小売と産地のイノベーションが食品卸売業界の可能性を拡大する
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国分、丸紅との包括提携を発表大手グループの再編は最終局面へ

商業動態統計調査によると2013年の食品卸売の総販売額は63兆5,800億円(前年比101%)となった。生鮮卸売市場は前年比98%と苦戦したが、食料・飲料卸売は41兆3,360億円(同103%)と伸長した。しかしながら、この数字は10年前の101%という水準にとどまるものであり、市場の飽和感が弛んだわけではない。

食品卸売大手10社の2013年度の売上はすべて前年を上回った。しかし、上位10社にあっても食料・飲料卸売市場全体の伸び率を上回ったのは半分に過ぎない。2014年3月期は、1-3月期に常温の加工食品や酒類を中心に消費増税前の駆け込み需要があった。それが上乗せされての数字である。市場は依然として好転していないと言うべきであろう。

また、急激な円安、原材料高、物流費の高騰が業界の収益を圧迫しており、加えてセブンプレミアムやトップバリュといった小売チェーンのプライベートブランド強化策、業態間競争の激化による単価下落が経営環境悪化に拍車をかける。

小売と産地のイノベーションが食品卸売業界の可能性を拡大する
(画像=Futureより)

こうした中、食品卸売大手は地域密着体制の強化を図った。業界トップの三菱食品は、各地域の旧「リョーショク」の取扱商品を三菱食品と同様のカテゴリーに拡大、支社と連結子会社の重複拠点を集約するとともに子会社の取引口座を支社に集約した。グループ再編の言わば"総仕上げ"の推進により、総合力強化を図った。

3位の国分もグループ卸売の再構築を実施した。8支社32グループ企業を8つのエリアカンパニーと1つのカテゴリーカンパニー(低温物流)に再編、グループ内で重複していた管理業務も一本化した。更に丸紅との包括提携を発表、これにより伊藤忠系の日本アクセスを抜き総売上2兆円に迫る2位グループを形成することとなる。

創業から300年にわたり独立系を維持してきた国分であるが、今回の提携により、菓子、冷凍冷蔵商品の競争力の強化と物流施設や配送ネットワークの共同利用による効率化を狙う。

従来の業態セグメントの外に新たな市場地方、中堅企業の協業・グループ化の可能性大

三菱、国分+丸紅、日本アクセスの上位3社で6兆円規模を占めることとなったわけであるが、地場の中堅企業による連合、連携も一段と進む。

2013年は高知の旭食品、石川のカナカン、青森の丸大堀内の3社が、"地域のライフライン"を維持しつつ"地域を全国につなぐ"ことを理念に「トモシアホールディングス」を立ち上げた。2014 年に創立20周年を迎えた、中・西日本の業務用食材卸売14社で構成される「日本業務用食材流通グループ」も独自のPB 開発や商品提案力の強化など、もう一段の連携強化へ動く。   もともと食品卸売業界は総合商社や大手卸売への対抗上、地方や中堅企業のグループ化が古くから進行してきた。ここへきて再び動きが早まっているのは、総需要の伸び悩みと小売市場の急激な変化が背景にある。

上位10社のうち前年比109.4%と売上高伸長率が最も高かった三井食品は「菓子と酒類が好調だった」とその理由を説明するが、これはドラッグストアやディスカウントストア向けの大幅な増収が背景にある。

百貨店市場の縮小、スーパー、コンビニの拡大という基調は変わらないものの、大型GMSに代わって、都市型の小型食品スーパーやコンビニのミニスーパー化など、"商業統計"の区分からは見えて来ない業態上の進化が急速に進んでいる。さらに、セブンカフェに象徴される新サービスやイズミヤとファミリーマートによるコラボレーション業態の開発など、従来の食品小売のセグメントを越えた次元で、流通改革が進行する。

小売と産地のイノベーションが食品卸売業界の可能性を拡大する
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ホームセンターやドラッグストアも食品販売を強化する。コスモス薬品の食品売上は総売上の53.7%、199,517百万円に達しており、業界トップのマツモトキヨシも総売上の11.2%、55,453百万円の食品を販売する。

加えて、給食、宅配、EC市場における新たなビジネスモデルの登場、「キャッシュ&キャリー」方式を掲げる外資系B2Bリテーラーの参入、地産地消、安心・安全志向の高まりなど消費ニーズの多様化、また、農畜水産業の6次産業化、農業生産法人改革など川上サイドからのプレッシャーも強まる。

小売と産地のイノベーションが食品卸売業界の可能性を拡大する
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この意味において食品卸売業界の勝敗は、単なる規模化と効率化だけでは決着しない。多様なサプライチェーンの並存が可能であり、地方や中小の食品卸売の事業連携戦略はそこに活路を見出すべきだ。

水越孝(代表取締役 株式会社矢野経済研究所)

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