会社売却
(画像=Onchira Wongsiri/Shutterstock.com)

会社売却を考え始めた時、一番気になるのは会社の売却価格だろう。今回は、売却価格の相場を知りたい経営者に向けて、会社の評価額の計算方法を紹介する。また、売却額を高くする方法や、会社売却と事業売却の違いについても解説していく。

目次

  1. 会社売却と事業売却の違い
    1. 違い1:売却対象の範囲
    2. 違い2:支払う税金の種類
  2. 会社の売却価格の決め方とは
    1. 大口の取引先や長期継続顧客
    2. シェアや売上増など数値的な根拠
    3. 専門的なノウハウや特殊な技術力
    4. 従業員の経験やスキル
    5. 理念や会社風土
  3. 会社の売却価格の計算(算出)方法
    1. 時価純資産法で計算
    2. 類似会社比較法で計算
    3. DCF法で計算
  4. 会社売却の事例
  5. 会社売却の相場を自身で調査して確認しよう

会社売却と事業売却の違い

会社売却について詳しく説明する前に、混同されやすい事業売却との違いを解説する。

違い1:売却対象の範囲

会社は事業を複数展開していることが多い。事業売却とは特定の事業のみを売却することをさし、会社売却とは事業も含めて会社を丸ごと売却することをいう。

A社が、物品貸出サービスのa事業、物品販売のb事業、インターネットサービスのc事業を展開しているケースを想定してみよう。3種類の事業からa事業のみをB社に売却するのが事業売却だ。

売却時には、貸し出している物品や、物品管理を行うパソコン、物品を置く倉庫、顧客管理のソフトウェア、物品貸出サービスに携わる従業員などを総合的に評価する。ちなみに、目に見える建物や商品以外に著作権などを売却することも可能だ。

ただし、事業売却ではb事業やc事業にかかわるヒト・モノ・カネや、本社建物などは売却の対象にはならない。また、事業売却の場合、B社はA社に対価となる金銭を支払う。

これに対して、A社を丸ごとB社に売却するのが会社売却だ。会社売却では、a事業と、b事業、c事業をすべてB社が引き継ぐ。すべての事業にかかわるヒト・モノ・カネや本社建物などもB社に引き渡される。

違い2:支払う税金の種類

会社売却では、株式を売却する方法がとられる。A社の株式を持つ個人がB社に対して株式を売却する。

つまり、B社が対価となる金銭を支払う相手はA社ではなく、A社の株主である個人だ。ちなみに、ここでいう個人には代表取締役社長も含まれる。

事業売却では会社が対価である金銭を受け取るが、会社売却では個人が受け取る。そのため、売却益に対してかかる税金も違ってくる。

事業売却では法人が金銭を受け取るため、法人税と消費税がかかる。一方、会社売却では個人が金銭を受け取るため、所得税と住民税がかかる。

以上が会社売却と事業売却の違いだ。会社売却と事業売却は優劣をつけるものではない。必要に応じて望ましい方法を選択することが大切だ。

会社の売却価格の決め方とは

「うちの会社はいくらで売れる?」と、経営者からたまに質問される。しかし、「価格はあってないようなもの」と答えることにしている。

もちろん、参考売却価格の計算方法はある。しかし、結局のところ価格は需要と供給にもとづく。高い価格設定をしても買い手が見つかるならそれでよく、買い手が見つからないなら値下げの必要がある。

会社売却や事業売却といえど、根本的な値決めの部分はほかの商品やサービスと何ら変わらない。

ただし、買い手に付加価値を提示できれば会社を高値で売却することは可能だ。続いては、会社の値決めにかかわる要素を順番に解説していく。

大口の取引先や長期継続顧客

買い手が最も気にするのは買収後の継続的な利益だ。たとえば、経営者自身が非常に優秀な営業マンであり、経営者の人柄や人脈によって事業が成り立っていた場合、企業買収はリスクになりかねない。

その点、大口の取引先があったり、契約継続を見込める顧客がいたりすれば、買収後も利益が出やすい。大口の取引先や長期継続顧客の存在は買収のメリットとなり得るので、リスト化して積極的に打ち出すべきだ。

シェアや売上増など数値的な根拠

買い手は、事業への新規参入をもくろむ異業種の会社と、規模拡大を狙う同業の会社である場合の2通りがある。

違う業界の会社である場合、売り手のマーケット事情や強みなどをそもそも知らないケースも多い。

そのため、売り手はマーケットに一定のシェアを持つなら、買い手に早い段階でアピールしたい。その際に、マーケット動向の説明なども付け加えるとより親切だ。

同じ業界の会社である場合も、さまざまな角度による数値的なアピールは可能だ。売上高の継続的増加や、顧客数増加、原価率低下による利益増加などがよい例だろう。

いずれにせよアピールポイントを探してわかりやすく提示することが大切だ。

専門的なノウハウや特殊な技術力

特許や著作権、特殊な技術力などはしっかり買い手に示す必要がある。ここで重要なのは、買い手に対してできるだけわかりやすく伝えることだ。

専門性や技術力が高い会社ほど、自分たちの知識やスキルに対する感覚が鈍化してしまい、「特別な価値がある」という客観的な事実を見失っていることが多い。また、説明しても専門用語が多くなり、結局相手に伝わらないことも起こりうる。

