目次
越境ECは、商習慣が異なる海外の消費者に直接商品を届けるビジネスです。そのため、国内ECとは違ったコツもあります。
越境ECに取り組むにあたって、知っておきたい成功のポイントをまとめます。
主要ECモールは対応地域がわかれている
はじめて越境ECにチャレンジする場合、小規模にスタートしたいのであれば、ECモールに出店することがおすすめです。
ECモール自体の集客力に頼ることができるため、集客に割く労力が少なくて済みます。また、決済面などでの心配がなく、販売力を上げるためのアドバイスが受けられたりする場合もあるといったメリットがあります。
ただし、例えば、Amazonはアメリカでは最大のECモールだけれども、中国には対応していないなど、地域によって利用できる主要ECモールが異なります。ここでは、①グローバル、②欧米、③東南アジア、④中国の別に、主要ECモールを紹介します。
1 グローバル(全世界)
はじめて越境ECに取り組む場合に、一般的には、グローバル(世界的)なマーケットを対象にすることを考えたほうがよいでしょう。市場が広ければそれだけ多くの売上を得られる可能性があります。
グローバルなマーケットを対象とする場合は、世界190か国への販売に対応しているeBayを利用しましょう。
eBayの特徴
・世界190か国への販売に対応
・初期の出店料金が不要
・販売者用のマニュアルやサポートが充実している
2 欧米
欧米は、アメリカと欧州(EU、イギリス)です。特にアメリカは、世界2位のEC大国であり、日本にとっても第2位の貿易相手国なので、越境ECの販売先としては外すことはできません。
アメリカのECは、なんといってもAmazonが圧倒的なシェアを持っています。
また、EUは、アメリカほど越境ECは盛んではありませんが、アメリカと同じく、Amazonで販売可能なので、欧米中心に越境ECに取り組みたいなら、Amazonを利用するとよいでしょう。
AmazonはグローバルでWebサイトのデザインやインターフェイスが共通なので、日本のAmazonに慣れていれば、とっつきやすいこともメリットです。また、アメリカ現地でのAmazonの倉庫を利用でき、梱包、発送、返品対応なども任せられる「FBA(フルフィルメント by Amazon)」と呼ばれるサービスも用意されており、多種多量の商品を販売する場合には労力を削減できます。
Amazonの特徴
・世界最大の売上を誇るECモールで、アメリカでは圧倒的なシェア
・FBA(フルフィルメント by Amazon)を利用すれば、さらに便利になる
・販売対応国は約20か国で、中国には対応していない
3 東南アジア諸国(ASEAN)
マレーシア、インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピンなどの東南アジア諸国は、日本からの距離が近く、観光などで訪れる機会も多いエリアです。また、アジア圏であることから文化的にも日本に近く、日本の販売者に親近感を持たれやすい面もあります。
成長市場であるため、今から越境ECで進出することで、将来に向けて販売数を大きく伸ばせる可能性があります。
その反面、現時点では、庶民層の平均所得水準は低く、欧米や中国に比べると高額商品は販売しにくいでしょう。
東南アジアのECモールでは、Shopee(ショッピー)、Lazada(ラザダ)の2サイトが高いシェアを誇っています。
ただし、比較的富裕層になるとAmazonやeBayの利用者が増えるといわれていますので、高額商品の場合は、こちらを利用したほうがいいかもしれません。
Shopeeの特徴
・東南アジア最大のECモール
・マレーシア、インドネシア、シンガポール、タイの東南アジア4カ国の他、台湾でも展開している
・販売手数料が無料
Lazadaの特徴
・東南アジアの老舗ECモールで、知名度はナンバーワン
・マレーシア、インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、ベトナムの6か国でサービスを展開している
4 中国
中国は、世界最大のEC大国であり、日本の輸出貿易相手国の第1位です。経済成長に伴い富裕層が増えており、高い購買力があります。地理的にも日本から近いため、中国への越境ECは大きなチャンスがある一方、日本や欧米とは異なる独自の経済システムであり、法律、税制などの規制も独特であるため、注意が必要な面が多くなります。
越境ECによる輸出では、天猫国際(Tmall)、京東商城(JD.com)の2つのモールが有名です。中国のECモールに出店するには、初期費用として保証金を支払う必要があり、その金額が100万円から300万円程度と、高額な点にも注意が必要です。
天猫国際(Tmall Global)の特徴
