業績の悪化や後継者問題などで、会社の解散を考えている経営者もいるだろう。会社を解散するには、解散するための条件や手続きがある。ある程度、時間や費用も必要だ。この記事では、会社解散の条件や手続きのほか、相談できる専門家も紹介する。
目次
会社解散は法人格を消滅させるための手続き
「会社解散」とは会社の営業を止め、法人格を消滅させる手続きのことだ。会社を解散させる理由としては、主に以下の点が挙げられる。
・業績が悪化し事業が継続できない
・会社はあるが営業をせずに法人税のみを支払っている
・後継者が見つからない
・経営者の健康状態に問題がある など
会社はさまざまな理由で解散されるが、自由なタイミングで勝手に解散をすることはできず、きちんとした手続きを踏む必要がある。したがって、会社解散をするのであれば手続きにかかる時間と費用を意識して、余裕を持ってスケジュールを組むことが大切だ。
会社は清算手続きをしなければ解散できない
会社解散にきちんとした手続きが必要になる理由は、主に「債権者保護」のためだ。
もし会社が勝手に解散できるのなら、借金を返済しないまま解散する会社もあるだろう。こうした事態が発生しないように、会社を解散する際には債務の返済や整理を行う「清算手続き」をしなければならないと定められている。
そのため、会社は解散を決めても清算手続きが終わらない限り、消滅することはない。
会社解散の2つのメリット
多くの方は「会社解散」と聞いて、ネガティブなイメージを持つかもしれない。しかし、会社の解散には、主に以下の2つのメリットがある。
1.税金がかからない
会社解散の最大のメリットは、経営における税金が発生しなくなる点だ。
一般的な法人には、所得に応じた税金が課せられる。さらに、従業員数や資本金を基準にした「均等割」も支払わなければならないため、営業を行っていない会社でも税金の負担が発生する。
例えば、主たる事業所が東京都の特別区内にある場合、資本金が1,000万円以下で従業員数が50人以下の会社は、均等割として7万円を支払う必要がある。所得が少ない会社や赤字の会社にとって、この負担は大きいだろう。
その点、会社解散をして法人を消滅させれば、この均等割でさえも負担する必要はない。
2.社会保険の負担がなくなる
会社を解散すると従業員を雇う必要がなくなるため、社会保険の負担もゼロになる。
通常、会社が従業員に給与を支払う場合は、社会保険に加入しなければならない。このときに発生する社会保険料は、従業員と法人の両方が負担する形となるため、経営の苦しい会社にとっては事業を圧迫する要因になるだろう。
ちなみに個人事業主の場合は、5人以上の従業員を雇っていない限り、社会保険に加入する必要はない。従業員が少ない場合、会社解散ではなく個人事業主になることで、社会保険の負担を減らす方法も存在する。
会社解散の2つのデメリット
会社解散には魅力的なメリットがある一方で、注意するべきデメリットも存在する。特に以下で挙げる2つのデメリットは、経営者が確実に理解しておきたいポイントだ。
1.同じ会社として再開できなくなる
会社は一度解散をすると、同じ会社として再開することはできない(※清算結了の登記前であれば、解散前の状態に戻すことが可能)。仮に大きな黒字を生み出している事業があった場合、その事業を続けられなくなる点は深刻なダメージになり得る。
もしいつか再開することを考えているのなら、解散ではなく「休眠会社」にする選択肢がある。休眠会社であれば好きなタイミングで事業を再開できるうえに、再び新しい会社を作るより手続きが楽だ。
また、後継者がいないために解散を考えているのであれば、事業承継の選択肢として「M&A」も考えておきたい。事業を続けたいという意思があるのなら、継続の可能性をさまざまな方向から探ってから解散を決めても遅くはないだろう。
2.清算手続きが煩雑
後述で詳しく解説するが、解散のための清算手続きは非常に煩雑だ。株式総会を開き、各機関に届出をするためのさまざまな書類を作成しなければならない。
また、ベストな形で清算手続きを進めるには、ある程度の専門知識が求められてくる。専門家の手を借りなければ、スムーズに進めることが難しいケースも多いため、ある程度の時間や費用がかかる点には覚悟が必要になる。
会社解散ではなく、「休眠会社」という選択肢も
前述でも触れたが、将来的に「会社を再開したい」と考えている場合は、休眠会社にする選択肢がある。休眠会社は、所定の手続きを済ませば事業を再開できるうえに、清算手続きほど大きな手間がかからないので、「一時的に経営をストップしたい」と感じている経営者にはベストともいえる選択肢だろう。
