PSF・PMFとは? 新規事業の立ち上げプロセスや実現性の検証方法を解説
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新規事業を成功させる上で、PSF・PMFの達成は欠かせないものです。特に不確定要素が多い事業では、成長のフェーズを意識して、一つひとつの課題を丁寧に解決する必要があります。事業開発のフェーズの中で、PSF・PMFはどの段階に位置しているのでしょうか。本記事ではPSF・PMFの概要に加えて、それぞれを達成するためのプロセスやポイントを紹介します。

PSF・PMFとは

PSF・PMFとは、自社のプロダクトが市場で確立しているポジションや状態を表す用語です。

PSF(プロブレム・ソリューション・フィット)は「Problem Solution Fit」の略語であり、プロダクトが顧客の課題・問題を解決できている状態を表します。通常はプロトタイプと呼ばれる試作品を提供し、ユーザーにヒアリング等をすることでPSFが達成できているかどうかを判断します。

一方で、PMF(プロダクト・マーケット・フィット)は「Product Market Fit」の略語です。プロダクトが顧客のニーズを満たしており、かつ適切な市場で受け入れられている状態を意味します。

新規事業の4つのフェーズ

新規事業が市場に受け入れられるまでのフェーズは、以下の4つに大きく分けられます。

<新規事業のフェーズ>
1.CPF:顧客の課題を正しく検証できている状態
2.PSF:顧客の課題を解決できている状態
3.SPF:プロダクトや解決策の実現性を検証できている状態
4.PMF:顧客のニーズを満たしており、かつ市場に受け入れられている状態
(※)CPFは「Customer Problem Fit」、SPFは「Solution Product Fit」の略語。

上記のようにフェーズを整理すると、新規事業の開発でこれから必要になる施策が分かりやすくなります。例えば、PSFはPMFの前段階にあたり、課題解決の方法は分かっているがプロダクトとして形になっておらず、また複数の顧客に受け入れられるための改善点が残されている状態です。

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PSF・PMFが注目される背景

PSF・PMFが注目される背景には、ビジネス環境の変化があります。

技術の進歩によって、現代のビジネス環境は不確実性が高く、将来の予測が難しいといわれています。このような状態は「VUCA(ブーカ※1)」と呼ばれており、顧客の課題を解決できるビジネスモデルを構築したとしても、収益性を維持し続けられるとは限りません。持続的な成長を維持するためには、過去に成功した既存事業だけではなく、新規事業の創出も必要になります。
新規事業の立ち上げにはいくつもの壁があり、成功率もあまり高くありません。新規事業の成功率については、少し前の情報ですが、野村総合研究所が2017年3月に公表した資料(※2)が参考になります。2016年度のデータを参考にすると、自社の新事業展開(新規事業)について「目標を達成でき成功した」と評価した企業は、回答した1,363社のうち26.9%とあります。

約4社に1社しか新規事業が成功していないというデータがあることから、より成功率を上げるための取り組みが必要とされています。その取り組みの1つとして、「PSF・PMFの達成」があります。

顧客の課題を適切に解決できる方法を提供(=PSFの達成)できたとしても、利用者を増やせなければ収益を生み出せません。新規事業の多くは赤字から始まりますが、課題を解決できる方法が製品として市場に受け入れられている状態を達成(=PMFの達成)し、事業を黒字にする必要があります。

不確実性が高い時代だからこそ、新規事業が必要であり、その成功率を上げる方法の1つとしてPSF・PMFが注目されます。

(※1)変動性・不確実性・複雑性・曖昧性を表す、「Volatility」「Uncertainty」「Complexity」「Ambiguity」の頭文字を取った造語。
(※2)参考:野村総合研究所「中小企業・小規模事業者の成長に向けた事業戦略等に関する調査に係る委託事業 事業報告書

PSFを達成するプロセス

新規事業がPSFを達成するまでには、どのようなプロセスを踏めば良いのでしょうか。事業内容やプロダクトによって異なりますが、基本的には以下の流れでPSFを目指します。

  1. CPFの達成を目指す
  2. プロトタイプを作成する
  3. 検証データを踏まえて改善する
  4. PSFに達しているかを検証する

ここからは各プロセスに分けて、必要になる作業や注意点などを解説します。

1.CPFの達成を目指す

1つ目は、顧客の課題を特定してCPF(カスタマー・プロブレム・フィット)を目指すプロセスです。ターゲットとなる顧客層を明確に定義し、フレームワークなどを用いて市場のニーズを分析します。

