個人事業主や法人化したばかりの方にとって、クライアントに提出する納品書や請求書の持つ意味を正しく理解することが必要である。それぞれの書類の意義や注意点などを、発行する立場から見ていこう。
目次
納品書と請求書は必要?
納品書と請求書は、クライアントとの権利や代金の請求、商品または役務の提供の履行状況を明確にするものであるとともに、税務や経理上も重要な書類である。ただし、必ず作成しなければいけないというわけはない。提供する商品や役務、自社やクライアントのルール、契約などによって、作成する場合としない場合がある。
納品書と請求書の違い
発行時期
納品書は納品があった際にあわせて発行するのが一般的である。物品を納品した場合は、納品物に同梱しておくことで、納品内容について明示しておくことができる。物品ではなく無形の役務の場合も、指定の業務を終えたということを示すために納品書を作成することがある。
請求書の発行時期は、クライアントとの取り決めにより異なる。取引の前に代金をいただく場合は、商品や役務の提供前に請求書を作成する。納品後に代金を請求する場合は、納品書とあわせて発行・提出するか、納品後に一定期間を過ぎてからか、などを決定しておく。クライアントが大手企業の場合は、20日締めや月末締めといった処理の締め日や、予算消化のタイミングなどを加味して請求時期を指定されることもある。
それぞれの目的と役割
納品書の目的は、納品した事実と、その納品内容を明示することである。例えば、下記のような内容を記載しておく。
・納品日
・納品した物品
・単価や数量
納品したものについての当方の認識を明示しておくことができる上、クライアントとしても納品書の内容と納品物が一致しているかの確認をすることで、間違いがないことを確認できる。
基本契約を締結する場合は、契約書に「納品からXX日以内に不合格の連絡がない場合は、問題がなかったものとみなす」といったような文言とセットにすれば、納品日後にクライアントから連絡がなければ、納品したものについて、こちらの義務を果たしたと主張できる可能性が高まる。
一方、請求書の目的は、以下の情報を伝え、代金の振り込みなどを依頼することである。
・請求額
・消費税額
・請求内容
・支払期日
・振込口座
クライアントに商品や役務を提供しても、請求書を発行しないと入金されないことがある。売上と請求の管理をしていなかったがために、請求書の発行が漏れて、売上代金が回収できない可能性もあるので注意が必要だ。正しいタイミングで請求することが、円滑な代金回収と資金繰りの適正化につながる。
請求書はクライアント側の経理・財務業務でも重要な書類になるため、発行するのが一般的であるが、クライアント側独自の様式が存在し、それを送ってきて押印して返すケースもある。他には「支払通知書」が送られてきて、基本契約書上の口座に振り込まれるケース、個別契約を締結し、その契約書に基づいて振り込んでくるようなケースもあり、業界の慣習や各社のルールによるのが現状である。事前に、請求書の有無や、その発行タイミング、送り先、様式、請求締め日、原本の到着必須日などを確認しておくことが大切である。
納品書と請求書が両方必要なケースもある
上記のように納品書と請求書の目的は異なるため、両方必要になることもある。発行の有無は各社のルールによるところであるが、経理上の売上計上と、実際に資金が動く重要な取引であるので、不正防止の観点から両方発行を要請されるケースもある。
例えば、納品物を受け入れる部署が納品書と現物と見積書を照合すれば、納品内容に問題がないことを確認でき、架空の発注を防止することもできる。反対に、経理側が納品書と請求書を照合して請求に問題がないことを確認すれば、架空請求を防止できる。こうした業務フローをとっている会社にとっては、両方の書類が必要となるだろう。
いずれの書類も発行を法律で義務付けているものではないので、例えば口頭ですべて済ませて、最後は代金のみ振り込みや手渡し、という可能性もゼロではない。しかし、消費税の処理には以下の記載がある書面が原則的に必要になるため、何も書面を発行しないというのはあまり一般的ではないといえる。
・書類の作成者の名称
・取引年月日
・取引内容
・金額
・書類受領者の名称
・消費税軽減税率の対象品目である旨
・税率ごとに合計した対価の税込み金額
クレジットカードでの決済に納品書や請求書は必要?
