客との接点を表すマーケティング用語です。具体例としては店舗やチラシのほか、ECサイトやSNSなどのウェブサービスも含まれます。
カスタマージャーニーマップを作成すると、ユーザーの思考や行動を論理的に分析することができ、ユーザーが多いタッチポイントとそうでないタッチポイントの可視化ができます。タッチポイントを選んで、適切なマーケティング施策を打ち出すことができれば、より少ない費用で効果的なアプローチができるでしょう。
ウェブやデバイスの普及によって、現代ではユーザーの購買行動が多様化しています。その代わりにデータ化できるユーザー情報も増えているため、属性に分けて思考や行動を分析しやすい状況になっています。
行動変化につながる要因を分析できる
カスタマージャーニーマップでは、購入プロセスを分割してユーザーの思考を整理することができ、「なぜその行動変化が起きたのか」を分析することができます。
たとえば、SNSで話題のアパレルショップを知ったユーザーが、実際に来店したフェーズを想定してみます。このユーザーが「SNSで紹介されていたアイテムを購入したい」と考えている場合、店舗側が品切れのないように商品を補充することで、ユーザーは次のフェーズ(試着や購入)へとスムーズに進むことができます。
また、その商品との組み合わせがよいアイテムや、お得なセット商品を用意する方法でも、ユーザーの行動変化を促すことができるでしょう。このように、フェーズごとに自社の現状(提供している価値や対応策)を整理すると、どの施策が購入につながっているかを分析できます。
一人ひとりの顧客に適切なアプローチができる
カスタマージャーニーマップは現状の施策に加えて、不足している施策を見つける際にも役立ちます。
たとえば、縦軸の項目に「ユーザーが抱える課題」を加えると、その課題に合わせた施策をフェーズごとに検討できます。また、ユーザーのペルソナを細分化して複数のマップを作成すれば、一人ひとりの顧客に合った施策まで分析できるでしょう。
ビジネスによっては幅広い属性のユーザーが存在するため、画一的なアプローチでは成果が限定的になる可能性もあります。また、フェーズによっても適切なアプローチは変わるので、ユーザー一人ひとりが抱えるニーズや課題、フェーズに着目することが重要です。
マーケティング施策の優先順位が決まる
カスタマージャーニーマップでユーザーのニーズや課題に合わせた施策を列挙し比較することで、マーケティングの優先順位を決めることができます。費用対効果が高いと思われる施策から取り組みましょう。
どのようなビジネスであっても、マーケティングにかけられる予算やリソースは限られます。思いついた施策をすべて進めることは難しいため、優先順位をつけて「どの施策にどれくらいのコストをかけるか」まで検討して進めましょう。
チームで情報共有しやすくなる
ユーザーの思考や行動を可視化して、チームでの共通認識を持つこともカスタマージャーニーマップを作成する目的の1つです。
マーケティング施策の有効性は、個々のメンバーによって判断が変わります。主なターゲット層や目標とする業績指標でさえも、時間経過やそのメンバーの置かれている状況によって判断が変わってくる可能性があります。
そこにズレがあると、チームでの一貫したマーケティング施策の実行が難しくなり、途中で迷走してしまうリスクが高まります。そのため、共有する必要がある情報は理解しやすい図表やデータに落としこみ、チームで共通認識を持つことが重要です。
その点、カスタマージャーニーマップは視覚的に理解しやすく、スムーズな情報共有ができます。
カスタマージャーニーマップの作り方
カスタマージャーニーマップを作成するには、どのような手順で作業を進めればよいのでしょうか。方法によってはマーケティングの方向性を誤るリスクもあるので、基本的な手順をおさえておく必要があります。
ここからは、カスタマージャーニーマップの作り方を解説します。
1.作成の目的を明確にする
カスタマージャーニーマップは「顧客のゴールをどこにするか」によって、必要な項目(マップの横軸)が変わってきます。そのため、まずは作成の目的を明確にしましょう。
たとえば、製品・サービスの購入をゴールにすると、ユーザーの行動フェーズは「認知・情報収集・比較検討・お試し利用・購入」のように分かれます。一方で、SNSによるブランディングをゴールにする場合は、「認知・リアクション・フォロー」などのフェーズに分割できるでしょう。
これらのほか、企業によっては問い合わせや資料請求、来店などをゴールに設定することもあります。これまで行ってきたマーケティング施策も踏まえて、顧客をどこに導きたいのかを検討してみてください。
2.ペルソナ(ターゲット)を設定する
目的が決まったら、次はターゲット層を具体化した「ペルソナ」を設定します。ユーザーの思考や行動は、このペルソナをもとに分析することになるため、以下のように細かい属性まで設定してください。
<ペルソナの設定例>
年齢:20代前半
性別:女性
結婚歴:なし(独身)
地域:東京都○○区
職業:大企業の事務員
年収:380万円
趣味嗜好:ファッションアイテムの購入
休日の過ごし方:SNSで話題のアイテムを調べて、気になるものがあったら店舗に出向く。
性格:安いものではなく、基本的にはブランド力の高いアイテムが好き。
ペルソナと併せて、自社の製品・サービスに関する特性をできるだけ列挙しておくと、以降のプロセスを進めやすくなります。
3.タッチポイントや行動変容を整理する
フェーズごとのタッチポイントやユーザーの行動変容は、カスタマージャーニーマップを作る前に列挙しておきましょう。カスタマージャーニーマップの枠組みを作った後に書きこもうとすると、縦軸と横軸の前提と違ってしまったり、重要な要素を書き込むことができなくなったりする可能性があります。
これらの要素をあらかじめまとめておくと、カスタマージャーニーマップの作成にあたって必要になる調査なども高い精度で進められ効率的になります。
4.カスタマージャーニーマップを作成する
ここまで進んだら、以下の流れでカスタマージャーニーマップを作成します。
- 表を作成する
- 目的を決めて、ユーザーの行動フェーズを横軸(1行目)に書きこむ
- 縦軸(1列目)に「整理したい項目」や「分析したい項目」を書きこむ
さまざまなターゲット層を分析したい場合は、ペルソナに分けて複数のカスタマージャーニーマップを作成してください。
5.整理した情報を書き込む
ここまでに整理した情報を、2列目からカスタマージャーニーマップに書きこんでいきます。記載している部分がどのフェーズにあたるのかを意識しながら、1つずつ要素を埋めていきましょう。
埋まらない部分がある場合は、ペルソナに近い従業員を探してヒアリングしたり、実際の顧客にインタビューしたりする方法が有効です。また、営業担当者もさまざまな顧客情報を持っていると考えられるため、悩んだときには相談してみましょう。
カスタマージャーニーマップを活用してユーザーに的確にアプローチする
カスタマージャーニーマップは、効果的なマーケティング施策を打ちだしたいときに役立ちます。ペルソナを細かく設定すれば、ユーザーの思考や行動をより具体化できるため、的確なアプローチを選択できる可能性が高まります。
作成したカスタマージャーニーマップは、社内で情報共有するツールとしても活用できます。さまざまなメリットがあるため、事業開発にあたっても作成してみることをおすすめします。
(提供:CAC Innovation Hub)