もし顧客の課題を把握できていない場合は、架空の顧客を設定する「ペルソナ分析」を活用してみましょう。ペルソナとは、年齢や性別、居住地、ライフスタイル等をもとに設定する顧客象のことです。

<ペルソナ分析の手順>
1.ターゲットユーザーの属性を絞り込む
2.ターゲットのライフスタイルなどを分析する
3.性別や年齢、居住地域などを設定する
4.上記の内容を踏まえて、ペルソナを設定する
5.ペルソナの視点から課題を考える

ペルソナを設定できると、顧客がどのような課題を抱えているのかの仮説を立てるのに役立ちます。BtoB向け製品のペルソナの場合は、部門や役職、会社の規模、業種などを設定すると良いでしょう。

2.プロトタイプを作る

プロトタイプとは、主に顧客からフィードバックを得るために作る試作モデルです。資料と説明だけでアイデアを具体的に伝えることは難しいため、顧客の課題を踏まえてプロトタイプを作り、情報収集や実証実験を行います。

プロトタイプには、設計図を実寸大に清書した「ペーパープロト」と、一部の機能を実装した「ツールプロト」があります。ペーパープロトだけでは、実際の使用感や動作は再現できない時は、ツールプロトを作ることも検討しましょう。

一部の顧客にプロトタイプを提供した後には、インタビューやヒアリングなどを通して、具体的なフィードバックを受け取ります。

3.検証データを踏まえて改善する

次に、フィードバックなどの検証データを精査し、プロダクトの課題を一つずつ改善します。プロダクトを市場に投入してから改善しようとすると、大きな方針転換が必要になることもあるので、この段階で改善することが重要です。

なお、期待していた検証データを得られなかったり、辛辣なフィードバックが多すぎたりする場合は、1つ目の「CPFの達成を目指す」のプロセスに戻る必要があります。新規事業を成功させるとは、顧客の課題を解決することに他ならないので、PSFしない状態で強引にプロダクトの開発を進めることは避けましょう。

4.PSFに達しているかを検証する

プロダクトを改善しながら、次に客観的な視点でPSFに達しているかを検証します。検証方法としては、ジャベリンボードと呼ばれる、仮説設定・検証に使えるフレームワークの活用が挙げられます。

<ジャベリンボードでPSFを検証する手順>
1.「顧客」「課題」「解決法」を仮説として定義する
2.定義の前提のうち、崩れると困る最も検証すべき前提を抽出する 3.達成基準を決めて、前提の検証を行う
4.検証結果によって「顧客」「課題」「解決法」をアップデートする
5.上を繰り返し、定義に確証が得られたらPSFと判断する

まずは仮説検証を行うために「顧客」「課題」「解決策」を定義した後に、検証する「前提条件」を決めるのがポイントです。ここでの「前提条件」とは、「顧客」「課題」「解決策」がどのような条件で成り立つのかという意味です。最も崩れると困る「前提条件」から優先して検証します。

次は、検証の達成基準を決めて、仮説を検証していくフェーズです。具体的な検証方法は、ターゲットになる顧客に対してアンケートやヒアリングなどを行います。検証が終わったら結果をもとに「顧客」「課題」「解決法」の定義をアップデートして、最初の手順に戻って仮説検証を繰り返します。

「顧客」「課題」「解決法」の定義に確証が得られたらPSFを達成していると判断し、次のフェーズ(SPF)に進みます。

PMFを達成するプロセス

PSFに達したプロダクトをそのまま市場に投入しても、PMFを達成できるとは限りません。プロダクトを市場に適合させるには、以下のプロセスも必要になります。

  1. SPFの達成を目指す
  2. MVPを作る
  3. 検証データを踏まえて改善する
  4. PMFに達しているかを検証する

具体的にどのような作業が必要になるのか、一つずつ確認していきましょう。

1.SPFの達成を目指す

PMFの前段階であるSPF(ソリューションプロダクトフィット)を達成するには、「プロダクトを開発できるか」「そのプロダクトで実際に顧客の課題を解決できるか」という2つの視点から、事業の実現性を検証する必要があります。まずは、製品開発で必要になるコストや技術(人材)を把握し、現状のリソースで対応できるかを確認しましょう。

プロダクト開発のリソース面に問題がなければ、次は継続的に提供可能かどうか、販売価格やオペレーションコストの検証に移ります。同じ機能を持つプロダクトでも、設定できる価格、セールスやマーケティングにかかるコスト、顧客側の理解度などによってオペレーションコストは変わってきます。開発できるということに加え、価格やコストの妥当性も併せて分析することが重要です。

