複式簿記
(画像=Roman Samborskyi/Shutterstock.com)
内山 瑛
内山 瑛(うちやま・あきら)
公認会計士。名古屋大学法学部在学中に、公認会計士試験に合格。新日本有限責任監査法人に入所し、会計監査・コンサルティング業務を中心に研鑽を積む。2014年に同法人を退所し、独立。「お客様の成長のよきパートナーとなる」ことをモットーに、記帳代行・税務申告にとどまらず、お客様に総合的なサービスを提供している。近年は、銀行評価を向上させる財務コンサルティングや内部統制構築支援、内部監査の導入支援にも力を入れている。

目次

  1. 単式簿記と複式簿記の違いは?
    1. 単式簿記
    2. 複式簿記
  2. 複式簿記と会計報告
  3. 複式簿記のメリット・デメリット
    1. メリット
    2. デメリット
  4. 複式簿記の記帳例
  5. 複式簿記の手順について

単式簿記と複式簿記の違いは?

簿記には、単式簿記と複式簿記がある。単式簿記は、収支のみを記録するシンプルなもの(「お小遣い帳」と言われることもある)だが、複式簿記では「借方」「貸方」という概念を用いて、少し複雑な帳簿を作成していくことになる。

単式簿記

単式簿記はその名前の通り、取引を1つの勘定科目に絞って記載する方法であり、基本的には資金の動きの通りに記帳していく。収入の合計から支出の合計を引けば、手元に残った現金がいくらか、いくら増えたのか、いくら減ったのかがわかる。

構造としては非常に単純であるため、簿記の知識がない人でも利用できるのが特徴だ。個人事業主などで取引が多くない場合は、単式簿記による記帳でも問題ないだろう(ただし青色申告の適用を受けるには複式簿記で帳簿をつける必要がある)。しかし、単式簿記は基本的に現金の増減のみを記録するものなので、財政状態がわからないという欠点がある。

たとえば設備を購入した場合、複数年使用するとしても購入した年のみの支出として計上され、使用する期間で費用を按分することができない。借入をした場合も、借入時に収入、返済時に支出として計上されるため誤解を生む可能性があるし、借入金の残高がわからないため、別途管理しておく必要がある。

複式簿記

入出金だけを記帳していく単式簿記は情報として不十分なので、その欠点を補うために複式簿記が活用されている。複式簿記は名前の通り、2つ(以上)の科目の組み合わせで記帳する方法である。

たとえば、1月19日に電気代2,500円が普通預金口座から引き落とされた場合は、

1月19日 水道光熱費2,500円 / 普通預金2,500円

と記帳する。このように、借方(左側)と貸方(右側)に2つ(以上)の科目を記帳するのが、複式簿記の特徴だ。

複式簿記では、左側を「借方(かりかた)」、右側を「貸方(かしかた)」と呼ぶ。複式簿記が生まれた中世イタリアでは、帳簿の左側に「私に義務を負うもの」つまり「自分からお金を借りている人」を、右側に「私が義務を負うもの」、つまり「自分にお金を貸してくれている人」を記録していたことが、借方・貸方の語源と言われている。

 単式簿記では資金の動きに合わせて記帳するので問題ないが、複式簿記の場合は相手勘定が資金科目とは限らないため、どのタイミングで記帳を行うかが問題になる。そのルールには、「発生主義」と「現金主義」がある。

現金主義は資金の動きに合わせて記帳していく方法で、発生主義は収益または費用をその事実が発生した時点で計上する方法だ。複式簿記では、原則として発生主義での記帳が求められる。お金を支払う前であっても、費用が発生すれば未払金を計上する必要があるし、収益が発生した場合は、お金を受け取る前であっても未収金を計上する必要がある。

しかし収益を発生主義で計上すると、資金を回収できるかどうかわからないものまで収益として計上されてしまうことになる。

そこで、収益については実現主義で計上することになっている。実現主義とは、売上や収益の金額が確定した時点で計上するという考え方で、出荷基準(出荷時点で実現とする)や検収基準(顧客が検収した時点で実現とする)などがある。

複式簿記と会計報告

複式簿記によって作成される最終的な会計報告書の種類は多いが、その中心は貸借対照表と損益計算書だ。貸借対照表は企業の財政状態を表す書類で、バランスシートとも呼ばれる。

借方には、現金や売掛金といった資産科目が計上され、貸方には買掛金や借入金などの負債科目と資本金などの純資産科目が計上される。貸借対照表では、単式簿記ではわからなかった現金残高や未回収の売上債権、借入金の残高などを把握できる。

