節税
(画像=PIXTA)

従業員に支給する手当は、一般的には所得の一部とみなされるため、課税の対象に含まれる。しかし、中には非課税になる手当も存在するため、節税のポイントとしてしっかりと理解しておきたい。本記事ではそのような手当を、よくある事例と共に紹介していこう。

目次

  1. 手当が非課税として扱われる条件とは?
  2. 非課税として扱われる手当の一例
  3. 1.通勤手当
    1. 公共交通機関を利用する場合
    2. 車や自転車を利用する場合
    3. 公共交通機関と車などを併用する場合
    4. 定期券を使う場合
  4. 2.旅費・出張費
    1. 社員旅行の費用は非課税になる?
  5. 3.宿直手当
  6. 4.学資金
  7. 5.研修手当
  8. 6.寮や社宅などの家賃
  9. 7.記念品などの現物支給
    1. 旅行券は一般的に課税対象
  10. 8.食事代
    1. 社員食堂で食事を提供している場合は?
  11. 9.災害補償金
  12. 10.見舞金
  13. 非課税を効果的に活用するためのポイント
    1. 1.使用用途や日時を明確にする
    2. 2.出張旅費規程を作成する
    3. 課税・非課税の判断に困ったら?
  14. 手当を非課税にして上手に節税しよう

手当が非課税として扱われる条件とは?

手当とは、通常の給与とは別に支払われる「業務上必要なお金」のことだ。一般的なものには、職務の責任に対して費用が支払われる職務手当、残業をした場合に支払われる残業手当などがある。

これらの手当は所得の一部とみなされるため、原則として所得税が発生する。しかし、国税庁によって定められた以下の条件を満たす手当は、非課税として扱われるのでしっかりと理解しておきたい。

〇非課税として扱われる手当の主な条件
・ 通勤手当のうち、一定金額以下のもの
・ 転勤や出張などのための旅費のうち、通常必要と認められるもの
・ 宿直や日直の手当のうち、一定金額以下のもの

非課税として扱われる手当の一例

では、具体的にどのような手当が非課税として扱われるのか、その一例を以下で見ていこう。

〇非課税になる手当の一例
・通勤手当
・旅費・出張費
・宿直手当
・学資金
・研修手当
・寮や社宅などの家賃
・記念品などの現物支給
・食事代
・災害補償金
・見舞金 など

ただし、手当の種類によって課税・非課税が分類されているわけではない。手当の金額や目的によっては、上記に該当しても課税されてしまうケースが存在する。

そこで以下では、各手当が非課税となる場合とならない場合を、事例と共に詳しく解説していく。

1.通勤手当

通勤にかかる費用を支給する通勤手当は、一定の額までは非課税となる。通勤の手段によって、以下のように限度額が異なっている。

公共交通機関を利用する場合

電車やバスなどの公共交通機関を利用する場合は、最も経済的かつ合理的な手段で通勤した場合の金額が非課税となる。

例えば、電車で赤羽から東京まで通勤する場合、最も経済的かつ合理的な通勤経路が、高崎線に乗ることとする。赤羽・東京間は片道220円(2020年2月現在)のため、往復では1日440円。月に出勤日が20日ある場合は、440円×20日で月の通勤手当は8,800円になる。この場合、8,800円には税金がかからない。

ただし、公共交通機関を利用する場合、非課税額の上限は15万円と定められている。通勤手当として支給しても、15万円を超える分は課税対象となる。

車や自転車を利用する場合

車や自転車で通勤する場合の非課税額は、片道の通勤距離によって決まる。

片道の通勤距離1ヶ月あたりの非課税限度額
2キロメートル未満全額非課税
2キロメートル以上10キロメートル未満4,200円
10キロメートル以上15キロメートル未満7,100円
15キロメートル以上25キロメートル未満12,900円
25キロメートル以上35キロメートル未満18,700円
35キロメートル以上45キロメートル未満24,400円
45キロメートル以上55キロメートル未満28,000円
55キロメートル以上31,600円