休眠会社になるには、まず事業の一切を停止し、異動届出書に休業する旨を記載して、それを税務署や市町村役場に提出する。そして再開をする場合には、異動届出書に再開することを記載し、再び税務署や市町村役場に届け出る。
この流れを見てわかる通り、会社を解散して清算手続きを行い、再び会社を立ち上げるケースに比べると、休眠会社の手続きは非常にシンプルだ。
会社の解散に必要な「7つの条件」
ここからは、会社解散の手続きを見ていこう。
会社を解散させるには、会社法で定められた「7つの条件のいずれか」に該当する必要がある。まずはこの各条件を、以下で詳しく解説していく。
1.定款で定めた存続期間の満了
一般的な法人を設立する際には、定款が定められる。その定款の中に記載された期間が満了を迎えた場合、その会社は解散させることが可能だ。
例えば「この会社は2020年の3月末まで営業を行う」と定款に記載していた場合、2020年の3月末の営業終了時点で解散できる。
2.定款で定めた解散事由の発生
定款で「この目的を達成したら解散する」と定めていた場合は、目的達成時に解散の条件を満たしたことになる。永続的な事業ではなく、一時的な目的のために作られた会社などは、このタイプに当てはまる。
3.株主総会の決議
株主総会で解散が決定した場合も、解散の条件に当てはまる。
会社を解散させるには、過半数の株主が出席する総会で「3分の2以上の賛成」を得なければならない。ちなみに、会社を解散させる方法として最も多いものが、この株主総会による決議だ。
4.合併により会社が消滅する場合
M&Aなどで法人が合併して消滅する場合も、その会社を解散させることが可能だ。ただし、この場合には合併する会社に対して、権利などを譲渡するための手続きを行う必要がある。
5.破産手続き開始の決定
裁判所に「破産の申立て」を行い、それが受理された場合も解散できる。ただし手続きは通常の清算手続きとは異なり、裁判所が選任した破産管財人が裁判所監督の下で行う。
6.裁判所による解散命令
裁判所が解散を命じた場合、会社はその命令に従う義務がある。たとえば、会社やその役員、社員などの違法行為が発覚すると、裁判所から解散を命じられるケースがある。
7.休眠会社のみなし解散の制度
休眠会社の届出を行った場合は、法務大臣の公告後2ヶ月以内に登記申請をする、もしくはまだ解散していない旨を届け出ないと、自動的に解散したものとされてしまう。この流れで会社が解散させられることは、「みなし解散」と呼ばれている。
ただし、みなし解散の場合は「3年以内」に手続きを行えば会社を再開できるため、しっかりと覚えておきたい。
銀行や保険会社は注意!一般的な法人とは条件が異なる
ここまで紹介した7つの条件は、主に株式会社や有限会社に該当する場合のものだ。銀行や保険会社は、会社法ではなく銀行法や保険業法に解散の条件が定められているため、そちらに従うことになる。
銀行の場合は、株主総会による決議や合併などで解散できる。ただし、解散するには内閣総理大臣による審査が必要であり、定款に関わる事由では解散できない。
保険会社についても基本的には同じだが、保険契約の全部に関わる保険契約の移転や、免許の取消などがあった場合も解散の対象となる。
会社解散(通常清算)の基本的な手順
解散の条件のいずれかに当てはまったら、会社解散の手続きを進めることが可能だ。ここからは、会社解散の具体的な手順を紹介していこう。
なお、手順は一般的な株式会社を例とする。
【STEP1】株主総会で解散の決議を行う
まずは株主総会を開催し、解散の決議を行う。解散の決議を行う場合は過半数の株主が出席し、3分の2以上が賛成する「特別決議」が必要だ。
また、定款や株主総会で清算人が決まっていない場合は、同時に「清算人の選任」を行う。清算人とは解散のための手続きを行う人物のことで、多くのケースでは取締役が選ばれる。
【STEP2】解散・清算人選任を登記する
解散が決まったら、法務局で解散登記と清算人選任登記を行う。登記を済ませるには、下記の書類が必要だ。
- 〇解散登記と清算人選任登記に必要な書類
・株式会社解散及び清算人選任登記申請書
・株主総会議事録
・清算人会議事録
・就任承諾書
・定款
このほか、登記を書面で行う場合(現在はオンライン提出が一般的)は「OCR用紙」、解散・清算人選任登記を代理人に任せる場合には「委任状」も用意する必要がある。上記書類の用意と登記は、株主総会で解散が決定してから2週間以内に行わなければならない。
