企業が人材を雇うと、国や自治体から助成金を受けられるケースがある。ただし、助成金は制度によって受給要件が異なり、すべての雇用に対して助成金が発生するわけではないため、慎重に判断したい。本記事で特に押さえておきたい制度を確認し、概要を整理しておこう。
新たに人材を雇用する
コストの問題で人材を雇用できない企業は多いが、要件に該当する人材を新たに雇い入れることで、助成金を受け取れるケースがある。雇用を検討中の企業は、以下の制度を確認しておこう。
1.トライアル雇用助成金
35歳未満の人材を雇用する場合は、この制度によって1人あたり月額4万円(最長3ヵ月間)の支援を受けられる可能性がある。ただし、原則として3ヵ月間のトライアル雇用が必要であり、かつ雇用者がトライアルを希望する必要がある。
また、人材に関する要件も定められており、雇用する人材が以下のいずれかに該当する場合にしか適用されない。
- 【1】就労経験のない職業に就くことを希望している
【2】学校卒業後3年以内で、卒業後安定した職業に就いていない
【3】過去2年以内に、2回以上離職や転職を繰り返している
【4】離職している期間が1年を超えている
【5】妊娠・出産・育児を理由に離職し、安定した職業に就いていない期間が1年を超えている
【6】就職の援助を行うに当たって、特別な配慮を要する
(※【1】と【2】は紹介日時点、【3】~【5】は紹介日前日時点が基準)
子育てを理由に退職した女性や、フリーターなどを雇用した場合に助成金を受け取れる制度である。また、雇用する人材が母子家庭の母や、父子家庭の父に該当する場合は、支援金額が月額5万円に増額される点も押さえておきたい。
(厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/trial_koyou.html)
2.女性活躍加速化助成金
積極的に女性を採用したい企業には、女性活躍加速化助成金の活用がおすすめだ。この制度では、女性の活躍に関する「数値目標」や「取組目標」を立てて、その目標を達成した場合に助成金が支給される。 目標として認められる範囲は広いが、以下でいくつか例を紹介しよう。
数値目標の例 | ・採用における男女の競争倍率を、〇ポイントまで縮小する ・女性の採用人数を〇人増加させる ・管理職の女性比率を〇%以上にする |
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取組目標の例 | ・女性学生向けのセミナーや説明会を実施する ・性別にとらわれない選考のガイドラインを作成する ・管理職を目指す女性に対して、研修会やセミナーを開く |
事前に設定した数値目標を達成すると、30万円の助成金が支給される。また、中小企業に関しては取組目標の実施だけでも30万円が支給されるため、最大で60万円の助成を受けられる。これから働き方改革に取り組む中小企業は、確実に押さえておきたい制度だ。
(厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000130118.pdf)
3.特定求職者雇用開発助成金
これは、学校などの既卒者や中退者を採用した場合に、1人あたり年間10万円~70万円の支給を受けられる制度だ。もともとは「三年以内既卒者等採用定着奨励金」として実施されていたが、受給要件や名称が変更され、平成29年5月1日から新たな形で実施されている。
これまでに既卒者や高校中退者を新卒枠で採用しておらず、かつ採用した人材が1年以上定着すると、中小企業では以下の金額が支給される。
対象者 | 1年定着後 | 2年定着後 | 3年定着後 |
---|---|---|---|
既卒者 (卒業後3年以内) |
50万円(※) | 10万円 | 10万円 |
高校中退者 (中退後3年以内) |
60万円(※) | 10万円 | 10万円 |
※「若者雇用促進法に基づく認定企業」の場合は10万円を加算
ただし、「期間の定めがない直接雇用」など細かい要件も定められているため、既卒者・中退者を採用する企業はしっかりと要件を確認しておこう。
(厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000158397.html)
中高年やシニアを雇用する
高齢化が進んだ影響で、中高年・シニアの雇用に関する助成金制度もある。以下で紹介する制度を活用すれば、資金の少ない中小企業も中高年・シニアを雇用しやすくなるため、採用の間口を広げられるだろう。
1.生涯現役起業支援助成金
これは中高年齢者(40歳以上)の労働者を雇い入れた場合に、以下の2つの助成を受けられる制度だ。