高速道路を利用する場合は、上記に高速道路の通行料をプラスした金額が非課税となる。これを超える手当を支給することは可能だが、超えた分は課税の対象となる。

なお、月極駐車場などを利用している場合、会社から駐車場の料金を支給することもあるが、駐車場代は課税対象に含まれてしまう。

公共交通機関と車などを併用する場合

公共交通機関と車や自転車を併用する場合は、以下の2つの合計額が非課税となる。

・ 公共交通機関を利用するための金額
・ マイカーや自転車などを使って通勤する場合の非課税となる限度額

例えば、自転車で2キロメートル先の赤羽駅まで行き、そこから東京に向かう場合、先述した赤羽・東京間の交通費と、4,200円を足した金額、つまり13,000円が非課税となる。

ただし、こちらも限度額は15万円に設定されている。

定期券を使う場合

定期券は基本的に全額非課税となる。ただし、上限は15万円に設定されており、これを超える金額には所得税が課せられる。

2.旅費・出張費

旅費や出張費も、通常の業務に必要と認められるものであれば非課税となる。例えば、会社が東京から大阪への出張を1泊で命じた場合、東京から大阪の往復の交通費とホテル代は「通常の業務に必要な費用」と認められる。そのため、これらの旅費・交通費は非課税になる。

では、出張の場合に日当を支給するケースではどうだろうか。日当については、「実費弁償」の考え方に基づいて判断されている。
実費弁償とは、本来ならば必要ないはずだった出費を弁償することだ。日当は基本的に、「会社から命令されなければ、かからなかったはずの食事代や雑費」などを賄うために支給される。この日当についても、妥当な金額であれば非課税となる。

このように、旅費・出張費に関しては非課税額の上限が明確に設けられていないが、あまりに大きな金額が非課税となっていると、税務調査の際に指摘される恐れがある。1泊の出張を例に挙げると、日当と宿泊費を合わせて25,000円以内、そこに交通費を実費でプラスした金額が妥当と言えるだろう。

社員旅行の費用は非課税になる?

社員旅行の費用は少額不追及(少額の現物支給は課税しない)と認められる範囲内で、なおかつ下記2点を満たしている場合に非課税となる。

〇社員旅行の費用が非課税として扱われるための条件
・ 旅行の期間が4泊5日以内(海外旅行の場合には、外国での滞在日数が4泊5日以内)
・ 旅行に参加した人数が全体の人数の50%以上

例えば、従業員数が100人の会社で、以下のような形で社員旅行が実施されれば、その費用は非課税として扱われる。

〇非課税として扱われる社員旅行費の一例
・ 旅行期間:3泊4日
・ 旅行費用:15万円(うち7万円を社員が負担)
・ 参加人数:50人

では、以下のようなケースではどうだろうか。

・ 旅行期間:5泊6日
・ 旅行費用:25万円(うち10万円を社員が負担)
・ 参加人数:30人

この場合、旅行期間が4泊5日を超えているため、非課税の対象とはならない。また、参加人数も従業員の50%未満のため、人数に関する条件でも非課税の対象外だ。

ちなみに研修旅行の場合は、業務上必要と認められる部分の費用は非課税となる。ただし、下記の7つについては、社員旅行・研修旅行とは認められないため注意したい。

〇社員旅行・研修旅行とは認められない旅行
・ 役員だけで行う旅行
・ 取引先に対する接待、供応、慰安等のための旅行
・ 実質的に私的旅行と認められる旅行
・ 金銭との選択が可能な旅行
・ 同業者団体の主催する、主に観光旅行を目的とした団体旅行
・ 旅行のあっせん業者などが主催する団体旅行
・ 観光渡航の許可をもらい海外で行う研修旅行

なお、少額不追及については、明確な限度額は定められていない。一般的には10万円程度までとされているが、総合的に判断して必要と認められれば10万円を超えても非課税となる場合がある。

判断に迷ったら、税理士や税務署に相談することが望ましい。

3.宿直手当

宿直手当とは、宿泊を伴う業務(見回りや留守番など)を行った場合に支給される手当のこと。労働基準法の適用外であり、これは日直(宿直と同じく、留守番程度の業務で昼に行うもの)も同様だ。

宿直手当は、1回の勤務につき4,000円までなら非課税になる。ただし、宿直で食事を支給した場合には、4,000円から食事代を引いた額が非課税対象となるため注意しておきたい。もし500円の食事を提供した場合には、4,000円から500円を引いた額、つまり3,500円が非課税として扱われる。

なお、非課税になるのはあくまで軽度な業務の場合のみであり、例えば医師が診療のために宿泊する場合には、宿直手当の非課税対象とはならない。また以下のような場合も、非課税の対象外なので要注意だ。

