矢野経済研究所
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第10回世界水フォーラムがインドネシアのバリ島で開催、5月20日のハイレベル会議では開催国のジョコ大統領が「水は単なる自然の産物ではない」「水を守ることは私たちの連帯責任だ」と危機感を表明したうえで、水資源管理のための国際的な研究機関の設置を呼びかけた。会議では新興国・途上国における清潔な水へのアクセスを支援するための基金の設立や国境を跨がる河川を管理する国際法の在り方など、水と衛生に関わる問題が議論された。

水不足は深刻だ。世界の約20億人が安全な飲料水にアクセス出来ず、また、干ばつによる影響は14億人にのぼるという。一方、使用量は拡大の一途だ。2050年には需要は4割増え、需給ギャップは経済成長を最大6%押し下げるとの予測もある。世界の災害の9割が水に関連しているとも言われており、水資源を巡る国家間の対立は戦争の引き金にもなり得る。問題はまさに一国で解決できるものではない。

昨年3月、国連でも46年ぶりにこの問題を主題とする「国連水会議」が開催された。会議は “水行動アジェンダ” を採択、水資源維持のために700以上のコミットメントが官民から発表されるとともに、淡水環境の生物多様性を回復させ、淡水の持続可能な利用を実現するための国際的な枠組み “淡水チャレンジ” が発足した。世界が目指すべきゴールはSDGsの “目標6” であり、この達成に向けて「世界の軌道を修正する」ことが会議参加者で共有された。

20日、JR東海は岐阜県内の水源や井戸の水位低下を受け、リニア中央新幹線のトンネル切削工事を中断した。この問題への懸念を表明してきた前静岡県知事の政治的評価はさておき、工法はもちろん計画そのものの合理性を問い直す良い機会である。リニアについては地震災害時における東海道新幹線のバイパスとしての効用を訴える向きもあるが、その意味で優先されるべきは緊急かつ大量の貨物輸送に対応できるインフラの整備である。水資源の保全、非常時における物資の輸送体制、高速鉄道旅客需要の将来見通し、建設費用、技術波及効果、地域活性化や移動時間の短縮効果、電力供給を含む維持コストなど、長期的な国益とSDGs “目標6-6” を含む総合的な環境負荷の視点から、今一度、立ち止まって議論を尽くすべきである。“昭和48年の基本計画” の軌道修正はまだ間に合う。

今週の“ひらめき”視点 5.19 – 5.23
代表取締役社長 水越 孝