【STEP3】公的機関に解散の届出をする
解散登記と清算人選任登記が終わったら、税務署や市町村役場、社会保険事務所などの公的機関に解散の届出を行う。解散の届出の際には、以下の2つの書類を用意しなくてはならない。
- 〇解散の届出に必要な書類
・異動届出書
・登記事項証明書
異動届出書は、各機関のホームページから書式がダウンロードできるほか、窓口でも受け取れる。登記事項証明書は各法務局の窓口以外にも、オンラインで請求が可能だ。
【STEP4】財産目録と貸借対照表を作成する
【STEP3】と同時に、清算人は解散日時点での財産目録と貸借対照表を作成する。作成が完了したら、株主総会の承認を得て会社に保管しておく。
【STEP5】債権者保護手続きを行う
次に官報(政府発行の新聞)公告や個別の連絡を行い、会社が解散する旨を債権者に伝える。会社に対して債権を持っている者は、公告から一定期間内(2ヶ月以上必要)に申し出るように記載する。
このように、事前に債権者に解散する旨を伝え、弁済する機会を設けることを「債権者保護手続き」と言う。なお、官報への掲載申し込みは全国の官報販売所で行える。
【STEP6】解散確定申告書を提出する
続いて解散日までの確定申告書を作成し、税務署に提出する。
ただし、1年間で事業を行った月が12ヶ月未満の場合、通常の確定申告と変わってくる場合がある。そのため、税務署や税理士などと相談しながら、申告書を作成することが望ましい。
提出の期限は、解散が決まった日から2ヶ月以内だ。
【STEP7】残っている財産を分配する
債権と債務、財産が確定したら、清算人は売掛金や貸付金などの債権を回収し、同時に買掛金や借入金などの債務を支払う。もし債務を支払って余剰が出た場合は、株数に応じて株主に分配する。
【STEP8】清算確定申告書を提出する
余った財産が確定したら、1ヶ月以内に清算確定申告書を作成して税務署に提出する。もし所得があった場合には、納税を行う。
作成には通常の確定申告書類を使用するが、通常の申告とは異なる記載が必要になるため、専門家に相談をしながら作成することが望ましい。
【STEP9】決済報告書の作成をする
余剰財産の分配が完了したら、清算人は債権や債務、分配した財産などを記載した決算報告書を作成する。作成後は株主総会を開催し、報告書について承認を得る。
【STEP10】清算結了の承認と登記を行う
株主総会で決算報告書が承認されたら、以下の3つの書類を用意したうえで、2週間以内に清算結了の登記申請を行う。
- 〇清算結了の登記申請に必要な書類
・株式会社清算結了登記申請書
・株主総会議事録
・決算報告書
株式会社清算結了登記申請書内の「登記すべき事項」は、オンラインでも登録できる。この登記によって、会社は正式に消滅したことになる。
【STEP11】公的機関に清算結了の届出をする
最後に、税務署や市町村役場、都道府県税事務所などに清算決了の届出を行う。この届出に関しても、以下の書類が必要になるため注意しておきたい。
- 〇清算結了の届出に必要な書類
・異動届出書
・閉鎖事項全部証明書(登記事項証明書)
これらを提出して、会社解散の手続きはすべて完了する。
債務が資産額を超えた場合「特別清算」が必要
ここまで紹介した手続きは、債務が資産額を超えない場合の流れだ。もし債務が資産額を超える場合は「特別清算」と呼ばれる、通常とは違う手続きを行わなければならない。
特別清算の場合は、裁判所監督の下で手続きを行うことになる。なお、特別清算を利用できるのは株式会社のみだ。
会社解散(特別清算)の基本的な手順
では、ここからは特別清算を行う場合の手順について解説する。大まかな流れは通常清算と似ているが、裁判所とのやり取りや負債額の確定など、通常清算にはないプロセスがある。
【STEP1】株主総会で解散の決議を行う
まずは通常清算と同じく、株主総会を開いて解散の決議を行う。また、あらかじめ定款などで清算人が決まっていない場合は、清算人を選任する。
清算人は、裁判所への申立てや負債の確定、債権者への弁済などを行う。取締役か弁護士が就くケースが一般的だ。
【STEP2】官報公告で解散を知らせる
次に、官報で会社が解散する旨を知らせ、債権を持っている人に一定期間内(2ヶ月以上必要)に申し出るよう伝える。また、債権を所有していることがわかっている人には、個別に連絡する。
【STEP3】裁判所に特別清算の申立てを行う