損益計算書は収益と費用を表す書類で、収益から費用を差し引いたものが利益になる。損益計算書を見ることで、会社や事業がどの程度儲かっているのかがわかる。

複式簿記のメリット・デメリット

複式簿記は世界共通で使用されているものであり、非常に大きなメリットがある。具体的なメリットを見ていこう。

メリット

最大のメリットは、決算書や財務諸表を作成することができ、財産や損益の状況を把握できることだろう。

複式簿記で記帳することで、仕訳を集計するだけで貸借対照表や損益計算書を作成することができる(近年はコンピューターによって自動化されているが、コンピューターのない時代にそのようなことができたのは画期的だった)。貸借対照表や損益計算書等の財務諸表を作成することで、財産や損益の状況を把握することができる。

個人事業主の場合、青色申告の65万円特別控除を受けられるのもメリットだ。青色申告では、貸借対照表と損益計算書の提出が求められるため、必ず複式簿記で記帳をする必要がある。

なぜ、複式簿記にはそのような恩恵が与えられているのだろうか。戦後、シャウプ勧告に基づく税制改革の中で、それまで正しい記帳ができていなかった零細事業主にも正しい帳簿付けを推奨し、課税漏れを回避することで公平な課税を実現するために青色申告制度が導入されたのだ。

複式簿記によって作成される貸借対照表や損益計算書は、過去からの連続性を持ち、必ず貸借が一致するため集計ミスを発見しやすく、安易な不正(不正経理による利益操作や資産隠し)をすれば辻褄が合わなくなるので、所得の把握と公平な課税の実現に資すると判断されたのだ。

企業の決算資料から、財務・収益の状況などを読み解くことができるようになることもメリットと言えるだろう。決算書は同じルールに基づいて作成されているため比較しやすく、ビジネスの現場でも非常に役立つ。また、投資家の投資判断をスムーズにする。

デメリット

複式簿記のデメリットは、単式簿記と比べると難しく、記帳に多少手間がかかることだろう。しかし、会計ソフトやアプリケーションを使用すれば、比較的簡単に複式簿記による記帳が実現できるため、複式簿記に大きなデメリットはないと言えるだろう。

複式簿記の記帳例

ここでは、複式簿記での記帳例をいくつか示す。

たとえば、商品を引き渡して1,000円の売上が計上された場合は、

(借方)売掛金1,000円/(貸方)売上1,000円

となる。売掛金は資産であり、その増加は借方に記帳し、収益である売上は貸方に記帳する。この売掛金が振込によって回収された場合は、

(借方)普通預金1,000円/(貸方)売掛金1,000円

となる。普通預金と売掛金はともに資産であり、その増加は借方に記帳し、その減少は貸方に記帳する。

電気代500円を現金で支払った場合は、

(借方)水道光熱費 500円/(貸方)普通預金 500円

となる。水道代を支払うと資産である普通預金が減少するため貸方に記帳し、費用が増加するため借方に水道光熱費を記帳する。

複式簿記の手順について

最後に、複式簿記の手順について解説する。複式簿記では、発生した取引をその証憑を基に仕訳帳に記録し、仕訳帳から各勘定科目の取引を総勘定元帳に転記して、合計残高試算表で各科目の残高を把握する。

証憑とは、領収書や請求書、売上伝票などの取引の事実を証明するための書類のことで、法律で保存期間が決まっている。原則的に、個人事業主の場合は確定申告の期限の日から7年間、法人の場合は法人税申告期限日から7年間保存する必要がある。

仕訳帳とは、すべての取引を仕訳して記録する帳簿のことだ。各勘定科目において、借方および貸方のどちらかに記入することで、その科目の残高を増やしたり減らしたりできる。総勘定元帳とは、仕訳帳の内容を各勘定科目に分けて転記し、各勘定科目の残高を把握するための帳簿だ。

合計残高試算表は、決算時または期中に、仕訳帳への記帳や総勘定元帳への転記にミスがないかを確認するために作成される。合計残高試算表は、算定期間の期首残高と算定期間の貸方借方の起票合計額、算定期間の期末の残高を表す表だ。

それぞれを照らし合わせることによって残高や貸借の一致を確認でき、決算書作成の基礎資料となるだけでなく、ミスの検出や期中の業績把握にも役立つ。

これらの主要な帳簿書類以外に補助簿も作成しておくと、役立つ情報を得られることがある。決算書(貸借対照表や損益計算書)を作成すれば確定申告や法人税の納付はできるが、仕訳帳や総勘定元帳を見ただけでは分からない詳細な情報については補助簿を作成しておいたほうがいい。特定の会社に対する残高を調べる必要が生じた時など、補助簿を見ればすぐにわかるからだ。

文・内山瑛(公認会計士)

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