・雇用創出措置助成分 | 募集・採用や教育訓練など、雇用創出措置にかかる費用の助成。 起業者が60歳以上の場合…助成率は3分の2、上限金額は200万円。 起業者が40歳~59歳の場合…助成率は2分の1、上限金額は150万円。 |
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・生産性向上助成分 | 雇用後に生産性が向上している場合に、別途生産性を向上させるためにかかる費用の助成。 「雇用創出措置助成分」の4分の1の金額が助成される。 |
魅力的な制度だが、受給には以下のいずれかの要件を満たす必要がある。
・60歳以上の者を1名以上
・40歳以上60歳未満の者を2名以上
・40歳未満の者を3名以上
・40歳以上の者1名と40歳未満2名以上
ほかにも起業者や離職者数などに関する要件が定められており、さらに起業基準日から起算して11ヵ月以内に「生涯現役起業支援助成金 雇用創出措置に係る計画書」の提出が求められる。
単に人材を雇用するだけでは適用されないため、情報収集をした上でしっかりと準備する必要があるだろう。
(厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000115906.html)
2. 65歳超雇用推進助成金
65歳以上のシニアを雇用する際は、ぜひこの制度を活用したい。この制度は以下の3つのコースで構成されており、対象となった労働者が多いほど、支給される助成金が増額される。
コース名 | 概要 |
---|---|
【1】65歳超継続雇用促進コース | 定年の廃止や継続雇用制度の導入など、定年を65歳以上に引き上げた際に助成を受けられる。 |
【2】高年齢者評価制度等雇用管理改善コース | 高年齢者の雇用機会増大につながる「雇用管理整備計画」を作成し、その計画が認定されると助成を受けられる。 |
【3】高年齢者無期雇用転換コース | 50歳以上の有期契約労働者を、無期雇用労働者に転換した場合に助成を受けられる。 |
要件が細かく定められた制度であり、コースによって要件・支給金額に大きな違いがあるため、事前の情報収集が重要だ。仮に10名の定年を廃止して上記【1】が適用されると、最大160万円の助成金を受け取ることができる。
雇用対策の幅を広げるためにも、特にシニア層が多い企業は細かく概要をチェックしておこう。
(厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000139692.html)
人材を育成、または社員登用する
人材育成や社員登用にかかるコストは、中小企業にとってはリスクになる恐れもある。しかし、助成金制度によって支援を受けられれば、リスクを抑えつつ雇用環境を整えられるだろう。以下では、特に押さえておきたい2つの制度を紹介する。
1.キャリアアップ助成金
非正規雇用の労働者に対して、キャリアアップにつながる措置を取った場合に助成金が支給される制度。人材の正規雇用はもちろん、手当制度や健康診断制度の新設、昇給など幅広い措置が対象となるため、中小企業はぜひとも押さえておきたい制度だ。
コースは以下の7つに分けられており、それぞれ要件や支給金額が異なる。
コース名 | 概要 |
---|---|
【1】正社員化コース | 有期契約労働者の正規雇用など |
【2】賃金規定等改定コース | 有期契約労働者の賃金規定の改定など |
【3】健康診断制度コース | 健康診断制度を新設し、有期契約労働者がその診断を受けた場合 |
【4】賃金規定等共通化コース | 有期契約労働者に対する、賃金規定の新設など |
【5】諸手当制度共通化コース | 有期契約労働者に対する、手当制度の新設など |
【6】選択的適用拡大導入時処遇改善コース | 有期契約労働者を社会保険の被保険者とし、基本給を増額した場合 |
【7】短時間労働者労働時間延長コース | 短時間労働者の週所定労働時間を5時間以上延長し、新たに社会保険を適用した場合 |
支給金額は上記【1】で1人あたり最大72万円、そのほかのコースでも数万円~数十万円に設定されている。詳しく記載されている厚生労働省のパンフレットを見て、利用できる制度を確かめておこう。
(厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000527143.pdf)
2.人材開発支援助成金
もともとは「キャリア形成促進助成金」として実施されていた、雇用保険適用事業所を対象とする制度。労働者に対して、以下のコースに該当する人材開発を行った場合に、賃金助成や経費助成などを受けられる。
コース名 | 概要 |
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特定訓練コース | 35歳未満(採用5年以内)の労働者への訓練、熟練技能者の指導力強化などが対象 |
