福利厚生
(画像=Antonio Guillem/Shutterstock.com)

人手不足が深刻化する中、採用や既存の従業員を定着させて人材を確保し、モチベーションを高めて生産性を上げるためには、福利厚生が重要なポイントになっている。福利厚生にはコストがかかるが、企業経営者は費用対効果を考えながら、福利厚生に注視する必要があるだろう。そこで今回は、福利厚生の動向をチェックし、経営に生かすヒントを伝えていく。

福利厚生とは?

東京商工会議所の「2019年度中堅・中小企業の新入社員意識調査結果」によると、入社した会社を選んだ理由は、「仕事の内容がおもしろそう(42.6%)」、「職場の雰囲気が良かった(39.8%)」、「自分の能力・個性が活かせる(35.5%)」、「待遇(給与・福利厚生等)が良い(25.3%)」となっている。

企業経営者は、福利厚生費の現状を把握し、今後の企業経営にプラスとなる、福利厚生を含む人事労務管理を構築していかなければならないだろう。

福利厚生は企業独自に考える施策で変わる

福利厚生という言葉は、企業の待遇を表す項目として日常的に使われているが、具体的に何が、福利厚生に該当するのかというと、明確に答えることは難しいだろう。なぜなら、福利厚生と呼ばれる内容は、企業によって異なることが多いからだ。

福利厚生の内容は、企業によってさまざまだが、端的な項目で福利厚生を説明することはできるだろう。一般的には福利厚生とは、企業が従業員と従業員の家族を対象に、「健康・医療」「介護」「年金」「子育て」「住宅」「ライフサポート」「慶弔」「レクリエーション」などの項目について、健康や生活の福祉を向上させるために行う施策を指す。

福利厚生は「法定福利厚生」と「法定外福利厚生」の2種類がある

福利厚生の中に、社会保険の会社負担分がある。社会保険は「健康・医療」「介護」などの項目に含まれ、法律によって義務付けられている。このように法律によって義務付けられた福利厚生を「法定福利厚生」といい、それ以外の福利厚生を「法定外福利厚生」という。

日本経済団体連合会の「2018年度福利厚生費調査結果の概要」によると、企業が負担した法定福利費と法定外福利費の合計額は、従業員1人1ヵ月当たりの平均が11万3,556円(前年度比4.8%増)となり、過去最高額となった。内訳は、法定福利費が8万8,188円(前年度比3.9%増・過去最高額)、法定外福利費が2万5,369円(同8.2%増)と大幅に増えている。

・法定福利厚生

法定福利厚生とは、主に以下の社会保険料の会社負担分などを指す。

法定福利厚生
健康保険・介護保険料の会社負担分
厚生年金保険料の会社負担分
雇用保険の会社負担分
労災保険料
子ども・子育て拠出金

※労災保険料、子ども・子育て拠出金の従業員負担はない。

日本経済団体連合会の「2018年度福利厚生費調査結果の概要」によると企業が負担した法定福利厚生の従業員1人1ヵ月当たりの平均額は、健康保険・介護保険は3万2,429円(前年度比4.2%増)、厚生年金保険は4万8,989円(同3.4%増)、雇用保険・労災保険は5,184円(同1.2%増)、子ども・子育て拠出金は1,508円(同27.6%増)となっている。

・法定外福利厚生

法定外福利厚生とは、法定福利厚生以外の福利厚生を指す。法定外福利厚生は、法律で義務付けられているわけではないので、企業が任意で実施する項目になる。一般的には下記の項目などがある。

法定外福利厚生
住宅関連住宅
持家援助
医療・健康医療・保健衛生施設運営
ヘルスケアサポート
ライフサポート給食
購買・ショッピング
被服
保険
介護
育児関連
ファミリーサポート
財産形成
通勤バス・駐車場
慶弔関係慶弔金
法定超付加給付
文化・体育・レクリエーション施設・運営
活動への補助

日本経済団体連合会の「2018年度福利厚生費調査結果の概要」によると、企業が負担した法定外福利厚生の従業員1人1ヵ月当たりの平均額は、多くの項目で前年度より増加した。その中でも文化・体育・レクリエーションの「活動への補助」が1,361円(同28.0%増)と大幅に増加している点は注目だ。保養所などの費用である「施設・運営」は763円(同7.3%増)、運動会などの社内レクリエーション活動の高まりの影響を受け、「活動への補助」の費用が2011年度に「施設・運営」を逆転して以降、その差は最大となっている。

日本企業の福利厚生の動向

日本経済団体連合会は、1955年度から毎年継続して「福利厚生費調査」を行っている。この調査結果によって、半世紀以上にわたる日本企業の福利厚生の動向を把握できる。

年々上昇する法定福利費

「第63回福利厚生費調査結果報告」によると、健康保険・介護保険料の会社負担分、厚生年金保険料の会社負担分、雇用保険の会社負担分、労災保険料、子ども・子育て拠出金などを項目とする法定福利の従業員1人1ヵ月当たりの平均値(法定福利費)は、1981年以来継続して上昇している。2003年度に7万円台を突破し、2013年度に8万円台を突破した。2018年度の金額は8万8,188円にも上っている。

