ECサイトを運営するうえで、ランニングコストの適切な管理は非常に重要です。しかし、ECサイトの構築方法によって、必要なコスト項目や費用の目安は大きく異なります。そのため、構築方法ごとのランニングコストの内容精査が欠かせません。
本記事では、ECサイトの構築方法別に、必要なランニングコスト項目を詳しく解説します。また、ランニングコストを安くするための方法も紹介します。ぜひ参考にしてください。
目次
ECサイトの構築方法別ランニングコスト
ECサイトの構築に関するランニングコストは、構築方法によって異なります。4つの方法ごとのランニングコストの目安について解説します。
ASP/SaaS型
ASP/SaaS型のECサイトは、月額利用料を支払うことでサービスを利用できます。初期費用が比較的低く、サーバー管理やセキュリティ対策、システム更新などは提供元が担当するため、運用コストを抑えられるのが特徴です。ただし、機能拡張や独自のカスタマイズが限定的な場合があります。
基本的な月額料金は、数千円から数万円程度のものが多く、月額1万円から10万円程度が目安です。しかし、高機能なプランや大規模向けのサービスでは、月額10万円以上するものも存在します。
加えて多くのサービスでは、月額料金に加えて、決済手数料やアプリの利用料などの、従量課金も発生する点には注意が必要です。
したがって、ASP/SaaS型のランニングコストは、サービスの選択やプラン、利用するアプリ、売上規模などによって大きく異なります。実際のコストを算出するには、自社の要件に合わせて、各サービスの料金体系を詳細に確認し、月額費用と従量課金を総合的に判断することが重要です。
ECパッケージ型
ECパッケージ型は、ECサイト構築に特化したパッケージソフトウェアを利用する方式です。初期費用はASP/SaaS型より高くなる傾向がありますが、カスタマイズの自由度が高いのが特徴です。ただし、サーバーの管理やシステム更新などは自社で対応する必要があります。
ECパッケージ型のランニングコストの目安は、月額30万円から100万円程度です。さらに、パッケージソフトウェアの保守費用やカスタマイズ費用、サーバー費用などが別途発生します。
オープンソース型
オープンソース型は、オープンソースのECプラットフォームを利用する方式です。ソフトウェア自体は無料で利用できるため、初期費用を抑えられます。ただし、サーバー管理・セキュリティ対策・システム更新などは自社で対応する必要があります。
オープンソース型のランニングコストの目安は、無料から月額50万円程度です。ただし、カスタマイズ費用やサーバー費用、運用保守費用などが別途発生します。
フルスクラッチ型
フルスクラッチ型は、ECサイトを一から自社開発する方式です。初期費用が最も高くなりますが、自社の要件に完全に合わせたシステムを構築できます。ただし、サーバー管理・セキュリティ対策・システム更新など、すべて自社で対応する必要があります。
フルスクラッチ型のランニングコストの目安は、月額50万円から100万円以上です。ただし、開発費用や運用保守費用、サーバー費用などが別途発生します。大規模なECサイトや独自性の高いビジネスモデルを持つ企業に適しています。
ECサイトの運営に関するランニングコスト項目
ECサイトの運営に関するランニングコストは、構築方法によって必要な項目が異なります。各構築方法におけるランニングコストの項目は、以下の表のとおりです。
ランニングコスト/構築方法 | ASP/SaaS型 | パッケージ型 | オープンソース型 | フルスクラッチ型 |
サーバー費用 | × | ◯ | ◯ | ◯ |
ドメイン費用 | × | ◯ | ◯ | ◯ |
SSLサーバー証明書 | △ | ◯ | ◯ | ◯ |
決済代行サービス手数料 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
ASPカートシステム利用料 | ◯ | × | × | × |
フルフィルメント費用 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
マーケティング費用 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
人件費 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
運営代行費用 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
サーバー費用
現在主流となっているクラウド型のECサービスでは、構築費用にサーバー費用が含まれている場合が多いため、別途負担は発生しないことが一般的です。
しかし、構築方法によっては、サーバーをレンタル契約、もしくは自社で用意する必要があり、その場合は別で費用が生じます。
レンタルサーバーを契約する場合、年間500円から10,000円程度が目安です。一方、オンプレミス(サーバーやネットワーク機器、ソフトウェアなどのITインフラ基盤を自社で保有する)で自社専用のサーバーを構築する場合は、保守費用が必要となり、構築費用の10〜15%が目安となります。
ドメイン費用
ECサイトを運営するには、独自ドメインの取得が不可欠です。ドメインの登録・維持費は、年間500円から6,000円が目安です。
たとえば、ドメインを取得できるサービスの「お名前.com」で「.com」のドメインを登録する場合、1個目は0円から登録できますが、2個目以降は750円、維持費は年額1,287円必要となります。
ただし、ASP/SaaS型の場合、ドメインを無料で取得できる場合もあるため、SaaS/ASP型のECサイトでは、独自ドメインの取得は不要な場合があります。実際に、futureshopは月額費用にドメイン費が含まれているため、個別に支払う必要はありません。
SSLサーバー証明書