〇非課税の対象外となる主なケース
・休日や夜間の留守番のみのために雇用されている場合
・上記と同様の業務で雇用されており、その場所に住んでいる場合
・宿直分の代休が与えられる場合
・通常の給与に比例して宿直手当が支払われる場合

4.学資金

技術や知識を習得するために与えられる学資金は、基本的には非課税となる。非課税となる条件は、「通常の給与にプラスして支払われること」だ。

例えば、通常の給与が20万円で毎月5,000円の学資金を支払う場合、205,000円を支払っていれば、5,000円分は学資金として非課税になる。しかし、通常の給与20万円のうちに学資金の5,000円を含んでいる場合、5,000円のすべてが非課税とはならない。

また、下記のような費用である場合も、非課税の対象外となる。

・役員のための学資金
・役員や社員の親族、内縁者などのための学資金

ただし、個人事業者の場合は、事業者と生計を一にする親族のための費用であれば学資金として認められる。特に上限は定められていないが、金額は常識の範囲内に留めておきたい。

5.研修手当

業務上必要な技術の習得や資格取得のために、研修や講演会に参加する会社もあるだろう。こうした場合にかかる参加料や出席費用は、基本的に非課税だ。ただし、注意しておきたい点として、「業務と直接関係がある場合に限ること」という条件が設けられている。

例えば、経理の仕事をしている社員や役員であれば、簿記の資格を取ったり経理に関わる講義を受けたりすることは業務と直接関係がある。しかし、経理に関わる仕事をしていない場合、それらは業務とは直接関係がない。このようなケースの場合、研修費用は非課税としては認められない。

こちらも特に非課税の上限額は定められていないが、相場に合わせた金額に留めておくことが望ましい。

6.寮や社宅などの家賃

寮や社宅などを社員に提供している場合、社員から一定額の金額(賃料相当額)を家賃として受け取っていれば非課税となる。「賃料相当額」は、以下の3つを合計することで算出される。

〇賃料相当額に含まれるもの
【1】(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%
【2】 12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/3.3(平方メートル)
【3】(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%

例えば、100平方メートルの社宅で、固定資産税課税標準額が1,000万円だとした場合は、以下のように賃料相当額を計算する。

【1】(1,000万円)×0.2%=20,000円
【2】12円×(100(平方メートル)/3.3(平方メートル))=363円
【3】(1,000万円)×0.22%=22,000円
合計金額(賃料相当額)=【1】+【2】+【3】=42,363円

非課税として扱われるには、賃料相当額の50%以上を社員から受け取っていることが条件となる。そして非課税になる部分は、受け取っている金額と賃料相当額との差額だ。もし家賃を受け取っていても、賃料相当額の50%未満であれば、その差額は課税の対象となる。

以下に、前述した社宅を社員に貸した場合の例を3つ挙げてみよう。

(1)社宅を社員に無償で提供する
(2)社員から10,000円を受け取って社宅を提供する
(3)社員から30,000円を受け取って社宅を提供する

(1)は、家賃がすべて給与となり、課税の対象となる。(2)の場合は、家賃を受け取っているが賃料相当額の50%未満のため、42,363円から10,000円を引いた額「32,363円」に課税される。(3)では、賃料相当額の50%以上を家賃として受け取っているため、差額は課税の対象にならない。

これは会社で所有している物件だけでなく、借りた家やアパートなどを社宅や寮として社員に提供する場合も同様だ。ただし業務上、勤務場所から離れることが難しい職業(看護師や守衛など)の場合は、無償で提供していても非課税となることがある。

7.記念品などの現物支給

永年勤続者や成績優秀者を社内で表彰する際、記念品などの現物が支給されるケースがある。この場合、下記すべての条件にあてはまれば、記念品は非課税となる。

〇記念品が非課税として扱われるための条件
・ 勤続年数や地位などに照らして、相当な金額以内であること
・ 勤続年数がおおむね10年以上である人を対象としていること
・ 同じ人を2回以上表彰する場合には、前に表彰したときからおおむね5年以上の間隔があいていること

旅行券は一般的に課税対象

上記すべてにあてはまれば記念品は非課税としたが、例外もある。それは商品券や旅行券など、有効期限がなく、現金に替えられるものを支給する場合だ。これは現金を支給したことと同じになるため、券面の金額が課税の対象となる。