・中国最大かつ世界最大のEC企業「Alibaba」グループの越境ECモール。中国の越境ECモールでトップシェア
・出店時の初期費用(出店保証金)が300万円程度かかる(複数のプランあり)。また審査が京東商城(以下記載)に比べ厳しい
京東商城(JD.com)の特徴
・中国でシェア2位の越境ECモール
・日本製品専門サイト「日本館」があり、日本企業の誘致に力を入れている
・英語は利用できず、中国語のみ対応
BtoCとは異なる、BtoBの越境EC専用モール
越境ECは、海外の消費者への通信販売のようなものです。つまり、BtoCのビジネスが中心です。しかし、BtoBの取引においても、越境でのECがおこなわれています。 越境ECでBtoBの受注を得るルートとしては、以下の2通りがあります。
・eBayなど、BtoC目的で出店しているECモールでの販売により、自社製品を購入してもらった海外法人のバイヤー(マーチャンダイザー)から商談のオファーを受ける。
・BtoB専用のECモールに出店して、海外法人のバイヤー(マーチャンダイザー)から商談のオファーを受ける。
後者の場合、最初からBtoBを目的として出店するため、扱う商品の種類や、その訴求の仕方なども、消費者向けのECモールのものとは変える必要があります。
代表的なBtoB ECモール
・Amazonビジネス
Amazonが運営している、法人、個人事業主専用のECサイト。
・Alibaba.com
200か国以上の企業が登録している、世界最大のBtoB専用ECサイト。
越境ECのマーケティング・プロモーションのポイント
越境ECでより多くの売上を上げるために、プロモーションのポイントを押さえておきましょう。
販売する商品を選ぶ
越境ECに限りませんが、まず、今売れている商品と同一、あるいは少し差別化した類似の商品を扱うのが、売りやすい方法です。
AmazonやeBayなどの、ECモールでは、売れ筋商品ランキングや売れ筋カテゴリーを公表しているので、まずはそれらを参考にするのがいいでしょう。
ただし、売れ筋商品は、その分競合する販売者も多くなります。
・自社だけの特別な加工をしている
・海外の店舗などでは販売されていない
・期間限定、地域限定などの限定商品
・特定のカテゴリーのマニアから高い評価を受けているマニア向け商品
などの差別化要素を用意して、アピールすることが大切です。
購入者、消費者の声を聞いて改良する
日本の消費者と比べて、海外の消費者は、販売者に対して良い点も、悪い点も、率直な意見を伝える傾向が強くあります。
例えば、「この商品を買ったけど、ここが使いにくかった」「この色があればほしい」といったことです。
こういった意見は、製品を改良したり、仕入れたりする際に、絶好のヒントになります。また、そういった声をより多く集めるために、後で述べるように、SNSを活用することは必須です。
日本的な謙遜は損をするだけ。やや大げさに表現してちょうどいい
日本人は謙遜の文化が根付いているため、自己アピールが苦手な場合が多いようです。Webサイトに掲載する商品紹介などでも、過不足のない正確な情報を記載していればよいと考えられがちです。
しかし、それではグローバルで競争が展開される越境ECサイトでは、まったく目立つことができません。ウソはNGですが、商品のメリットや特徴は、より強く大げさな表現でアピールするくらいでちょうどよいのです。
なお、英語での表現がわからない場合、ChatGPTなどの生成AIで、「もっと大げさな表現に」「○○を強調して」などと指示すれば、適切な表現例を教えてくれます。
SNSはコミュニティ作りに使う
越境ECをおこなう場合、インスタグラム、TikTok、X(旧ツイッター)などのSNSの活用は必須だと考えてください。海外の消費者は、Web検索ではなく、SNSで欲しい商品を探すという人もたくさんいます。
また、日本企業は、一方的な「公式情報発信」のツールとしてのみSNSを利用するケースがほとんどなのですが、これでは、SNSの有効性を半分も活かしていません。
SNSは、消費者とのコミュニティ作り、ファン作りにこそ利用すべきです。例えば、新製品が発売されたという情報を一方的に発信するのではなく、カラーバリエーションがあるのなら、どちらの色が好きかを尋ねてみるとか、面白い使い方を募集して共有するといったことです。このようにしてコミュニティを形成して、ひいては自社のファンになってもらうために、SNSを利用します。
社内に越境EC担当者を置く
ECモール利用でも、自社ECサイトでも、越境ECをおこなうのであれば、必ず、社内での担当者を決めましょう。担当者は、兼任でもかまいませんが、毎日2~3時間程度は、越境EC業務にかかりきりになれることが必要です。朝、昼、夕方と、30~40分くらいずつ、サイトやメールをチェックしたり、商品を発送したりするなどの業務をおこなうイメージです。スタート直後は、わからないことややることも多いので、もう少し長い担当時間が必要かもしれません。