せっかく専門性や技術力があっても、買い手に伝わらなければ売却価格には1ミリも反映されない。自社の専門性や技術力を客観的な視点で評価し、その価値を平易な言葉でわかりやすく伝える工夫が大切だ。

従業員の経験やスキル

従業員の経験やスキルは、買い手にとって魅力的に移りやすい。新規事業の開始にあたってモノは購入できるが、ヒトはそう簡単に育たない。従業員の育成や熟練に長い時間を要する事業ほど、長年勤めた従業員は高く評価される。

同じ事業を同じ環境で実施しても、経験者と未経験者が生み出す利益は大きく違う。そのことを、しっかり買い手に伝えることがポイントだ。

理念や会社風土

理念や会社風土などの目に見えないものも、会社の売却価格を決めるうえで効果的に作用する。

会社売却が成立したあと、売り手側の会社従業員と買い手側の会社従業員の間に溝ができるケースは少なくない。理念や会社風土は働く人の価値観や仕事ぶりに大きく影響している。

「チャレンジ精神が旺盛」「新しいことに積極的に取り組む」「責任感が強くプロ意識が高い」などの会社風土があるなら、前面に打ち出す必要はないがそれとなく買い手に伝えるのが大切だ。

買い手によっては魅力となり、相場より少し高い価格設定でも売却が実現することがある。

会社の売却価格の計算(算出)方法

会社売却では、一定の計算方法にもとづいて会社の売却価格を算出する。会社の売却価格を決めるうえで基礎となる会社の評価方法は3種類である。

売却価格の計算は専門家に依頼することになるため、3パターンの特徴やメリット・デメリットを大まかに把握しておけば十分だ。

時価純資産法で計算

時価純資産法とは、会社の貸借対照表の純資産をもとに会社を評価する方法だ。貸借対照表では、左側に資産、右側に負債が記載され、資産から負債を差し引いた金額が純資産となる。

時価純資産法では、まず資産と負債を時価で計算したうえで、時価純資産を算出する。算出した時価純資産に、売上や利益の数ヵ月分といった営業権をプラスして会社の評価額を決める。

時価純資産法のメリットは、主観が入る余地が少なく根拠を明確に提示できる点だ。簡便で納得性が高いことから、中小企業の会社売却ではよく用いられている。ただし、数値以外の価値を会社の評価額に反映させにくいというデメリットには注意したい。

類似会社比較法で計算

類似会社比較法では、事業内容や会社規模が似ている上場企業を複数ピックアップし、特定の財務指標を比較して評価額を決める。財務指標は、EBITDA(営業利益と減価償却費などの合計額)を用いることが一般的だ。

わかりやすく説明すると、EBITDAが上場企業の100分の1なら、時価総額を100分の1すれば、会社の評価額を求められる。

客観的なデータをもとに評価するため、平等性が保たれることがメリットだ。一方で、事業内容が似た上場企業を見つけるのが困難な場合もあり、独自性の強い会社の売却では使えないことも多い。

DCF法で計算

DCF法とは、将来獲得できるキャッシュを現在価値に割り引いて会社を評価する方法だ。会社売却後の事業計画を作成し、それにもとづいて会社の評価額を決める。

まず、会社売却後の収益の推移や毎年かかる税金、設備投資に必要な金額などを見積もり、フリーキャッシュフローを作成する。こうして求められた金額を、割引率を用いて現在価値に換算する。

DCF法で評価するメリットは、事業の買収によって獲得できる利益がわかりやすいことだ。大企業の会社売却ではDCF法がよく用いられる。

ただし、将来予測をもとに試算するため、根拠を持った予測をしないと現実と大きくかい離してしまうので気をつけたい。

会社売却の事例

最後に、会社売却の事例を紹介する。

<飲食店の会社売却事例>

A社(売り手):飲食店を経営する会社
B社(買い手):小売業で10店舗を展開する会社

A社は、地元食材を使った創作料理を提供する飲食店だ。創業者がレシピを考案し、地域で愛される名店となった。現在、創業者は経営から退き、3人の料理人が店を運営している。

創業者は60代後半に差し掛かったが、後継者の不在から会社売却を検討し始めた。

一方、B社は小売業を中心に事業を展開してきた企業だ。景気にかかわらず一定の需要が見込める飲食業界に新規参入したいという想いがあった。

しかし、飲食業は小売業とは全く異なるため、自社で事業を立ち上げるより会社を買収したほうがスムーズだと感じるようになった。

A社とB社はM&A仲介会社を通じてトップ面談を行い、詳細を詰めた。会社評価額の計算方法は時価純資産法だ。

優秀な料理人がいることから、営業権を含めた会社の売却価格は相場より高くなった。B社は将来得られる利益を見越し、価格に納得して買収を決めた。

会社売却の相場を自身で調査して確認しよう

もし、情報収集できるなら自身でも相場を調べておくことが大切だ。相場を知れば自信を持って売却額を提示でき、交渉で相手より優位に立てる。

相場を知るのが難しくても、手元に決算書があれば純資産の金額を確認できる。別の誰かに会社を引き継ぐ会社売却は、経営者にとって最後の大仕事ともいわれる。

会社売却を成功させれば、商品やサービスを将来に引き継げるだろう。望ましい形で会社を手放せるよう、経営者として最善を尽くしたい。

文・木崎涼(ファイナンシャルプランナー、M&Aシニアエキスパート)

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