税制大綱
(画像=PIXTA)
森 将也
森 将也(もり・まさや)
2010年有限責任監査法人トーマツ TS1に入所。IPO支援業務や法定監査業務、財務DD等の業務に従事した後、デロイト トーマツ税理士法人M&A組織再編サービス部門へ出向し、税務DD、ストラクチャーの検討、資本政策業務に従事。2018年に独立をし、森将也公認会計士・税理士事務所を設立。M&A支援やグループ内再編業務、IPO支援業務等を行っている。著書に『株式上場ハンドブック第6版 』(共著、中央経済社)、 『連結納税Q&A第9版 』(共著、中央経済社)がある。

2019年12月12日に与党より税制改正大綱(以下、大綱)が公表された。大綱によると、持続可能な経済成長の実現に向けて、オープンイノベーションの促進および投資や賃上げを促すための税制や連結納税制度の大幅な税制改正が行われる予定である。

本記事では経営者が注目すべき資金調達関係の税制や、資金運用に関する税制の変更点について説明をしていきたい。なお、本記事は2020年1月31日時点で判明していることをもとに執筆している。

目次

  1. 法人税の変更点は「オープンイノベーション促進税制」
    1. オープンイノベーション促進税制
  2. 所得税の変更点は?
    1. 1. 国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例
    2. 2. エンジェル税制の拡充
    3. その他
  3. 税制大綱は経営者にとってプラスの改正に?!

法人税の変更点は「オープンイノベーション促進税制」

最近よく耳にするようになった「オープンイノベーション」とは、企業間または企業と大学といった企業内外で連携し、アイデアを出し合って新たな価値を創造することである。このこと自体はそれほど新しい考え方ではない。

しかし、ICTの急速な発展やグローバル化、顧客ニーズの多様化、製品ライフサイクルの短期化にともない、よりスピード感を求められるようになった。自社内の開発だけでは追い付かなくなった結果、社外の知識や技術、人材を積極的に活用するオープンイノベーションが新たな価値を生み出す有効な手段として広がっている。

オープンイノベーション促進税制

大綱における大きな改正の1つが、オープンイノベーション促進税制の創設である。これはイノベーションの担い手であるスタートアップ企業に対し新たな資金供給を促進し、成長につなげることを目的としている。

2020年4月1日から2022年3月31日までの間に、創業10年未満の未上場のベンチャー企業に対する出資は、一定の要件を満たせば株式取得価額の25%を所得から控除可能となる。以下にその要件を以下に示す。

税制大綱

【要件】
(1)出資を行う企業の要件
出資を行う企業の要件は以下の2つのいずれかに該当する企業となる。
・国内事業会社
・国内事業会社又はその子会社が運営し、持分の過半数以上を所有するファンド等(コーポレートベンチャーキャピタル等)

なお、本件は経済産業省の証明があることを要件とするが、事前認定は行わない。事業者は経済産業省に対し、1年間の出資案件に関して「各出資が事業会社、ベンチャー企業双方の事業革新に有効であり、制度を濫用するものでないこと」を決算期に報告しなければならない。

(2)所得控除を受けるための要件
・1件あたり1億円以上の大規模出資(但し中小企業からの出資は1,000万円以上)1であること
・ベンチャー企業の資本金を増加させるために株式が交付されること
・その事業年度の所得を上限とすること
・5年間の株式を保有すること
・特別勘定の金額として経理すること
・特別勘定の取消事由
2(例:株式の譲渡や配当を受けること等)に該当しないこと

(3)出資を受ける企業の要件
・新規性・成長性のある設立後10年未満の未上場ベンチャー企業
・既に事業を開始していること
・出資を行う企業又は他の企業のグループに属さないベンチャー企業
・ベンチャー企業等の経営資源が、出資する企業の事業活動における高い生産性が見込まれる事業を行うこと、または新たな事業の開拓を行う事に資するものであること等

*1:払込になる上限が設けられる予定であるが、本記事執筆時点においてその詳細は公表されていない。また外国法人への出資も適用範囲に入っており、この時の出資金額は5億円以上とされる予定である。

*2:特別勘定の取消事由は以下が該当する。
1)経済産業大臣の証明が取り消された場合
2)株式の全部又は一部を有しなくなった場合
3)配当を受けた場合 4)株式の帳簿価額を減額した場合 5)投資事業有限責任組合等の出資額割合の変更があった場合
6)解散した場合
7)特別勘定を任意に取り崩した場合

所得税の変更点は?