相続税の課税対象となる資産には、現金預金や、土地建物などの不動産があり、これらはその価値というのが、目に見えるものばかりです。
これら以外にも、相続財産には、生命保険における死亡保険金などもありますが、その他にも、被相続人が契約者で被相続人以外の人を被保険者とし、被相続人である契約者が死亡した場合には、保険金支給条件の事象は起きておりませんので、保険金が支払われることはありません。
しかし、保険を解約した場合や、満期保険金などがある契約になると、この保険にはそれだけの価値があるということになり、その保険金は、本来、被相続人が受け取るべきものとして、相続財産とされます。
これらの、将来お金を受け取ることができる権利を「生命保険契約に関する権利」といいます。
生命保険契約に関する権利や死亡保険金の相続財産としての評価方法は、保険金の受け取り方に応じて、いくつかの方法で評価しなければなりません。
また、契約内容によっては、相続税だけではなく贈与税の対象となる場合もあるので、非常に複雑となってきます。
今回は、生命保険金等の評価についてご説明していきたいと思います。
死亡保険金が贈与税の対象となる契約形態
生命保険会社より死亡保険金が支払われる場合は、そのほとんどが相続財産やみなし相続財産になります。
しかし、次のような契約形態の場合は、死亡保険金を受け取った方が贈与税の申告をおこなわなければなりません。
<死亡保険金の受取人が贈与税申告をおこなうケース>
契約者 | A |
被保険者 | B(死亡) |
保険料負担者 | A |
保険金受取人 | C |
この場合は、AからCへの贈与とみなされ、受取保険金から110万円の贈与税基礎控除額を差し引いた金額が、贈与税の課税価格となります。
死亡保険金の評価方法
死亡保険金を評価する場合は、保険金の受け取り方に応じて、次の方法で評価をおこなうことになります。
一時金を一括、または分割で受け取る場合
一時金として一括で受け取る場合は、その受け取った一時金の額が評価額となります。
また、この一時金を分割で受け取った場合は、分割で受け取った金額の総額が評価額となります。
このとき、利息が付いている場合は、その利息は評価額から除外します。
年金形式で受け取る場合
年金形式には2種類あり、10年や15年などのように、決められた期間の中で保険金を受け取ることができる「有期定期金」と、死亡するまで保険金を受け取ることができる「終身定期金」のどちらかになります。
評価する場合は、それぞれ評価方法が異なるので、注意が必要です。
◼︎有期定期金
有期定期金の場合は、次の①~③のうちいずれか多い金額が評価額となります。
①解約返戻金の金額
②定期金で受け取るかわりに一時金で受け取れる場合は、その一時金の金額
③1年あたりの給付金額の平均額×残存期間に応じた予定利率による複利年金現価率で求めた金額
◼︎終身定期金
終身定期金の場合は、次の①~③のうちいずれか多い金額が評価額となります。
①解約返戻金の金額
②定期金で受け取るかわりに一時金で受け取れる場合は、その一時金の金額
③1年あたりの給付金額の平均額×給付目的者の平均余命に応じた予定利率による複利年金現価率で求めた金額
生命保険金等の非課税枠と適用対象保険金
生命保険の死亡保険金を受け取った場合、受け取った死亡保険には「生命保険金の非課税範囲額」があるため、次の算式で求めた金額までは非課税となります。
「500万円×法定相続人の数」
「生命保険契約に関する権利」については、この非課税範囲額の適用はできません。
また、契約者と被保険者を被相続人、受取人を相続人の形態で終身保険などに加入すれば、この非課税枠を利用して、相続税の課税対象資産を圧縮する効果を得ることができます。
剰余金割戻金前納保険金
死亡保険金が支払われる場合には、死亡保険金と併せて剰余金や割戻金、前納保険料といった保険料が支払われることがありますが、これらの保険金は、すべて生命保険金等の非課税枠を適用することができます。
入院給付金
上記以外にも、被相続人が生前、病院に入院していた場合などは、入院給付金が支払われることがありますが、この入院給付金というのは本来、相続人ではなく被相続人が受け取るものになるので、生命保険金等の非課税枠を適用することはできません。
保険会社からの遅延利息
保険会社の都合により、保険金の支払いが遅れる場合には、死亡保険金に、遅延利息がつくことがあります。
この遅延利息については死亡保険金の受取人となっている人が受け取りますが、生命保険金等の非課税枠を適用することはできません。