次に会社の本店がある地方裁判所に赴き、特別清算の申立てを行う。申立てには以下の書類が必要になるため、漏れなく用意しておこう。
- 〇特別清算の申立てに必要な書類
・特別清算開始申立書
・解散を決議した株主総会の議事録
・株主名簿
・清算人の履歴書
・債権者一覧表
・債権者の特別清算申立てに対する同意書
・債権申出催告の官報公告の写し
・財産目録・清算貸借対照表
・直近2~3年の決算書
・定款
・会社の登記事項証明書(会社謄本)
申立てが認められた場合、裁判所監督の下で実際の手続きを進めることになる。
【STEP4】負債額を確定させる
裁判所が特別清算開始を決定したら、清算人は債権者からの届出に基づき、負債額を確定させる。特に届出がない場合でも、会社が把握している債務は含めて計算する。
【STEP5】裁判所に協定案を提出する
負債額が確定したら、清算人は債権者との協定案を裁判所に提出する。協定案には、弁済の時期や率、担保のある債権の処理方法などが記載される。
【STEP6】債権者集会での決議・認可
次は債権者集会を開き、協定案の決議・認可を行う。協定案は過半数の債権者が参加する集会において、「3分の2以上の賛成」があれば可決される。可決された協定案は裁判所が確認して、認可をする。
なお、債権者集会を開かずに、債権者と個別に和解を進めることも可能だ。この場合は債権者ひとりひとりと、個別に和解契約を結ぶことになる。
債権者集会は3分の2以上の賛成があれば良いので、すべての債権者に納得してもらえなくても協定案が実行される。すべての債権者に納得してもらえるなら個別の和解、それが難しいなら債権者集会を行うと良いだろう。
【STEP7】決議された内容の実行
裁判所から協定案が認可されたら、清算人はその内容を実行していく。売掛金や貸付金を回収し、それを資金として各債権者に弁済を行う。
ただし、100万円を超える財産を処分する場合や事業を譲渡する場合などは、個別に裁判所の許可が必要だ。
会社解散には費用もかかる!各費用の相場をチェック
ここまでは会社解散の手続きを解説したが、「費用」が発生することも忘れてはいけない。一般的な会社解散では、主に以下のような費用がかかる。
- 〇会社解散で発生する主な費用
・解散、清算人選任登記(登録免許税):3万9,000円
・官報公告掲載費:3万円程度
・清算結了登記(登録免許税):2,000円
・その他(公的書類の取得など):5,000円程度
上記を合計すると、その金額はおよそ76,000円となる。ただし、これは手続きにかかる実費のみだ。
会社解散は手続きが煩雑なため、司法書士や弁護士などの専門家に依頼するケースも多い。もし手続きや税務申告を専門家に依頼する場合は、依頼料として10万円から20万円ほど上乗せされる。
会社を完全に解散するまでにかかる期間
会社を完全に解散させるには、少なくとも「2ヶ月」の期間が必要になる。官報に解散する旨を記載する際に、2ヶ月以上の債権申し出の期間を設けなければならないためだ。
このほか、債権や債務の調査、書類の作成、弁済などを考えると、すべての手続きを終えるまで3ヶ月ほどかかることは想定しておきたい。特に債権や債務が多い場合は、1年以上かかる場合もある。
このように、会社解散には長い期間を要するケースが珍しくないので、余裕を持って解散の準備を進めておきたい。
会社解散を相談できる専門家とは?
会社解散は複雑で面倒な手続きが多く、業務を相談できる専門家が必要不可欠だ。ここからは、会社解散を相談できる専門家を紹介する。
1.司法書士
司法書士は登記申請のプロで、通常清算の場合に最適な専門家だ。法務局関連の書類や株主総会議事録と言った、さまざまな書類の作成を任せられる。
費用を抑えたい場合は、自分ではできない部分のみを任せる方法もある。
2.税理士
税理士は、税務署に提出する書類を作成する場合に相談できる。特に通常清算では、解散確定申告書と清算確定申告書の2つの申告書を作成するため、相談できる税理士がいると心強い。
3.弁護士
特別清算の場合は、弁護士に依頼することが望ましい。特別清算では債権者との交渉が必要になるが、弁護士に依頼をすればこうした部分も安心して任せられる。
会社解散には多くの手続きが必要
会社を解散するには多くの手順を踏み、さまざまな書類を用意しなければならない。多くの時間や手間をかけることになるが、各ケースに適した専門家に相談をすれば、スムーズに手続きを進めることも可能だ。
会社解散を考えている方は、ぜひ本記事を参考にしながら準備を進めてほしい。
文・THE OWNER編集部