一般訓練コース | 特定訓練コース以外の訓練が対象 |
教育訓練休暇付与コース | 新たに導入した有給教育訓練休暇等制度や長期教育訓練休暇制度を取得して、労働者が訓練を受けた場合に適用 |
特別育成訓練コース | 有期契約労働者等の人材育成に対する助成 |
建設労働者認定訓練コース | 建設関連の認定職業訓練、または指導員訓練が対象 |
建設労働者技能実習コース | 安全衛生法に基づく教習や技能講習、特別教育などが対象 |
障害者職業能力開発コース | 訓練施設や訓練運営費に対する助成 |
支給金額はコースによって異なるが、賃金助成と経費助成を合わせれば、1人あたり年間数十万円が助成されることもある。さまざまな訓練・設備投資が対象に含まれるため、人材開発に取り組む企業はぜひ押さえておこう。
(厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html)
就労環境・職場環境を変える
人材を直接雇用しなくても、雇用者の就労環境や職場環境を変えることで助成金を受け取れるケースがある。業務改善や働き方改革にもつながるため、課題を抱えている企業は以下に挙げる制度を活用しながら、取り組むことを検討してみよう。
1.人材確保等支援助成金
この制度では、新たに雇用管理制度を導入するなど、離職率の低下に取り組むことで支援を受けられる。ただし、以下の3つのコースが設けられており、コースによって要件が異なるため注意が必要だ。
コース名 | 概要 |
---|---|
【1】雇用管理制度助成コース | 雇用管理制度整備計画を作成し、雇用管理制度を導入・実施した上で、離職率の目標値を達成した事業者が対象。 |
【2】介護福祉機器助成コース | 介護福祉機器の導入・運用計画を作成し、その計画を実施した事業者が対象。 |
【3】介護・保育労働者雇用管理制度助成コース | 作成した介護・保育賃金制度整備計画に基づいて、賃金制度を整備・実施した事業者が対象。 |
支給金額もコースによって異なり、上記【1】では最大72万円の助成を受けられる。また、導入助成と目標達成助成を合わせれば、上記【2】では最大300万円、上記【3】では最大230万円の助成金を受け取れる。
ただし、いずれのコースでも計画の提出が求められ、かつ管轄の労働局から認定を受ける必要があるため、綿密に計画を立てる必要がある。
(厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000199292.html)
2.両立支援等助成金
労働者の職業生活・家庭生活の両立を目的として、さまざまな職場環境づくりに取り組んだ事業者を支援する制度。前述の「女性活躍加速化助成金」も本制度の一部だが、他にも以下のコースが設けられている。
コース名 | 概要 |
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出生時両立支援コース | 男性が育児休業や育児目的休暇を利用した場合に、助成金が支給される。 |
介護離職防止支援コース | 労働者が介護休業や介護両立支援制度を利用した場合に、助成金が支給される。 |
育児休業等支援コース | 労働者が育児休業を取得し、職場復帰した場合に助成金が支給される。 |
再雇用者評価処遇コース | 妊娠や出産、育児、介護、配偶者の転勤を理由に退職した者を再雇用した場合に助成金が支給される。 |
支給金額もコースによって異なるが、基本的には従業員1人あたり28.5万円~57万円の支援を受けられる。さまざまな角度から事業者・労働者を支援する制度なので、ワーク・ライフ・バランスの改善にも役立つだろう。
(厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/shokuba_kosodate/ryouritsu01/index.html)
3.時間外労働等改善助成金
働き方改革を目指す中小企業には、この制度の活用をおすすめしたい。これは労働環境の改善に力を入れている制度であり、実施内容によって以下の4つのコースに分けられている。
コース名 | 概要 |
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【1】時間外労働上限設定コース | 労働時間の削減に取り組む事業者が対象。 |
【2】勤務間インターバル導入コース | 勤務終了後に、「一定の休息時間」を設ける事業者が対象。 |
【3】団体推進コース | 時間外労働の削減や賃金引上げを実施する、中小企業事業主の団体とその連合団体が対象。 |
【4】職場意識改善コース | 所定外労働の削減や、有給休暇の取得促進に取り組む事業者が対象。 |