いずれにしても、その時に手の空いている人間が対応する、といったことではなく、責任を持って担当できる社員を指定してください。そのことが、越境ECの成否を分ける重要な要素になるからです。
越境ECのための自社WebサイトとSNS活用
すでに述べたように、初めての越境ECに取り組む際には、ECモールを利用するのがおすすめです。eBayのように初期費用が不要なモールなら、テスト的に利用することもできるでしょう。
しかし、越境ECを事業部門として本格的に展開したいのであれば、ECモールと並行して、自社ECサイトも構築・運用することをおすすめします。ECモールを辞めて自社サイト1本でやるということではなく、併用していくということです。 実際、越境ECをしている企業の90%以上は、ECモールと自社サイトを併用しています。
ECモールを入り口として、自社ECサイトに誘導する
どうせ自社ECサイトを作るなら、最初から自社ECサイトだけで越境ECをすればいいではないか、と思われるかもしれません。
しかし、誰も知らない自社ECサイトに集客をして商品を購入してもらうためには、プロモーションにかなりの費用と手間をかけなければなりません。
一方ECモールには、毎日何千万人もの人がアクセスするため、特別なプロモーションをしなくても自社に気付いてもらえます。
そこで、きちんとした商品を売って、しっかりした対応をすれば、商品の種類にもよりますが、リピーターになってもらえたり、口コミで紹介をしてもらえたりする可能性があります。その際に、自社サイトがあれば、自社サイトから購入してもらえるようになります。
高額商品の購入では、自社サイトが確認される
日本円で1000円、2000円程度の商品なら、ECモールの情報だけで購入してもらうことができますが、数万円以上の高額商品の場合、約3割の人は自社ECサイトの存在を確認し、より詳細な情報を得てから購入意思決定をします。
その場合でも、海外の知らない会社のECサイトから直接購入することはためらわれるので、ECモールから購入されることが大半ですが、きちんとした会社であることを確認してもらうという意味で、自社ECサイトの存在が重要なのです。
越境ECの注意点
最後に、よくある疑問と注意点をまとめておきます。
クレームは意外と少ないが、あった場合はしっかりした対応が必要
「アメリカは訴訟社会」といったイメージがあるため、海外の消費者はクレームをつけてくることが多いというイメージを持っている人がいるかもしれません。しかし、実際はそんなことはありません。しっかり納得して購入したものに、理不尽なクレームをつけるような消費者は、海外にはあまりいません。どちらかといえば、海外より日本の消費者のほうが、理不尽なクレーマーが多いかもしれません。
もちろん、クレームがないわけではありませんから、あった場合はしっかりと対応をする必要があります。
法的な問題が問われているような場合は、英文メールの文面なども、機械による作成ではなく、法律知識のある人間の翻訳者に依頼したほうがいいでしょう。
破損を防止する梱包を心がける
実際のクレームで多いのは、商品の破損です。海外の配送業者には、荷物を乱暴に扱う人も少なくありません。そのため、日本の感覚で梱包していると、配送中に破損してしまうことがあります。
乱暴に扱われることを想定して、緩衝材を多く入れるなど、破損対策を心がけましょう。
返品は多い!それを見越して、売価などを設定する
海外、特にアメリカの消費者は、クレームは少なくても、返品は平気でする傾向があります。特に、衣服やバッグなどのアパレルは、単にイメージがあわないといった理由で返品されるのは当たり前ですし、パーティーなどで一度着用して(タグは付けたまま隠しておいて)、その後、不要になったから返品するという人も珍しくありません。
この返品は、防ぐ方法はありませんので、返品が多いことを見越して、売価を高めに設定しておくなどの対応をするしかありません。
まとめ
せっかく越境ECに取り組んでも、成果が出せずに撤退してしまう企業も少なくありません。そうならないためには、越境ECならではの、マーケティングやプロモーションをしなければなりません。
プロモーションは、決して簡単に成果が出るものではありませんが、やればやっただけの効果はあります。
本記事をまとめた資料も用意しましたので、ぜひダウンロードしてお手元に備え、越境EC成功のお役に立ててください。
横川 広幸(よこかわ ひろゆき)
ジェイグラブ株式会社
eBayJAPAN創業時に法人営業、マーケティングに従事。eBayに連携した越境ECサイト“Tokyotrad”で日本の仏具を世界86カ国に販売。自らの越境EC成功体験を越境ECアドバイザーとして日本全国でセミナー講演や個別相談をおこなう。