ただし、以下の4つの条件をすべて満たしている場合には、非課税として扱われるため覚えておきたい。

○旅行券が非課税として扱われるための条件
・ 旅行券を支給されてから1年以内に旅行を実施する
・ 旅行券の額面相応の範囲内で旅行に行く
・ 旅行後、必要事項(旅行実施者の所属・氏名・旅行日・旅行先・旅行社等への支払額など)を記載した報告書を旅行先がわかる資料と共に提出する
・ 旅行券を1年以内に使用しなかった場合は、使用しなかった分を会社に返還する

8.食事代

以下の2つの条件を満たす形で社員に食事を提供している場合、その食事代は非課税として扱われる。

○食事代が非課税として扱われるための条件
・ 社員が食事代の半分以上を負担している
・ 食事代から社員の負担分を引いた額が、1ヶ月あたり3,500円(消費税・地方消費税を除く)以下

上記にあてはまれば、食事代から社員の負担分を引いた額が非課税となる。下記に例を3つ挙げてみよう。

(1)無償で月に5,000円の食事を支給
(2)月の食事代が5,000円で、そのうち2,000円を社員が負担
(3)月の食事代が5,000円で、そのうち3,000円を社員が負担

(1)の場合は社員の負担がなく、また3,500円を超えているため課税の対象となる。(2)は、食事代から社員の負担分を引いた額が3,500円以下になっているが、社員が半分以上を負担していないので、非課税にならない。

(3)は社員が半分以上を負担し、なおかつ差額が3,500円以下となっているため非課税として扱われる。

社員食堂で食事を提供している場合は?

社員食堂で食事を提供している場合も、非課税となる条件は上記と同様だ。ただし、社員食堂での食事代は、「食事を作るために直接かかった費用の合計額」になる。

9.災害補償金

業務や通勤で負傷したり災害にあったりして働けない場合、休業特別支給金(災害補償金)が支給される場合がある。この補償金は、原則として非課税だ。

ただし、自らの不注意で負傷して休業した場合には、課税の対象となる。

10.見舞金

見舞金や災害義援金も、非課税とされている。ただし、受け取る人の地位や贈る人との関係性を考慮し、自然な額のものに限られる。

あまりにも金額が多い場合は、課税対象に含まれる恐れがあるため注意しておきたい。

非課税を効果的に活用するためのポイント

ここまで解説したように、手当はさまざまな条件を満たさないと非課税とはならない。しかし、以下で紹介する2つのポイントを押さえておけば、非課税になるかどうかを判断しやすくなるうえに、税務処理・経理処理の負担を抑えられる。

1.使用用途や日時を明確にする

「何に使ったのか」「いつ使ったのか」を明確にしておくことは、正しい税務処理の基本だ。使用用途や日時を明確にしておけば、非課税の対象となるかを判断しやすくなる。

また、不透明な支出は税務調査の不安材料となるため、普段から支出の状況を明確にし、整理しておくことが重要だ。

2.出張旅費規程を作成する

出張旅費規程とは、出張の際に支払う旅費や日当を社内で定めたものだ。

前述したが、基本的に旅費や出張費には上限がない。そのため、非課税分は各社で自由に設定できるが、旅費規程の中で事前に支払う金額を決めておくことで、課税・非課税の判断に迷いづらくなる。将来的に内容を見返すことも可能なので、経理処理の負担も抑えられるだろう。

ただし、旅費・出張費として支払う金額は、妥当な額に設定することが重要だ。必要以上の費用が支払われていると、税務調査の際に問題視されることがある。

課税・非課税の判断に困ったら?

手当の非課税に関してはさまざまなパターンが考えられるため、非課税に含まれるかどうかの判断が難しい場合もある。そうした場合には、最寄りの税務署や税理士に相談することを検討しよう。事前に相談しておくことで、税務調査でのトラブルを避けられる。

手当を非課税にして上手に節税しよう

本記事で紹介したように、手当の課税・非課税に関する条件は複雑だ。しかし、各手当の条件などを意識すれば、大きな節税につなげられる。

紹介した事例を参考にするのはもちろん、税務署や税理士にも相談しながら、非課税として扱われる手当を増やしていこう。

文・THE OWNER編集部

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