2.MVPを作る

MVP(Minimum Viable Product)とは、市場に投入できる必要最小限の機能を備えた製品です。前述のプロトタイプは、あくまで一部の機能を実装した模型レベルであったため、より具体的なフィードバックを得るためにMVPを作ります。

MVPもプロダクトの完成形ではありませんが、市場に投入する以上は顧客を満足させる必要があります。データ収集が主な目的ではあるものの、自社やプロダクトの評判に関わるため、製品の初期バージョンに近い認識で作ることが望ましいでしょう。

3.検証データを踏まえて改善する

次に、プロダクトの改善を目的として、可能な範囲で顧客にインタビューやヒアリングを行います。具体的なフィードバックが必要になるため、「どのような検証データを得たいか」を踏まえて質問内容を設定しておきます。

フィードバックが集まったら、顧客が評価している点と不満に感じている点を洗い出しましょう。その内容をもとにプロダクトを改善すると、市場のニーズを反映しやすくなります。

4.PMFに達しているかを判定する

プロダクトを改善しながら、PMFに達しているかを判定します。PMFの判定は、「顧客の課題を解決できているか」に加えて「市場に適合しているか」の観点からも行う必要があります。

PMFを判定する方法

PMFの判定方法はいくつかあり、代表的なものとしては次の3つが挙げられます。

  • PMFsurvey
  • NPS指標
  • リテンションカーブ

どの方法が良いかはプロダクトに依るため、各方法の概要や特徴を押さえておきましょう。

PMFsurvey

PMFsurvey(Product Market Fit Survey)は、Dropboxの創業に関わったショーン・エリス氏が考案した手法です。MVPを提供したユーザーに以下の質問を投げかけて、その回答割合からPMFの達成度を判断します。

質問内容:そのプロダクトが使えなくなったらどのように感じますか?

選択肢1.非常に残念
選択肢2.やや残念
選択肢3.残念ではない
選択肢4.上記には該当なし(使用しなかった、すでに使用していない)

一般的には、「非常に残念」の回答割合が40%以上の場合に、PMFを達成していると判断されています。

NPS指標

NPS(Net Promoter Score)は、コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーのフレッド・ライクヘルド氏を中心としたチームが開発した手法です。MVPを提供したユーザーへのヒアリングを通して、顧客ロイヤリティを判定します。

質問内容:そのプロダクトを周りの人に薦める可能性は、どれくらいありますか?
回答方法:以下の11段階に分けて、「0~10」の数字で回答をしてもらいます。

推奨者(9~10):周りの人に自らプロダクトを薦めたい
中立者(7~8):満足はしているものの、他社製品でも良い
批判者(0~6):不満があり、かつ悪評を広める可能性がある

NPSスコアは「推奨者の割合-批判者の割合」で計算し、結果は-100%~100%のパーセンテージで表します。プロダクトや市場の特性にもよりますが、一般的にはNPSスコアが50を超えるプロダクトは優秀と判断されます。

リテンションカーブ

リテンションカーブは、プロダクトが継続利用される可能性を判断するための指標です。縦軸にリテンション率(※)を取り、横軸にリリースからの期間を取ったグラフを作成し、グラフの形状からPMFの達成度を判断します。

(※)プロダクトを利用した新規顧客が、特定の期間内に再利用をした割合のこと。

グラフの下降が続いている場合:契約解除が続いており、ユーザーが減っている状態
グラフが途中で横ばいになった場合:継続利用をするユーザーが多い状態

リテンションカーブは一時的な購入ではなく、契約数や継続率からプロダクトを評価する指標です。そのため、サブスクリプションモデルが多いSaaS型の事業などに向いているでしょう。

PSF・PMFを達成するための計画を立てよう

新規事業を立ち上げて成功まで導くためには、今、プロダクトが市場でどのようなポジションや役割を確立できているかを認識し、今後の改善点などを適切に立案する必要があります。PSF・PMFにはフレームワークや指標があるため、立ち上げ途中の新規事業のフェーズを客観的に判断できます。

新規事業に不足している要素を早い段階で見つけて改善できると、軌道修正にかかるコストや労力を抑えられます。セールスやマーケティングを含めた事業全体の戦略も立てやすくなるので、新規事業ではPSF・PMFを達成するための計画を立ててみると良いでしょう。

(提供:CAC Innovation Hub