高度障害保険金リビングニーズ特約に基づく生前給付金
病気やケガなどを起因とする言語障害や身体障害が発生した場合に給付される高度障害保険金や、余命宣告などをされた場合に生前に保険金をもらうことができるリビングニーズ特約などを指定代理請求人が受け取っていた場合には、所得税は課税されません。
しかし、受け取った保険金等のうち医療費などで使用した残りの部分に対しては、相続税が課税されます。
この場合には死亡保険金には該当しないため、生命保険金等の非課税枠を適用することはできません。
外貨建ての保険金
外貨建ての保険金を評価する場合は日本円へ換算する必要があり、換算については原則として、受取人の取引金融機関が公表する課税時期(被相続人の死亡日)における、最終対顧客直物電信買相場(TTB)で換算された金額、またはこれに準ずる相場により評価をおこなうことになります。
対顧客直物電信買相場とは、金融機関が顧客から外貨を買って邦貨を支払う場合の相場のことを指します。
団体信用生命保険
マイホームを購入する場合に住宅ローンを利用する場合は、団体信用生命保険に加入することがあります。
団体信用生命保険とは、住宅ローンを返済している期間に契約者が死亡した場合、保険会社が保険金を金融機関へ支払い、ローンが完済される制度です。
この場合は、死亡保険金や住宅ローンも無くなることになるので、どちらも相続税申告における課税対象資産負債に含める必要はありません。
「生命保険契約に関する権利」となる契約形態
生命保険の契約において、被相続人がその契約の被保険者ではなく、契約者や保険料負担者となっている場合には、相続税の課税対象になる場合があります。
「生命保険契約に関する権利」の評価方法
死亡日時点の生命保険契約の価値を評価額とするので、死亡日にその契約を解約した場合に支払われる解約返戻金相当額が「生命保険契約に関する権利」の評価額となります。
解約返戻金や満期保険金等が無い契約などの場合は、相続税の課税対象とはなりません。
評価の際の注意点
解約返戻金相当額は、自分たちでは計算することはできませんので、必ずその契約している生命保険会社に問い合わせ、計算をしてもらうようにしてください。
また、「生命保険契約に関する権利」も死亡保険金ではありませんので、生命保険金等の非課税枠の適用はありません。
解約した場合における剰余金や、割戻金、前納保険料がある場合は、それらの金額も解約返戻金相当額に含めて評価をおこないます。
名義保険とは
「名義保険」は、契約者と保険料負担者が異なる場合の生命保険のことを指します。
保険料負担者によって課税される税金の種類が変わってきますので、契約者と保険料負担者が異なる場合には、実際に「誰の名義の預金口座から引き落とされていたか」によって判断されることになります。
引き落とされている預金口座が名義預金の場合は、預金口座の名義は関係なくなり、実質的に管理していた人が保険料負担者となります。
「保証期間付定期金に関する権利」の評価方法
被相続人が、生前に、すでに個人年金などの一時金や年金を受給していた場合には、相続人が引き継いで保険金を受け取る場合がありますが、被相続人が引き続き一時金や年金形式で受け取る場合、取り扱いは死亡保険金と同じ評価方法で評価することになります。
自動車保険等の損害保険の取り扱い
交通事故などで死亡すると、生命保険だけではなく自動車会社から、自損事故保険や人身傷害補償保険などの保険金が支払われることがあります。
この場合、被相続人の過失による部分は相続税の課税対象となるため、死亡保険金と同じ取り扱いで評価をおこなうことになります。
事故相手から受け取った保険金は、相続税の課税対象外となります。
これらの損害保険で解約返戻金がある場合などは、その金額が評価額となり相続税の課税対象となるので、注意が必要です。
まとめ
生命保険等については、契約者や被保険者、保険金の受取人が誰になっているかによって、相続税だけではなく、贈与税が発生することもあります。
また、被相続人が義理の兄弟などを被保険者として保険料を負担している場合や、逆に義理の兄弟が被相続人を被保険者にし、保険料を負担しているケースもあります。
義理の兄弟になると、そのようなケースでは、相続が発生した場合にトラブルになることが多いです。
死亡保険金となると金額がどうしても大きくなりますので、前もって保険契約の形態などを調べておくことが非常に重要になります。
(提供:相続サポートセンター)