矢野経済研究所
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7月19日、首相官邸で開かれた第24回観光立国推進閣僚会議にて、岸田首相は「2031年までに全国35ヶ所の全ての国立公園において、民間活用による世界水準のナショナルパーク化を実現する」ように指示、具体的には「海外富裕層をターゲットとした高級リゾートホテルや大型複合施設の国立公園への誘致をはかる」と報じられた。

これを受けて、25日、公益財団法人日本自然保護協会は、「国立公園に新たに高級リゾートホテルなどを誘致することは自然環境および景観の破壊をもたらし、国立公園の価値を喪失させることは火を見るより明らかである」とし、「地区内に存在している廃屋化した施設の撤去とリノベーションおよび自然環境の現状把握や生物多様性の保全を優先すべき」旨の意見書をリリースした。首相メッセージはあまりにも唐突かつ的外れであり、反応は当然である。

そもそも海外富裕層が望んでいるのは、ありのままの日本の自然、歴史、文化の “特別な体験” である。1日1組、1泊100万円の仁和寺の宿坊体験(現在休止中)を引合に出すまでもなく、現代アートのスペシャリストがエスコートするTOKYOアート体験や一流陶芸家から直接指導を受ける作陶ツアーなど、彼らが求める観光コンテンツは特別にカスタマイズされた非日常の日本体験であり、こうしたニーズの強さは筆者が監事を務める一般社団法人地域創生インバウンド協議会の実証事業でも立証されている。

また、ネイチャーツーリズムという視点から地方の活性化を、ということであれば、オーストリアのザルツブルク州を拠点に国境を越えて23の自治体で推進する「アルパイン・パールズ」も参考になる。国内では環境共生型スマート社会のシステムデザインに取り組む慶應大学の山形与志樹教授がソフトモビリティと地産地消グリーン電力を活用した「日本版アルパイン・パールズ」※を提唱しているが、大切なことは地域社会と自然環境にとって持続可能なツーリズムを構想することである。どの国立公園に行っても似て非なるラグジュアリー・ホテルでは “本物の日本” を味わうことなど出来得ない。

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今週の“ひらめき”視点 7.28 – 8.1
代表取締役社長 水越 孝