相続サポートセンター
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大切な方が亡くなったとき、残された家族は、せっかくであればできる限り故人の生前の希望に沿うように、その財産を引き継ぎたいと考えるでしょう。

亡くなった方が遺言を残していればそれが可能となりますが、遺言がなければ相続人同士で協議するしかありません。

相続手続きを進めるにあたり、遺言があるのとないのとでは、準備しなければならない書類が変わってきます。

以下、場合分けをして詳しく説明します。

遺言書がある場合

<遺言書がある場合の必要書類>

遺言書の種類必要書類概要
自筆証書遺言検認済証明書が添付された自筆証書遺言のコピー家庭裁判所・検認申立用の収入印紙800円と連絡用郵便切手
公正証書遺言公正証書遺言(正本・謄本)のコピー・原本は作成した公証役場にて保管
・謄本の交付は公証役場で1枚250円

自筆証書遺言

亡くなった方(被相続人)が自筆証書遺言を作成している場合、そのままでは遺言の内容を実現することはできません。

まず、被相続人が最後に居を構えていた住所地を管轄する家庭裁判所で検認をしてもらう必要があります。

検認とは、「相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに,遺言書の形状,加除訂正の状態,日付,署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続です」と裁判所のホームページで説明されています。

自筆証書遺言は形式が定められており、形式どおりに作成されているかどうかを裁判所がチェックするのです。

判断されるのはあくまでも遺言書の形式のみであり、書かれている内容の有効無効は判断されません。

検認の申立てには遺言者の出生から死亡までのすべての戸籍謄本や、相続人全員の戸籍謄本などが必要です。

費用は800円(収入印紙を申立書に貼付)ですが、ほかに相続人に連絡をするための郵便切手を納める必要があります。

申立ては相続人のうち一人だけでもできますが、家庭裁判所は申立後、全員の相続人に検認を行う日を通知することで周知とし、期日に出席するかは各相続人の判断に任されます。

検認が終了すると、遺言書に「検認済証明書」が添付されます。

相続財産の名義変更や、相続税の申告などの手続きには常に証明書が添付された遺言書の原本を提示しなければなりません。

公正証書遺言

被相続人が公正証書遺言を作成していた場合は、家庭裁判所の検認は不要で、遺言の原本提示のみで相続手続きを進めることができます。

公証役場で公証人が作成し、証人2人とともに調印した公正証書遺言は、形式はもとより内容も遺言者の意思に沿うものと認められるからです。

残される家族の手続きを簡便にするためにも、遺言を残すのであれば公正証書にしておくことをお勧めします。

生前に公正証書遺言を書いていたはずなのに見当たらない場合でも、作成した公証役場に原本が保管されており、謄本を交付してもらうが可能なので安心です。

交付費用は1枚250円です。

原本の保管期間は20年とされていますが、実際には大部分の公証役場がもっと長期間保管しています。

さらに、平成元年以降に作成された公正証書遺言はデータベース化されており、全国どこの公証役場でも遺言の有無だけなら確認することができます。

なお、大切なものだからといって遺言書を遺言作成者名義の貸金庫に保管しておくことは厳禁です。

名義人本人が亡くなると、当然に金融機関の貸金庫も凍結され、名義変更をしないと中を開けることができないからです。

特に自筆証書遺言の場合は注意が必要です。

遺言書がない場合

遺言書が残されていなければ、被相続人の財産を誰がどのように引き継ぐかを、相続人全員が話し合って決めなければなりません。

結果決定した内容を、遺産分割協議書として作成します。

これが遺言書の代わりとなるのです。

なお、法定相続人が一人だけであれば(相続人が子一人の場合など)、遺産分割協議書は不要です。

<遺言書がない場合の必要書類>

必要書類 概要
遺産分割協議書のコピー ・相続人全員の自筆による署名が必要
・相続人全員の実印を押印する
相続人全員の印鑑証明書の原本 印鑑登録している市区町村役場(郵送は不可)で取得

相続財産の把握

遺言書には相続されるべき財産が列挙されているので、ある程度把握できますし、どの財産を誰が相続するかの指定もされていることから、不動産や有価証券の評価は後回しにすることもできます。

しかし、協議による遺産分割の場合、まずどのような財産があり、だいたいどの程度の価値があるのかを確認しておかないと、特に相続人の数が多い場合など、協議を始めることすらできないかもしれません。

相続人全員の合意が必要

遺産分割協議は相続人全員が合意に至らなければなりませんが、全員が一堂に会して協議を行う必要はありません(もっとも、時間の都合や距離的に離れているなどの事情がないのであれば、最終決定までに一度直接全員で話し合うことをお勧めします)。

相続人同士が直接協議しても、電話やメール、手紙のやり取りなどで協議内容の決定に至っても、最終的に合意したことを証明するために、遺産分割協議書には全員が自筆で署名し、実印を押さなければなりません。

もちろん各自の印鑑証明書も必要です。

なお、協議書自体はワープロ作成で問題ありません。

相続人のうち、未成年者は相続に関して意思能力がないとされています。

したがって、未成年者の親権者が法定代理人として協議に参加します。

とはいえ、親が親権者の場合、親自身も相続人であるケースが多いので、利益相反行為(親が子の相続分を阻害するような遺産分割をするなど)を避けるため、未成年の特別代理人を家庭裁判所に選任してもらう必要があります。

一方、認知症などで意思能力がないとされる相続人には成年後見人が協議に参加しなければなりません。

相続開始時、そのような相続人に後見人がついていない場合は、家庭裁判所に選任の申立てをすることになりますが、決定までには数ヵ月かかることもあるのであらかじめ注意が必要です。

いずれにせよ、一部相続人が意思能力のないままでなされた遺産分割協議は無効となります。

分割内容の記載は正確に

協議書に記載しなければならない内容は以下のとおりです。

・被相続人は誰か(特定するため、名前と最後の本籍及び住所、死亡年月日を記載)
・被相続人のどの財産を、誰が相続するか
・財産を特定するために、不動産は登記簿どおりに、預貯金は金融機関及び支店名と口座番号を記載
・相続人全員の合意のもとに分割がなされたこと

協議書が2枚以上にわたる場合は、全てをホチキスで左留めにし、各ページ間に相続人全員が実印で割印をします。

署名捺印時の注意

協議書への署名捺印は、協議同様、相続人が同時に行う必要はなく、遠距離の場合は郵送で署名捺印してもらったものを返送してもらう形で問題ありません。

印鑑証明書も同封してもらうのを忘れないようにしましょう。

署名欄には相続人の名前だけでなく住所も書くのが一般的ですが、住所表示を略さず、印鑑証明書の記載と同じように書きましょう。

相続人の数が多いときには少し面倒ですが、協議書は人数分の通数を作成して、念のため各相続人が持つようにしておきましょう。

まとめ

故人の思いを実現するため、遺言内容はできる限り尊重すべきですが、相続人全員の合意があれば、遺言と異なる内容の分割協議をすることも可能です。

ただし、遺言で遺言執行人が指定されている場合、必ず遺言執行人に連絡を取るようにして下さい。

執行人は遺言どおりに相続を進めることが業務なので、相続人の合意だけで遺言と異なる相続を行うことは原則としてできません。

また、遺言内容に相続人以外への遺贈が含まれていた場合には、当然その人物の同意なしに遺言と異なる分割協議はできません。

くれぐれも注意して下さい。
(提供:相続サポートセンター