法定福利費の伸び率は、従業員の給与と賞与の合計である現金給与総額の伸び率を上回る。法定福利費は、中小企業、大企業といった企業規模に関わらず、上昇傾向が続いている。

抑制が続いている法定外福利費

法定外福利費は、企業が任意で実施する項目であるから、企業の工夫次第で、費用の抑制が可能だ。法定外福利費については、2007年度から抑制が続いている。企業の規模別に法定外福利費を見てみると、大企業の方が法定外福利費の金額が大きいが、2006年以降金額の差が縮小する傾向が見られる。

ただし、短期に視点を移してみると、2017年に大幅に減少した法定外福利費は、2018年には2万5,369円(前年比8.2%増で2万3,000円台から回復)となり、大幅に上昇している。

法定外福利厚生の項目ごとの動向

日本経済団体連合会の「2018年度福利厚生費調査結果の概要」によると、法定外福利厚生費の合計額は2007年度から抑制が続いていたが、多くの項目が前年度より増加している。

企業は法定外福利厚生費にかけられる限られたコストの中で、独自に工夫していることがうかがえるのではないだろうか。日本経済団体連合会の「2018年度福利厚生費等の項目別内訳」を見ると、従業員1人当たりの法定外福利費の合計は2万5,369円で、内訳のうち金額の多い項目を並べると下記のようになる。

法定外福利費の金額上位4項目
住宅関連1万2,133円
ライフサポート6,103円
医療・健康3,161円
文化・体育・レクリエーション2,124円

今回は、この上位4項目について動向を解説しよう。

住宅関連

「住宅関連」は、主に住宅に関わるものと、持家援助が挙げられる。住宅関連の合計額1万2,133円のうち、独身寮や社宅の管理・運営費用である「住宅」に関わるものが1万1,665円、住宅ローンの利子補給などの費用である「持家援助」が468円となっている。前年対比では、住宅に関わるものが7.3%アップしているのに対し、持家援助は、17.8%の大幅なマイナスになっている。

住宅関連は、法定外福利厚生費の合計額2万5,369円の約半分を占め、企業にとっては福利厚生にかかるコストカットの対象となりやすい一面がある。コストカットのために、社宅や社員寮など、従業員の住宅施策の在り方について見直しや、自社保有の老朽化した社宅や社員寮の閉鎖などが、2000年度以降実行され、住宅関連の法定外福利厚生費は減少傾向にあった。2018年度の住宅関連の法定外福利厚生費は、前年比で6.1%アップしているが、その要因は、ここ数年継続してきたコストカットの反動がきたものと考えられる。

医療・健康

「医療・健康」とは、主に医療・保健衛生施設運営と、ヘルスケアサポートが挙げられる。医療・健康の合計額3,161円のうち、診療所などの運営費である「医療・保健衛生施設運営」に関わるものが2,009円、労働安全衛生法に基づく健康診断費や人間ドックに対する補助費である「ヘルスケアサポート」が1,153円となっている。前年対比では、医療・保健衛生施設運営が10.0%アップ、ヘルスケアサポートが18.1%アップとなり、大幅に費用が上昇している。

ライフサポート

「ライフサポート」は、生活における多岐にわたる従業員ニーズに対応するため多くの施策がある。ライフサポートの合計額6,103円のうち、上位にあるのは「給食」1,824円、「保険」1,058円、「財産形成」1,036円となっている。前年対比では、ライフサポートの施策の多くが上昇しており、「給食」が16.1%アップ、「財産形成」が11.4%アップ、「被服」が10.7%アップ、「購買・ショッピング」が9.7%アップ、子育て支援策である「育児関連」が8.1%アップ、「介護」が8.0%アップと大幅に上昇している。

文化・体育・レクリエーション

「文化・体育・レクリエーション」は、主に保養所などの「施設・運営」と、運動会などの社会レクリエーション活動への「補助」が挙げられる。文化・体育・レクリエーションの合計額2,124円のうち、施設・運営にかかる費用が763円、補助が1,361円となっている。前年対比では、施設・運営が7.3%アップ、補助が28.0%アップとなり、大幅に上昇している。

1981年以降の推移を見てみると、企業の文化・体育・レクリエーションに対する考え方の変化が感じとれる。「施設・運営」は1996年以降減少しており、その一方で「活動への補助」が上昇してきている。2011年度になると「活動への補助」が「施設・運営」を上回り、その流れは2018年も継続して続き、格差を広げている。企業の福利厚生における、文化・体育・レクリエーションの施策が「施設・運営」から、「活動への補助」に移行していることがうかがえる。

時代に合わせた福利厚生を取り入れて企業経営に生かす

企業が福利厚生について積極的に検討する内容は、任意に設定できる法定外福利の項目だ。企業経営者は、法定外福利費を抑制しながらも、項目ごとの動向をチェックして経営に生かす工夫をしていく必要があるだろう。

文・小塚信夫(ビジネスライター)