代金をクレジットカードで決済をした場合に、納品書や請求書の発行を求められることがある。こうした場合に、対応は必要なのだろうか。
クレジットカード決済の場合、使用した内訳がわかっている場合には、経理処理においてはクレジットカード会社から送付される明細で問題ない。ただし、消費税申告が必要なクライアントからは、納品書や請求書の発行を依頼されることがあるかもしれない。消費税申告においては、先述のとおり、書類の作成者の名称や取引年月日などがわかる書面が必要になるが、クレジットカード明細にはその記載がないケースが大半であるためだ。
契約書や利用規約その他の書類で情報が足りる場合は、作成する必要はないといえる。なお、クライアントが消費税を申告するかどうかということはたいてい判断できず、教えてもらえることでもないので、クライアントの都合で求められたら発行することになると考えてよい。
請求書発行の際に気をつけたい4つのこと
1.請求書の作成権限
売上および入金は企業において重要な取引である。架空の請求書を作成した場合は架空売上の計上につながり、振込口座を個人の口座にするなどの不正な請求書作成は、会社が受領できるはずの代金が回収できないことにつながる。よって、請求書を作成できる権限を絞ることや、請求書作成の承認制と履歴を残すことなどによる統制強化を推奨する。
2.請求書送付の必要性
請求書を作成しても、送付しなければ請求漏れとなり、資金繰りの悪化や未回収リスクの増加を招く。送付の履歴を管理したり、代行業者に依頼したりするなど、請求漏れを防止する仕組みが必要である。送ったはずの請求書が届いていないといわれるケースもあるので、いつどこに送ったかを残しておくとよい。
なお、原本を郵送することが一般的であったが、PDFをメールで送付するという企業や請求代行サービスも見かけるようになった。これは効率化や郵送コストの削減が図れる半面、次のような問題も残っている。
・電子データで保存するには、内容が改変されない体制構築などの国税庁が定めた要件を満たす必要がある
・某航空会社での請求詐欺事件など、メールで偽の請求書が送付され、詐欺に遭うリスクがある
3.必ず受け取れるように発送
請求書を送付しても、大企業だと部署名がない場合には配達してくれないケースや、本来は経理部門へ送付すべきところ、現場担当者宛てに送付してしまうケースがある。送付先を誤ると複数拠点を経由することになって請求書の到着が遅れ、支払いが遅れるなどの事態も発生しうる。請求書の送付先は正しく把握することが必要である。
4.請求書の記載事項にも注意
先述のとおり、内容や金額など、消費税の処理のために必要な記載事項がある。企業によっては、発注番号を記載する、取引先コードを記載するなどのルールがある場合がある。必要に応じて、記載事項の要望を確認しておくことが必要である。
納品書兼請求書とは?
納品書兼請求書とは
「納品書兼請求書」として、納品書と請求書の両方を兼ねる書面も見かける。わざわざこの2つを分ける必要のないとき、例えば、物品のない役務提供で納品と請求を同タイミングとみなすビジネスモデルなどの場合は、1つの様式にまとめてしまうことも可能だ。後日、請求書を別送する手間やコストが減るため、単発の取引などで重宝するケースもあるだろう。
日付はどうする?
請求書の作成日と、納品日、両方記載すべきである。二つの書類を一枚にまとめても、請求書として機能させるなら、大事な項目は省略しないようにしなければならない。
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見積書の役割
見積もりは商習慣でいう契約意思表示であり、受諾するかどうかを相手に委ねている状態である。それを形にしたものが見積書である。よって、見積書には有効期限を付しておくことが望ましい。見積書を提示し、その内容で発注する意思を相手方から確認した時点から個別契約の効力は発生すると考えられるため、相手の意思決定の前に見積書の内容に不都合が生じた場合は、速やかに撤回を依頼するほか、作成には入念な確認を要する。
見積書は発注側が社内の決裁を仰ぐ際に用いることも多い。一社からの言い値で発注すると相場よりも高い金額での発注になりかねない。それを避けるために、一定金額以上の発注は「相見積もり」といって複数社からの見積書入手を条件としている会社もある。発注側にとっては、金額の相場がわかるうえ、比較して交渉もできるため、見積書の取得が有効に働くことがある。
発注者にとって見積書は別の用途もある。請求内容の正しさの確認のため、請求書と見積書が一致しているかを確認すれば、過剰請求を防止できる。このように、見積書は取引前後にわたって、さまざまな役割を果たす書類といえる。
領収書の役割
主には現金や手形の受領やクレジットカードでの決済を示すことを証明する書類である。金銭または有価証券などを受領した証しであり、そのまま経理処理に用いることが多い。紙面で発行する場合は、受取金額によっては受け取る側が収入印紙を負担して納税する。例えば、5万円なら200円、100万円超なら400円である。
納品書や請求書における知識は必須事項
販売担当としては、受注後の納品や請求、入金まで気を配るべきである。納品書や請求書が持つ意味を正しく理解し、重要な書類をあるべき用途に用いることができれば、社内やクライアントに信頼されるだろう。経理や財務担当としては、内容の正しさの確認と、処理の証拠書類として使用することになる。ミスや不正が起きていないかをまず確認し、保管のルールを決めていつでも確認できるよう適切に保管したい。
文・新井良平(スタートアップ企業経理・内部監査責任者)