ECサイトでは、クレジットカードや住所など、個人情報の入力が必要なため、SSLサーバー証明書の導入が必須です。独自SSLサーバー証明書は無料でも利用できますが、有料のSSLは年間12,000円から90,000円が目安となります。
ただし、SaaS/ASP型のECサイトでは提供元がSSLサーバー証明書を用意している場合もあり、SSLサーバー証明書費用がかからないサービスもあります。futureshopも、構築費用に証明書代が含まれています。
決済代行サービス手数料
ECサイトで販売した商品の代金を回収するには、決済代行サービスの利用が一般的です。決済代行サービスを利用すると、プランによっては0円から、決済手数料として売上の3〜5%を代行会社に支払う必要があります。
ASPカートシステム利用料
ASP/SaaS型のECサイトでは、サービスの利用に必要な月額費用が必要です。年額3.6万円から120万円(月額3,000円から10万円)が目安となります。
ASP/SaaS型の料金は月額費用+手数料のケースがあり、手数料はサービスによってさまざまです。具体的には、1受注あたりにかかる場合と、売上に応じた料率が設定されている場合があります。
futureshopでは、1受注あたりの販売手数料は無く、オプションやシステム連携時の月額費用として設定しています。
また、パッケージ型などの場合は、カートシステム利用料の代わりに、月額数万円〜十万円程度の保守費用が発生します。
フルフィルメント費用
ECサイトで販売した商品を配送するには、フルフィルメント費用が必要です。フルフィルメントとは、以下の内容が含まれ、費用は地域や社内の状況によって変動します。
・入荷管理
・商品保管
・受注管理
・ピッキング
・検品
・梱包
・発送
配送料は商品の大きさや配送先によって異なりますが、1回あたり300円から2,000円が目安となります。
商品の梱包・発送を自社で行う場合は、梱包資材費・倉庫スペースの確保・人件費などが必要です。一方、外部の配送代行サービスを利用する場合は、固定報酬型・成果報酬型・複合型の3つから選択します。
配送に関する具体的な料金については、以下の記事で主要5社を比較しながら解説しています。自社の状況にあった業者選定の参考にしてください。
マーケティング費用
ECサイトの集客やプロモーションには、規模や戦略によりますが、100万円単位のマーケティング費用が必要なケースがあります。具体的には、広告費やコンテンツ制作費、更新費などが含まれます。
ECサイトの集客には、SEO施策・リスティング広告・SNS広告・アフィリエイトマーケティングなど、さまざまな手法があります。それぞれの手法に必要な費用と効果を比較し、自社に合った手法を選ぶことが重要です。
また、コンテンツマーケティングや、メールマーケティングなど、長期的な顧客育成につながる施策にも予算を配分することをおすすめします。
人件費
ECサイトの運営には、人的リソースが必要です。自社で内製する場合、顧客対応に関わるフロント業務と、フロント業務を支えるバックオフィス業務などの人員確保が求められます。
リソースや専門的なナレッジが不足している場合は、外注への依頼が選択肢に入ります。依頼する場合の目安は1人あたり30万円ほどです。
運営代行費用
ECサイトの運用全般を外部に委託する場合、年間72万円から420万円程度の費用が必要です。具体的には、受注管理・在庫管理・配送手配・カスタマーサポートなどが含まれます。
運営代行業社によって、対応できる業務内容の範囲は異なります。また、料金設定もさまざまなため、複数社で比較してみるとよいでしょう。
なお、運営代行を依頼する場合、依頼の中止とともに事業内容が止まってしまう恐れがあるため、自社にナレッジを引き継いでもらえるかは確認しましょう。
外注に関する内容は、以下の記事でより詳しく解説しています。依頼できる内容や料金体系などの参考としてご覧ください。
ランニングコストを安くする方法
ECサイトのランニングコストを抑えるには、従量課金を極力少なくすることが重要です。とくに、売上金額や受注件数に応じた手数料がかかるタイプのECプラットフォームは、事業の成長に伴って負担が増えていく点には注意が必要です。
たとえば、決済手数料は従量課金ですが、それ以外の部分で固定費型の料金体系を選べば、コストを予測しやすく安定的に運営できます。
また、ECサイトの機能拡張に用いるアプリケーションについても、料金体系に注意が必要です。会員数やメール配信数に応じて課金するタイプのアプリは、初期コストが低く抑えられる利点がありますが、事業の成長とともに負担が増していきます。
そのため、アプリ選定の際は、固定費型の料金体系を提供しているものを優先的に検討するとよいでしょう。初期コストが多少高くても、長期的に見ればトータルコストを抑えられる可能性が高くなります。
ただし、固定費型の料金体系だとしても、必要以上の機能を盛り込むのは避けるべきです。機能が多いほど、初期費用や保守費用はかさみます。自社のECサイトに本当に必要な機能を見極め、シンプルな構成を心がけることが重要です。
加えて、自社内の人的リソースを活用し、できる限り内製化を進めることもコスト削減に効果的です。外部に委託するよりも、自社で対応するほうが長期的なコストは抑えられます。
まとめると、以下のポイントが重要となります。
・従量課金は極力少なくする
・固定費型の料金体系も導入する
・機能は必要な内容に絞ってシンプルな構成にする
・内製化を進める
まとめ
ECサイトのランニングコストを最適化するには、構築方法の特性を理解し、自社に適した方式を選ぶことが重要です。また、各コスト項目の内容を精査し、必要な機能に絞ってシンプルな構成にすることが求められます。
とくに、従量課金型のサービスやアプリは、事業の成長とともに負担が増大するため、固定費型の料金体系を優先的に選ぶとよいでしょう。加えて、内製化を進め、人的リソースの有効活用もコスト削減に効果的です。
長期的な視点を持ち、事業の成長段階に合わせてコスト構造を見直し、最適化していくことがECサイトの収益性向上につながります。