支給金額はコースによって異なり、数十万円~500万円だ。たとえば上記【1】では最大200万円、上記【2】では最大100万円の支給を受けられる。
ただし、上記【1】~【2】は「労働者災害補償保険の適用事業主であること」が条件であり、他にもコースごとに細かい要件が定められている。
(厚生労働省:
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000120692.html
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000150891.html
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000200273.html
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/jikan/syokubaisiki.html)
現在の雇用を維持する
資金が限られている中小企業では、業績が少し悪化しただけで雇用の維持が難しくなるケースも多い。従業員の減少は生産性の低下につながるため、死活問題になることもあるだろう。そのようなケースに備えて、以下の2つの助成金制度を押さえておきたい。
1.雇用調整助成金
雇用調整助成金は、経済的な理由によって事業縮小を余儀なくされた企業を対象とする制度だ。この制度では、「休業・教育訓練・出向」といった一時的な雇用調整を実施した企業に対して、以下の支援が行われる。
対象となる費用 | 支給金額 |
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・休業を実施した場合の休業手当 ・教育訓練を実施した場合の賃金相当額 ・出向を行った場合の出向元事業主の負担額 |
中小企業…左記費用の3分の2 それ以外の企業…左記費用の2分の1 ※対象労働者1人あたり8,335円が上限(1日) |
・教育訓練の実施費用 | 1人あたり1,200円(1日) |
支給期間は、休業・教育訓練を実施した場合で最長150日分(年間では最長100日分)、出向の場合は最長で1年間である。ただし、主に以下のような要件が定められており、そのすべてを満たさなければ受給できない。
・雇用保険の適用事業主である
・売上高の月平均値などが、前年同期に比べて10%以上減少している
・雇用量を示す指標について、定められている基準を超えていないこと
・実施する雇用調整が、一定の基準を満たすものであること。
また、過去にこの制度を利用した場合は「満了日の翌日から1年を超えていること」も要件に含まれる。要件が多い制度なので、検討中の企業は詳細を確認しておこう。
(厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html)
2.障害者雇用安定助成金
障害者の雇用促進や定着を目的として、特定の措置を実施した事業者に助成金が支給される制度。対象となる措置は以下の7つで、措置によって支給金額が異なる。
対象となる措置 | 支給金額(中小企業) |
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【1】柔軟な時間管理・休暇取得 | 対象者1人につき8万円。 |
【2】短時間労働者の勤務時間延長 | 延長した時間によって異なる。 対象者1人につき20万円~54万円。 |
【3】正規・無期転換 | 転換内容によって異なる。 対象者1人につき45万円~120万円 |
【4】職場支援員の配置 | 短時間労働者は1人につき2万円、それ以外の者は1人につき4万円。 |
【5】職場復帰支援 | 対象者1人につき6万円。 |
【6】中高年障害者の雇用継続支援 | 対象者1人につき70万円。 |
【7】社内理解の促進 | 講習に要した費用によって異なる。 3万円~12万円。 |
さまざまな措置が対象となるが、措置によって細かく要件が設けられているので注意したい。厚生労働省の公式ページやパンフレットには、対象となる具体的な措置内容も記載されているため、検討中の企業は事前にチェックしておこう。
(厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000158393.html)
制度を知っておくだけで選択肢は広がる
助成金制度は数多く実施されているが、知っている制度が多いほど企業の選択肢は広がる。これまでコストの問題で取り組めなかったことも、助成金を活用すれば低コストで実現できる可能性があるのだ。
働き方改革が叫ばれている昨今は、雇用環境や就労環境が重視されつつあるため、これを機に環境整備に取り組んでみてはいかがだろうか。
文・THE ONWER編集部